サクラソウ
サクラソウはドイツでは Schlussenblume ( u の上にはウムラウトが付きます)、
即ち言葉通りの「鍵の花」というところでしょうか。 茎の先端に花梗を出して花が
房状に咲く姿が鍵の束に似ているからでしょう。
むかし、ドイツのある片田舎にリスベスという娘がいましたが、母が長い
病の床にいたので優しく面倒をみて過ごす日々を送っていました。春のあ
る日、娘は母を慰めようと野辺へサクラソウを摘みに出かけました。
娘が夢中で花を摘んでいるところへ花の精が通りかかり、優しく声をかけ
て、娘の身の上を尋ねました。
花の精は娘の話を聞くと、娘の優しいこころねにすっかり感心して、早速
自分の城へ案内したました。そのお城は不思議なお城で、入口の扉も部屋
の扉もサクラソウの花を差し込まねば開かない扉でした。
娘は野辺で摘んだサクラソウの花を鍵穴へ差込み部屋の扉を開けると、そ
こには所狭しとばかりに金、銀、宝石が積まれていて、その美しさには眼
もくらむほどでした。娘は驚いて眼を見はっていますと、花の精は娘の孝
養心をほめて、好きなだけ持って行きなさいと、にこやかに優しくささや
いたのでした。
娘は天にも昇る気持ちで、エプロン一杯に宝石や金銀を抱え、花の精に丁
寧に礼を述べ、飛ぶようにして家に帰りました。このことを病床にいる母
に話し、共々に喜びあいました。次第に母の病気も回復して、二人は楽し
い日々を送ったということです。
日本でのサクラソウの名前は、「我国は草もさくらを咲きにけり 一茶」の句に
代表されるように、花の形がサクラの花に一眼見たところそっくりであるところから
付けられたものなのでしょうか。