馬篭宿道のオウバイ


 「木曽路はすべて山の中である。あるところは岨づたひに行く崖の道であり、あ
  るところは数十間の深さに臨む木曾川の岸であり、あるところは山の尾をめぐ
  る谷の入口である。一筋の街道はこの深い森林地帯を貫いてゐた。」

の書き出しではじまる島崎藤村の「夜明け前」の舞台、中仙道・木曽路は馬篭宿の
街道の坂道は、春の雨に濡れた石畳の道でありましたが、道端を飾るオウバイの黄
の色は迎春花の名のごとく、黒く濡れた木曽路に春を輝かしていました。

       黄梅や枝はみどりに春の色     作者不詳

   迎春花の花咲く賎が垣根かな    陽 春

出来上がってきた写真を前にして思い返すと、訪れる人も少なかった為か、馬篭宿
の街道は暗く、もの淋しげでありますが、オウバイの黄が街道風景全体を明るいも
のにし、山道の街道に春の訪れ、そして活気の到来のきざしを示すように輝いて見
えます。



馬篭宿の郵便局前の苔むした梅の古木から伸びた一本の枝に咲く数輪の梅にも、藤
村記念館内に植えられている数々の植物にも春の訪れで花が咲き始めていましたが
街道に沿って随所に植えられたオウバイの黄ほどには感激を与えてくれませんでし
た。

坂道を一歩一歩、踏みしめて登る街道の左右の石垣から側溝にいたるまで、どうし
てこんなにもオウバイがと思うほどに、黄に飾られた雨の馬篭宿の光景は、忘れら
れないものの一つになりそうです。

      黄梅の花にさはらふ風たちて
           昼すぐるより空濁るなり      青柳 競

年柄もなく、良く保存された街道を歩いて少し感傷的になってしまいました。

                            うめだ よしはる
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   春の花へ