トサミズキの垂れる花房

 植物歳時記でトサミズキの項目を開くと必ずといって良いほどに引用されている句

       土佐みずき山茱萸も咲きて黄を競ふ     水原 秋桜子

に出会います。 早春に開花する花はロウバイ、マンサク、サンシュユ、オウバイと
時期を追って次々に美しい姿を見せてくれますが、何れも黄色、ここ数日の暖かさで
トサミズキの黄色の花房が伸び始めました。 まさに上に掲げた句の通りです。
昨日訪ねた親戚の庭先からトサミズキの枝を戴き、玄関に裾を赤いツバキであしらっ
て活けたのですが、赤いツバキと黄色のトサミズキがマッチし、春を存分に満喫して
います。 庭の鉢植えのトサミズキも蕾が割れて、花が下がり始めて来ました。

 トサミズキは庭園木としてあちこちで見るようになりましたが、野生地は土佐に限
定されているので、その名前である土佐ミズキは真にふさわしいものだと牧野博士は
書いています。 トサミズキもマンサクやサンシュユ等と同様に、葉に先だって淡黄
色の花を開き、一つの花序に5ー10個の花が垂れ下がり花の間からやや濃い紅茶色
の雄しべを覗かせます。

 この花と間違えやすい植物にヒュウガミズキ(イヨミズキ)がありますが、花の数
も2ー3個でトサミズキに比べると小振りなので区別が付きます。 トサミズキの原
産地が土佐であることを念頭に置くと、ヒュウガミズキの原産地は宮崎県の日向かと
いうとそうではなく、牧野博士によると「トサミズキより優しい姿をしていることか
ら、ヒメミズキと呼ばれていたのが訛ってヒュウガミズキになったのかもしれない」
と言っています。 土佐に対して日向とか伊予の名前は後に付されたもので自生地を
表してはいないようです。

 街を散歩したりして見る花や、庭の花々が次第に豊かになってゆくこの季節は一瞬
たりとも気の許せない時期で、足早に走るサクラの開花に眼を奪われてしまいます。

                             うめだ よしはる

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