うつむいて咲くうす紫の桐の花

「桐」は日本では古くから材として、軽く、割れにくく、火に強くて燃えにくく、
湿気を通しにくく、木目や材の色が優れていることから、家具、特に、箪笥とか木
箱材として、そうだ、以前は下駄もありましたね、また、琴などの和楽器の胴材と
してもと、私達の生活に広く、密着している材の名称で、誰でもが知っている名前
でしょう。 桐の材に接する機会は多くても、花の時期にゆっくりと観察する機会
の少ない植物です。円錐花序に淡紫色の筒状のつりがね形の花、それぞれがうつむ
いて咲き

      うつむいてうす紫の桐の花     

ということになりました。

ビール麦の穂が風になびく畑に囲まれた屋敷にそびえ、花をつけるキリは

     穂麦田の風すがしくて桐ひと本
            ほの紫の香を流しくる 宮原 あつ子

と歌人が詠んだように、麦の穂波の時期と花の関係を良く表しています。

昔から「幼女ある家は桐を植えて、嫁すべき頃には材とし、家具を作って持たせる」
との話があるようですが、そんなこととも関係のある名残でしょうか、散在する農
家の屋敷の日当りの良い所にキリの木が目立ちます。

私の家の周辺に残る農家の屋敷にも、キリの木が数本残り、うす紫色の花をいっぱ
いに付け、生け垣のツツジの葉の上に筒状の花弁を落としていました。

     桐の花咲くや都の古屋敷       子規

ちなみに、キリは広く全国に栽培されていますが、関東以北の地帯が生育適地のよ
うで、福島県、岩手県、新潟県、茨城県の各県が主産地とされ、特に、福島の会津
桐、岩手県の南部桐は良質とされています。 岩手県ではキリの花を県の花にして
いますね。

                        うめだ よしはる

   晩春から夏の花へ

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