ジンチョウゲ
ジンチョウゲはあの甘酸っぱい香りが漂い出して、はじめて、ああここにジンチョ
ウゲがあったのだなと思い出す植物で、花の時期以外は誰もが気にも止めない、目
立たない常緑の庭木・・・・それだけどこにでも植えてある植物なのでしょう。

中国ではジンチョウゲを「瑞香」とも「睡香」とも称し、ことのほか愛好し、また
珍重し、大変に縁起のよい植物としています。それは。多分に、次ぎのような、こ
の植物にまつわる話から来ているのでしょうか。

  「瑞香」は原名を「睡香」といって、伝えるところでは、盧山に住む或る僧が
  山中の石の傍らで昼寝をしていたところ、夢の中で、不思議な香が強く匂って
  きた。目が醒めてからその香を探したずね、探し当てたら花であったので、そ
  の花を睡香と名付けた。後に好事家がこのことを珍しいことと思い、祥瑞であ
  るというわけで睡を瑞に改めて、「瑞香」とした。

ジンチョウゲ「沈丁花」の日本名は、牧野冨太郎博士の「この花の香りを沈香と丁
字にたとえていったもの」との説明が一般にとられていますが、大言海では、「香、
沈香のごとく、花、丁字に似たりとてこの名をなす」と花の香と花の形から説明し
ているとのことです。
いづれにせよ、ジンチョウゲは天下の名香の二つの名前からきているものとすれば
その香の素晴らしさには、誰しもが同じような評価を与えたのでしょう。
     沈丁花白くほのかに夕闇の
             垣根に匂う春となりけり     秋山 清

その強い香りを女の情熱に、また、柔らかく香り高い肌にたとへて

     情熱のたかきかおりを花びらに
           つつみて朝の沈丁花よき     西沢 みち子

     沈丁花汝が香をかげば幻に
           うなじにありぬやわら手枕    与謝野 寛

こんな歌もよまれています。

我が家ではあちこちにジンチョウゲをさし木で増やしましたが、大部分が白紋羽病
に根がおかされて、数は少なくなってしまいました。日当りがよく、水はけの良い
場所のものだけが残り、甘い香りを四方にはなっています。

ここまで書いて、花言葉の本を開いたところ、キューピッドに恋の矢を打ち込まれ
た太陽神アポロンが、最初に出会った森のニンフ、ダフネに夢中になり追いかけ回
しましたが、ダフネは驚くばかりで逃げ回り、アポロンに捕らえられる寸前に、ゼ
ウスによってジンチョウゲに変えられたという西洋伝説が紹介されていました。

学名の Duphne odora Thunb. のダフネはこの物語と関係がありそうですね。

                          うめだ よしはる

    春の花へ

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