フクジュソウ

 「花をあつめて甚句にとけば 正月ことほぐ福寿草」と歌い出される福寿草
は、新年を祝うめでたい縁起花として賞されています。
フクジュソウをめぐる伝説や神話を見てみますと、正月のめでたい花であるの
に反して、悲劇的な内容を持った話になっています。

アイヌに伝わる話としては、この花は「クノン」と呼ばれ、女神クノンにまつ
わる悲劇伝説です。

  神々のなかで最も美しいクノンを、父の神は大地の支配者であるモグラの
  神と結婚させようとしました。しかし、クノンはこの縁談を嫌って、婚礼
  の席から逃げ出してしまいました。そして、ひとり草むらに隠れていまし
  たが見つかってしまい父の神とモグラの神の怒りにふれて、一本の草に変
  えられてしまいました。これがフクジュソウというわけです。

  アイヌ人たちは、フクジュソウはクノンの生まれ変わりだから美しいのだ
  と言い伝え、同時に、親の定めた縁談にそむくと罰として草に変えられる
  などと子供達に言い聞かせたということです。

また、西洋でもこの花は「アドニス」と呼び、ギリシャ神話にでてくる男の神
の名をとっています。これは、アドニスがあるとき、いのししと戦い相手の牙
で傷つき敗れ、流れ出たアドニスの血が大地にしみこんで、やがてそこから一
本の草が生え、それがフクジュソウの起源だとされているからです。

アイヌの話では、また、先のアノンの伝説とは別に、この花を「チライウレッ
プ」と呼び、その意味するところは「イトウの来る頃花咲く実」のことで、こ
の花が咲くようになると、冬の間乏しくなった食料の心配から解放されるイト
ウが川を遡って来る時期を示すものとして、鑑賞植物としてよりは生活道の信
号の狼煙として位置づけていたと更科源蔵氏は「コタン生物記」に記していま
す。

     夕閉じて朝(あした)は開く福寿草
        日ざし温(ぬくと)きいく日咲きつぐ    大沢 春子

                       うめだ よしはる

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