夏のつる草/ヘクソカズラ

 家の周囲の生け垣や、空き地などの眼をやると、名前に似合わずに可憐な花を咲か
せている草にヘクソカズラがあります。 植物図鑑等でヘクソカズラの項を繰ると、

「どこにでもある蔓草で、茎は左巻きにからみつく。葉は対生し、細かい毛が多く、
 もむととても臭いのでこの名がある。 花は筒型で白色、先が5裂し、のど元が紅
 紫色。果実は球形で。径5mm。熟すと黄褐色 になる。花期:夏。」
                (カラー自然ブックガイド  人里の植物 2)

とあり、味もそっけもない記述に終っています。しかし、もう少しこの植物を調べて
みますと、別名としてヤイトバナ、またサオトメバナがあり、少し優しさが感じられ
てきます。

 ヘクソカズラは屁糞蔓または屁臭蔓の漢字が当てられて、その名の通り屁や糞のよ
うに臭い蔓草と言うのでしょう。 確かに葉を取ってもんだ時の臭いは厭な臭いがし
ますから、この草が垣根や、農地等にはびこり、これを刈ったり、踏んだりしたとき
の臭いからはいたしかたない名前なのかもしれません。

 別名のヤイトバナは、灸花と書き、筒型の花を摘んで、伏せてみるとヤイト、灸、
モグサを盛り上げた形に似ているとこらから、また花冠の内側の模様が灸をすえた痕
のカサブタに似ているからだともいわれています。 サオトメバナは早乙女花で、こ
の花を良く見ると意外に可愛らしいためであるとされています。

地下茎を伸ばして繁殖しますので、なかなか退治しにくい草ですが、ヤイトバナとか
サオトメバナのような名前があると思うと、なんとなく親しみもある草になりましょ
う。

    秋さればへくそかずらの花にさえ
         うすくれないの色さしにける    尾山 篤二郎

    秋の日のいらいら暑し灸花(やいとばな)   貞好

    蛇篭より蛇篭に渡る灸花(やいとばな)    虚子

 誰もが気にも留めない、何処にでもあるヘクソカズラに歌人がこのように思いを寄
せていることに、調べてみて驚きました。 
                           うめだ よしはる

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