ヒガンバナ

 今年は雨が少なく、例年になく暑い日が続いたことから、ヒガンバナがお彼岸の時
期に花茎を伸ばすだろうかと心配しています。

 ヒガンバナはやはり、その名の通り秋の彼岸に時期に合わせて、見事な花姿を見せ
始め、秋の到来を強く感じさせます。 ヒガンバナは種子を作らない植物だけに、日
本へは中国から人為的に持ち込まれた史前帰化植物に数えられていて、古来から鱗茎
を水で良く晒して、有毒アルカロイドを除いて、残る澱粉を飢餓の時の食糧に当てて
きたとされています。 

 こうして万が一の場合に役に立ってきたヒガンバナですが、戦争中に疎開していた
岐阜の田舎では土葬する墓地の山の斜面一面にヒガンバナの赤が燃えるように咲き、
、田を囲む土手に咲いていた花でしたが、子供ごころにも近付くのが恐ろしかった記
憶があります。

       曼珠沙華赤赤と咲けばむかしより
              この道のなぜか墓につづくも   前川佐美雄

 最近ではこうした縁起が悪い花との印象が薄らぎ、またシロバナのヒガンバナや改
良された園芸品種が出回るようになったために、シビトバナの異名をもつヒガンバナ
も、あちこちの家の庭の隅などに見かけるようになりました。

 ヒガンバナの別名の一つに、この植物が葉のある時に花がなく、花のある時に葉が
ないことから、ハミズハナミズ(葉見ず花見ず)とも呼ばれます。

       葉見ず花見ず秋の野に
       ぽつんと咲いたまんじゅしゃげ
       から紅に燃えながら
       葉の見えぬこそさびしけれ

と、中 勘助は歌っていますが、玉川上水の土手にも群落から離れて緑濃い下草に混
じってぽつんと赤い灯をともしているヒガンバナもあり、この詩にぴったりの風情で
す。 ヒガンバナが野に咲く時期は本格的な秋も近くなる時期で、クヌギやコナラの
どんぐりが落ちているのが目立ち始め、足元ではじける音が聞こえるのも近そうです。

                            うめだ よしはる

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