キツネノカミソリ

 この頃ではキツネノカミソリは珍しい野草になりました。 毎年、8月15日頃に
は地域の野草観察会が「キツネノカミソリを見る会」を開催し、多摩川べりの雑木林
のキツネノカミソリの生育地へ案内してくれます。

 キツネノカミソリはヒガンバナ科ヒガンバナ属の仲間だけにヒガンバナと同一視さ
れている場合もあるようですね。 というのは、柳田国男は「野草雑記」の中の「草
の名と子供」の中では、狐の剃刀と題して、次ぎのように書き出しています。

  東京の郊外では彼岸花、俳諧では曼珠沙華などといっている草の葉を、奈良県
  北部ではキツネノカミソリ、摂津の多田地方ではカミソリグサ、それからまた
  西へ進んで、播州でも私達は狐の剃刀と呼んでいた。

 暑い暑いといいながら、長野県北部の地域での世代から世代への植物の語りを書き
留めた宇都宮貞子著の「草花の話」(秋・冬)を読みましたが、その中でも、キツネ
ノカミソリとヒガンバナが混同されています。 農村で草花と共に生活し、生活の中
に位置付けてきた植物は、そうしたことで十分なのでしょうね。

 牧野植物図鑑ではこの名前は、先の尖ったへら状の葉を狐の剃刀に見立てたものと
あります。 図鑑を引いたついでに、キツネが頭に付いた植物の名前を調べてみまし
た。 キツネアザミから始まって、キツネノマゴ、キツネノエフデ、キツネノチャブ
クロなど16種の名があがっていましたが、キツネの名を植物の名前に冠したのは、
キツネにはだまされるなどの話があっても、稲荷神社のキツネのように、瑞祥動物と
して尊重してきた人間のと関係から、キツネの名が付されたのでしょう。

                            うめだ よしはる

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