ハナズオウ

私の家の廻りの家々の庭にも、葉の出ていない裸の枝に紫紅色の花をびっしりと
付けて咲いています。 そんな有様は


       びっしりと花ととのえし蘇芳かな      一閑子

 「四季の花事典」や「日本大百科全書」などによりますと、インド、マレーシア
産のスオウには、その心材に紅色染料になるブラジリンが含まれていて、これが空
気に触れると酸化され、紅色のブラジレインになるとか。 また、媒染剤によって
は紅色のほか、紫色、茶色、灰色などいろいろに発色するため、スオウは古くから
重要な染料植物として珍重され、日本にも奈良時代以前に渡来し、正倉院にも染料
として蘇枋が収蔵されているとのことです。


 更に面白い話は、ヨーロッパは中古の初期からインド産のスオウ材をブラジルと
称して染料に用いていて、1540年にポルトガル人が南アメリカに上陸したとき
に、その森林でブラジル(スオウ)に似た植物(フェルナンブッコの木)を発見し、
これがスオウと同じように染料に用いられたことから、ブラジルの木と称し、やが
て国の名前にもなったということです。

 私も、スオウの話から、百科辞典などで確認しましたが、ブラジルの国の名前が
スオウに関係があったとは、驚きでした。

 「ユダの木」はセイヨウハナズオウに付された名称で、高さが10メートル以上
にもなる種類であり、古くは化石時代から存在していて、その原産地がユダヤの地
とされたことから「ユダヤの木」 Judes Tree の名が与えられたようです。

 しかし、キリストを売ったユダが、後に後悔して首を吊った木がセイヨウハナズ
オウであったことから「ユダの木」と、好ましくない名前が与えられ、しかも、そ
の花言葉も「不信、裏切り」で、あでやかな花にはかわいそうなことです。

 セイヨウハナズオウのほかに、アメリカハナズオウ C. canadensis もあるよう
で、これも7ー12メートルにも達する落葉高木、中国から300年ほど前にわが
国に渡来してきたハナズオウ C. chinensis に比べると大型のようです。
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 朝日新聞社出版の「木のこえ花のうた」にも、花道の安達瞳子さんがハナズオウ
につて書かれ、その中に染料としてのブラジリンについて触れられているのにはさ
すが専門家とおどろきました。


                          うめだ よしはる


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