ハナダイコン/ショカツサイ

誰が何時の頃にハナダイコンという名をつけたのかは判りませんが、ここ数日の
暖かさで、日当りのよい斜面や土手にうす紫色の花を付けたハナダイコンが目立
つようになりました。

特に、通勤の朝、退屈の45分の電車の窓から眺める景色の中の一部として、眼
に入るのは、線路際の土手に咲く、黄色のナノハナ、そして、うす紫のハナダイ
コンで、次々に窓を横切って行くのは、春を実感させてくれる代表的な景色とし
て挙げなければならないでしょう。

いろいろの書物によりますと、原産地は中国で江南の地に良く繁殖し、中国の春
を旅した、橋本関雪の「支那山水随録」の一節、この花を描写しての

   「紫毛氈を敷いた如く、繁殖力特に盛んなり。わが紫雲英(レンゲソウ)
    比すべく、その花さらに美なり。」

が、しばしば引用され、その美しさをたたえています。

日本には江戸の初期に一度入ってきたようですが、昭和10年頃に再び入り、そ
の旺盛な繁殖力のためか、日当りのよい土手をはじめ、一般家庭の庭にまでと、
今では何処にでも見る十字花科の植物、しかし、春を実感させてくれる植物の一
つで、これが一面に咲いている光景はまさに、「紫毛氈を敷いた如く」の表現に
ぴったりです。

ショカツサイという名称は、諸葛孔明が戦の先々で、しばしの在陣にても地を選
んで、生育の早いこの植物をまかせたので、この名がある、といわれていますが
これは蕪の類ではなかったのかと思われます。しかし、こんな伝説をもって中国
ではこの植物を諸葛菜と呼ぶようになったといいます。

私達の身近にあるだけに、いろいろな名前がこの植物には与えられています。
ショカツサイについて触れている植物の本の多くは、ショカツサイとかハナダイ
コンなどの名前をめぐっての逸話として、約20年ほど前に朝日新聞の声の欄で
たたかわされた名称談義を紹介しています。そして、このことが、植物学者でも
あった先の天皇陛下のお耳にも達して、

   「牧野(富太郎)が最初にオオアラセイトウの和名を付けているのだから
    それでよいのではないか。」

という、勅栽を下されたことから、結局「和名、オオアラセイトウ、一名、ショ
カツサイ」が妥当ということでしめくくられたとのことです。

しかし、今では誰もがハナダイコンとかダイコンバナとか、またはムラサキバナ
とかの名で、より生活に密着した名称で、親しみを込めてこの花を呼んでいます
ね。そして、この植物は、私達の身の廻りにあって、春の訪れの喜びを、人々と
ともにうす紫の花に托してあらわしているのでしょう。

                         うめだ よしはる

春の花