道も狭に散り敷く白きえごの花
踏むは痛々し踏まねば行けず 泉 幸吉
玉川上水の両岸を囲むように繁る武蔵野の面影を残す落葉樹林帯には思いの外エゴノ
キが多く、今の時期は白い花が葉陰にびっしりと下向きに咲き、緑のトンネルに明る
さをもたたしています。 こんなエゴノキの花のつき方をシャンデリアを下げたよう
なと表現されていますが、そんなシャンデリアに灯がともったかのようです。
サクラの花の散るのをいさぎよしとするならば、エゴノキに花の散り方もいさぎよく
咲いたかと思うと、木の下を雪が降ったかのように白い花で覆ってしまいます。 た
だ、エゴノキの花はサクラの花と違って花ビラが一枚一枚風に吹かれて散るという風
情はありません。 主に5枚の花ビラの根元がくっついた合弁の花ですが、それが雌
蕊だけを木に残して、すっぽりと抜け落ちたかのように地面に散り敷いています。
毎朝、歩き慣れた道ですが、初夏のこの頃は散り敷いたエゴノキの花を踏んで歩くの
が本当に痛ましい思いです。 そんな私の気持ちを、泉幸吉の短歌は良くあらわして
くれています。
エゴノキの実には脂が多いことからヤマガラが好んでこれを啄むとのこと、果実の表
面には有毒のサポニンを含んでいることを知っているのか、果皮を剥いて子実だけを
食べるという習性の話には、ちょっとびっくりいたします。
ゑごの花ふむにをしげもなきまでに
散りてはたまる田にも畔にも 岡 麓
こんな思いがするほどに、白い花を散らしている初夏を代表する花、それはエゴノ
キです。
うめだ よしはる
晩春から夏の花へ
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