牡丹の花

静かでかぐわしく、そして清らかな梅の花にくらべると、牡丹は花の王と言われるだ
けあって、豪華で艶麗で、哀愁さを伴わないということから、花は素晴らしいがどう
もという方が多いようです。

一般にセンチメンタルな日本人には、どちらかというと淋しい花が愛されるようで、
梅はその典型です。 万葉集でも梅を詠った歌が一番多いといわれますし、また文学
でも梅と日本文化とのつながり、梅見のことなどに多くの頁がさかれています。

牡丹は、その華麗さが観賞の中心で、牡丹を評して「花ながら植えかへらるる牡丹か
な」の句に示されるように、越の国の第一の美女であった西施は、越王勾践が呉に敗
れたために呉王夫差に送られ、呉王は西施の色香に溺れて国を傾けてしまうという話
がありますが、西施の美しさにたとえられるられる華麗さが牡丹なのでしょう。

その豪華さのためか牡丹は絵画や彫刻の分野で題材になることが多く、日光、東照宮
、京都、二条城の極彩色のすかし彫りなどに代表されますし、中国の陶磁器やや、そ
の影響を受けた有田焼きを見ても牡丹は中心的なデザインとして取り上げられていま
す。 私の手元に、1990年4月に大阪の東洋陶磁美術館を訪ねたおりに開催され
ていた「牡丹の意匠展」のカタログがありますが、その、はしがきには

  「あまねく花を看るもこの花に勝るものなし。」と賞され「牡丹の濃艶人心を
   乱し、一国狂うが如く金を惜しまず」

と記されていて、中国では牡丹が花の王として多くの人々に愛されていたことを知る
ことが出来ます。

そうしたことから、牡丹は見る花なのかも知れませんね。 でも庭に一株でも植えて
、この時期、十五輪もの華麗な花を咲かせてくれますと

     牡丹花咲き定まりて静かなり
          花の占めたる位置のたしかさ      木下 利玄

     花びらの匂ひ映りあひくれないの
          牡丹の奥のかがよいの濃さ       木下 利玄

の短歌が、良く観察された素晴らしい歌だということを味わうことが出来ます。

                         うめだ よしはる

   春の花へ

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