アセビの花房が垂れる頃

博多、大阪そして名古屋へ旅行し泊まったホテルの植え込みや中庭には、都市
の排気ガスに強いためか、あまり目立たないアセビの白く垂れた花房が眼に付き
ました。
街を歩いて眼を空に向けるとハクモクレンが咲き始めた季節ですが、小さな花な
がら、スズランの花を重ねて垂れ下げたようなアセビも捨てることの出来ない花です。

       咲きいでし馬酔木の花の白房は
             華やかならぬ心ひくなり      今井邦子

と詠われるように、あまり人目につかない花ですが、重そうに垂
れる白い花房は、弥生・三月を象徴する花でもあります。

       手にうけて馬酔木の花のかろかりし       青 朗

以前に奈良公園で花の盛りのアセビの純林を見ましたが、雪が降り積もったか
のように白く咲いていました。これは神の使いとして長い間、放飼されてきた鹿が
アセビだけを食害しないために残り、あれだけの立派な純林として残ったものなの
でしょうか、それとも、万葉の時代から歌われているアセビであるが故に、奈良で
は気候も適当で、あれだけのアセビが繁茂したのでしょうか。ホテルの中庭で眼に
したアセビから、とんだところまで話が飛んでしまいました。

最近では、薄紅色のアセビを眼にすることも多くなりました。先日、訪ねた木
曽路は馬篭宿の藤村記念館の庭でも一株だけが薄紅色のアセビで、白いアセビの
花の中にこれを見つけたときには、何か妙に胸に迫るものがありました。

皆様のご近所でもアセビの白い花が長い房になって垂れ下がっていることでしょう。

                            うめだ よしはる

春の花