アケビとムベ

 花の歳時記のアケビの項で、次のような短歌を見つけて歌人の観察力を再認識しま
した。 日曜日の観察会でヘビと出会ってびっくりしたからです。

     蛇にあいて肝をつぶせる道ばたに
           薮かぶさりて通草花(あけび)花咲く   藤原 古実

 日曜の高尾山のスミレ観察会で梅林から小川へ続いている土手に咲くカテンソウを
見ようとし、1メートル以上ははあろうという見事なシマヘビと出くわして、肝をつ
ぶしただけに妙に印象に残った短歌でした。 大きく口を開けたアケビは野生の甘み
に富んだ果実で、種には閉口したものの、あの甘さは子供の頃を田舎で過ごした私に
は懐かしい味です。 宇都宮貞子さんの著書「草木の話(秋・冬)」には信州では子
供たちがアケビの雌花の蕊を手にのせて、「ジジババ寝てろ、嫁起きてまんま炊け」
とはやしながら雌しべの立ち上がり方を競って手を叩いて遊んだと書かれていますが、
疎開で田舎にいた私には甘味源として重要な食糧でした。

 

 もうアケビの花の時期かと、ミツバアケビを棚にはわせて栽培している場所へ、花
の観察に出かけて来ました。 ヘビの姿を見かける頃はアケビの花の時期です。 花
はお椀を伏せたような濃い紫色、何かキクラゲを丸めたようにも思えます。 アケビ
の名前について牧野植物図鑑では「アケビは果実の名であり、この植物を指して言う
ときはアケビカズラと呼ぶべきである。 アケビの語源には色々の説がある。 果実
が熟すると一方に縦裂して白い肉をあらわすから開け実、欠び、および、開けつびで
あるという多肉説、また、アケウベの短縮形であるという説もある。 これはムベは
果実が開かないが、アケビは開くからである」と説明しています。
 「口あけてはらわた見せるあけびかな 蝶衣」の句がそのへんを良くあらわしてユ
ーモアがあり、牧野博士の説明を17文字で良く表していますね。

 アケビに対してムベは常緑の蔓植物で冬でも厚めの艶のある葉を垣根などに絡ませ
ていて、住宅地域を散歩すると良く眼にします。 牧野植物図鑑では「ムベはオオム
ベの略である。 昔、この果実をわらかごに入れて朝廷に献上したので大賛(おおに
え)すなわち筍苴(おおむべ)と言う。 これがウムベとなり、次いでウベと略せら
れた」と語源を説明していますが、アケビもムベも秋の野趣味に富んだ果実で、最近
では時期になるとスーパーマーケットの果実売場にも並ぶようになりました。 ミツ
バアケビとムベの花の画像を紹介しましたので、比べてご覧下さい。

                            うめだ よしはる

  春の花へ

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