ミツマタ
「パソコンの部屋のストーブの石油が空になっているようですから、お父さん、
裏へ行って入れておいて下さいな。」との家内からのいいつけで、裏戸をあけて
外に出ますと、ジンチョウゲの花が枝先の緑の葉に包まれるようにして咲きだし
四囲に甘い香りを放って美しく咲いているではありませんか。
日頃は家の周囲の植物をじっくりと観察する間もなく過ごしている生活のせいか こうして、日曜日に裏へ出てみると、雑草防止のために敷き詰めた小石の砂利の 上には隣家の赤い椿の花がこぼれ落ちていたりして、新しい発見があるものです。
石油のポンプを押しながら上を仰ぐと、裏の家の庭から塀を越えてでてきたいる ミツマタが、ジンチョウゲとは対照的に、葉の出ていない枝の先々にアシナガバ チの巣のような形をした花房を下向きにして咲き始めているのにも気がつきまし た。 もう、すっかり春なんですね。
ミツマタがいつ日本に渡来してきたのかは正確な記録はないようですが、17世
紀以前とされていますので、かなり古い時代なのでしょう。原産地は中国の中南
部からヒマラヤにかけての地域だとされていますが、以前からその強靭な枝を持
つ性質から、物を束ねたり、また、製紙の原料として用いられていたのではない
でしょうか。英名もペーパーブッシュと呼ばれているようです。
日本では枝が三っのマタに分枝することから、三椏(ミツマタ)と命名されたと いわれています。
    春さればまず三枝(サキクサ)の幸(サキ)あらば           後にも逢はむ莫(ナ)恋ひそ吾妹     柿本 人麿
この柿本人麿の歌に詠まれた「三(サキクサ)」がミツマタあるか否かは論議のあ るところでしょうが、ミツマタであるとすれば、万葉の時代にもう渡来していた ということになりましょう。
こうした論議は別として、裏で見たジンチョウゲとミツマタ、一方は緑の葉につ つまれるようにして枝の先端に、他方は、葉のない枝の先端にそれぞれ花をつけ ていますが、植物のグループでは両方共にジンチョウゲ科の植物、植物図鑑では すぐ隣に、または近くに並んで示されているものです。
     みつまたや皆首垂れて花盛り      前田 普羅
花の先端からひかえめに黄色がひろがって行く花は、独特の味わいがあるせいか 、また、戦後、高知県から赤色花系のアカバナノミツマタというべき系統が見い だされ、園芸品種として普及したこともあり、その美しさは高く評価されるよう になり、庭木としての地位もたかまり、多く植えられるようになりました。
付近の住宅地域の植物観察散歩にでますと、枝が三っ、三っに別れている特徴の ある姿をしていることから、また、蜂の巣のような花房をつけていることからも 容易に識別することが出来る植物の一つです。
                         うめだ よしはる

  パンジー
   表紙へ戻る