【一九九二・九・一八講演】
 全国弁連第16回集会(1992年9月18日、東京・東条会館)での講演に加筆された文章です。後の『マインド・コントロールとは何か』(西田公昭著,紀伊国屋書店,1995年)にまとめる前の概説的な説明だったそうですが、学術論文(「ビリーフの形成と変化の機制についての研究(3)−カルト・マインド・コントロールにみるビリーフ・システム変容過程−」)よりもわかりやすいので、少し専門用語もありますが、是非読んでみてください。

統一協会の伝道とマインド・コントロール

                     静岡県立大学  西  田  公  昭

〈社会心理学の科学的視点から〉

 初めまして、静岡県立大学の西田と申します。専門は社会心理学、特に信念の形成や変容、構造というものをテーマに研究しております。
 早速ですけれども、統一協会の伝道の問題を考えますと、ポイントの一つとして「洗脳」とか「マインド・コントロール」ということになるのですが、いずれの概念にしても、われわれ心理学の概念としては、ほとんどあいまいであったり、別の意味で用いられることがあります。ですから、一言で彼らの伝道が洗脳だというようなことは、簡単には申し上げることはできません。しかし、統一協会の行っている伝道のテクニックが、過去の研究にあるそれと類似した点があるとは言えそうです。確かに、一九五〇年代、中国で行われたような身体の拘禁や拷問といった形での意味では、桜田淳子さんや山崎浩子さんも断固主張するように、「洗脳などされた覚えはない」というのは正しいでしょう。しかし、社会心理学では、人間の行動が、自発的な意志であり、自己の統制下にあるという自分の認識が、必ずしも確かでなく、他者によって操られた意志であっても、当の本人の気がつかない場合があるということを、科学的研究法を用いてあきらかにして参りました。
 つまり、われわれの知見から見ますと、ほとんどの人が程度の差こそあれ、「自発的に選んだ」つもりが、気がつかず、実は仕組まれて、「選ばされた」というワナにはまった経験をしていると思われます。ですから、彼ら自身が自分の意志であるといくら断言してみても、また、自分なりに悩んだり、考えた結果だといっても、それは操られた事実がないという証拠にはなりません。
 ですから、科学的視点にたって、客観的に見ていくことが必要です。もちろん私のこの報告も、現在のところ残念ながら完璧な科学的データが十分整っているとはいえません。私は、弁護士さんや牧師さんから提供していただいた資料や元信者の方々のインタビューや手記、それから現在説得中の信者の方々からデータを得てきました。そのデータから構成できる仮説としてお話しするのです。決して科学的結論ではないということを最初に理解しておいていただきたいと思います。

〈ビリーフとは〉

 それでは順を追つて、統一協会のマインドコントロールについて説明してゆきたいと思いますが、まず、ビリーフという心理学用語について説明するところから始めましょう。
 ビリーフとは、われわれが個人的に保有する知識・信念などを指します。たとえば、われわれは、自分、人生、結婚、政治、経済、法則、規範などのビリーフをもつています。そして、人は、それらが、より「妥当な」ビリーフであろうとする動機をもちます。心理学的には、この際の「妥当」というのは、「正しい」というよりも、有効なものであればよいのです。つまり、自分は何者なのか?、どういった人生を歩むべきなのか?、今・、何をすべきなのか?、この世の中はどうなっているのだろうか?、どんな法則や規則でものごとは起こるのだろうか? などについての人間が生きていく上での問題を解決するために役立つことが重要なのです。それがビリーフの働きです。われわれは生きていくために、そんな役に立つビリーフのコレクションをいわば上手に整理し、組み合わせる努力をしているのです。
 比喩的に頭の中を「家」とすると、ビリーフは、いわば好みの家具や日用品のコレクションです。家には、応接セットやベッド、照明、カーペットにカーテン、置き時計、食器、はさみ、耳かきに爪切りといった具合に大きいものから小さいものまでいろいろなコレクションがあると思いますが、ビリーフのコレクションも同様です。かけがえのない重大な役割を担う大きなものから、いつ捨ててもいいような小さなものまで、いろいろなコレクションがあると考えられます。それらがすっかり一つの趣味にまとまって統一されている人もいれば、雑然とまとまりのついていない人もいるわけです。
 そして特に統一協会に関して重要だと思われるのは、〈第一表〉に示したビリーフです。要するに、価値はあるが罪があるという「自己ビリーフ」、神を中心にした世界のあるべき姿についての「理想ビリーフ」、地球の万人を救い理想社会を実現するために努力していくという使命というか人生の目的というか「目標ビリーフ」、神やサターン、霊界といつた超自然的働きによる自然や社会の法則という「因果ビリーフ」、善悪の基準となる権威が教祖の文鮮明やアベル(上司)であり、その権威が絶対優先とするという「権威ビリーフ」です。これらはどれもわれわれが生きていく上に重要なビリーフであることはこれまでの研究でも示されています。

〈第一表〉 タイプ別のビリーフの内容変化
段階・タ イ プ入 信 以 後
1・自己ビリーフ神に愛され、一人一人が重大な価値をもち、人間
の本性は「善」であるが、「堕落」している。し
かも自分は神に選ばれた者である。
                         (創造・堕落論)
2・理想ビリーフ神を中心とした理想家庭、世界の平和共存と人類
の繁栄した地上天国、死後の世界にあっても霊界
での幸福を思う。
                 (創造・再臨降準備時代など)
3・因果ビリーフすべての悪の歴史や社会現象は霊界またはサタン
の技と考え、人間の「堕落」を諸悪の根源とする。
一方、良いことのすべては神の力とする。
                   (堕落論、復帰原理など)
4・目標ビリーフ人生の目標ないし使命は、神とともに地上天国を
完成させ、万人をも救済する。
              (復帰原理・再臨降準備時代など)
5・権威ビリーフ協会以外の他の権威の失望させ、メシアを頂点と
するアベルの絶対的権威をたてる。
                           (復帰原理)

 人は、成長していく中で、経験したり、親、教師、書物、友人、そしてマス・メディアなどからの情報を受けてビリーフを形成・変化させてゆきます。その情報は常にそれまでに獲得したビリーフと調和するか、不調和なのかの吟味をおこない、受け入れるかどうかの判断がなされます。その方法は、社会的比較過程と呼ばれ、自分の体験や他の関連するビリーフに当てはまったり、周囲の人の意見、つまり親や友人、専門家、多数派、自分と同じような立場の人の意見と比較して、判断するのが普通です。また、何か重大な悩みや問題を抱えていて、それを一気に解決してくれる情報であったとしたら、人はその情報を受け入れてビリーフとします「このような2つのメカニズムで人はビリーフを形成し、人間のあらゆる営みに対処できるように、内容に関連のあるもの同士を整理し、システム化してゆきます。

〈スキーマとは〉

 このシステムを心理学ではスキーマと呼びます。〈第二図〉をご覧下さい。個人が正しいと受け入れているビリーフ群でできたいくつかのスキーマと、自分では信じていないが他の誰かが信じているといった知識のディス・ビリーフ群でできたスキーマとを示してみました。自分の信念や主義を主張できる人というのは、こうしたスキーマがきちっと働けるように整理された環境をつくっている人です。そして図の中心ほど、役に立つものであり、大きいほど重要なものであることを示しています。日用品は目につく物や探して見つかる物しか役に立ちません。ビリーフも同じです。家の中でいえば、自分のお気に入りの応接セットなどを目につくところに、どーんと置いてあるようなものです。
 さて、多くの若者が分かっているように、これまで自分の獲得してきたビリーフが、生きていくのにどこまで通用するのか完全なのか、通常自信がもてるものではありません。ですから、人は一般に、若い人は特に、もっと確かで役に立つビリーフはないものかといった問題を抱え、よりよいビリーフのコレクションを求めているといえます。

〈ビリーフに「伝道」が与える影響〉

 では、統一協会の伝道が与えるこれらのビリーフヘの影響はどうでしょうか。当人は気がつきにくいのですが、伝道される者は「通常」ではないビリーフやスキーマ形成の状況を与えられているといえそうです。つまり、別の団体名で接近したり、教義を一般公開しなかったり、特殊な環境でセミナーを行ったり、といった状況の非日常性というか特殊性は、判断の歪みという点で一般の人が考えているより、ビリーフの形成や変化においてずっとインパクトの大きい問題かと思います。それは、後でまた触れるとして、とりあえず、先を説明して参ります。
 お配りした資料に書きましたとおり、四つぐらいの動機に訴えてきます。
 (1) 自己変革欲求‥罪悪感、相対的剥奪感、ルサンチマン的心理に対し、具体的な心のささえを提供すると説くような治療的ないし訓戒的メッセージを与える。たとえば「もし勉強したら、悩みが解決できますよ」「解決したければ、勉強すべきです」などといわれる。
 (2) コンピテンス‥「生きがい」や社会的貢献といった人生の目的意識を説明し、生きていく上での価値モデルを提供すると説くような自己実現的メッセージを提供する。たとえば「あなたは変わることができますよ」「あなたの生きる目的がわかりますよ」などといわれる。
 (3) 認知欲求‥自分、世界、歴史、霊界などの超自然についての理解に対するる動機づけを高める。特に反共産主義、オカルト的因縁、理想的家庭、世界の終末などについて正しく認知しようとする動機づけを高める。たとえば、「勉強したら、わかりますよ」「すへてのことが、わかるんですよ。知りたいと思いませんか」などと言われる。
 (4) 孤独解消‥親密な仲間集団を求める動機が満たされていない状態にある者に、真ににこころを開いて語り合う場所と人とを提供する。この場は、自分にとって有効なビリーフを形成するため情報を提供してくれることにある。たとえば、「仲間がいるから、一緒に考えましょうよ」などといわれる。

〈勧誘における心理学的テクニック〉

 以上のような悩みや問題のいずれも抱いていない若者は、程度こそあれ、まず、いないと思います。このように、すべて人に勧誘されうる動機があるのですが、ではどんな状況で勧誘されてしまうのでしょうか。ここに動員されるテクニックには、心理学で明らかにされてきたものが多く用いられています。統一協会のメンバーは、様々なアプローチをとっています。友人や知人といった系統伝道(F&F)、路上アンケート、霊感商法、原理研、自己啓発セミナー、合同結婚など、あらゆる方法がとられています。それらを分析していくと、以下のような心理学的テクニックを用いられていることがわかりました。
 (1) ディストラクション効果‥参加しやすい集団名や魅力的なイヘントを用いて一切、宗教、統一協会であるということを明かさず、あるいは否定し、警戒心をとき、統一協会や宗教に対して抱いているネガティブ・イメージを喚起させないようにする。また、自己啓発セミナーなどは、「感動」体験を望んでいる人、自己を変えたいと思っている人をスクリーニング(選出)できるし、結婚したいけど相手のいない人には合同結婚である。つまり、別の魅力的なもので撹乱する。
 (2) コンディショニング‥賛美、食物、承認などのグッド・フィーリングと宗教的教義とを対提示する。また、映画、仲間とのパーティやハイキングなどによって楽しい場を提供する。一般に人は、不快を避け、快い状態を享受しようとする傾向がある。
 (3) 小さな要請(一貫性)‥人は自己の行動に一貫性を保とうとする動機があり、しつこい勧誘や、同情したり、小さな親切によって生じる小さな要請への承諾は、次の要請をも承諾させてしまうことになる。伝道者は、電話で何度もチェックし、異様に喜んで見せてコミットメント(発言への責任)を高める(フット・イン・ザ・ドア現象)。
 (4) 社会的インパクト‥伝道者は完全に信じ込んでいるメンバーであることが被伝道者のインバクトをえることになる。熱心で、真剣で誠意をこめた一生懸命の勧誘が自信をもって一貫した勧誘の前に、好奇心を高められ、「何かある」と考えるようになる。
 (5) 報性のルール‥特に友人や家族が伝道者の場合、拘束力が高まる。また、伝道者の親身な対応に対して何か「お返し」をしようとする動機がある。伝道者の強い勧めに対して、喜ばせようとする歓心動機を高められた結果、承諾することがある。
 (6) リスク・コミュニケーション‥強迫的メッセージよる強制であり、「因縁トーク」などで恐怖感、無力感および切迫感を喚起させ、その解決法を依存させる。そのとき、賛美→恐怖といった手順でコントラスト効果をねらうこともある。
 (7) 希少性‥その機会は偶然ではなく、チャンスであることを強調し、意思決定を引きのばせないようにする。また選ばれた者であることを強調し、優越感やナルシシズムを与える。

〈かくされる重要事項〉

 こうして勧誘された人は、ビデオセンターに通うようになります。そこで彼らは、統一協会の宗教的教義をそれと知らず、「教養としてのキリスト教」という理解で学習してゆきます。この段階ですでに教義の基本的なところを学習するのですが、受け入れられにくいからでしょうか、重要な点がいくつか伝えられません。それは、まず第一に、何の目的で勉強させるのか、第二に、その団体名や文鮮明について、第三に、その活動の中には法律にも違反する反社会性の高い行動が含まれているということなどです。

《第一段階‥記憶》
 以上のような状況において、被伝道者は、一三巻のビデオを見ていきます。このとき、何が起こっているかというと、新しいビリーフが形成されつつあります。あるいは、すでにいくつかのビリーフは変化します。しかし、この段階では、記憶させることがもっとも重要なことになります。それらが、これまでの当人のビリーフに反することであっても、「変なこと言ってるな」と思ってもいいわけです。とにかく記憶させることが重要なのです。先ほども言いましたが、このような個人が正しいと認めないビリーフをディス・ビリーフと呼びます。〈第三図〉では、統一協会の教義がディス・ビリーフとして入った状態を示しました。
 つまり、比喩的にいいますと、「あなたのお持ちでない家具や日用品にこんな趣味のいいものがありますよ」、とコマーシャルしているような感じです。人によっては、この段階ですでに買ってしまう人もあるのですが、まだこの段階では大して、今までの部屋の雰囲気とミスマッチでないものだけです。たとえば、理想というか夢の家庭、社会のビジョンなどです。
 この新しいビリーフあるいは反ビリーフを形成させるためには以下のようなテクニックが用いられます。
 (1) 個人的リアリティ‥嫉妬などの感情、現在社会や家庭などの未解決な問題を呈示することによって、個人の経験や論理に整合性を与える。また特定の数字を用いた論理で代表性ヒューリスティクスを生起させる。
 (2) 社会的リアリティ‥聖書、科学、キリスト、著名人などの権威性を利用し、「霊の親」などのメンバーの支持といった合意性を呈示する。ビデオの講師や状況を学校や予備校の「熱血教師」と学校のイメージを提供して信憑性を高める。また疑念を確認する他者が発見できない設定で見せられるため、疑問のはらす社会的リアりティが利用きない。
 (3) セッティング‥ビデオなどの情報は一方的でストップすることができないので、記憶する以外なく、疑問をもち、理解しようとすればするほど内容を記憶する。また、講師の様子は最後まで変わらないので、ディストラクションが生じにくく、単独ブースでは注意が集中しやすいので記憶されやすい。たとえ、再生記憶がされなくとも再認レベルには達する。
 (4) 新奇性と反復効果‥新奇な概念や内容に関しては記憶に残り易い。また同じ内容を何度も反復して、それを理解の前提において次の内容を講義し、全体としてのつながりを与えようとする。記憶を高めると同時に、、ビリーフの構造化(スキーマ化)を起こさせる、これがビリーフを強化させる。
 (5) ツァイガルニック効果‥「今はわからなくても勉強していけはわかる」といった形で疑問を保留にし、続きを見る事に期待をもたせたり、奥が深くむずかしい理論であることを強調して記憶を高める。矛盾を解決させたいという認知的不協和によって動機づけを高める。反論する資料が、反対牧師など極めて特定の人々しか知らないし、自分の今教えられている内容が「統一協会」の教義であることも知らない人にとって、疑問を解くにはさらに続けて聞いて、自己の判断に頼るしかない状態にある。また、判断はいつでも自由にできるという思いがある。
 (6) 社会的交換‥人は一般にコストに似合う報酬を得ようとする。代価を支払うことによって、「もとをとろう」とする動機が高まる。つまり、高い代価を支払うほど、ビデオの内容を知ろうとする動機が高まる。

《第二段階‥価値付与》
次には、新しいこれらのビリーフが、本当に役立つものにしてゆきます。つまり、〈第四図〉では、中心部の目に付くところに置こうとするようなものです。それには、「2days」「4days」などの修練会やそれと前後しながら行われる霊の親やビデオ・センターのトーカーなどが役割を担って、教えが価値の高いのもであるかのように全力投球してきます。修練会では、配布資料にあるようなテクニックを用い、感情を揺さぶり、生理的な興奮をつくり、「感動」させて被暗示性を高めようとします。
 (1) 環境的コントロール‥選択的に注意を集中させるように、光、音、パフォーマンスで催眠的効果の雰囲気をつくる。しかも、社会から離れた環境を用い講義途中の質問を禁じ、自由活動、私語禁止する(プルーラリスティック・イグノランス効果)。
 (2) 伝達者‥権威づけされた講師の情熱と自信をもって話しをする。
 (3) サポート‥面接などをおこなって、班長が参加者の状態を常にチェックする。
 (4) 生理的剥奪‥ハード・スケジスール、運動、重なる講義で疲労状態をつくる。
 (5) 対人魅力‥温かくて優しい気持ちで接してくれる。
 (6) 暗示的メッセージ‥「眠くなる」「帰るときは別世界にみえる」など。
 (7) ランチョンテクニック‥「夕食和道会」によって安心感を与える。
 (8) コミットメント‥決意表明させる。
 (9) 社会的リアリティ‥スタッフから「証し」として社会的証明がおこなわれる。
 これらのテクニックには、ヒトラー、ジョーンズ、マンソンといったカリスマが用いたのと同様の群衆心理学を応用して、被暗示性を高める工夫をしているように思われます。人間には強い感情を表出させようという衝動があります。ディスコやお祭で踊ったり、映画や音楽で感動したり、カラオケで歌ったり、今年のタイガース・ファンのようにスポーツ観戦で騒いだりすることからもわかる話だと思います。こうした衝動を人為的に作り出すには、集合状況は、都合がよいのです。今あげた例がすべてそれを証明しています。これは人間の情緒が、個人の内的な生理的覚醒だけでおこるのではなく、場の状況が重要な手がかりになっていることを示します。これを情動の二要因理論といいます。
 このようにして、修練会では、いかに人間が神に愛されているか、そしてそれを裏切ってきた人間の罪、それをいかにしてあがなって幸せになるかといった主旨を訴えて、個人のこれまでのビリーフを否定し、因果法則にかかわるビリーフなどの機能化をはかり、「文鮮明」印のビリーフがいかに価値があるかを訴えます。つまり、これまでの日用品が役に立たないことを訴え、同時に、これまでに宣伝してきた新しい日用品の使い方を教え、いかに役立つか、また美しいものであるかを訴えて、買ってもらおうとするのです。それも全部をです。

《第三段階‥転換》
 そして、結局、全部、買うことになります。「文鮮明」という絶対的権威であるコーディネーターも含めてです。〈第五図〉では、文印のスキーマが大きくなり、これまでのスキーマが小さくなって分解します。そして、これまでのビリーフを全部、どこかの物置の奥にでもしまって見えなくしてしまいます。なぜ、みんな買ってしまうようになるのかは、以下の形式にまとめられます。
 (1) 論理優先型説得‥原理の内容に魅力をもった場合に起こる。「三大祝福」、「勝共」などの理想論に魅力を覚えたり、人間の堕落性と復帰という観点からとらえた現在社会の問題点、その因果律を信じて特有の歴史観、世界観をもち、その解決として再臨メシアを信じるしかないと認知する、といった内容にリアリティがあると受けとめた場合。
 (2) 情緒優先型説得‥再臨メシアに魅力をもった場合に起こる。自分を含めた人間がいかに価値ある存在であるかに共感し、自己評価を高める。しかし、またすべて人間は嫉妬や妬みをもつ罪人であり、サターン化していると説き、それを再臨のメシアが、迫害を受けながらも極限的努力で救おうとしていると感動を誘う。従って、人はその愛に答えなければ自分のみならず家族を救えないと同情を訴える。また、それが今しかないといった切迫感を与え、希少性ルールを高める。その際、ブルーラリスティック・イグノランスや情動二要因的状況を提供することによって、感動や罪悪感の感情を高める。
 (3) 集団魅力優先型説得‥統一協会という集団に魅力を感じたときに生じる。集団の課題や目標が高く、明瞭であることに対する魅力、霊の親や講師などの伝道者への対人魅力、神に選ばれた特別の使命をもった集団であるということへの威信によつて、協会という集団に魅力を惑じている場合に起こる。また、現在の所属している家族などの集団に魅力が低いときに特に影響する。
 (4) 行動優先型説得‥賛美、嘆願、熱意など伝道者に対する対人関係、睡眠の剥奪など生理的圧迫や催眠的状態の中に受け入れてしまう。また「実践」の重要性を説き、否定の判断を先に保留させる。そして最初はリップ・サービスのつもりであってもコミットメントを徐々に高めさせられてしまい、認知的不協和理論の原理によつて段階的に受け入れさせる。それまでの自分の価値観が、繰り返し与えられる「強制」ではない「勧告」の強い刺激にあって、生理的な混乱状況(超極限的制止)に陥り、どうでもよくなった感じで新しい価値観を受け入れる。

《第四段階‥維持・強化》
 これには、(一)認知構造強化、(二)情報強化テクニック、(三)行動強化テクニック、(四)生理的強化テクニック、(五)集団強化テクニックの五つに大きくはまとめられます。その中でも認知構造強化がもっとも、本質的なところであり、他のテクニックはそれを補強するテクニックといえます。〈第六図〉のように、それまでのスキーマはどんどん角に追いやられて見えない状態になっていきます。
(一) 認知構造強化テクニック
 (1) ゲイン・ロス効果‥入信前のマイナスのイメージを集中的教化によって、プラスのイメージに変えることは、個人に「理解したから」という認知を与え、状況の力にコントロールされている自己に気がつかないで自発性意識を高める。
 (2) スキーマ化‥ひとたび形成されたビリーフは、後に誤確認しても、固執しようとする一般的傾向が見られる。しかも、日誌や面接でビリーフ間の関連性を高める教化を繰り返し行い、ビリーフのネットワーク構造ができあがると、ある持定のビリーフの誤確認が起こってももはや構造化されたスキーマと発達したビリーフは変化しにくい。個人は、その誤確認事態を概念の解釈を歪曲することによって、感覚的に解決したり、自己の信仰の浅さによって起こることと解釈して、誤確認事態を収拾します。
 (3) プライミング‥繰り返し同じ講義をしたり、日誌を書かせるなどによってスキーマヘの接近可能性を高めて、代表性ならびに利用可能性ヒューリスティクスや錯誤相関などを起こさせやすくする。それによつて身辺でおきる現象は、神やサタンといった心霊現象ととらえさせ、個人的リアリティを高める。また基本的錯誤帰属によって自己に受けている状況的力を過少評価し、自己のコントロール感を過大評価する傾向を与える。さらに、広範な現象をほとんどいくつかのステレオタイピックな因果法則で説明する。これは、個人的リアリティを高めることになる。
(二) 情報強化テクニック
 (4) 情報の選択的接触‥ホームでの生活、報告・連絡・相談といった形態で情報を中央管理する。アベル(上司)への絶対服従を徹底させ、「横的」といった同僚との個人的秘話を禁止し、情報を管理する。また、個人の状態や身辺で起こっている事態へ説明するに有効な一面的な情報を、ときには社会的リアリティとともに提供する。またさらに自発的因果思考が起こる状況において、失敗は外(サタン)、成功は内(メンバー)と捉えさせたり、また、反対派の情報を一部あるいは歪曲して提供して接種効果を与える。
 (5) リスク・コミュニケーション‥恐怖感、切迫感、無力感を与えることによって、情緒的な混乱状況を与え、社会的リアリティを求めさせ、唯一の救いてある教祖への依存心と忠誠心を高める。また、切迫感を背後にして、今しか機会のないことを強調し、疑問や躊躇を将来にあるいは死後まで延期させる。
(三) 行動強化テクニック
 (6) 自己知覚効果‥役割演技のように、集団の内部の役割を一生懸命演じていくうちに、環境がフィットしてきて、自己の態度が変化する。また「日誌」「祈祷」「伝道」など信仰生活を実践することによって理解が高められる。しかも何かの行動の意思決定の際、リアクタンスを起こさせないように常に自己決定感を与えるように巧みに指示を出し、あたかも自由な選択肢があるかのように配慮される。
 (7) 認知的不協和‥「エジプト焼き」、「イサク献祭」、「告白」といった過去との決別をおこない、決定後の不協和を回避させようとする。また、[伝道」、「珍味売り」、「霊感商法」などの経済活動といった厳しい入会儀式を与えて不十分な正当化による不協和事態をつくる。さらにまた、人は「仲間」の面前での自己の行動に一貫性を保とうとする傾向があり、不協和を回避し、自己呈示動機が自己のイメージを守り、「裏切れない」という心理を形成する。  (8) ルーティン化‥個人的な自由時間をほとんど与えず、日常の生活がパターン化され、スケジュール化されているために、深く考えることなくオートマティックに対処し、未知な問題に遭遇しにくくする。また、いつも上司に相談し、指示を与えられることが多いし、いつも同じスキーマを熟達させていくことになる。
(四) 生理的強化テクニック
 (9) オペラント条件づけ‥課題の達成に対して賞賛や褒賞を与え、失敗や不信、疑問に対してオカルト的恐怖や罰を与えたりする。また、「祝福」「地上天国」を将来的な強化子として提示する。さらには、叱貴のあとは別の女性などによるフォローをするといった「マットとジェフの方法」の応用。
 (10)生理的剥奪‥ゆっくりと考える暇を与えない過密スケジユール。また、長時間労働、体操、断食や激しい祈祷などによって体力の疲労管理をおこなう。切迫惑や高いノルマを与えてストレスフルな緊張状態を維持させる。また、恋愛、娯楽などの禁止によって、感情の表出を教祖や上司にのみ向けるようにする。
(五) 集団強化テクニック
 (11)集団凝集性‥集団やそのメンバーの目標についての威信を高め、迫害感をマゾヒスティックなまでにあたえ、共同体としての結束を堅める。厳しいながらも、メンバー間で助け合う中で「あたたかさ」「思いやり」「純粋な善人」といった対人魅力や「weフィーリング」を感じる集団の雰囲気が形成され、集団魅力が高められる。また、アダム・エバ(異性問題)、カイン・アベル(不信仰と反抗)、万物主管(自己管理)などの問題があり、愛の減少感(嫉妬や羨み)、公的に(自己中心性を捨てる)などの集団特有の用語と規範があり、徹底して守らせることによって集団内部のトラブルを防ぎ、斉一性を保とうとする。またさらに、地位(権威)とサービス(献身)の社会的交換関係(返報性)にあり、「為に生きる」とか「お父様の心情」「慰め」といった愛という資源を媒介させる。このように当該集団に格別の魅力を感じているものや集団のメンバーである以外に所属するところのない者にとって、規範を遵守せざるを得ない。
 (12)自己カテゴリー化‥自分たちだけは、特別の使命をもった選ばれた人であると考え、格別のことを知った集団とらえ、外集団を単純にすべて悪とみなし(サタン分別)、利己心を捨てて、集団のメンバーであることに徹するように常に要求される(基準を高める)。それが個人のアイデンティティの脱個人化を引き起こし、生産性の高い集団となる。また外集団との区別が先鋭になるほど外集団を社会的比較のための準拠集団としては成立しなくなる。さらには集団内バイアスが作用し、当該集団に対する魅力が高まる。

〈「文」印のトータル化の完了〉

 つまり、これらの12のテクニックは、ビリーフを構造化してスキーマとよばれる構造化された知識のまとまりを形成させ、またスキーマを構造化させてもっと強力なシステムを形成させるこどにすべて関わっていくことになると思われます。ビリーフは構造化することによって機能的になり、機能的になるほど変化しにくくなります。つまり、〈第六図〉でしめすとおり、生活するに当たって「原理」で解決できない問題はないようになるのです。比喩的に説明しますと、これは、ちょうど家具や道具が生活にぴつたりとはまるようになり、使いやすくなるのと似ています。いわば、買わせた家具や日用品のアフター・ケアをして、いかに使うのか、い かに配置しするのか、さらには組み合わせた使い方を徹底的に指導するようなものです。こうしてトータル化した家具や日用品は、一部取り替えたのではつりあいがとれず、結局、取り替えるにはまた全部でなければハランスがとれなくなるのです。これは大変なコストです。そしてこの、コーディネートといいますか、「文」印のトータル化が終わるのです。この間、個入差がありますが、約二ヵ月から半年でほぼトータル・コーディネートは完成し、約一年もあれば、揺るぎないものに、すなわち、自発的にこのコーディネーションを好むようごなると思われます。
 統一協会の信者たちは、いつもこう言います。「このすばらしさは、あなたも勉強したらわかります。」しかし、その勉強がこのような特殊な仕方でなければならないとしたら、通常のときのように、信頼している人の意見を聞いたり、一緒に勉強する仲間と疑問を確かめあったりといった形ではいけないとしたら、その「すぱらしさ」や「真実」は、心理学的には、個人の意思や好みではなく、個人に与えられた状況に依存した行動や判断であるとみなすことができます。
 「青年サークル」のような統一協会とは別の団体名を用いるとき、本人もその人の周囲の人も、仮にその宗教についての予備知識があっても、その知識を判断に用いることができません。また、仮にその団体名に気がついても、その宗教団体の教義を詳しく知る人を見いだす事はとても難しいと思われます。原理講論は、全部信じた後でしか渡されませんから、反論しようと思って読む事もできないわけです。だから、結局、彼らの言うとおり、「あなたは勉強していないから分からないんだよ。」というように言われて、返す言葉がなくなります。親が、いくら一生懸命「馬鹿なことを言うな」と叱ってみても「どっちが馬鹿だ、勉強もしてないくせに」と逆に言われてしまうわけですね。親の中には、叱ったり、なぐったりすれば、考え直すと思いがちな人がいますが、小さい子供ならともかく、絶対にそんな対応で解決するはずがありません。われわれ信じない者にとつては奇妙に映る状況であつても、当の本人は、考え、悩み、正しいと信じているのですから、その点を考えてあげねばならないと思います。
 現在のように研究の中途の段階では、専門的な立場からの結論は出せませんが、これまで得た資料から考えますと、仮説としては、このようにいえると思います。以上で発表を終わらせていただきます。ありがとうございました。

 聞き慣れない専門用語をあちこちに用いましたことをお詫びします。興味のある方は、小集団研究辞典(人間の科学社)、心理学辞典(誠信書房)、影響力の武器(誠信書房)、対人心理学の最前線の第一二章(サイエンス社)などをご覧になられるとよろしいかと思います。


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