ライフスペース事件判決文

※支援する会以外の原告に関する記述は省略しました。

平成一二年三月二四日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
平成一〇年(ワ)第二九九二二号、平成一一年(ワ)一一四三号謝罪広告請求事件
口頭弁論終結日 平成一一年一二月二四日
         判    決
    大阪府吹田市江の木町一七番八号
          原           告 有限会社ライフスペース
          右 代 表 者 代 表 取 締 役 中 屋 敷  妙  子
    東京都新宿区高田馬場二丁目五番二三第一桂城ビル九〇七号
          原     告 シャクティパットグルファンデーション
          右   代   表   者 今  井  千 恵 子
          同             釣  部   人  裕
    (被告1番から16番を省略)
    岡山市下伊福西町一−五三岡山県民主会館二階国民救援会内
          被       告 「青春を返せ裁判」を支援する会
          右 代 表 者 代 表 嘉  松  喜  佐  夫
          同           高   山   正   治
          右訴訟 代理人 弁 護 士 伊   藤   和   夫
          同           大   神   周   一
          同           加   納   雄   二
          同           河   田   英   正
          同           郷   路   征   記
          同           湖   海   信   成
          同           平   田   広   志
          同           吉   井   正   明
          同           渡   辺       博
    (被告18番を省略)

         主    文

     一 原告らの請求をいずれも棄却する。
     二 訴訟費用は原告らの負担とする。

         事実及び理由

第一 原告の請求
   被告らは、原告らに対し、別紙謝罪広告を、読売新聞、朝日新聞、毎日
  新聞、産業経済新聞、日本経済新聞の全国版に三回掲載せよ。
第二 事案の概要
 一 本件は、被告らが原告らにつき、「カルト」、「破壊的カルト」との評
  価又はそれに類似する決め付けをする評価の論評を行って原告らの社会的
  評価を低下させたとして、原告らが被告らに対し、謝罪広告の掲載を求め
  た事案である。
 二 前提事実(争いがない事実及び証拠(甲第一号証の一、二、第二ないし
  第五号証)及び弁論の全趣旨により容易に認定できる事実)
  1 当事者について
   ((一)、(二)、2から9を省略)
  10 被告「青春を返せ裁判」を支援する会(以下「被告支援する会」とい
   う。)は、インターネット上のホームページに、「他のカルト被害の相
   談先」として、「ライフスペースを考える会」を上げており、そこに
   「ライフスペース(=自己啓発セミナー・高橋弘二代表)」と掲載した。
   (11を省略)
 三 争点
  1 被告らの発言や記事等が原告らの社会的評価を低下させるか。
  2 被告らの発言や記事等による名誉毀損について違法性が阻却され、又
   は故意、過失が否定されるか。
第三 争点に対する判断
 一 争点1(被告らの発言や記事等が原告らの社会的評価を低下させるか)
  について
  1 甲第六九号証及び弁論の全趣旨によれば、「カルト」とは、「崇拝。
   特に狂信的な崇拝。」「宗教的な崇拝。転じて、一部の集団による熱狂
   的な支持。」「なんらかの体系化された礼拝儀式、転じてある特定の人
   物や物事への礼賛、熱狂的な崇拝、さらにそういう熱狂者の集団」を意
   味することが認められる。
    そうすると、「カルト」という言葉それ自体は、崇拝や熱狂的、狂信
   的な崇拝及びそういう熱狂者の集団を意味するにすぎず、この言葉が直
   ちに他人の社会的評価を低下させるものであるとまでいうことはできな
   い。
    もっとも、「カルト」という言葉の前後の文脈、「カルト」という言
   葉を修飾している表現、「カルト」という言葉が用いられている文章全
   体の論調、趣旨等を総合的に考慮すると、「カルト」という言葉が他人
   の社会的評価を低下させる場合があり得るといえる。
  2
   ((一)から(六)を省略)
   (七)前記第二の二10によれば、被告支援する会は、インターネット上の
    ホームページに、「他のカルト被害の相談先」として、「ライフスペ
    ースを考える会」を挙げ、「ライフスペース(=自己啓発セミナー・
    高橋弘二代表)」と掲載されていることが認められる。
     とすると、被告支援する会は、カルト被害が発生している具体例と
    して原告会社を挙げていることが認められ、被告支援する会が「カル
    ト」という言葉を使用した前後の文脈、「カルト」という言葉を修飾
    している表現、「カルト」という言葉が用いられている文章全体の論
    調や趣旨等を総合的に考慮すると、被告支援する会の表現が原告会社
    の社会的評価を低下させるものであることは否定できない。
     なお、被告支援する会は、原告シャクティパットグルファンデーシ
    ョンについては、何ら言及していないから、被告支援する会の表現行
    為によって、原告シャクティパットグルファンデーションの社会的評
    価が低下したとは認められない。
   ((八)、3を省略)
 二 争点2(被告らの発言や記事等による名誉毀損について違法性が阻却さ
  れ、又は故意、過失が否定されるか)について
  1 原告らは、被告らが原告らについて、「カルト」、「破壊的カルト」
   との評価又はそれに類する決め付けをする評価の論評を行なったために、
   原告らの社会的評価が低下したと主張する。
    前記一1によれば、「カルト」という言葉は、かなり多義的であって、
   その前後の文脈、修飾の表現、文章全体の論調や趣旨等を総合的に考慮
   すれば、他人の社会的評価を低下させる場合があり得る表現であること
   が認められる。
    そして、他者について「カルト」と言う評価を行ったり、それに類似
   する決め付けをすることにより、他人の社会的評価を低下させた場合に
   も、前記認定の「カルト」と言う言葉の意味と対比すると、その他者が
   真実「カルト」であるかどうかは、証拠等をもって決することができる
   事柄には属さないと考えられるから、意見ないし論評の表明による名誉
   毀損の成否を問題とすべきである。
    ところで、ある事実を基礎とする意見ないし論評の表明による名誉毀
   損にあっては、その行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その
   目的が専ら公益を図ることにあった場合に、右の意見ないし論評の前提
   としている事実が重要な部分について真実であることの証明があったと
   きには、人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱したもの
   でない限り、右行為は違法性を欠くものというべきである(最高裁判所
   昭和六二年四月二四日第二小法廷判決・民集四一巻三号四九〇頁、最高
   裁判所平成元年一二月二一日第一小法廷判決・民集四三巻一二号ニ二五
   二頁参照)。そして、仮に右意見ないし論評の前提としている事実が真
   実であることの証明がないときにも、事実を摘示しての名誉毀損におけ
   る場合と対比すると、行為者において右事実を真実と信じるにつき相当
   の理由があれば、その故意又は過失は否定されると解するのが相当であ
   る(最高裁判所平成九年九月九日第三小法廷判決・民集五一巻八号三八
   ○四頁参照)。
    そこで、以下、被告らの発言や記事等のうち、前記一において、原告
   の社会的評価を低下させると認められたもの(以下特に「本件被告らの
   発言等」という。)について、違法性が阻却され、又は故意、過失が否
   定されるか否かを検討する。
  2 公共性及び公益性について
    乙A第一号証、乙C第三、第四号証、乙E第五、第六号証、乙F第一
   ないし第三号証、乙G第二号証、乙J第一号証及び弁論の全趣旨によれ
   ば、小林靖弘(以下「靖弘」という。)は、平成七年二月一二日から同
   月一八日までの日程で、三重県のヤマハリゾート合歓の郷(以下「合歓
   の郷」という。)において原告会社が開催した「BPS VISION 
   −セミナー」(以下「本件セミナー」という。)に参加したところ、本
   件セミナーの一環として行われた熱湯の中に膝下まで一五分間二回、全
   身二〇分間の合計五〇分間湯に浸かるという入浴方法(以下「風呂行」
   という。)の修行をしていた最中に突然体調の異常を訴えて脱衣場にお
   いて倒れ、その後三重県立志摩病院において治療を受けたものの、重篤
   な熱中症及びこれに伴う横紋筋融解症によってDIC(播種性血管内凝
   固症)、急性腎不全をきたし、消化管出血、呼吸器出血により同月一五
   日死亡したため、靖弘の両親が、原告会社らを相手取つて京都地方裁判
   所に損害賠償請求訴訟(以下「風呂行裁判」という。)を提起したこと、
   平成九年一月八日付の毎日新聞に、原告会社が参加料最高五〇〇万円の
   自己啓発セミナーを開催し、その代表である高橋弘二は自らグルと称し、
   参加者の頭を手で叩いて気を通すとされるシャクティパットで病気の治
   療をしていること、原告会社のセミナーにおいて湯船に長時間つかる風
   呂行という修行の最中に参加者の一人が熱中症になって死亡し遺族が原
   告会社などを相手に損害賠償請求訴訟を提起していること等を内容とす
   る記事が掲載されたこと、同年一月二二日号の雑誌「フォーカス」にお
   いて、原告に関して、「オウム、統一協会を真似る怪しい集団」という
   記事が掲載されたこと、原告会社のセミナーを受講している者の家族や
   元受講生らが「らイフスペースを考える会」を発足させて、原告会社の
   影響を調査したり、他の家族の相談に乗ったり、風呂行裁判を支援して
   いることが認められる。
    そうすると、原告会社は、その主催するセミナーにおいて受講生が死 
   亡するという事件を発生させ、そのことをめぐって遺族から原告会社に
   対して損害賠償請求の訴えが提起されており、これらの事実及び原告会
   社が最高五〇〇万円にも達する自己啓発セミナーを開催していたという
   事実が新聞や雑誌に掲載されており、さらに原告会社のセミナーの受講
   生の家族や元受講生らが「ライフスペースを考える会」という団体まで
   発足させていたことが明らかであるから、本件被告らの発言等があった
   当時、原告会社自身や原告会社の主催するセミナーについては、社会の
   注目を集めており、一般人の関心事たり得る事項であつたということが
   できる。また、本件被告らの発言等は、原告会社や原告会社の主催する
   セミナーに対して、批判を加えたり、その問題点を指摘したりするもの
   であるといえる。
    したがって、本件被告らの発言等は、公共の利害に関するものであり、
   専ら公益を図る目的であったことを肯定することができる。
  3 真実性及び誤信相当性について
   (一)乙A第一号証、乙C第三、第四号証、乙D第一号証、乙E第五、第
    六号証、乙F第一ないし第三号証、乙G第二号証、乙J第一号証及び
    弁論の全趣旨と前記2の認定事実によれば、以下の事実が認められる。
    (1) 靖弘が、風呂行の最中に身体に異常をきたして緊急入院し、治療
     を受けたものの、死亡したため、靖弘の両親は、原告会社らを被告
     として京都地方裁判所に損害賠償請求の訴えを提起した。
    (2) 靖弘の両親が右風呂行訴訟の訴えを提起したのは、高橋弘ニが事
     情を聞きたいという両親の申し出を無視して瞑想中だからという理
     由で会おうとせず、靖弘がセミナー中に死亡したことを他のセミナ
     ー参加者に知らせず、当初は風呂行の最中に死亡したと説明してい
     たにもかかわらず、次第に靖弘が勝手に風呂に入ったというような
     責任回避的な態度をみせるようになったためであり、靖弘の死亡に
     関して、原告会社に一定の責任が認められる可能性が相当に高かっ
     たところ、現にその後の平成一〇年一一月二七日、京都地方裁判所
     第六民事部は、原告会社の安全配慮義務違反を認めて、原告会社に
     対し、靖弘の両親に損害賠償金の支払を命じる判決を言い渡し、さ
     らにその後の平成一一年七月二三日、大阪高等裁判所第七民事部は、
     原告会社の控訴を棄却した。
    (3) 原告会社の主催するセミナーの中には、受講金額が五〇〇万円と
     いう高額のものが存在し、セミナーを受けても願い事が叶わない場
     合には、精神の力が弱いとされてさらにセミナーの受講が勧誘され、
     家族関係が悪くなった場合には、人間関係がよくなるというセミナ
     ーヘの受講が勧誘されるなど、原告会社は、セミナーの種類を増や
     して、次々とセミナーに勧誘していた。
    (4) 原告会社は、高橋弘二が病気を治すというふれこみでセミナーを
     行っていたが、その方法たるや、高橋弘二が参加者と面談して病気
     を言い当て、自ら参加者の額を手で叩くシャクティパットと称する
     行為をして治すというものであった。そして、本件セミナーにおい
     ても、その目的は「からだに気を通す」ことであるとされ、その具
     体的内容は、瞑想、ブリージング(骨盤の解放を目的とする呼吸法
     とされる行為)、インタビュー(高橋弘二が参加生に対して参加生
     の過去生やビジョンについて個別的に対話することと称する行為)、
     右のシャクティパット、風呂行等であった。
    (5) 原告会社のセミナーに参加した参加者の中には、高橋弘ニにあな
     たは癌ですと言われたため、高額の料金を払ってシャクティパツト
     を受けた者が存在し、その他にも、原告会社のセミナーを受けるた
     めに家族や友人に借金を申し込んだ者や、原告会杜のセミナーに参
     加したことを契機として家族、職場や地域社会等との関係を断ち切
     り、専ら高橋弘二のメッセージと称する指示に従う者が存在した。
    (6) 原告会社及び高橋弘二は、セミナーで集めた金を世界中の腸の不
     活性な子供のために医療機器を購入すると言明していたにもかかわ
     らず、販売会社は、実際に購入されたのは、八○万円であつたと述
     べている。
    (7) 原告会社のセミナーに参加している者の家族や元参加者が「ライ
     フスペースを考える会」を発足させて、同様の悩みを持つ者の相談
     に乗つたり、解決策を話し合ったりしている。
    (8) 原告会社及び高橋弘ニは、人の生まれてきた目的、生まれつきの
     役割を「ヴィジョン」と呼び、高橋弘二には他人の「ヴィジョン」
     を見抜く力があると宣伝してセミナーに勧誘し、さらに、高橋弘二
     はシャクティパットグルと名乗って、セミナー参加者の結婚相手ま
     で指名してきた。
    (9) 原告会社のセミナーに参加している者の子供たちは、就学年齢に
     達しているにもかかわらず、学校に通うことなくホテル等で共同生
     活をしていた。
    (10)原告会社及び高橋弘二は、高橋弘二がサイババの後継者であり、
     国連本部の最高顧問であるとし、高橋弘ニの著書は国連の推薦を受
     けていると称しているが、サイババの日本事務所が「サイババの後
     継者を名乗ることを辞めて欲しい。」と申し入れたにもかかわらず、
     原告会社と高橋弘二はそれを無視し、さらに、国連広報部からはそ
     のような事実はない旨の回答がなされている。
   ((二)から(一二)を省略)
   (一三)乙K第一号証によれば、被告支援する会は、原告会社について、平
    成七年の新聞報道などで受講者に対し、体に異常をきたすような「風
    呂行」などを行い死亡事故もあったこと、受講者は高額の参加費を支
    払ってセミナーに参加していること、受講者が倒れてもスタッフが
    「大丈夫だから」と言って救急車を帰らせていたこと、原告会社は風
    呂行の企画自体を否定し、「過去世」や「カルマ」を口にし、前記
    「シャクティパット」や「体に気を通す」などという非科学的なプロ
    グラムを導入していたことなど一般常識を超えるような熱狂的な信念
    を持った集団であることがうかがわれたこと、平成八年一〇月二九日
    付赤旗などで原告会社に取り込まれた受講生の家族、元受講生らが
    「ライフスペースを考える会」を結成していることを知ったことが認
    められる。
     そして、前記(一)の事実に照らして考えると、前期第二の二10の被告
    支援する会の表現行為については、その意見ないし論評の前提として
    いる事実が重要な部分について真実であることの証明があったという
    ことができ、人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱し
    たものとは認められないから、違法性を欠くものといわなければなら
    ない。
    ((一四)を省略)
  4 以上によれば、本件被告らの発言等は、その意見ないし論評の前提と
   している事実が重要な部分について真実であることの証明があったとい
   うことができ、違法性が阻却されるだけでなく、少なくとも、事実を真
   実と信じるにつき担当の理由があるといえるから、故意又は過失が否定
   されるというべきである。
 三 したがって、原告らの請求は理由がないので、いずれも棄却することと
  し(なお、原告シャクティパットグルファンデーションの本件訴えについ
  ては、当事者能力等に関し、いささかの疑念が残るが、事案の性質に鑑み
  れば、原告側、被告側の双方の利益のため、訴訟判決をすべきか否かの判
  断を省略し、直ちに本案について判断するのが相当と考えられる。)、訴
  訟費用の負担につき、民訴法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

      東京地方裁判所
         裁判長裁判官  成 田 喜 達
            裁判官  高 宮 健 二
            裁判官  阿 閉 正 則

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