意見陳述(1998.10.14)

平成五年(ワ)第六四二号   原告        B        子 
               被告       世界基督教統一神霊協会
  平成一〇年一〇月 六日
              原告代理人     嘉  松 喜 佐 夫 

              同         河  田  英  正 

              同         近  藤  幸  夫 

              同         清  水  善  朗 

              同         山  本  勝  敏 

  岡山地方裁判所     御  中

           口頭弁論更新にあたっての意見陳述
第一、 本件裁判で求めていること
  一、 原告は、被告統一協会の勧誘・教化及びその過程における原告への違法
    行為の指示等が原告の自由な意思決定を阻害し、献金・物品購入などの財
    産的損害と反社会的活動に従事することになって貴重な人生の一時期を過
    ごさざるをえなかった多大な精神的損害を被ったとして、損害賠償請求を
    求めている。私たちはこの裁判を「青春を返せ裁判」と呼んできた。
  二、 右の事実を明らかにするために
1、 被告統一協会の活動実態
2、 被告統一協会の組織及びその指揮命令関係
3、 被告統一協会の一体的なマインドコントロ−ルシステムとその実情
4、 被告統一協会の及ぼしている被害の実態を明らかにし、個別的には
    原告に対する勧誘
    入会を決意するに至った経過
    入会後の活動と被告統一協会による教化の経過
    献金に至る経過
    脱会を決意するに至った経過
  等々を主張し、これらを明らかにしてきた。
  三、 原告は、いうまでもなく被告統一協会の教理そのものの是非を問うてい
    るのではない。もちろん、教理が原告の恐怖心を生じさせるためにどのよ
    うに影響しているかを検討する限りにおいて、教理の内容(当該宗教の教
    義・信仰の内容)に触れざるをえないが、その当否そのものの判断を求め
    ているわけではない。従って、本件が「宗教」に関連しているからといっ
    て何ら判断を避けることがあってはならないのである。また、被告統一協
    会の原告に対する働きかけの意味を明らかにするためには、被告統一協会
    の異常なる集金システムの全体的実態が明らかにならない限り、これらを
    立証することは難しく、個別被害とともに総論的にこれらの立証をしてき
    た。
第二、 全国的な被害の広まりと深刻化
  一、 はじめに
   1、 昭和六二年四月、岡山において霊感商法被害対策弁護団が結成された。
     この弁護団の目的は、当時被告統一協会が組織的に全国的に展開しその
     被害が多発していた壺や多宝塔を法外な金額で販売するといういわゆる
     霊感商法の被害を救済するというものであった。そのころ弁護団に被害
     相談にきた人は約七〇名でその被害額は一億五、〇〇〇万円を超えてい
     ました。全国的には昭和六二年から平成七年一二月までに弁護士及び消
     費者センターなどに相談があったものは一七、二八九件総被害額は六五
     〇億三一六九万円に及んでいる。
      被害救済の活動をすすめていくうちに多くの被害者の人の声を聞くこ
     とができると同時に統一協会側の販売員などととして加害者の立場にた
     っていた人々と接する機会が多くなっていった。統一協会にかつていた
     が、肉体的にも精神的にもボロボロになって脱会し、元の自分の生活を
     とり戻し、自らの人格の回復を求めるべく統一協会との財産的被害の回
     復などを求めて交渉するという相談であった。
   2、 この私達の目の前に現れる脱会した元統一協会員の人達はほんとうに
     素直であり、自らの人生を真剣に考えて生きてきた人達ばかりであった。
     そのような人達が自ら気づかないうちに統一協会の会員となり、やがて
     は疑念を抱かないで霊感商法の加害者と仕立てあげられていく事実はこ
     の被害の実態に真剣に耳を傾け、被告組織の現実をみつめなければ部外
     者にとっては理解しがたい現実である。脱会して統一協会に関する外部
     からの情報に触れた時、この人達は騙されていたことに気づき、不法な
     行為に関与してきたことに対して深い自責の念にさいなまされ、統一協
     会の責任を追及し、その違法性を明らかにしたいと考えるに至るのであ
     る。このような訴訟は全国で一五〇名を超える原告によってなされてい
     る現状にある。
  二、1、被告統一協会がその信者をして極めて巧妙且つ計画的で組織的な手段
     による物品販売、献金強要、借入名目の金員領得をさせている全国的な
     実態とその経緯、組織的背景を立証してきた。これらによって、被告統
     一協会がその教義や文鮮明の指示に基づいて「万物復帰」の実践として
     違法な資金獲得を組織的になしてきたものであり、その手口は、壺、多
     宝塔を因縁話などを媒介として不当に高額で売りつけるいいわゆる「霊
     感商法」として激しい社会的批判を浴びたものであった。さらに、裏と
     表の二重の会計構造を持ち、ウラ金つくりのために信者を働かせてきて
     いる実態がある。これらの実態を明らかにし、被告統一協会がその教義
     ・信仰の内容に関わらず、実在的な組織体として違法な資金集めなど反
     社会的な行動を繰り返してきている団体であることを証明するものであ
     る。これらの証拠として、甲第四二号証から甲第八八号証を提出するも
     のである。
    2、さらに、被告統一協会がその資金を安定的に捻出するために、組織的
     に株式会社ハッピーワールド及び「世界のしあわせ」各社その傘下の末
     端販売会社を組織し、韓国の統一協会企業である一信石材や一和製薬か
     ら壺や人参濃縮液等を輸入して信者に販売させてきた実態をより明らか
     にするために、甲第八九号証ないし甲第一一二号証を提出した。これら
     の事実は、被告統一協会のなかにおいて原告に対してなされた行為の「
     目的・方法・結果」において社会的相当性があったか否かを判断するう
     えで極めて重要な事実関係となる。この事実を明確に認定することが、
     原告に対する具体的働きかけの目的を明らかにし、その及ぼす結果を予
     測して評価できるものとなり、その手段の違法性を明確にするものとな
     る。
第三、 マインドコントロールと勧誘行為等の違法性について
  一、 原告は、被告統一協会の組織的な勧誘方法としてあえて正体とその目的
    を隠してビデオセンターに虚偽の事実を告げて勧誘し、その後の様々の教
    化活動を行って違法な霊感商法さえも遂行できる人格をつくりあげる目的
    を持って接近して、自己の自由な意思に基づいて社会生活を営む権利を侵
    害したうえに、詐欺・脅迫などの違法行為さえも地上天国をつくるためな
    どと合理化し、多額の献金を強いて、合同結婚という婚姻の自由さえ奪わ
    れる破壊された人格をつくりあげていく一連の総体としての行為の違法性
    を問うている。
     もちろん、個々の行為を個別に判断しても詐欺・脅迫・恐喝等の不法行
    為の該当することを否定するものではない。このことについては、原告本
    人尋問、各種マニュアルの存在(甲第三六号証ないし甲第四〇号証・甲第
    一一四号証等)、西崎・岩井証言等でも明らかになってきている。
  二、1、 原告は、このような破壊的な人格が形成され、一つの場面をとれば
     あたかも自己の自由意思で行動した結果であると表面上みられることで
     あってもそこには「マインドコントロール」の結果そのように認識され
     ているに過ぎない場合があることを主張している。
   2、 原告は、このような心理状態を心理学的に説明する用語としてマイン
     ドコントロールという概念を使用した。そして、これらを心理学的に明
     らかにする文献を提出した(甲第一六号証、甲第一二六号証等)。特に
     甲第一六号証は、静岡県立大学社会心理学者西田公昭氏による被告統一
     協会を脱会した元信者二〇人に面接、二七二名からの質問紙調査に基づ
     いて考察されたものであった。原告のマインドコントロールの仕組みに
     ついての主張は、事実を原告本人から聴取し、右研究結果に基づきなが
     ら整理してみたものである。
   3、 原告は、既に主張においても整理されているとおり、「マインドコン
     トロール」が存在するからただちに違法であると主張しているのではな
     い。本件においては、当初から正体を明らかにし、各段階ごとに目的を
     示されたうえでの勧誘あるいは教化行為ががなされていれば、被告統一
     協会に所属することはなかったし、違法な経済活動に従事することはな
     く、多額な献金に応じることも、物品を購入することもなかったことを
     主張し、原告の自由な意思決定を阻害し、違法な活動に従事し、財産的
     にも精神的にも多大な損害を被ることになった結果を生じさせたマイン
     ドコントロールの存在を指摘しているのである。
      従って、右の原告の主張からも明らかなとおり、マインドコントロー
     ルの概念が多義的であるとして、マインドコントロールによる勧誘教化
     行為により宗教選択の権利を侵害されたということはできないなどとい
     う短絡的な判断は許されない。そして、マインドコントロールがどのよ
     うにして原告の意思決定に関わったか、原告の主張に対して裁判所はき
     ちんと判断すべきである。
   4、 マインドコントロールの研究者スティーブハッサンは「個人が自己自
     身の決定を行うときの人格的総合性を切り離そうとするシステム。その
     本質は、依存心と集団への順応を助長し、自律と個性を失わせることで
     ある。行動・意思・感情・情報をコントロールすることによって達成さ
     れる。」としている。「一定の行為を繰り返し積み重ねることにより、
     相手に一定の思想を植え付ける概念」というように単純に定義づけられ
     るものではない。
      マインドコントロールが多義的であるというのであれば、そして、そ
     の効果に疑問があればこれらの専門家の証拠調べは不可欠である。無視
     して通り過ぎることのできないものである。
第四、 宗教団体の違法行為と信教の自由
  一、 憲法において信教の自由が保障されている。しかし、信教の自由の保障
    は、宗教団体が何をしても免責されるというものではなく「正当な目的に
    基づいており、その方法、結果が社会通念に照らして相当と認められる限
    り、正当な宗教活動」として保護されるが、右を逸脱すれば不法行為を構
    成することになる。本件の場合、前述のとおり、被告統一協会の実態から
    みて、その目的・方法・結果の相当性がまず評価されなければならない。
  二、 原告は、本件裁判において「当該宗教の教義、信仰の内容の当否」の判
    断を求めているのではない。「教義を用いての心理的強制・詐欺的勧誘の
    あった」ことの違法性の判断を求めているのである。「裁判所は、その自
    由に介入すべきではなく、一切の審判権を有しないとともに、これらの事
    項にかかわる紛議については厳に中立を保ち」「立ち入って判断すべきも
    のではない」として判断を避けてはならない。つまり、たとえば万物復帰
    の原理の当否の判断を求めているのではなく、万物復帰の原理を説きなが
    ら、原告を恐怖に陥れて長時間説得して献金を決断させたことなどの違法
    性の判断を求めているのである。裁判所は判断を避けてはならない。
     このように、宗教活動上の教義それ自体は裁判所でその適否を判断すべ
    きではないとしても勧誘・教化の過程や宗教上の行為に関し、教義の内容
    がどのように用いられ、その結果がどうなったかという面における裁判所
    の判断認定は不可欠である。1この意味において宗教学者・心理学者の証
    人の採用は不可欠である。
第五、 献金の違法性に関する判例
    平成一〇年六月二二日付原告準備書面に記載したとおり、被告統一協会に
   関する献金の違法性については既に最高裁判例によっても認められていると
   ころである。東京地裁平成六年(ワ)第三一一九号(平成九年一〇月二四日
   判決)事件においては献金の違法性を認め返還を認めたものの慰謝料の請求
   を棄却していたが、その控訴審においては慰謝料の請求をも認容した(平成
   一〇年九月二二日東京高裁判決)。この点については、既に一般的判断基準
   は定着し、被告統一協会の組織的集金システムの一環としてなされているこ
   とは明白となっている。
第六、 今後の審理について
  一、 現在までの審理を通じて、被告統一協会が様々な被害を発生させ信者の
    自由な意思決定を阻害して異常な集金システム化している実態と、その組
    織実態・原告が被告統一協会に所属し脱会に至るまでの経過とそれによる
    損害については、ほぼ立証活動は終った。しかし、被告らの原告に対する
    働きかけがどのようにして原告の自由意思を奪っていったのか、この点に
    ついての立証は不十分である。原告は、これらを立証するためには被告統
    一協会が全国的に深刻な被害を及ぼしている活動実態を明確にするととも
    に、どのようにしてごく真面目な人が反社会的行動さえも躊躇なく遂行で
    きるようになるのか、その過程の実態と仕組みを明らかにする必要がある。
    その意味において心理学者・宗教学者らの専門家の証言を必要としている。
    裁判所において、「マインドコントロール」について理解ができていない
    のであればなおさらである。そして、これらの本質を理解するためには、
    統一協会の全体的実態と被害実態をさらに立証する必要がある。
  二、 右に述べたとおり、心理学者、宗教学者の証人尋問は(本件原告の請求
    について消極的であろうとしている限り)不可欠なものである。マインド
    コントロールの概念を裁判所が勝手につくりあげ、その効果について独断
    的判断をすることは許されないからである。従って、少なくとも社会心理
    学者としてマインドコントロールの先駆的研究者として第一人者である西
    田証人、宗教学者としてカルト問題にも深く関わってきた浅見証人二人の
    尋問の採用を求めるものである。


岡山地裁が証人申請を却下に戻る。
最近の=NEWS=に戻る。
「青春を返せ裁判」のホームページに戻る。