岡山地裁「青春を返せ裁判」の判決要旨

1998.6.5登録

 6月3日に岡山地裁(小沢一郎裁判長)が下した「青春を返せ裁判」(原告A男さん)に対する判決要旨は次のとおり。
平成元年(ワ)第七九八号 損害賠償事件
          原 告     A              男
                               外一名
          被 告     世 界 基 督 教 統 一 神 霊 協 会
                               外一名
               判 決 要 旨
一 事案の概要
  本件は、原告らが、被告法人の信者らによるいわゆるマインドコントロールな
 どの違法な勧誘、教化行為により、被告法人に入会させられ、貴重な青春を奪わ
 れ、違法な献金勧誘システムにより献金を強要されたり、違法な商品販売活動に
 従事させられるなどして、宗教選択の権利や人格権を侵害されたとして慰謝料等
 の損害賠償を求めた事案である。
二、争点
  本件における主たる争点は、被告法人とその信者組織との間に実質的な指揮監
 督関係があるか、被告法人の信者らが行った原告らに対する勧誘、教化行為がい
 わゆるマインドコントロールなどによる違法なものであったか、原告らが右勧誘、
 教化行為によりその自由な意思形成を不当に妨げられ、宗教選択の権利や人格権
 を侵害されたかどうかである。
三、理由の要旨
 1 被告法人とその信者組織との間に実質的な指揮監督関係があるか。
   被告法人の信者らによる一連の勧誘、教化行為は、被告法人の宗教活動ない
  しはそれと密接に関連する布教活動の一環として行われ、かつ、被告法人の教
  義、信仰の実践行為と認められる。そうすると、被告法人の信者が被告法人と
  別に組織を構成し、それら信者組織の意思決定に従って宗教活動又はこれに付
  随する布教活動を行う場合であっても、宗教法人とその信者組織とは、同じ目
  的のために存立し、宗教法人あっての信者組織であり、当該宗教法人の存立目
  的を達成するのに必要な限度と方法において、当該宗教法人が信者組織を規律
  することが当然予想されているものとみるべきであるから、被告法人において
  も信者組織に対する実質的な指揮監督関係があるものと認めるのが相当である。
 2 被告法人による原告A男に対する勧誘・教化行為はいわゆるマインドコント
  ロールなどによる違法なものか。
  (1) 宗教団体が当該宗教を布教するために非信者を勧誘、教化する行為、勧誘、
   教化された信者を各種宗教活動に従事させたり、当該信者から献金を勧誘す
   る行為は、それらが社会的に正当な目的に基づいており、その方法、結果が
   社会通念に照らして相当と認められる限り、正当な宗教活動の範囲内にある
   ものと認めるのが相当である。
  (2) 被告法人の会員である小野らは、昭和六二年九月、アンケートと称して寮
   の原告A男の部屋を訪れ、被告法人の教団名や文鮮明の名前はもとより、宗
   教の勧誘であることすら秘匿し、文化サークルと称してビデオセンターを訪
   れるよう勧誘した。これを契機として、原告A男はビデオセンターに通うよ
   うになったが、当初の期待に反したことから自らの意思で通うのを止め、そ
   の後も、小野に誘われて赴いた絵の展示会において、かつて英語教材の訪問
   販売で詐欺的商法にあったことを想起して、自分が騙されているのではない
   かと疑い、被告法人の関係者との接触を自ら断っていた。
    昭和六三年四月初めに至り、再び小野に誘われて占い師の講演会に行った
   際、占い師から「今が転換期です。」などと言われたことが契機となって、
   再度ビデオセンターに通い始めたが、占い師と称する被告法人の信者から、
   あなたが今なんとかしなければひどいことになる、先祖の因縁によって不幸
   が起こるなどと言われ、次第に神や霊界の存在を受け入れるようになった。
   この時点では、それ以上に被告法人への入会や献金等の勧誘や指示は受けな
   かったが、原告A男は、もっとビデオセンターに通って、学ばなければなら
   ないと思った。
    同年五月二六日、原告A男は、始(ママ)めて被告法人の教団名やメシアが文鮮明
   であることを明かされて、なんと素晴らしい組織なのかと感激し、自分だけ
   でもこの組織に協力したいと考えて、六〇万円を献金した。
    その後、原告A男は、スリーデイズ(修練会)に参加し、自分が素晴らし
   いところに来ている、今までビデオセンターでも分からなかったことがやっ
   と理解できたと納得し、終了段階では、本当に素晴らしい内容の話を聞いた、
   なぜ今まで知らなかったのだろうかと感じて、本当に嬉しく思い、この道が
   本当に正しいと思えるようになった。
    そして、原告A男は、その後はビデオセンターについても疑問を持たず、
   新生トレーニング、実践トレーニングにそれぞれ自ら寸暇を惜しんで参加し、
   実践トレーニング中に他人を騙しているのではないかという規範の問題に直
   面しても、自らの判断でこれを正当化して考え、新生トレーニング中両親の
   反対を押し切ってまでトレーニング会場に舞い戻っている。
    原告A男は、職場の付き合い等からは徐々に遊離し、上司からも注意を受
   けていたことなどから、職場を捨てざるを得ないという気持ちになっていた
   が、献身直前に両親らの説得により、被告法人を脱会した。
  (3) 以上の事実によれば、被告法人のビデオセンター・クリエイト等の施設に
   おける諸活動は、被告法人の教義を布教するための勧誘、教化行為というべ
   きであり、原告A男に対する被告法人のビデオセンター等の施設における勧
   誘、教化の方法は、前記のとおりであって、原告A男は、最初に勧誘を受け
   てから棄教・脱会に至るまでに約一年五か月の期間を要しているが、その間、
   宗教法人の教義、信仰を受容する過程において、その各段階毎に自ら真摯に
   思い悩んだ末に、自発的に宗教的な意思決定をしているというほかはない。
    そうすると、被告法人の各種セミナー等における原告A男に対する勧誘、
   教化行為は、その方法、目的等を総合考慮すれば、いまだ社会的相当性を逸
   脱したものであるとまではいうことができない。
    また、原告A男主張のいわゆるマインドコントロールは、それ自体多義的
   な概念であるのみならず、これを一定の行為を繰り返し積み重ねることによ
   り相手に一定の思想を植え付けることをいうと捉えるとしても、前示の原告
   A男の被告法人の教義、信仰の受容経緯に照らせば、同原告に対し右主張の
   効果があったものとはにわかに認められず、宗教上の勧誘、教化行為のあり
   方として、社会的相当性を逸脱したものとまではいえない。
    そうすると、原告A男が、被告法人のいわゆるマインドコントロールによ
   る勧誘、教化行為により宗教選択の権利を侵害され、人格権を侵害されたと
   いうことはできない。
  (4) 被告法人は、当初「統一協会(世界基督教統一神霊協会)」という教団名
   や文鮮明の名前を伏せたまま原告A男を勧誘し、その後ある程度教義、信仰
   が受容されるまでの間はそれらを明かさず、また、研修中も両親等外部の者
   に被告法人の勧誘、教化行為の内容を漏らさないように原告A男に対し注意
   を与えているが、原告A男は、スリーデイズ直前の段階では被告法人の教団
   名や文鮮明の名前を開示され、その上で新生トレーニングや実践トレーニン
   グの段階へと進んでおり、この間、ビデオセンター・クリエイトに通うこと
   などについては特段の強制を加えられてはいないし、外部との接触について
   も、必ずしも完全に遮断されていたわけではなく、口頭で指示を与えられて
   いたのみである。また、本件前証拠によるも、原告A男の勧誘、教化にあた
   り、宗教上の言説以上に薬物や物理的、身体的な強制力が使用された事実を
   認めるに足りない。さらに、脱会にあたっても、宗教上の言説以上の阻止手
   段は講じられていない。
    そうすると、原告A男が、被告法人の勧誘、教化行為により自由な意思形
   成を不当に妨げられ、人格権を侵害されたものということはできない。
  (5) 信者が宗教団体に献金する行為は、宗教的行為として意味づけられるもの
   であって、原告A男は、被告法人の教義、信仰を受容する過程において、自
   ら被告法人に対する献金が有意義なものであると判断してこれを行ったもの
   と認められる。
    もっとも、原告A男がそのような判断をするについては、被告法人関係者
   の宗教上の言説による勧誘が大きな影響を与えていることは否定できず、そ
   の言説のなかには、吉凶禍福を説いたり先祖の因縁や霊界に触れるものも含
   まれているが、被告法人の原告A男に対する勧誘、教化行為は全体として違
   法なものとはいえず、一般に、宗教活動に伴う献金勧誘行為にあたって、多
   少なりとも吉凶禍福や先祖の因縁話・霊界の話等が説かれる場合が多く、そ
   のような言を用いて献金を求める行為一般を違法であると断じることは宗教
   に対する過度の干渉となるので許されないものと解すべきであり、本件のそ
   れが特に社会常識を逸脱したものとまではいえないのみならず、被告法人が
   その他社会通念に反する合理性を欠く手段を弄したものとは認めるに足りず、
   さらに、献金額等その態様についてみても、原告A男の年齢や収入等に比し
   て社会常識に反するものとまでは認められない。
    そうすると、被告法人が原告A男に対して献金をさせた行為は、その目的、
   方法、結果を総合すれば、いまだ社会的相当性を逸脱したものとまではいえ
   ない。
 3 原告C子について
   原告C子が被告法人に在籍したこと及び同原告に対する勧誘・教化行為(に)つい
  ては、同原告は何等立証をせず、本件全証拠によるもこれを認めるに足りない。
四 結論
  原告らの請求をいずれも棄却する。


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