平成元年(ワ)第七九八号                  原告       A         男                被告       世界基督教統一神霊協会                                外一名  平成九年七月一六日               原告代理人     嘉  松  喜 佐 夫               同         河  田  英  正               同         近  藤  幸  夫               同         清  水  善  朗               同         山  本  勝  敏   岡山地方裁判所     御 中           意 見 陳 述 書 一、はじめに 1、昭和六二年四月、岡山において霊感商法被害対策弁護団が結成された。こ  の弁護団の目的は、当時被告統一協会が組織的に全国的に展開しその被害が  多発していた壺や多宝塔を法外な金額で販売するといういわゆる霊感商法の  被害を救済するというものであった。そのころ弁護団に被害相談にきた人は  約七〇名でその被害額は一億五、〇〇〇万円を超えていました。全国的には  昭和六二年から平成七年一二月までに弁護士及び消費者センターなどに相談  があったものは一七、二八九件総被害額は六五〇億三一六九万円に及んでい  る。   被害救済の活動をすすめていくうちに多くの被害者の人の声を聞くことが  できると同時に統一協会側の販売員などとして加害者の立場にたっていた人  々と接する機会が多くなっていった。統一協会にかつていたが、肉体的にも  精神的にもボロボロになって脱会し、元の自分の生活をとり戻し、自らの人  格の回復を求めるべく統一協会との財産的被害の回復などを求めて交渉する  という相談であった。 2、この私達の目の前に現れる脱会した元統一協会員の人達はほんとうに素直  であり、自らの人生を真剣に考えて生きてきた人達ばかりであった。そのよ  うな人達が自ら気づかないうちに統一協会の会員となり、やがては疑念を抱  かないで霊感商法の加害者と仕立てあげられていく事実はこの被害の実態に  真剣に耳を傾け、被告組織の現実をみつめなければ部外者にとっては理解し  がたい現実である。脱会して統一協会に関する外部からの情報に触れた時、  この人達は騙されていたことに気づき、不法な行為に関与してきたことに対  して深い自責の念にさいなまされ、統一協会の責任を追及し、その違法性を  明らかにしたいと考えるに至るのである。このような訴訟は全国で一五〇名  を超える原告によって現在されている現状にある。 3、原告は、既に意見陳述において述べたとおり、被告らの不当な手口によっ  て統一協会員とならされ、違法行為に加担させられ、自らも財産的損害を被  った事実を主張している。これらの被害回復と被告らの不当性を明らかにし、  そのことによってこのような被害の発生を未然に防止する役割を果たしたい  と考えている。 4、原告は、本件訴訟提起時において、右に述べたとおり不当な手段によって  人格を変容させられることを「洗脳」という用語で表現し、その違法性を主  張した。しかし、その後心理学者らの研究の成果があり、本件の場合は「マ  インドコントロール」という用語で表現することが正しいことが明らかとな  った。右概念はオウム真理教事件によってもより明確に意識されるようにな  った。いわばエリートといわれた人々が何故に犯罪行為に手を染めることに  なったのか、そのメカニズムが注目されたのである。本件訴訟を通じて被告  らのマインドコントロールの実態を明らかにし、その手段方法結果を総合的  に評価すれば、右マインドコントロールは原告の宗教的人格権等を侵害し、  その結果として違法な行為についても文鮮明の指示であればどんなことでも  実行する人格的破壊をもたらす違法なものであることを明らかにするもので  ある。 二、 被告らの伝道のあり方について 1、被告らの「伝道」のあり方は宗教として許容されない違法なものである。  人生のあり方をまじめに考え自己をより高めようという意欲ある青年たちを  ひきこみ、ボロボロになるまで働くことを苦としない人格をつくり、ひたす  ら霊感商法商法を推進するロボットにして、肉体も精神も蝕んでいくもので  ある。 2、このように人格が破壊されていく過程における違法なポイントをいくつか  あげれば次のとおりである。 (1)宗教であるにもかかわらず、宗教ではないと明確に否定して接近してくる。  このことによって被告らに対する警戒心をなくしている。単なる商品を売る  訪問販売でさえ、このような虚偽のセールストークは許されていない。本件  の場合は商品ではなく金銭では評価できない人の基本的考え方を変容させよ  うというのである。ここに、いささかも判断を誤らせる虚偽があってはなら  ない。 (2)実態をあかさないで接近してくる。単なる若者の文化サークルであるかの  ように装ってビデオセンターへの入会を迫る。 (3)目的・目標を明かさないで接近してくる。又は目的を隠したままひきこん  でいく。最終的には霊感商法を担っていく実行部隊となっていくにも拘らず、  そのことは一切触れられない。このことが当初明かされていれば、このよう  な団体に関与することはない。 (4)アンケート調査、その後の面談で得た情報によって、原告らの精神的弱点  を分析し、それを執拗に指摘して、不安と恐怖に陥れる。   霊能師でもない人にこの役割を持たせてあたかも原告らの先祖の霊の状況  が適格に判断できるかのごとく振まい、原告らを不安の極地に陥れ、その持  っていた正常な価値観を奪っていく。 (5)右のような決断を異常な目的的に管理された環境の中で迫っていく。ビデ  オセンターの個室でのビデオ鑑賞、ツーディズ、スリーディズ、ライフトレ  ーニング、新生トレーニング、実践トレーニング、ホームでの生活、報連相  の生活(横的に流れてはいけない)がこれに該当する。このようにして原告  らの基本的な人格が破壊されていくのである。その被害の重大性についても  前記準備書面に記載したとおりである。 3、右に述べた事実が原告らの根源的な内心の自由が侵されることになったメ  カニズムの中で重要なポイントとなる事柄であり、違法性を基礎づける事実  の一つである。これを原告図子の主尋問の中に表われたことから、指摘する  と以下のとおりである。 ・統一協会員の木下慶一・小野直美が原告A宅を「文化サークルですがアンケ  ートに答えてくれませんか」と言って訪問する。 ・「クリエイトという文化サークルに来てみないかと誘いました」こうして、  ビデオセンターに通うようになる。 ・クリエイトでアンケートをし、ビデオ講座の申込を決断させられる。そして、  原告Aに不安感を持たせる入口として霊界に関するビデオ等を見せる。この  段階でも宗教であることを否定し隠している。 ・小野直美が絵の展覧会に誘う。 ・目的を隠し、「YOU」に誘う。正体を偽り、統一協会員の鈴木光が占い師  として原告Aの姓名判断をし、原告を不安に陥れる。 ・統一協会員花田が占い師を装って原告Aの前に現われ、先祖の因縁を説く。 ・スリーディズセミナー・上級ツーディズセミナー・新生トレーニング・実践  トレーニング・青年実践部の生活へと続いていく。この経過の中で文鮮明こ  そが救世主であることを知らされる。そして人を騙して暴利をむさぼる霊感  商法さえも違法な行為ではない(天の法は地の法に勝る)と信じるようにな  る。また、右環境の中で人格の変容をきたし、破壊されていく。   右に述べたとおり、当初は宗教であることを隠し、宗教を否定しながら、  自己の決断を迫っていくのである。右経過そのものが人間の尊厳を破壊して  いく過程であり、不法行為を基礎づける行為である。 4、右に述べた違法な行為は偶然に本件原告に対してだけになされたものでは  ない。被告統一協会の組織において全国的に同様のことが画一的になされて  いる。これらの事実は、本件訴訟手続において詳しくその実態とメカニズム  を主張しているところである。偶発的な原告らに対する侵害行為であれば被  告にすべきは直接原告Aらに入会を働きかけた小野らであるが、組織的・画  一的になされ、同様の被害が全国に発生している実態をみれば組織としての  被告統一協会こそが不法行為の主体者であり、右小野らは原告と同様被害者  であるといえる。  これらの伝道のあり方は、同時にマインドコントロールの主要な手段として 利用されているものである。 三、 被告らのマインドコントロールについて 1、「マインドコントロール」が一般的に用語としてなじみができたのは、平  成五年四月に元オリンピック体操選手であった山崎浩子がマスコミの記者を  前に統一協会からの脱会宣言をした時に使用されてからである。もちろん心  理学的には前から研究されてきていた。 2、米国統一協会の副会長の地位になるまで統一協会に関わった心理学者ステ  ィーブン・ハッサンにより「マインドコントロールの恐怖」(浅見定雄訳)  が発刊され、被告らのマインドコントロールの実態と問題点が心理学的観点  からも明らかにされた。 3、日本国内においても社会心理学の研究者により研究が進められていた。そ  して、統一協会からの脱会者に直接面接するなどして大量のデータを集めて  分析するなどの研究が静岡県立大学西田公昭氏によってなされ、マインドコ  ントロールの手法について明らかにしている。この研究は社会心理学会にお  いて高く評価されている。同氏は札幌地方裁判所、名古屋地方裁判所等にお  いてそれぞれ証人として証言をしている(被告はこのうち札幌地方裁判所で  平成六年九月二日に昭和六二年(ワ)第六〇三号事件においてなされた証人  尋問のなかからわずか数行分だけを−「カルトマインドコントロールという  のは残念ながらまだ心理学の概念として普及した概念と申せません」−提出  し、極めて誤導的な提出の仕方をしています)。 4、宗教学的見地から東北学院大学の浅見定雄教授は、統一協会のマインドコ  ントロールは信教の自由を侵害し、人格破壊をもたらす不当なものであると  の見解をだしている。 5、このように、マインドコントロールの研究がすすみ、日本ばかりではなく  世界的にもカルトにおけるマインドコントロールの危険性が指摘されるよう  になった。本裁判は正にこの部分について宗教団体として許される行動の限  界を問うものである。 四、 献金の違法性 1、原告Aは、昭和六三年五月二七日に原告の保有するほとんど全ての預貯金  の献金を決断させられている。少なくとも右の範囲だけをとりあげても、献  金の決断を迫ったのは目的においても手段においてもその結果においてもと  うてい社会的に容認できるものではなく、総合的にみれば違法性を有すると  いうべきである。 2、夕方七時ごろから午前〇時ごろまでの深夜約五時間にもわたり、被告ら関  係者以外に誰もいない部屋で、食事もとらすことなく、霊界の存在等を強調  して恐怖に陥れたうえで、原告の全資産ともいうべき七〇万円の献金を決断  させた。右七〇万円を統一協会に支払うことによって原告はもはやその全生  活を統一協会と共に生活するしか方法がなくなってしまった状況に追いこま  れた。この日は、被告らは当初から霊界において救われないなどと不安に陥  れ、全資産を献金させようと企図し、互いに原告の情報を正確に認識したう  えで、原告の献金によって世界が平和になるなどと誤信させたものである。  右状況は原告の陳述書(甲第九四号証)に詳述されている。 五、判例の動向  宗教行為に関する違法性の判断は従来信教の自由の範囲として積極的になさ れることが避けれられてきていた状況がみられたが、これらの行為も一定の限 界があるとして司法の判断が明確になされるようになってきている。 1、福岡地方裁判所平成二年(ワ)第一〇八二号(平成六年五月二七日判決)  福岡高等裁判所平成六年(ネ)第五〇五号(平成八年二月一九日判決) (一)献金勧誘行為が布教活動の一貫としてなされたものであったとしても、  その目的・方法・結果において到底社会的に相当な行為であるということは  できず、違法であり、民法七〇九条の不法行為に該当する。 (二)非営利団体である宗教法人に対しても民法七一五条の提起用があり、信  者と教会との関係において指揮命令関係が存在した。 2、高松地方裁判所平成六年(フ)第一七四号(平成八年一二月三日判決) (一)献金に関する一連の勧誘行為がその目的・方法・結果において社会的に  相当と認められる範囲を逸脱しており違法性を帯びる。 (二)信者と教会との関係において、信者の違法な献金勧誘行為について七一  五条の適用を認める。 3、奈良地方裁判所平成六年(フ)第二〇七号(平成九年四月一六日判決) (一)統一協会の献金勧誘行為は被告の違法な勧誘システムに基づくもの。統  一協会であることを否定して勧誘が行われていること、予め財産の把握がな  され、これに基づき献金額及び献金にいたるまでのスケジュ−ルが決められ  ていたこと、家系図を示すなどして具体的に因縁話が行われていること、受  講につき他言を禁じられていることなどが違法性を認められる根拠である。  ここに紹介した判決はいずれも被告統一協会に関するものである。 4、外国の動向 (一)カリフォルニア州最高裁大法廷判決 モリコ・リ−ル事件(一九八八年  一〇月一七日判決)教会が不実表示や正体を隠して誘導し、知らないまま強  制的説得に服従させる環境に引きづり込んだことを理由に、教会に対して伝  統的な詐欺訴訟を提起することを適法と判断している(統一協会を被告とす  る事件)。 (二)仏リヨン地方裁判所第一三号法廷判決(一九九六年一一月二二日)。セ  クトの無料の人格テストから始まる勧誘行為とその後に続く各セミナーの実  態等を詳細に認定し、これらの手段は新しい信者を獲得して金銭を支払わせ  る違法なシステムであると判断した−マインドコントロールについて違法の  判断がなされた例(サイエントロジーに関して)。   このように宗教活動の一環としてなされた行動についても第三者の人権を  侵害する場合には民事上、刑事上の責任が問われるというのは当然であり、  ヨーロッパ各国においてもこのようなマインドコントロールに関する判断が  なされるようになっている。 (三)セクト対策に関するヨーロッパ各国議会等の動き  1、フランス    一九八五年ヴィヴィアン報告書公表、アランジェスト報告書一九九六年   一月採択(統一協会などのセクトが実名で揚げられている)。セクト観察   機構が首相直轄で組織される。  2、ベルギー    一九九六年五月に超党派でセクト対策の委員会が組織され、カルト観察   機構の設置が企画されている。  3、ドイツ    一九九六年四月二五日決議によって「いわゆるセクト及び心理グループ   調査委員会が設置され、調査活動がなされている。また、政府によってセ   クトグループごとの啓蒙用の冊子が公刊されていて、統一協会に関しては   既に発刊されている。統一協会の実名入りの報告書もだされている。一九   八〇年に発刊された連邦政府報告書には「このグループは極めて閉鎖的で   かつ厳格な権威主義的な指導体制をとっている。メンバーの日課は完全に   組織化されている。メンバーはかつては全財産を組織に譲渡させられてい   た。創始者文の配下には、朝鮮人参茶の輸出から武器製造にまで及ぶ世界   的な経済帝国がある。現実を理想に基づいて解釈すること、グループへの   完全な献身の要求、エリートとしての自意識は、多数の若い人々を魅惑す   る。魅惑が強いだけに、個々人がさらされる洗脳と破壊的な集団的強制の   危険は大きいのである。」と記載されている。  このようにヨーロッパ各国においてもセクト対策は教義の是非を問うもので はなく、逸脱行為の危険性を問題にするものであって宗教の自由を侵害するも のではないとして、厳しい対応をしてきている。 五、 さらに必要な証拠調 1、弁護団を結成した直後から、弁護団の関係者に無言電話がひんぱんにかか  ってくなどの妨害行為が組織的になされたり、やがて妨害行為がエスカレー  トし、担当弁護士の名を語ったニセ注文がなされるなどのことが続いた。 2、被害相談を受けて弁護士が交渉してきた窓口の一人となったのが本件訴訟  で証人申請をして出廷拒否をした花田雅弘であった。統一協会岡山県本部長  であり、占い師であり、あるいは青年部の責任者であったり、壺・多宝塔を  販売する岡一商事の従業員であった。右の者の証言は霊感商法と統一協会の  組織的つながり、違法なマインドコントロールの実態、統一協会の組織実態  等をあからさまにすることになったはずである。あえて、出廷を拒否し、そ  のことによって統一協会を守ろうとしているのであって、被告はこのことに  よる立証上の不利益を受けるべきである。 3、原告は、なお証拠調が必要であると考えている。被告は久保木修己の責任  についてはこれを争っている。その組織運営上の第三者に対する責任を明ら  かにすべく同人もしくはどうしても都合の悪い場合は同人に代わるべき者の  尋問がなされるべきものであると考える(原告は久保木修己が尋問されるべ  きであると考える)。花田雅弘が出廷しない以上同人に代わるべきしかるべ  き証人の尋問がなされるべきである。 4、被告はマインドコントロールについて札幌地裁で証言した西田公昭証言調  書のほんの一語だけを証拠として提出した。極めて誤導的な提出の仕方であ  る。原告は、同人の証人申請を維持しマインドコントロールのメカニズムと  統一協会のマインドコントロールが不法なものであることを、さらに浅見定  雄証人によって宗教学的見地からも本件マインドコントロールが許されず、  人格的破壊が違法にしかも組織的になされている事実を立証する。