平成元年(ワ)第七九八号

                   原    告 A         男
                                  外一名

                   被    告 世界基督教統一神霊協会
                                  外一名

 平成三年四月二四日

                   原告ら代理人 河  田   英  正

岡山地方裁判所 御中

          準 備 書 面

一、原告らの主張の骨子

1 原告らは、訴状第六統一協会の洗脳の違法性の項目で述べたとおり、人格の中
 核をなし人間の尊厳を支える根源的な内心の自由すなわち思想・信条・信教の自
 由を被告らによって違法に侵害されたことを主張している。
2 その侵害の手法は、訴状第五洗脳の実態の項目に述べているとおりである。共
 通の被告らのマニュアルによって統一的組織的になされているものである。自ら
 の正体を隠して青年達に接し、耳ざわりのいい言葉と青年の好奇心や向上心をく
 すぐるような言葉でその青年を組織の中にとらえ、次第に他の情報から遮断隔離
 し、やさしい人間関係で青年を包みこんで、睡眠不足の状態で一方的に教義を教
 え込み、その教義そのものがより深く組織に取り込むための工夫に満ちているも
 のであって、やがて霊感商法という違法行為さえも正しい行為であると信じさせ
 られていく。
  このことが原告らに対する主体的に宗教を選択するという信教の自由を侵害す
 る違法行為を形成するものである。
3 原告らは、訴状添付の別表及び平成二年九月一二日付原告ら準備書面二原告ら
 の被害について記載のとおり被告らの右統一的手法によって違法に信教の自由を
 侵害されたことを中心的理由として精神的損害の賠償を求めているのである。原
 告らは自己の主体的選択が不可能な状態に追い込まれて統一協会に入信させられ、
 信仰を持たない自由を侵害され、自己の自由な選択による宗教の選択権を侵害さ
 れたからである。

二、被告らの原告らに対する布教「洗脳」の違法性

1 特定の宗教を信じることもいかなる宗教も信じないことも、それをその人が主
 体的に選択する自由は最大限に尊重されなければならない。それは人格権の根幹
 をなし、憲法上も内心的自由の象徴的なものとして保障されている。従って、信
 教の自由が侵害されることの重大性は、財産的価値の侵害と対比してみれば一目
 瞭然である。自己の主体的選択が不可能な状態で一、〇〇〇万円の多宝塔を買わ
 されることよりも、自己の主体的選択が不可能な状態である特定の宗教を信じさ
 せられることの方が、はるかに法益侵害性は大である。
2 被告らの「洗脳」が、主体的選択の自由を奪って行われているのは次の事実か
 らも明白である。
  街頭におけるアンケート、あるいは友人・親族の繋がりを利用した働きかけ(
 伝道)の目的は、ビデオセンターに誘い、ビデオを見せることである。ビデオを
 見せた後は、一泊二日のツゥーデイズ・二泊三日のスリーデイズという修練会に
 誘う。この修練会の後はライフトレーニングという名称で講義を聞かせる。
  その間、それらの行為の主体が統一協会であることは絶対に秘密とされる。ビ
 デオセンターで見せるビデオは統一原理の講義であるが、その中にもその教えの
 主体である統一協会の「と」の字もでてこない。堕落論によって、人間の原罪と
 自分の罪を指摘された青年達が、修練会やトレーニングのなかで、原理のいう救
 い主(メシア)を受け入れざるを得ない心理状態になるまで、その救い主の氏名
 も、これらの行為の主体が統一協会であることも秘匿される。
  統一協会については、きわめて当然のことに世間上批判的意見や見解が多い。
 キリスト教団の多くが統一協会をキリスト教ではないと批判しているし、社会的
 にも「親泣かせの原理運動」や史上最悪と思われる悪徳商法の霊感商法の主体と
 して名指しされている。統一協会が自分を明示して、ビデオを見せたり修練会に
 誘った場合、青年達は当然、統一協会というのは一体どのような団体なのかに興
 味を持つことになる。相手方に質問することもあるであろうし、友人や知人に聞
 くことも考えられる。質問された知人や友人もその団体の固有名詞が明らかであ
 れば調査は簡単なのである。すなわち、名前を聞けば興味を持ち、興味を持てば
 その団体の活動について知ることになる。その段階で青年達が、前記の事実に関
 する情報に少しでも触れるならば、青年達はビデオセンターに近づかないであろ
 う。評判のいい宗教団体は沢山ある。なにも好きこのんで特別評判の悪い団体と
 つきあうことはない。
  従って、統一協会が前記の活動を布教活動として明示しないのは、自分につい
 ての情報を入教対象者に知らせないためである。入教対象者に自己についての正
 確な情報を伝えることは、どのような団体であれ当然のことである。そのことが、
 入教対象者の主体的選択を保障することになる。統一協会はその道とは全く逆の
 道を進んでいる。「正体を隠して」接近する宗教団体はおそらく被告らを除いて
 他にない。
  このようにして当初の接触の段階で、まず主体的選択権を侵害しているのであ
 る。

 統一協会が入教対象者に対して行う修練会やトレーニングは、その人の主体的判
断や選択を不可能にする特徴を持っている。
a 献身宣言をした実践トレーニングにいたるまでの伝道から新生トレーニングま
 で、入教対象者は暖かい配慮とやさしい人間関係につつまれる。伝道やビデオセ
 ンターでの「賛美のシャワー」や日をおかずタイミングよく行われる優しい電話
 や手紙(マニュアルがあり、アベル・上級者の指示でするのだが)、トレーニン
 グや修練会での心のこもった手作りの食事や贈り物等。この「親切」が入教対象
 者をして、講義で話されることを信じようとする心の動きを作り出す。講師や班
 長などを信じるようになり、その言うことを信じようとする心の動きを作り出す。
 すなわち、統一原理に対して受容的な心の姿勢を作り出すのである。
  また、入教対象者が途中で辞めようとして説得され、辞めることを思い留まる
 ことがほとんどなのは、この「親切」な人間関係があるからである。この「親切」
 に負けて受講を続けるうち、他の価値観から遮断された状態での繰り返しの講義
 により、それを真理と思い込むようになる。
b ツゥーデイズやスリーデイズ修練会から実践トレーニングまで他の価値観との
 交流が遮断され、統一原理のみを聞かされる。
  修練会が合宿であり、統一協会の全面的管理の下、新聞やテレビさえ与えられ
 ず、他の受講生との交流さえ統制されて一方的に講義が連続することはすでに述
 べたとおりである。
  トレーニングは勤務の終わった後の時間の講義であるが、勤務が終わった後、
 講義の場所に集まり食事をして講義を聞く。終わるのは一一時過ぎになる。帰宅
 して寝て、次の日曜日は午後一時ころからトレーニングが開始される。日曜日の
 午前中は掃除や洗濯などがある。従って、いったん統一協会の入教システムに取
 り込まれると、外の価値観に触れる時間がなくなるのである。外の価値観が入教
 者に伝わらなくなることにより、統一原理に対する批判的・主体的態度が失われ
 ていくことになる。
c 罪の意識を植え付ける。例えば、イエス・キリストの処刑の場面を「リアリス
 ティック」に講義する。掌に釘を打ち込まれ、それによって十字架に吊されたた
 め掌が裂けてくるなどという講義をして、イエス・キリストが十字架にかけられ
 たのは人間が悪いのだと言う。聞いていると自分に罪があるようになってくると
 いう。罪の自覚はその心に自責の念を呼び起こす。罪を償うため、なんらかの行
 動が要求される。
  恐怖の観念を植え付ける。例えば、文鮮明に対する拷問をこれまた「リアリス
 ティック」にやる。
  感動を作り上げる。修練会での夜、暗くされた会場に「お父さま」からの感動
 的呼びかけの詩が朗読される。献身者の体験談(証・あかし)が感動的に語られ
 る(マニュアルがありそれに従ってやるのだが、受講者は知らない)。みんな涙
 を流して感動する。
  これらのいろいろな感情の高揚によって、従前の自己が否定されたり、新しい
 価値観が受け入れられていくのであるし、本人をより一層「変革」することにな
 る「行動」(例えば、トレーニングを続けるとか、献身するとか)が決断される
 のである。
d 行動のための動機づけとして「悲しみの神さま」、「一人で苦労しているお父
 さま」、「お父さまに選ばれたかけがえのない君達」という論理が使われる。「
 ようし、神さまを慰めてあげなければ」という気持ちになるのである。そして、
 〇〇家のメシアと煽てられ、先祖のため、父母のため、地球上のすべての人のた
 め自己犠牲の道に進むのである。しかも、地上天国はすぐにでもできるとされる。
 「あと〇年だ。頑張ろう」となるのである。
e 献身した後は、以上のことがより一層ひどくなる。それらの結果、自ら実践し
 その裏舞台(詐欺を構成する事実)さえ知りながら、霊感商法をさえ、それが正
 しいと信じる、驚くべき人間を作り出すのである。
  以上のとおり、統一協会による入教工作は入教対象者の主体的選択を奪う方法
 によって、計画的・組織的・系統的・全国的に行われているのである。

三、被害の重大性

 人格の中核である価値観が変容するのであるから、その人の人生そのものが変え
られる。
1 ほとんどの者が学業・職場を放棄して「献身」し、ホームと称する「合宿所」
 で起居し、被告統一協会の「経済活動」と称する金儲けに専従させられる。その
 最悪の事例が「霊感商法」である。「詐欺募金」やウソをついての物売りも重要
 な活動として、推進させられる。
2 被告統一協会や文鮮明のためになることのみが「善」であるとの価値観に支配
 されるから、「霊感商法」や「詐欺募金」さえ「善」と考える人間になる。統一
 協会のためならウソをつくことは平気になる。即ち、現代に生きる人間として社
 会の中で共存してゆくために、当然、自己の内面に形成していなければならない
 最低限の道徳や規範意識を喪失させられる。
  「アベル」に対する絶対的服従の組織原則の下での生活で自主的主体的判断は
 できない人間となり、他人の配慮や心配りに感謝することのできない人間、通常
 の人間関係を形成できない人間となる。
4 文鮮明の組み合わせによる「祝福」でなければ、結婚できなくなる。恋愛は禁
 止である。
5 統一教会に反対する親は「サタン」であり、それとの断絶も平気である。家庭
 破壊が発生する。
6 過酷な活動の中で、神経症や精神異常の発生する確立が通常の生活より高まる。
  人が、その人生をどのように生きようと、その生き方が主体的、自主的に選択
 されたものであり、反社会的なものでなければ、それは、自由である。統一教会
 の場合には、万物復帰の教え即ち「サタンの側−統一教会以外の者−に奪われた
 財産、資産を神の側−文鮮明の側−に取り戻すという考え」によって「経済活動」
 を行うので、第三者について前記1から6の事態がさらに発生する。

四、原告らの被害

1 既に何度も述べたとおり被告らの原告らに対する接近「洗脳」は統一的組織的
 になされ、前述した経過とほぼ同様の内容であり、訴状添付の別表記載のとおり
 である。
2 正体を隠した接近
  原告A男に対しては、昭和六二年九月一五日に原告の居住する寮に統一協会員
 が突然訪問し、「文化サークルに所属していて若者の意識調査をしている」と言
 ってアンケート調査をなし、文化サークルであるビデオセンターに通うよう勧誘
 し、原告は右センターを訪問することとなった。同センターでは甲第一〇号証で
 も明らかなとおりセンター内で役割分担を持った被告協会員が組織的に、正体を
 隠したまま右センターに通わせるための意思決定を迫っていく。アンケートはそ
 の説得のための資料獲得の方法である。原告B子は、平成元年五月既に被告協会
 員であった高校時代の友人からやはり正体を隠したまま右センターに通うことを
 勧誘された。
  右センターに通っている間には原告らは家系図を書かされたり、姓名判断をさ
 れたりしながら先祖の因縁で家族に不幸が起きるなどと言われ、氏族を救うメシ
 アにならなければならないと告げられたりして不安に陥れられた。また、占いの
 講演会とか偉い占いの先生に特別にみてもらってあげるなどと言って、実は被告
 協会の県本部長が原告らの前に現れて献金を迫ったり念珠の購入を押しつけてき
 た。このようにして原告A男は腕時計を購入し、同B子は献金・念珠を購入する
 などの出損を余儀なくされた。
4 こうして原告らはビデオセンターに通い、ビデオを見て原理講論を教えられて
 いくうち罪の意識に強く悩まされるような状況になり、原告A男は昭和六三年五
 月になり同B子は平成元年六月にメシアは文鮮明であることがそれぞれ知らされ
 た。この時点では正常な主体的選択の自由は既に奪われる状態であった。
5 メシアが文鮮明であることを知らされた後、原告らはそれぞれ広島県可部にあ
 る統一協会可部修練所で「スリーデイズ」に参加することになる。修練所に「隔
 離」して一般社会との接触を分断し、午前六時に起床し就寝は午前一時を超す異
 常な日程の中で統一協会に献身していくことの決断をさせられていく。原告らも
 このスリーデイズ参加の最後に統一協会員となることを決断した。原告A男は昭
 和六三年六月一六日から、同B子は平成元年七月二八日から可部修練所でのスリ
 ーデイズに参加している。
6 原告A男はその後新生トレーニング・実践トレーニング・青年実践部へと進行
 し、積極的に新しい会員を自らが誘われたと同様に勧誘し、虚偽の事実をいろい
 ろと述べながら絵画などを売っていく実践部となっていった。そして、昭和六三
 年一二月に全てを捨てて統一協会の経済活動を担うという「献身」を決意するに
 至った。同B子はスリーデイズ参加後新生トレーニングの過程を経て経済活動の
 任務を果すよう指示を受けたがあまり実績があがらないうち脱会することとなっ
 た。

五、裁判所で審理されるべき対象について

1 原告らの請求は、被告らの違法な行為によって物品を購入させられてその財産
 権の侵害を受けたこと、被告らの違法な行為によって憲法に保障された信教の自
 由が侵害されて精神的損害が発生していることを理由としているものである。
2 右違法な行為は、全国的に統一された手法により組織的になされているもので
 ある。またそれ故に高度な違法性を持つものである。原告に対して具体的になさ
 れた被告らの違法行為も被告らの組織的行為の一環としてなされたものである。
 従って、まずこの組織性と全体的行為とを明らかにしようとするものである。
3 原告には、被告統一協会の教義内容の正否について判断を求めようとするもの
 ではない。原告らが現に関わり、また被告らが推進している霊感商法との関わり
 を被告らは全く否認している。従って、霊感商法は被告らが必然的に発生させて
 いるものであることの関連において「万物復帰」の教理に触れ、関連性を実証す
 るものである。
4 また、原告らに正体を隠して巧みに接近し、他から隔離して巧みに組織に取り
 込んでいく過程で、被告協会の教義が重要な役割を果している。主体的選択を不
 可能にしていく様ざまの工夫が教義自体の中に潜んでいる。その原告らに対する
 「洗脳」の過程を明らかにする範囲で被告協会の教義について主張(訴状第二統
 一協会の教理と霊感商法への必然性)してきたものである。
5 そこで、被告協会の実態、統一原理の内容、経済活動と統一原理との関係、洗
 脳の過程がまず明らかにされる必要性が存する。また、霊感商法の実態に触れる
 ことなくしては原告らの信教の自由侵害の事実も正確に認識することはできない。

 その意味で、原告らは、被告協会の実態に詳しい宗教学者、霊感商法に対して広
 範な取材活動をしているジャーナリスト、霊感商法の被害救済にあたっている弁
 護士の証人申請をしているものである。


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