季刊・東ティモール No. 24, February 2007

東ティモールの石油収入と石油基金

文珠幹夫

 昨年2月に端を発した東ティモール国防軍の待遇差別問題が、5月に独立以後最大の騒乱となった。騒乱がここまで大きくなった遠因にティモール・ギャップの石油や天然ガスを巡る国際的問題があるのではないかと囁かれている。
 ティモール・ギャップのグレーター・サンライズに関するオーストラリアとの条約が国会に批准を求めて上程された直後にマリ・アルカティリ首相は辞任に追い込まれた。新首相になったラモス・ホルタ首相は就任当時「石油収入を再建に使う」と発言していた。しかし、その後の動きは無いようだ。
 では、すでに採掘されているティモール・ギャップからの石油・天然ガス収入はどうなっているのだろうか。東ティモールの銀行業務及び支払業務機関(BPA)注1)の石油基金の四半期報告注2)、ティモール海公社(TSDA)注3)や市民団体のラオ・ハムトックの報告注4)から状況を見てみたい。

注1)将来は中央銀行となる予定。
注2)www.bancocentral.tl
注3)www.timorseada.org
注4)www.laohamutuk.org

 東ティモール政府の予算は、国内の税金で賄える状況にはない。多くを外国からの支援に頼らざるを得ない。この状況下でティモール・ギャップからの石油・天然ガス収入は今後の復興や開発など自立した経済を確立する上で重要な意味を持つ。ティモール・ギャップを廻るオーストラリア政府との国境線問題については季刊東ティモールNo.13を参照されたい。すでに開発が進み石油・天然ガスを採掘している油田・ガス田からの収入が東ティモール政府に入っている。これらの収入は東ティモール石油基金に入りその運用がなされている。

東ティモール石油基金
 東ティモール石油基金は2005年8月に石油基金法によって設立された。法律ではBPAが基金の管理運用を任され責任を負っている。その付託された権限は、計画・財務大臣との合意に従って基金の投資運用を行うことである。政府や議会は基金に対し諮問や聴聞を行うことになっている。BPAは四半期ごとに報告を義務付けられている。
 2006年2月、石油基金諮問委員会の委員が選出された。その委員はマリ・アルカティリ前首相、国会議員、NGO(Luta Hamutuk, Rede Feto)関係者、産業会関係者、教会関係者などで構成されている。しかし、諮問委員会は2006年末においてまだ機能していない。紛争の影響によるものと思われる。

基金の収入源
 ほとんどの収入はティモール・ギャップの油田・ガス田からである。現時点ではティモール海条約による共同石油開発区域のバユ・ウンダン油田と他の油田からである。ティモール海公社がこれらの油田の運営を担当している。
 石油採掘を行っている企業やTSDAからの「税金」とロイヤリティが、BPAが持つニューヨーク連銀(FRBNY)の口座を経由して基金に振り込まれる。
 他の収入は基金が運用によって上げた収益である。

基金の運用
 当面基金は主としてアメリカ財務省保証債券(以下、米国債とする)などで運用されることになっている。ポートフォリオでは主に5年物以下の米国債で運用されるが他の信用度の高い国の国債でも運用できる。運用のベンチマークにはメリルリンチの5年物以下の政府債券指標を用いている。現在は米国債の約80種ある中で10種を選択し、ベンチマークとポートフォリオの乖離が少ないように運用している。短期の流動性資金の運用もあるが月毎で金額も限定されている。運用益は少ないが安全確実な運用を行っているようだ。
 運用を行う技術面で、ノルウェー石油理事会から2名の専門家の支援を仰いでいる。彼らは東ティモール人へ運用技術の教育や規律、組織作りのアドバイスを行っている。
 昨年、紛争が激化し、政局が混乱したとき非常事態の対策(詳細不明)を行い紛争の影響が及ばないようにしたとの事である。

収入と運用益
 基金が設立されてからの収入と運用益について見てみよう。1999年「住民投票」が行われた頃から石油価格は大きく変動した。グラフ1を見て判るように、1999年に10ドル台だった石油価格は、東ティモールが独立(主権回復)した2002年5月頃に20ドル代半ばになっていた。2004年になると石油価格は急騰し始め、基金が設立された2005年8月には50ドルを超えた。昨年半ばには70ドルを超えるまでになった。今年に入ってからは50ドル台で推移しているが、石油価格の高騰は東ティモールにとって朗報となっている。なお、条約相手国のオーストラリア政府も大きな「利益」を得ていることにも注目しておく必要がある。
 グラフ2は2005年8月に基金が設立されて以降の四半期ごとの収入を示している。四半期ごとの収入は石油価格の上下にもよるが、平均すると約1億5千万ドル(約180億円)である。
 グラフ3は基金の収支である。2006年12月現在で総額1,011,763,807ドル(約千二百億円)となっている。東ティモールの国家予算の10倍を超える額が基金に貯まっていることになる。
 基金の運用実績は四半期ベースで0.35%〜2.09%(年率1.4%〜8.4%)といずれもプラスで堅実な運用を行っている。
 今後、バユ・ウンダン油田よりはるかに埋蔵量が多いといわれているグレーター・サンライズ油田からの収入が入る。東ティモールにとって巨額ともいえる石油収入をどのように使ってゆくのか、その方向性はまだ明確ではない。
オーストラリア政府とのティモール海の国境線問題、オーストラリア政府のティモール・ギャップへの思惑、石油パイプラインと精製施設問題など難問が山積している。そしてディリの紛争はまだ収まっていない。今年、東ティモールでは大統領選挙と議会選挙が行われる。新政権が誕生するはずだが、この基金や石油収入の使い道、オーストラリア政府との関係に注目してゆきたい。

グラフ1 石油価格の推移(東石HP www.toseki.co.jpより)

グラフ2 四半期ごとの収入

グラフ3 基金の収支


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