季刊・東ティモール No. 24, February 2007

巻頭言

東ティモール流「プレマン政治」の登場

 インドネシアのことをよく知っている人なら、今回の騒乱で注目されるようになった東ティモールの暴力的な集団を「プレマン」と呼びたくなるだろう。プレマン(preman)とは、インドネシア各地の都市で、賭博、売春、麻薬などの闇のビジネス、繁華街の「治安管理」やこまごまとした業務(駐車係など)をやったりして生き延びている犯罪集団で、ジャカルタだと出身地別(例えばアンボン)のグループがあるらしい。マフィアややくざと違ってそれほど自律的な集団ではないようで、政治権力に大きく依存し、政治的な暴力事件に裏で関与していると考えられている。
 ジャカルタのよく知られたプレマンの親分の一人はロスパロス出身の東ティモール人だ。24年間続いたインドネシア支配の中で、若干の東ティモール人が「プレマン」化したとしても不思議ではない。国軍との関係もあっただろう。東ティモールでは国軍が闇のビジネスを仕切っていた。ディリの民兵組織「アイタラク」のリーダーだったエウリコ・グテレスは賭博王などと言われていた。
  「プレマン政治」とは、政治家が表で堂々と競争するのではなく、暴力集団を雇って敵対者を攻撃する、または代理戦争をさせるというものだ。昨年来起きている相手を標的にしたような襲撃・放火といった行為や、最近ディリでもっぱら話題になる武術集団の抗争といった現象は、その実行者そのものに強い動機があるわけではなく、政治的な敵対関係において動員されていると見るべきだろう。実行者が血気はやる連中であることは想像に難くないが、集団を率いているのはその道(軍事・戦略)のプロフェッショナルだろう。
 フレテリンが「コルカ」、民主党・社民党が「PSHT」という武術集団と関係をもっているというのはとんでもない話だ。さらに、ギャング集団が東部人・西部人といった東西の軸にそって形成されており、西部人のギャングが民主党や請願者グループと関係しているというのも問題だ。どちらが先にこういうことをやりだしたのかは知らないが、政治権力が闇の暴力を培養することなどあってはならない。
 民衆はエリートの抗争が終わらない限り紛争は終わらないと言っている。それは対立のルーツがエリート間の政治的競争にあるという意味では正しい。緊急措置として与党・野党の和解を進め、政治的な安定を演出することは効果があるだろう。しかし、政治的な競争はどこにでもあるもので、健全な政策論争までも封じ込めてしまったのでは意味がない。重要なことは、政治が暴力と結びつく点を徹底的に管理することだ。政治と暴力の関係に司法当局がメスを入れ、政治家も自らを(お互い)縛るルールをつくらなければならない。今、政党は、そういうところに目が行かず、まだお互い非難しあっている状況だ。これでは人びとは安心して家に戻ることはできない。(ま)


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