季刊・東ティモール No. 24, February 2007

CD紹介:Sadam「星降る島」

亀山恵理子

 僕が彼に出会ったのは太陽が照りつける東ティモールのリキサという村だった。どこからか乾いた空気を弾ませて届く、子ども達の歌声。そこにたどり着くとその輪の中に、ギターを持った彼がいた。優しく切ないメロディ。それは長い間歌い継がれてきた歌のように聞こえた。僕は彼に話しかけてみた。「優しい曲だね」「これはね、戦争中、ゲリラ兵のために作った曲なんだ。」その優しいメロディから、戦争を想像できないでいた僕は、少し驚いた。帰国してもそのメロディは耳を離れなかった。僕は日本でこの歌を歌い始めた。

 これはサダムさんと東ティモールの青年、アレックスさんの出会いである。2003年、音楽交流を行うゆるやかなネットワーク「環音(わおん)」が、東ティモールの独立1周年を祝う祝賀イベントをリキサで主催した。そこで日本から来ていたサダムさんら演奏メンバーは、会場の片隅で歌うアレックスさんの音楽に魅せられたという。帰国後、現地語で歌われていた曲の意味はわからないけれども、そのメロディに日本語の詩がつけられた。そして「星降る島」という歌が生まれた。
 CDには全部で6曲が収められている。サダムさんが作詞・作曲した「サミエロ」、「コスモス」のほか、東ティモールの古い歌やアレックスさんの曲に環音代表の広田さんが詩をつけた「真実」、「稲巣の朝」、そして「星降る島」。三曲目の「ライ・ティモール・クラ・イタ」は、現地の子どもたちにアレックスさんが歌を教えているところをそのまま収録している。その曲は最後に「僕らは東ティモールをつくっていける。いつか芽を出した種が葉を広げていくように」と歌っており、また歌い終わった後には、「・・・この歌は日本に届けられるんだよ」と子どもたちに説明しているアレックスさんの声も聞こえてくる。
ひととおり聴き終わっての感想は、どの曲もメロディや歌声が心にすーっと入ってくる、そんな感じがするということだ。サダムさんがアレックスさんの曲に感じた優しさは、「星降る島」に収められた曲にも引き継がれているのだろう。二人の出会いから始まったリキサの村での心の交流が、楽器や歌声という音を通じて広がってくのはとても素敵なことだと思う。

*CDは環音、タワーレコード通販でも取り扱っています。
環音のサイト:http://www.pc-lifeboat.com/waon/


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