トゥバ・ライ・メティンの女性向け小規模融資プログラム

古沢希代子

最初に紹介するトゥバ・ライ・メティン(Tuba Rai Metin)というNGOの代表は、1988年の東ティモール全国スピーキングツアーで来日したジョゼ・グスマォンさん。彼は当時、オーストラリア北部準州のダーウィンに住み、東ティモール解放のための支援活動の中心になっていた。今、彼は独立を遂げた東ティモールの地でいきいきと仕事をしている。その理由は、小額の資金を元手に生活を少しでも良くしようとがんばっている女性たちと働いていること。がんばりやさんの女性たちが彼の活力の源なのだ。テトゥン語でトゥバ・ライ・メティン(TubaRai Metin)とは「しっかりと立つ」という意味である。


●古沢:独立前後あなたには外務省のポストをはじめ多くの仕事のオファーがあったと思います。なぜ、女性向けに小規模な資金の援助をするNGOで働こうと決めたのですか?

ジョゼ・グスマォン:私は2001年6月からSave the Children/USというNGOで東ティモールの子どもと青少年の育成を助ける心理・社会プログラムを担当していました。そこで目のあたりにしたのは、生活を支えるために必死で働く女性たちの姿と、女性たちに対するドメスティック・バイオレンス(DV)の問題です。母親に対する暴力を日常的に見ることは子どもの心を傷つけ、同時に暴力に対する感覚を麻痺させます。私は、女性に経済的な力がつけば、女性が自信を持つようになり、また夫も妻を認めて尊重するようになって、DVの被害を減らすことができるのではないかと思いました。それから、インドネシアの占領統治によって東ティモール人には力のある者に依存する性質ができ上がってしまったのですが、その性質を変えるには、自力でビジネスを経営する経験と心意気が必要だと思ったのです。

●トゥバ・ライ・メティンはなぜ女性だけを融資の対象にしたのですか?

女性は東ティモールの解放に大きな貢献をはたしました。インドネシアに対する抵抗運動を支える地下組織には多くの女性が参加し、食糧・医薬品・情報の運搬から国際的ロビー活動までさまざまな役割を果たしました。しかし、独立後、政府でも村でも主導権を握ったのは男性で、女性は公平に処遇されていません。私たちは社会の中で不利な状況にある女性たちにチャンスを提供したいと考えました。男女を対象にしたプログラムは他の団体がすでに行なっています。

●貸付はどのような仕組みになっているのですか?

まず村でグループをつくってもらいます。元本と利子の返済は共同責任になります。トゥバ・ライ・メティンは4ヶ月周期で貸付を行ないます。農繁期で一時活動を停止せざるをえない場合を考慮してのことです。最初の4ヶ月は1人に対する貸付額は50米ドルで、利子は月4%です。これがきちんと返済ができたグループが融資の継続を望めば、第2期は1人に対する貸付額が65米ドルになります。利子は月4%のままです。さらに第3期になると1人当たりの貸付額は80米ドルとなり、利子は2%に下がります。その後も継続は可能です。1人あたりの貸付限度額は250米ドルです。

例えば、ヴィケケのある女性は、育てた鶏を、ミクロレット(小型の乗りあいバス)に乗って6時間かけてディリまで持ってきて、ディリの市場で売り、その売り上げ代金で豆腐やテンペや日用品を購入し、村で売るというビジネスをしています。また、ディリに住むある未亡人は豆腐の卸売りを始めました。5人の子どもを抱えた彼女のビジネスは市場で大豆を一袋買うことから始まったのですが、今では500米ドル相当の設備を持ち、3人の従業者を雇い、貯金もしています。こういったビジネスは目覚ましい利益が上がるものではありませんが、何もしなければ利益はゼロです。女性たちは現実をふまえて地道に粘り強く仕事に取り組みます。一方、男性は仕事がないことに不平不満を述べながら、こういった仕事を「みみっちい」「つまらない」仕事だと馬鹿にする傾向があります。しかし、妻のビジネスが着実に成果をあげていることがわかると、夫が妻の仕事を手伝うようになり、夫婦で協力してビジネスと家の仕事をするようになった例もあります。

●女性たちは商売の利益を何に使っていますか?

子どもを学校にやる、食料や服を買う、家畜(鶏、豚、山羊、水牛、牛)を買うといったことが多いです。

●融資を受けるのは初めてという女性がほとんどですよね。トゥバ・ライ・メティンは融資を受ける女性たちをどのようにサポートしているのですか?

まず、プログラムも開始する前ですが、コミュニティーの中で女性たちのグループ活動が「うかない」ように、県、郡、村、集落の長に説明を行ないます。村や集落での説明会も開きます。次に融資を始める前に2ヶ月間トレーニングを行ないます。内容はグループ活動の運営や市場取引や帳簿つけなどについてです。融資が始まると、トゥバ・ライ・メティンのスタッフが利子を回収するために月に一回すべてのグループを訪問します。これは、参加者に利子を払う習慣をつけてもらい、同時に各グループとスタッフの間のコミュニケーションを確保するために考え出された方法です。グループで何か問題が生じた場合、スタッフは他のグループの取り組みを紹介するなどしてグループに解決策を検討してもらいます。また、女性たちが実施の段階で実際に遭遇する問題をトゥバ・ライ・メティンが理解することで、融資のしくみやサポートの態勢をどう改善すべきか検討することができます。ただしこのやり方は費用がかさみます。運転費用の問題には頭を痛めています。

●小額融資を行なっている他の団体とはどんな関係がありますか?

トゥバ・ライ・メティンの他に東ティモールで恒常的にマイクロ・ファイナンス(小額融資)のプログラムを行なっている組織は、Institusaun Mikro Finansas、 Moris Rasik、Hot Fo Lima、CCF(Christian Children Fund)、HALARAE、 Opportunity Timor Leste、Care Internationalなどです。トゥバ・ライ・メティンを含めてこれらの団体はマイクロファイナンスに関するワーキンググループを構成し、情報交換を行なっています。

●日本の友人たちに何かメッセージを。

全国協議会が本当に長い間東ティモールを支援して下さったことに心から感謝しています。皆さんが日本各地で準備して下さった集会で東ティモールの窮状を訴えたことは今でもよく憶えています。今こうして東ティモールの地で全国協議会のメンバーと会うことができるのはとてもうれしいです。でも私は東ティモールの解放運動はまだ幕を閉じてはいないと思っています。私たちの解放運動には貧困削減と生活向上という新しい戦線が出現しました。この戦線で勝利しなければこれまでの闘争は意味のないものになってしまいます。そのためにはインドネシアの占領統治が残した依存と汚職のメンタリティーを克服すること、そして、男女平等の社会をつくり真の民主主義を実現することが必要です。どうかこれからも私たちの闘いを支援して下さい。★

Tuba Rai Metin
Rua de Angola, Farol, Dili
Phone: +670-3322062
E-mail: turame@timortelecom.tp


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