暴力に反対する男たちの会
(AMKV:Asosiasaun Mane Kontra Violensia)

古沢希代子

暴力に反対する男たちの会(AMKV)は、国連暫定行政の時代に国連やNGOで働く東ティモール人の男たちが妻や恋人に暴力をふるってしまう自分自身の問題を語りあう場として始まった。ある男性は人権の啓発や人権侵害の調査を行なう仕事をしていた。ある男性は地下抵抗運動の活動家だった。彼らは外では人権や民主主義を標榜しながら私生活ではパートナーを傷つけていた。自分が、また仲間が抱える問題に向きあいながら、彼らは村の男たちにDVと女性差別について考えてもらう活動を始めた。AMKVはこれまで全国50の村でワークショップを実施し、約600名の男性と約200名の女性が参加した。AMKVの現在をナショナル・コーディネーターのひとりであるメリシオ・ドス・レイスさんに聞いた。


●古沢:暴力に反対する男たちの会(AMKV)は全員がボランティアですよね。皆さん本業でお忙しいと思いますが、活動は今でも続いていますか?

メリシオ・ドス・レイス:はい、続いています。お金がなくてニューズレターの発行は止まっていますが(笑)。昨年は国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の依頼で難民の帰還があった村でもDVのワークショップをしました。西ティモールの難民キャンプではDVの問題が深刻でしたので。ただし、帰還した人たちの抵抗感を少なくして参加してもらいやすいようにするため、ワークショップはすべての村人を対象にしました。
 今年は国連人口基金(UNFPA)と協力して草の根でワークショップを実施しています。すでに、リキサ県、アイレウ県、マナトゥト県、エルメラ県ではプログラムは終了し、年末までにバウカウ県、ラウテン県、ディリ県、ヴィケケ県で実施します。高校でのワークショップにも力を入れています。最近では大学生のボランティアが活動に参加するようになりました。

●ワークショップの内容は?

 もちろんDVの問題は扱いますが、ジェンダー、文化、家父長制、社会変容といったテーマにも取り組んでいます。DVの加害者はほとんどが男性なので、そういったテーマに関する男性の意識を問いなおすプログラムをつくっています。
 例えば、家父長制についてですが、ファシリテーターが「家の長は誰か」「家では誰がものごとを決めるのか」「村の集まりでよくしゃべるのは誰か」「村長や県知事は誰か」などといった質問を投げかけながら、家や社会を独占的に仕切っているのは男性なのだ(= 家父長制)という事実を参加者自身に認識してもらいます。次にこの状態(= 家父長制)についてどう思うか、参加者に聞きます。「それは東ティモールの文化だからそれに従っているだけだ」という男性たちの発言(こういう時に先に声をあげるのは男性)を受けて、ファシリテーターは女性たちに意見を聞きます。今後どうしたいと思うかも尋ねます。女性たちからは少しずつ「学校に行きたい」「組織に参加したい」「男性といっしょにものごとを決めたい」「女性が村長でもよいと思う」などという声があがります。女性も解放運動に参加して重要な役割を担った、犠牲にもなった、なのに女性の貢献は評価されないのはなぜだろうという疑問も出ます。最後に、参加者全員で、社会や家で女性はどんな貢献をしているのか、女性から出たそのような願いは理不尽か、文化は変えてはいけないのか、議論をします。

●村でワークショップをしたらそれで終わりですか。

 逆です。村の活動はワークショップで始まるです。最初のワークショップが終わると、青年組織などワークショップを共催した村のパートナーグループとTOT(トレーナーを養成するためのトレーニング)を実施し、AMKVのメンバーがファシリテーターをしなくても、村での討論が続けていけるように態勢をつくります。AMKVは、その後1年間、必要な資料や情報を提供しながら、村で活動を続ける人たちをサポートします。

●DVの原因は何ですか?

 女性蔑視が根底にあると思いますが、暴力の引き金になることはさまざまです。自分の望んだ仕事や地位が得られないフラストレーションから、酒におぼれて、闘鶏や賭博に負けてイライラしたからなど。またマリファナなどの麻薬も原因になっています。最近ではインドネシア経由でPCDという薬が入ってきています。
 それからバルラキ(婚資:東ティモールでは花婿の家が花嫁の家に与えるパターンが多い)も原因になります。例えば、花婿の家が花嫁の家が望む婚資を支払わなかった場合、結婚後も夫は妻の家から支払いを要求され続けるため、その憤まんが妻にぶつけられます。また、夫が妻に「自分はこれだけ婚資を支払ったのだからもっと働け」「自分の言うことをきけ」と暴力をふるうこともあります。

●元ファリンティル兵士の処遇に対する不満が社会問題化しています。元ファリンティル兵士によるDVのケースを聞いたことはありますか?

はい。バウカウ県、エルメラ県、リキサ県、ラウテン県などの事例を知っています。特にCPD-RDTL(75年にフレテリンが書いた憲法に戻れと要求している)の関係者は深刻なようです。彼らには、独立後、思うような地位や仕事にありつけていないため、不満がうっ積しています。しかし最も根本的問題は彼らの独善的性向だと思います。自分は解放運動の闘士だ、自分は正しい、だから人は自分に従うべきだという態度です。

●元ファリンティル兵士にも今の軍隊(F-FDTL)の兵士にもAMKVのワークショップが必要ではないですか?AMKVはやる気がありますか?

個人的にはとても興味があります。正直言うと少し怖いので、国連機関がバックアップしてくれれば心強いです(笑)。実際、彼らの人権意識やジェンダー意識を伸ばすことは本当に必要だと思います。★


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