<民話>
ナイ・ルリク(司祭)
Compiled by Agio Pereira, The Timor Book of the Story Teller,
Timorese Australian Council, 1995.
昔、昔、400年か500年も前のことじゃ。
ひとりの王様が、一族を集めてルリク(聖なるもの)の儀式を執り行っていたときのこと、おかしなことがおきた。ティモール島の美しい海岸に大勢の人をのせた船が、一隻やって来たんじゃが。
その者たちは一風変わっていたんじゃよ。けったいななりをしており、それは風変わりで、ティモールの人びとはこんな変てこりんな着物を、それまで見たことがなかった。
そのうちのひとりは黒い着物を着て、首から十字架をぶらさげとった。その日以来、ティモール人はその人を「ナイ・ルリク」(聖なる人)と呼んだ。
そのお方は司祭さまじゃった。それからというもの、司祭さまはみな「ナイ・ルリク」と呼ばれるようになったんじゃ。
「この外国人は今までの者たちとはちがうぞ。われわれの財産を奪うためにこの島に来たのではなさそうじゃ。」
王様はそう独り言を言った。それまでに船でやってきた大勢の人たちとは異なり、今度の人たちはティモールの人びとと戦争をしたがっている様子ではなかった。さあて、王様はいぶかしく思った......
王様は水牛の角笛を吹くよう家来に命じた。それはルリク(聖なるもの)の儀式の終わりを告げるものじゃった。
「皆家に帰るがよい。今しがた船で到着した外国人たちのことは、案ずるには及ばぬ。」
それを聞いて、集まっていた人びとは散り散りに去っていった。
角笛が鳴りやむと、もうあたりには人影は見えなかった。そこで司祭さまは船から錨をもってきて、井戸の中に沈めるよう、お伴の者たちに命じなさった。命令にしたがって錨が井戸の底に沈められた。
すぐ後に、一人の男の子が水くみにやってきて、びっくりした。
「井戸が干上がってる!」
井戸の底に水はまったく見えず、かわりに大きな不思議な物が沈んでいるではないか。見上げると、井戸の口からながあい鎖が伸びて、それはずずうっと船へと続いておった。
男の子は王様に知らせに行くことにした。
「王様、王様!船でやってきたやつらが、おれたちの井戸に大きな物を入れてしまい、水を汲むことができません。一方の端は船にしばりつけてあって、もう片方の端が井戸の中にあるのです。」
王様は、人びとを呼び戻すため角笛を鳴らすよう、再び命令を下した。王様は戦士たちに何が起きているのかを正確に調べるよう言った。戦士たちは井戸へ行き、男の子が言ったことが本当だとわかった。
王様は物体を引き揚げるよう戦士たちに命令したが、あまりに重すぎて、戦士たちにも引き揚げることはできなかった。そこで王様は、鎖を切るよう命じたが、誰一人切ることはできなかった。
王様は司祭さまの方を振り向き、たずねた。
「なぜ、こんなことをするのか?」
司祭さまは答えた。
「なぜなら、あなた方が神のご意志にしたがうことを拒んだからです。それゆえ、わたしたちはこの島を別な海原へと引いていくことにしました。」
しかし、王様は信じず、司祭さまに言った。
「するがよい。どうやってそんなことができるか見たいもんだわ!」
司祭さまは両手をかかげ、天を仰ぐと、お伴の者たちに言われた。
「船を出せ!」
すると船はゆっくりと動き出した。船が動いている間に、地震がおこり、雷がとどろき、嵐になった。岩までもが割れ、砕け落ちた。
このありさまを見た戦士たちは肝をつぶした。ある者は泣き出し、またある者は悲鳴をあげた。
みな司祭さまに向かって叫んだ。
「いやです!私たちはどこへも行きたくありません!あなたが言ったことを信じます!どうぞ上陸してください。私たちの美しい島に。そして神のご意志をお教えください。」
これが「ナイ・ルリク」とそのお方のお伴の船乗りたちがティモールに上陸したいきさつじゃ。
大王が洗礼を受け、戦士たちもそれにならった。
今ではティモールの多くの人が洗礼を受けており、東ティモールでは今でも「ナイ・ルリク」が司祭さまをさすことばとして使われている、というわけじゃ。
(訳:七芽七)