<巻頭言>

主権委譲(独立)2周年

 5月20日は、東ティモール人への主権委譲、いわゆる正式独立の2周年記念日だった。昨年に比べ、マスメディアの伝える東ティモールの姿は、一段と厳しさをましたものだった。
 最も重要な問題は経済で、仕事がない、賃金が低い、公共料金・物価が高いといった具合で、とにかく生活をしていくのがやっとというのが国民一般の状況だ。道路、電気、水道、通信などのインフラも、首都ディリは着々と整備されているが、地方との格差は大きい。教育・保健サービスもやはり地方へ行けばいくほど、細くなる。
 これらはすべて、東ティモールがアジアの最貧国ということを考えれば、仕方がない部分もある。できたばかりの国の、財政の4割をまだ外国政府の援助に依存している政府に、期待できることは限られている。
 オーストラリアがティモール・ギャップの石油・天然ガス開発に関連して、海上国境線の交渉をしぶっているのも、東ティモールの未来に暗い影をなげかけている。この点では、オーストラリアはまったくもって欲深く、現在の国際的な基準を無視して、ティモール・ギャップの資源を自分のものにしようとしている。シャナナ大統領も「東ティモールが永遠に乞食でありつづけるかどうか」の瀬戸際だと言っている。オーストラリアのハワード政権は住民投票以来、東ティモールの独立のプロセスの支援者であったが、それを帳消しにするような今回の態度に、東ティモール人は憤慨している。
 一方、シャナナ大統領は、主権回復記念演説で、新しい警察などつくるのは金とエネルギーのむだ遣いだといって、政府の特別警察設置を批判した。また、政府が野党の集会に出席した公務員を一時職務停止処分にしていることについて、政治的自由がないとも批判した。政権をとったフレテリンが、政治的対立者を排除するシステムづくりに着手していることへの警告だ。
 今の国の枠組を認めず、1975年独立宣言当時の「東ティモール民主共和国」を堅持すべしとして現政権に挑戦し続ける勢力、元民族解放軍兵士で主権委譲後取り残されたことに不満を持つ勢力が、いくつもの事件をおこし、政治的な不安定要因になっている。大統領は彼らに自制を求めた。
 司法分野では、住民投票当時インドネシアの国防治安相だったウィラント将軍を、東ティモールの検察庁重大犯罪部が訴追し、裁判所は逮捕状を発行した。勇気ある前進と思われたが、その後検事総長が逮捕状発行を批判し、重大犯罪部の逮捕状請求そのものをやり直そうとするなど、検察として自己矛盾した行動をとっている。政治的な考慮から正義の追求を躊躇する動きは、その本丸である検察庁にまで忍び寄っている。
 こう書くと暗い時代のように思われるが、ディリ市内を流れる音楽は、逆にすごく明るい。ヒットチャートなどまだない東ティモールだが、この2年ぐらい、ブラジル人歌手レオナルドが断トツの人気だ。歯切れのいいテンポ、甘い熱唱。なんだかんだ言っても独立したことの解放感のあらわれか、あるいは、新たな苦難の時代のなぐさめか。これに続くヒットがまだない、東ティモールである。(ま)


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