<トラウマ>

ティモールの英雄、強盗で投獄される
タウンズビル・ブレティン
Townsville Bulletin 26 Feb 2004

翻訳 松野明久

1999年の住民投票に参加した国連スタッフ、文民警察官、そしてその後投入された多国籍軍の兵士たちの中に、トラウマを経験した人たちが少なくないという事実は、知られている。詳しい実態を知ることはできないが、ときおりニュースというかたちでその現象をかいまみることができる。以下に2つの関連するニュースを翻訳した。とくに、多国籍軍兵士がその後強盗になった事件は、とても痛ましいと言えないか。

荒れ果てたディリで、彼は兵士として輝いていた。東ティモールの紛争で彼は勲章をもらい、昇進もした。しかし、ブレット・ジェームズ・キーオは、昨年6週間に渡って武装して強盗をはたらいた罪で、昨日3年の実刑判決を受けた。ニュー・サウス・ウェールズ州地方裁判所のグレッグ・ホスキン判事は、「わが国の誇る模範兵」に敬意すら表した。ホスキン判事は、キーオの栄誉ある地位からの転落は、若い元兵士の心理的苦悩を浮かび上がらせた事件だったと述べた。
 キーオは決して厚顔無恥な泥棒ではなく、罪の意識に悩み、被害者に謝罪し、金も返還した。「東ティモールでの任についた多くの者たちにとって、そこでの彼らの経験は、夜のテレビ番組を見ていて想像するような暖かいものなどではない」と判事は述べた。
 キーオはオーストラリア軍の第3大隊の兵士として、民兵との対決の狭間に、大量埋葬地から死体を引き上げるといった仕事をした。今32才になるキーオがニュー・サウス・ウェールズ州のグルバーンに戻ったのは2000年のことだ。
 東ティモールに行く前は「社交的で楽しいことが好き」だったこの若き兵士は、「いつも誰かが自分を殺そうとしているという強迫観念をかかえて帰還した」と、キーオの父、ブライアンはジ・オーストラリアン紙に昨日語った。2001年、キーオの親友で一緒に東ティモールに勤務した青年が自殺した。キーオと彼はコントロールできないほど飲酒におぼれ、また時折覚醒アミン(覚醒剤)を注射するようになった。
 キーオはシドニーのイングルバーンにある3軒の店などに強盗に入ったことを認めた。25口径のピストルをもち、キーオは4月13日から5月26日の間、被害者たちを恐怖に陥れた。イングルバーンのレストラン、ピザ・ヘイブンの従業員たちに彼は「死にたかったら、金をよこせ」(編集者:心理的に混乱していたので矛盾した言動となったのか)と叫び、彼らの背後の壁に数発を発射した。キーオはバラクラバ(顔以外の頭をぴったりおおうウールのずきん)をかぶり、毎回600豪ドルを盗んだ。そして、それをいつも返金していた。彼は軍退職金を使って(覚醒剤反応が出たため退職させられた)、盗んだ金額をいつも返金していたのだ。彼は被害者に名前と住所を明かして謝罪文を書き、警察を静かに訪れ、逮捕された。
 ホスキン判事は、キーオは今週、「悲しみと罪の意識」をもって出廷した。判事はキーオの完全な自白を考慮に入れ、本来なら10年の刑であるようなところを減じたと述べた。
 キーオを弁護するかたちで、ベトナム帰還兵のフレッド・アナヤルは、軍がキーオへの対応を誤ったと述べた。「この若い兵士が(カウンセリングとして)受けたものは、ダーウィンでのたったの3時間のブリーフィングだった」とアナヤルは述べた。
 キーオは、フラッシュバックや悪夢を見るという。そして睡眠がうまくとれず、東ティモールにいたときはマラリアにもかかっている。キーオの母、ケイは、彼が6月に逮捕されて以来、拘置所の中でのカウンセリングでよくなってきていると述べた。父親は、彼が一度も助けを求めなかったと述べた。「それはマッチョっていうことなんだ。あいつは中隊の隊長だった。帰ったとき、トラブルをかかえているなんて誰が言えるかね。」

オーストラリア兵の ポスト・コンフリクト・ストレス
ローハン・ウェイド
Sunday Tasmanian
14 December 2003

翻訳 松野明久

オーストラリア軍におけるもっとも最近の帰還兵たち(東ティモール帰還兵)はポスト・コンフリクト・ストレスに陥っている。そう発表したのは、帰還兵の組織だ。東ティモールのような海外での任務についた帰還兵たちは、PTSDS(ポスト・トラウマ・ストレス症候群)を経験しているが、彼らに対する手当ては十分でない、とオーストラリア平和維持軍協会(APPA)とベトナム帰還軍人会は述べた。

オーストラリア軍は、帰還兵はいろいろと問題を抱えているが、メンタル・ヘルス支援は昨年スタートしたプログラムにおいて徐々に改善されつつあると述べた。ポール・コプランドAPPA会長によれば、タウンズビルでは東ティモール帰還兵の51%がPTSDSをかかえており、それは30年前にベトナム帰還兵がかかえていた状況とまったく同じだ。他地域では5人に1人が同様の問題でカウンセリングを受けている。コプランド氏は、東ティモール帰還兵もカンボジアやソマリア帰還兵たちと同じ問題に陥っていると述べた。
 多くの若い帰還兵は問題があることを認めたがらない。医学的な理由で除隊させられるのが怖いからだ。「首がかかっているんだ。仕事を失いたくないから、悪いところがあるなんて言わないのさ」とコプランド氏は言う。彼によると、その結果軍隊内部での不法なドラッグの使用が増えている。しかし、軍はそういう問題があることを認めない。「リハビリが決定的に重要だ。しかし、メンタル・ヘルスプログラムはちゃんと機能していない」とコプランド氏は言う。
 ベトナム帰還軍人会会長のブライアン・マッケンジー氏は、軍は最近帰還した兵士たちの世話をする責任があると述べる。「彼らは人を殺すことを教えている。それはまったく人間の本性に反する行為だ。そして人がその プレッシャーによって破綻しても、ポイと捨てるだけなんだ」と言う。
 マッケンジー氏は、ベトナム帰還軍人会は若い兵士たちの権利のために闘う覚悟だと語った。政府が昔の帰還兵が年をとって数が少なくなっていくのにつれ帰還兵への支援を削っていくことを恐れているという。マッケンジー氏は、「若い兵士が任務からもどってきて、かつての帰還兵とまったく同じ問題をかかえているんだ」と語った。「中には、自分のやらねばならなかったこと、見なければならなかったことに耐えられない者もいる」と。
 オーストラリア軍メンタル・ヘルス担当者のトニー・コットン氏は、メンタル・ヘルスに大きな関心を払うということは、軍人がもっと支援を受けられるようになるということだと語った。コットン大佐は「任務につく者たちの世話をちゃんとみないといけない」と述べた。
 「確かに、彼らは非常に難しい状況で非常に難しい仕事をするよう訓練されている。われわれは彼らにこうした仕事をするのは文脈があってのことだと教えないといけない。そしてもし問題を感じたら、援助の手を差し伸べないといけない」とコットン大佐は言う。
 20年の心理学の経験をもつコットン大佐によれば、東ティモール帰還兵に対しては、問題をきちんと把握するための検査を実施するということでプログラムがすでに動いている。そのプログラムは、帰還兵に対して個別的な支援が行えるというものだ。ただ、すべての帰還兵を対象としてはおらず、中には必要のない者もいる。「中には難しいことを自らやってのける者たちもいる。一方、支援の必要な者たちもいる」とコットン大佐は語った。


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