<保健>

続「東ティモールコンドーム論争」
東ティモール保健省のHIV/AIDSに関する政策

古沢希代子

2003年12月3日のティモール・ポスト紙は、ルイ・アラウジョ保健相がHIV感染者やエイズ発症者に対して同省が提供できるのは心理面のケアのみであると語ったと報道した。この報道は同大臣に確認され、同省が抗レトロウィルス薬の投与を含めて医療面のケアを提供できない理由は資金と人材がないこと、現在は予防のための啓発活動に尽力しているという見解が示された。一方この時期、アルカティリ首相が2003/04年度予算は25%の赤字を抱えていると語っており、深刻な財政逼迫の中でHIV/AIDSへ対応の遅れが懸念された。
 しかしその後保健省はHIV/AIDSの関連でさまざまな政策を打ち出している。3月8日の「国際女性デー」に教育省会議場で開催される記念セミナーのテーマも「女性とHIV/AIDS」となり、ルイ・アラウジョ保健相がHIV/AIDSについて、また、UNFPA(国連人口基金)のジョゼ・アントニオ医師が家族計画について講演を行なう。
 本稿ではHIV/AIDSをめぐる同省の一連の政策を紹介する。

■エイズ発症者は4名

東ティモール人でこれまでにエイズを発症したのは4名、うち2名がすでに死亡している。保健大臣は、HIV感染の一般的原因として不特定多数の相手との性交渉の他に入れ墨の施術をあげている。
 一方、東ティモールではHIV/AIDSに関する情報は人々の間にいきわたってはいない。2002年度にUNICEF(国連児童基金)が行なったMultiple Indicator Cluster Survey(複合指標群調査)によると、15才から49才までの女性でHIV/AIDSについて聞いたことがある人は16%、そのうち感染防止の主要な方法とエイズに対する誤解(感染者から食べ物を買っても安全か/感染者の教師が子どもに教えても安全か)を正しく理解していた人は全回答者の数パーセントのみだった。

■抗レトロウィルス治療導入に関する政策

 東ティモール政府は2002年に「HIV/AIDS及び性感染症への対包括的及び多部門統合的対応のための国家戦略計画」を発表し、2003年9月に国家エイズ委員会を設立した。2002年の「国家戦略計画」はその目標のひとつとして、HIVや性感染症を防止し適切な治療と支援措置を可能とする保健医療システムを構築することを掲げていた。HIV感染者やエイズ発症者への医療支援は重要である。それは人々に治療や苦痛緩和への希望を与え、より多くの人々が検査を受けることにつながるからである。
 2004年1月、保健省は「抗レトロウィルス治療導入に関する政策案」を国家エイズ委員会に示し、抗レトロウィルス治療導入への意思を明らかにした。
 この政策案で、保健省は、HIV感染者およびエイズ発症者への医療ケアや支援措置が患者、家族、コミュニティーの負担を軽減するものであること、しかし、医療ケアといった場合、それは単に抗レトロウィルス薬を感染者に投与すればよいといったものではなく、抗レトロウィルス薬が適切に使用されるための広範な管理・ケアが必要であることを強調している。肝心な点は、そういった面もふまえつつ、国際社会の協力のもと、医療ケアに抗レトロウィルス治療を導入していく意思を明言していることである。同省はまた、HIV感染者を特定し必要な支援を行なうには、すでに実施されている「自発的カンセリング及び検査(VCT)サービス」が重要な役割を担うとしている。
 同案が提案している医療ケア及び支援措置には、VCT、検査前と後のカウンセリング、HIV感染症状への医学的措置(抗レトロウィルス治療導入薬の投与及び日和見感染性疾患対策)、看護、家庭やコミュニティーでのケア、コミュニティーにおけるサポートグループの形成、感染者・発症者に対する差別の根絶、医療施設間での連絡・搬送システムなどが含まれている。また、抗レトロウィルス治療は保健省が指定した医療機関によって実施され、そこにはHIV/AIDS関連の医療措置について訓練を受けた人員が配置される。抗レトロウィルス治療薬は、HIV感染が進行した(ガイドラインによって定義)者、母子感染、ウィルスに接触した医療従事者・検査技師の感染予防などに使用される。

■家族計画に関する政策

 前掲のUNICEFによる複合指標群調査では、調査に答えた3313人の女性(及びその配偶者)で何らかの避妊を行なっている者の割合は7.3%だった。回答者のうち何らかの近代的避妊方法を採用している人が6.7%、何らかの伝統的避妊方法を採用している人が0.6%、避妊方法の内訳(少数点下一桁まで)は、女性の不妊手術0.1%、男性の不妊手術0%、ピル0.9%、IUD0%、注射5.5%、インプラント0.1%、男性用コンドーム0%、女性用コンドーム0% (使用者約5名)、殺精子剤0%、LAM0.2%、定期的禁欲0.3%、その他0.1%であった。これはサンプル調査であるが、避妊は女性の側が行なっており、男性がコンドームの使用にきわめて非協力的である傾向がうかがえる。
 保健省は12月に「家族計画に関する政策」を発表し、この世界的に見てきわめて低い避妊実行率に注意を喚起し、1994年の国連人口開発会議で合意されたリプロダクティブヘルスの原則に基づき、保健省母子保健局が管轄し、東ティモールの文化的宗教的背景に配慮した、避妊に関する情報、カンセリング、手段の提供を実施する方針であることを明らかにした。2003月3月、カトリック教会のナシメント司教は、ルイ・アラウジョ保健相への書簡の中で、基本的に教会が認めていない人工的避妊方法についても、現出しているさまざまな問題に鑑みて、保健省がその実施に責任を持つものに関しては一定の理解を示すことを表明している。同省によると病院から報告される性病感染者の数も増加している。

■思春期のリプロダクティブヘルスに関する政策

 思春期は性的に活動的な時期である。しかし、この時期に必要な人権に対する意識と自らの生殖機能に関する知識の欠如が、この時期の少女と少年に、性的暴力、望まぬ妊娠、危険な中絶、性病感染などの問題をもたらしている。
 保健省は、まず、省内関係部局、教育省、女性団体、市民団体、宗教界指導者、専門家からなる作業グループを立ち上げ、学校用のセクシュアリティ及びリプロダクションヘルスに関するカリキュラム開発や啓発のための会合を支援する方針を提示している。 カリキュラムに含まれるものとして提案されている項目は、生殖器官の解剖学及び生理学、人間の身体的、精神的発達と性的成熟、家族、友人、異性との関係のもち方、意思決定や意思伝達や交渉の技術、性的行動と禁欲、妊娠と出産の過程、生殖器官の病理学、避妊方法、宗教的道徳とセクシュアリティ、結婚前の準備などである。


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