<声明>

 東ティモールに自由を!全国協議会は、一貫してインドネシア「東ティモール特別人権法廷」が下した判決に対し抗議声明を出し続けてきた。法廷そのものが体をなしておらず、東ティモールを侵略し不法支配してきた事実を省みず、残虐行為を行った者を免罪するためのものでしかなかった。
 東ティモールに自由を!全国協議会は、8月5日のアダム・ダミリ少将に下された判決に抗議し、国際法廷を求める声明を出した。


2003年8月29日

インドネシアの人権法廷は真実を覆い隠し
実行犯に不処罰の褒美を与えました
私たちは、これに抗議し、国際法廷の設置を求めます

 2003年8月5日、インドネシアの「東ティモール特別人権法廷」は、インドネシア軍のアダム・ダミリ少将に、判決を言い渡しました。これで、インドネシアの「東ティモール特別人権法廷」に起訴された18人の判決が、一通り言い渡されたことになります。
 アダム・ダミリ少将に下された禁固3年という判決は、これは、インドネシア自身が定める「人道に対する罪」の最低刑期10年にも満たないもので、ダミリ少将が、1999年当時、東ティモールを管轄するインドネシア軍ウダヤナ軍管区司令官であったこと、そのもとでインドネシア軍とその手先の民兵による大規模な人権侵害と破壊が行われたことを考えると、全く犯罪の重大さに釣り合った刑ではありません。
 これまでに、同法廷は、以下のように、18名の被告のうち12名に無罪判決を言い渡し、有罪の判決を受けた6名についても、ほとんどが「人道に対する罪」の最低刑期としてインドネシアが定めた刑期を下回るという、異例の判決を下したことになります。

2002年8月14日 アビリオ・ソアレス元州知事(東ティモール人)、禁固3年
2002年8月15日 ティンブル・シラエン准将・元東ティモール警察長官、無罪
2002年8月15日 スアイ虐殺判決
  ヘルマン・スドヨノ中佐・元コバリマ県ブパティ、無罪
  リリ・クシャルディヤント中佐・元スアイ軍司令官、無罪
  アフマド・シャムスディン大尉・元スアイ軍参謀、無罪
  スギト中尉・元スアイ軍小隊司令官、無罪
  ガトト・スビアクトロ大佐・元スアイ警察長、無罪
2002年11月27日 エウリコ・グテレス元アイタラク司令官・PPI副司令官、 禁固10年
2002年11月29日 エンダル・プリヤント中佐・元ディリ警察司令官、無罪
2002年11月29日 リキサ虐殺判決
  アセプ・クスワンディ中佐・元リキサ軍司令官、無罪
  アディオス・サロバ中佐・元リキサ警察長、無罪
  レオネト・マルティンス元リキサ県ブパティ、無罪
2002年12月27日 スジャルウォ中佐・元ディリ軍司令官、禁固5年
2002年12月30日 ヤヤト・スドラジャト大佐・トリブアナ軍師団中尉、無罪
2003年1月20日 ヘルマン・グルトン元ディリ警察長、禁固3年
2003年3月12日 ノエル・ムイス准将・スハルトノの後継者、禁固5年
2003年5月22日 スハルトノ・スラトマン准将・元東ティモール軍司令官、無罪
2003年8月5日 アダム・ダミリ少将・元ウダヤナ軍管区司令官、禁固3年

 私たちは、インドネシアが進める「東ティモール特別人権法廷」には設置の当初から危惧を表明し、2002年8月と12月、二度にわたって、国際法廷を求める声明を発表してきました。
 今、改めて立ち戻って、インドネシアの法廷が、その設置の当初から持っていた原理的・法的問題、及び審理を進める過程で明らかになった問題を整理しておきたいと思います。

a.本来、東ティモール問題は、インドネシアによる東ティモールへの侵略と不法占領という国際問題です。また、1999年の住民投票前後における暴力は、国連東ティモール人権調査団の2000年1月報告書にも明言されているように、インドネシア当局が治安を担当するという国連との合意にもかかわらず行われたという点でも、国際的な問題です。この問題を、インドネシアの国内的手続きで処理しようということ自体が、問題の全体性を失わせることになります。

b.インドネシアの「東ティモール人権侵害特別法廷」は、その管轄が恣意的かつ極端に制限されています。同法廷が扱うのは、1999年の4月と9月に、東ティモール全13県のうちディリ、リキサ、コバリマの3県のみで起きた事件を対象としています。これにより、例えば、1999年9月8日に犯されたマリアナ警察署での虐殺事件のような大きな事件が対象外とされてしまいます。さらに、人道に対する罪の成立に必要な個別の犯罪が置かれる文脈の体系性の検討自体が不可能にされてしまっています。管轄だけを見ても、インドネシアの人権侵害特別法廷が、人道に対する罪を扱うと称しながら、実際にはその機能を持ち得ないことが明らかでした。

c.管轄の恣意的制限との関係で、起訴対象となった被疑者も恣意的に制限されています。例えば、インドネシア自身が設置した東ティモール人権調査委員会(KPP−HAM)の当初報告では、インドネシア軍総司令官ウィラント将軍(当時)、ザッキー・アンワル少将を含む33名が容疑者としてあげられていました。けれども、法廷の起訴対象としてあげられた人々の中から、こうした最上級の容疑者は削除され、18名に減らされています。

d.問題点bおよびcに対応して、ほとんどの被告に対する検察側の起訴内容自体が、暴力と破壊の体系性を問わずに、1999年の暴力を自然発生的なものとした上で、それを阻止しなかったことを罪としています。そのため、アビリオ・ソアレスに対する求刑も、10年6カ月と、人道に対する罪としては最も軽いものでした。1999年に犯された暴力の、国際的およびインドネシア自身による調査報告でも明言されている、隠しようのない体系性を考えると、この起訴内容が真実の明確化に真っ向から対立していることは明らかです。アダム・ダミリ少将に対しての審理及び判決でも、同じような事実性の歪曲が伴っていました。

e.実効性のある証人保護規定がないため、重要な証人が出廷できないことがありました。法廷では、傍聴席にインドネシア軍関係者が多数ならび、また、法廷の外では、民兵たちが示威行動を繰り返すなどの状況があり、適切な証言を得られない状況がありました。

f.さらに、検察は、2000年1月に発表された国連人権調査団の報告も、同じ時期に発表された東ティモール人権調査委員会(KPP−HAM)の報告も立件に十分利用せず、また、調査に関わった人々を証人として立てることもしませんでした。さらに、1999年当時投票プロセスを担当していた国連東ティモール支援団(UNAMET)の国際職員や独立の投票監視員も、証人として召喚しませんでした。

g.同法廷における判事や検事の選出プロセスに不透明な部分が多々あったことが、法廷設置手続きが進んでいた当初から指摘されています。

 18人の被告に対して判決が下され、その審理過程を振り返ることができる今、ここに述べたような、私たちが当初から抱きそして判決が出される度に確認してきた問題が全体を貫いたまま、法廷が終了したことは、完全に明白です。
 その結果、インドネシアの「東ティモール特別人権法廷」は、次のような、法廷に求められる役割とは全く逆の効果を生み出してしまったことになります。

a.インドネシア軍による民兵の創設と訓練や武器の提供、体系的な人権侵害と破壊の指示を巡る真実を明らかにするかわりに、一貫して「併合派」と「独立派」の対立を阻止できなかったインドネシア軍という、真実をねじ曲げるシナリオの宣伝として使われた。

b.人権侵害の実行犯を処罰することにより、インドネシアで蔓延してきた不処罰の慣行に終止符を打つかわりに、人権侵害に対して裁判により、むしろ公に不処罰が認められることになった。

 東ティモールにおける「人道に対する罪」を巡り、その実行犯の責任がきちんと問われないことにより、以下のような、様々な悪影響が生まれることになります。

a.事実の隠蔽と実行犯の不処罰は、東ティモールにおいて和解や未来の構築に暗い影を落とす。東ティモール人の和解に務めている「受容・真実・和解委員会」のイサベル・アマラル=グテレス委員が、「正義を避けて和解に到達することはできない。人々は和解を望んでいるが、正義を伴う和解を望んでいるのである」という言葉にも、実行犯の責任が法的に裁かれないことの悪影響は示されています。

b.インドネシア軍の不処罰は、インドネシアで現在も続いている軍による人権侵害を悪化させる。2003年5月19日、インドネシア軍はアチェで、1975年の東ティモール侵略以来の大規模な軍事作戦を開始し、大規模な人権侵害を続けています。しかも、その作戦司令には、アダム・ダミリ少将その人が関与しています。インドネシア内での軍の人権侵害と民主化の阻害に東ティモールを巡る「東ティモール特別人権法廷」が与えてしまった悪影響は、はっきりと現れているのです。

インドネシアにおける裁判が国際的な基準に従って法的に納得できる結果を生み出さなかったこと、そして、東ティモール問題がインドネシアによる侵略と不法占領という国際問題であること、1999年の住民投票時の暴力がインドネシアと国連との合意に反して行われたことを踏まえ、私たちは、東ティモールで犯された人権侵害、人道に対する罪、戦争犯罪を巡って正義を実現するためには、国際的な場での司法手続きが不可欠だと考えます。「国際社会」が、24年にわたる、インドネシアの東ティモール不法占領を黙認してきたことをも考えあわせると、これは、何よりも優先されるべき国際社会の責任であることを改めて繰り返します。

住民投票4周年記念日を前に、
私たちは、改めて、ここに、国際法廷の設置を求めます。

東ティモールに自由を!全国協議会
札幌東ティモール協会
仙台・東チモールの会
東京東チモール協会
東ティモール支援・信州
名古屋YWCA東チモールを考える会
大阪東ティモール協会
岡山・東ティモールの声を聞く会
善通寺・東チモールと連帯する会
下関・東チモールの会
大分・アジアと日本の関わりを見つめる会
東ティモールと連帯する長崎の会
日本カトリック正義と平和協議会


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