| 大学3年の時に遺伝学の授業がありました。担当は芳賀先生。もう定年が近いお年でしたが、枯れているようで、しかし、若い頃はーーというダンデイさもあってーーー。学生も、周りの先生達も、敬愛の気持ちを込めて、ハガジー(Hagazy,芳賀爺)と呼んでいました。 さて、ハガジーの遺伝学は4単位30回の講義のはずですが、滅多に無し。記憶では年にやっと10回くらい。それでも優を貰ったので文句はありません。今の、せちがらい時代には、ハガジーのような先生はもう現れないだろうなと、シロバナエンレイソウを見ながら、懐かしく思い出しました。
ハガジーが来ないのは講義が嫌いな(きっと)せいもありましたが、実はエンレイソウの研究のため、研究室のスタッフ半分を引き連れて、北海道に行ってしまうからなんです。
エンレイソウは九州にもありますが、樺太などの北方アジアから北海道、東北の冷涼な気候帯で繁栄する植物です。ハガジーはこの北方アジアから北日本にある様々な種類のエンレイソウがどのようにして生まれ、そして、どのように進化してきたかを研究していたのでした。
北大の植物園(札幌一のおすすめの場所です)の一角にはエンレイソウを集めたエンレソウ園があって、そこを拠点に仕事をしていたようでした。卒業してから素晴らしい講義だったと気がつきました。もっと真剣に聞いておけばよかったと反省しています。
さて、ハガジーに依るエンレイソウの進化の物語です。
(1)
もともとエンレイソウには基本となる3種がありました。それは
オオバナノエンレイソウ、絶滅し消えてしまった A と B の3種です。
(2)
そして、AとBが交配し、よく見るエンレイソウが生まれました。
また、オオバナノエンレイソウとAが交配して生まれたのが、この写真のシロバナエンレイソウです。
(3)
そしてさらに種の進化は続きます
エンレイソウ+オオバナノエンレイソウ→コジマエンレイソウ
エンレイソウ+シロバナエンレイソウ→ヒダカエンレイソウ
こうして地上から消えたA種とB種の遺伝子はエンレイソウの中で保存され、あるいは、エンレイソウとシロバナエンレイソウの中に別々に残されたA種の遺伝子は、ヒダカエンレイソウの中で再び出会ったのでした。ややこしいので下に図をつけました。
オオバナノエンレイソウーーーーーーーーーオオバナノエンレイソウ
+ →→→ シロバナエンレイソウ
絶滅したA + →→→ ヒダカエンレイソウ
+ →→→ エンレイソウ
絶滅したB + →→→ コジマエンレイソウ
オオバナノエンレイソウ
というわけです。
このように種は絶えず生まれ、変化し続けるもの。しかも、厳密に調べれ調べるほど、種の境界はあいまいになってくる事を学びました。種というものは厳然として、絶対的と思っている人は間違い(大体が種の区分は、ヒトが便宜的に、仮につけているもので、本来実にあいまいなものです)。
時々、例えば、毛があるかないか、葉が広い狭いなどを元にして、別種だといいはる人もいます。見間違うと、鬼の首でも取ったように、非難の眼差しで見る人がいます。が、そんな態度は自然嫌いを増加させるだけ。大きな箱に入れておいて「色々ある、変異が多い」で充分だと信じています。いちいち細かい事にこだわって別の箱にいれてもかまいませんが、私は好きではありません。それでも、毛にこだわる人には、ぜひハガジーの講義を聞かせてあげたいな思います。
さて、ハガジーは 『どこかで新しいエンレソウが生まれている』 と予想して探し続けます。 そして、ついにシロバナエンレイソウとオオバナノエンレイソウの雑種 シラオイエンレイソウ を発見します。
『今、ここで、新しい種が生まれつつあるんだよ』。よく分からないまま感動しました。
ハガジーが見つけたシラオイエンレイソウには芳賀に因んで hagae という種小名が与えられています。そして、Trillium hagae (独立した種)ではなく、ハガジーの種に対する考え方を尊重して Trillium x hagae( xは雑種を意味)と名付けられています。
分類が苦手なので、芳賀先生の話を悪用してしまいました。芳賀先生すみません。 |