●ろう者音楽(Deaf Music)

 ろう者にとっての音楽ってなんだろう?
これが私の課題でもあった。ろう学校の小学部、中学部での音楽の授業ほど退屈なものはなかった。オルガンを弾いたりすることは面白いけど、聞くということは大変なわざでもある。聴者の多くは音楽が好きだという。何故、聴者にとって音楽は魅力あるものなのだろうか?
 これについて考えてみた。私たちろう者は聞くということは普通、しないものだ。「聞こえない」のではなく、ろう者だから「聞かない」のである。わざわざ聞く必要もないのだ。聴者が作った音楽など、ろう者が楽しめる筈はないのは当然のこと。
だから、私はろう者にとって音楽は無縁のものであると思っていた。
 しかし、聴者はいつも「音楽は素晴らしい」という。ろう者にとって聴者が楽しめる音楽と同じようなものがあるはずだと、いろいろ研究してみたがどうもうまくいかない。

 アメリカの友人や、スウェーデンの友人に「ろう者でも音楽は楽しめるの?」と聞くと、いつも「私は音楽が好きだ。すごく楽しいよ。」という。音楽は聴者のものに限らず、ろう者のための音楽もあるというのだ。これを世界では、デフ・ミュージック(Deaf Music : ろう者音楽)と呼んでいる。
 去年、フランス映画「音のない世界で」が上映されたとき、冒頭のところで、ろう者が手話で歌っている場面に遭遇した。瞬間であったが、その美しさはなんともいえないものがあった。そして、去年の秋に、アメリカから「DOORS」というろう者音楽グループが来日した。関東を中心に各ろう学校などで、デフ・ミュージックを演じた。また、今年の5月11日に戸田市公民館で行われたサインマイムショーで、バーナード・ブラッグさん(ろう者)がデフ・ミュージックを披露した。彼の音楽に共鳴され、私たちの心はその音楽を楽しんでいた。

  ショックだった。

生後28年目にしてようやく音楽の素晴らしさを知ったからである。
 以下は私の友人(ろう者)の感想を引用させて頂いたものである。

「様々な音が織りなされて生まれた音楽を耳で聴いて楽しむように、様々な動きが織りなされて生まれたDeaf Musicを目で見て楽しむ。聴力レベルの程度に関係なく、すべての聞こえない人が一緒に楽しめるような音楽の存在を知って嬉しいです。」

それほどに多くのろう者の心を捉えたデフ・ミュージック!
われわれも、デフ・ミュージックに挑戦しようではないか!日本ではまだデフ・ミュージックは始まったばかりである。
 今年はデフ・ミュージック元年になるかもしれない。

1996年記す(文責:棚田 茂)