では、「厳しい稽古」をどう伝えるか。そのような映像を作る、映像に語らせることが重要ですが、ここでは言葉で表現する場合について。言葉の前に「非常に」とか、「信じられないくらいに」とかの言葉で厚化粧するのではなく、聞く人がイメージできるような表現の例を紹介しましょう。
俳優の梅沢富美男さんが、芸にかける母親の指導の厳しさを次のように語っています。
(NHK ETV〔シリーズ日本の母〕から話の要旨を)
【印象的だったのは、『私が死んだ時には泣いたらダメよ。絶対に泣かないで頂戴…。』<中略>
僕が九州で公演をやっている、その本番5分前におふくろが亡くなったんです。みごとなもんですね。芝居は5分前にはベルが鳴るんですが、その途端に電話がかかってきて、『今亡くなりました』と。
今だから言えますが、放心状態になるし、涙があふれるくらいに…。ずっとそばにいて苦労してきた親が死んだんですから悲しくないわけはないんです。でも悲しいと言っている場合じゃないんです。舞台に出なければ…。出て行って笑わなければいけないんです。
笑った顔を見せなければならない、それをやれっていうことですね。『私は女優なんだから、アンタは女優の子供なんだからやんなさい』って言うんです。最後の試練なんですね。『ちゃんと演じてきなさい。教えたでしょ。役者は痛い、痒いなど顔に出さないのよ。役者は真顔で好きだとか、嫌いだとか、泣いたり、笑ったりできるんでしょ。じゃあ、やんなさい。お客さんが望むならね。お客さんが、お母さんが死んだら泣きなさいと言うなら泣きなさい。でもお客さんは高い金を払って、アンタの笑顔を見たい、芸も見たい、踊りも見たい、歌も聴きたいんでしょ。だったら一生懸命やんなさい…。』
…それができないんだったら役者じゃない、ということなんでしょうね。最後の最後まできつい試練を与えてくれた、ということですね】