しかしビデオを見たSさんから言われたのは冒頭の言葉。まあまあの出来と自負していた私たちは戸惑いました。何故ダメなのか、何がいけないのかがよく分からないというのがホンネでした。そこで、先生に来ていただき、どこがどうダメなのかを伺うことにしました。
わが仲間たちは、スタッフのひとり、Kさん宅に集合しました。緊張の空気に包まれてSさんの話を一通り伺ったあと、実際に収録した映像を見ながら、音楽監督としてどんな映像が欲しいのかを確認することにしました。収録時を再現するかのように、モニターテレビを並べて4本の素材テープを同時スタート。
これはダメ! この楽器はいりません←→「え、こんなにうまく撮れているのに!」
怪訝な顔の私たちにSさんは言います。「この楽器の子たちは伴奏です。ここで映さなくてもいいんです。大切なのは第一バイオリンです。だいじな旋律はバイオリンがつとめています。こんなに盛り上がってもいるし、カメラは主旋律の第一バイオリンから離れてはダメなんです」←→「でも、そうすると全員を画面に入れられなくなる……」。私たちの心配をよそに、Sさんは、「これでいいんです。ステージ全体(ロングのこと)の映像がありますから」
「これはホルン協奏曲です。何故ほかの楽器を映すのですか?」←→「ホルンばっかりでいいのでしょうか……」
「この曲は『ホルン協奏曲<第3番>』(モーツァルト)なんです。ホルンを中心に曲が展開しています。必要がない限りは他の楽器を入れないでください」
Sさんが言われているのは、「ホルンがソロの時には徹底してホルンを追うこと。バイオリンが主旋律を引き取るときには、そこを狙えばいい」というわけです。
「こども音楽会と演奏会は違いますよ」
私たちは音楽を撮るとき、演奏する人たちが画面にまんべんなく入るよう撮影時も編集時も細心の注意を払ってきました。自信なさそうな子がステージの隅にいたら積極的に撮りにいきました。このグループは何回使った(編集映像に入れた)かを確認することもありました。それゆえに父母保護者から喜ばれてもいました。しかし、このオーケストラと向き合って、私たちのビデオ作りは根本から覆ろうとしていました。これまで、「往復パーンは望ましくない」という教えを守ってきたものが、主旋律を求めてカメラを振れば、撮影技法の基本は吹っ飛んでしまいます。「往復パーンの途中を切って繋ぐのは良くない」というルールも、大切な音が聞こえてきたら、すかさずそのカットをつながなければならないとなると、今までやってきた編集の基礎が覆ります。正直言ってショックでした。
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もう1回挑戦したい
こうして去年秋の演奏会ビデオは惨憺(さんたん)たる結果に終わったのです。しかし、「もう懲りた」と言いながら、まさに舌も乾かぬうちに、今春3月の演奏会を撮る事になりました。「このままでは引き下がれない」というわけです。恐る恐る撮影を申し出ることにしました。
3月のその日、私たちは助っ人としてTさんに撮影スタッフに入ってもらい、Kさん、Hさん、Cさんを配して、筆者は「遊軍」兼「連絡係」兼「プロデューサー」で今度は4カメ収録を試みました。合言葉は「主旋律を追え!」
ここで問題発生。演目の中に「英雄」(ベートーベン)がありますが、この演奏時間が50分もあるのです。3時間テープの入るDCR250は良いとして、DCRPD150は、40分しか収録できず、演奏中にテープ交換しなければなりませんでした。撮影は何とか終わりましたが、実はこのことが編集作業を複雑(音声の頭あわせ)にしてしまい、2ヶ月も経過した今も完成せず、編集の苦戦が続いているのです。
ビデオの論理で音楽ビデオを作ってみたい
音楽の指導者の立場から、映像についていろいろとアドバイスされました。クラシック演奏会には特有の論理があるということは、私たちにも理解できました。でも、ビデオマンとしては「ビデオの論理で誰にもわかる音楽ビデオを作れないだろうか」とこだわりたいところです。私たちはまだあきらめずチャレンジするつもりでいます。
しかし収穫もありました。クラシック演奏会の論理がわかったこともそうですが、技術的には大きな進展がありました。シンクロロール編集がマスターできたおかげで、ABロールが1フレームの狂いもなくピタリと決まるテクニックが身に付きました。まだテープのアタマ合わせの難しさはありますが…… やりますよ、また。