No.18「音楽界ビデオ、わが苦闘記」 

(稿:三石あき)



はじめに

 この紙上講座「JVAビデオ作品講座」では、これまで「分かってもらえそうなこと」、「もっともなこと」を意識して書いてきました。でも、反響がない、反論もない、手応えに乏しい時、「何か役にたっているのだろうか?」、「JVA会員にはどうでもいいことを書いているのではないだろうか?」、ふとそんな不安にかられます。
 それはともかく、この「作品講座」は、総論的な要素を前号までで終えました。これから各論的なテーマに入っていきます。そこで、今回から書き方を少し変えてみます。私的な失敗談や悩みなども入れながら書いてみようというのが、筆者の構えです。まずは、題して「わが音楽ビデオ、制作苦闘記」です。

 (1)音楽指導者にしりぞけられたビデオ

 「こんなビデオではだめですよ」
 私が仲間たちと一緒に作った「音楽会ビデオ」を届けたところ返ってきた言葉がこれでした。
 詳しくお話しましょう。

 関東地方で活躍しているアマチュアの交響楽団があります。こども(小学校高学年)から20歳くらいまでの人たちが演奏活動をしています。指導者(=音楽監督)は、音楽指導の達人S先生。40年の教師生活(中学校→小学校)をとおして、勤務する学校をたびたび器楽演奏の全国一位に導きました。ほぼ2年に1度の驚異的なペースです。Sさんは教師を定年退職した6年前、少年少女オーケストラを結成、指導を続けています。
 私が関わったのは、去年の秋の「結成5周年記念特別演奏会」の記録ビデオの制作。出来上がったビデオをSさんに見ていただいたところ、「これではだめ」といわれたのです。


 2)5カメ収録ビデオを素材にビデオを作る
 まず演奏会の収録(撮影)方法から紹介します。
  • 会場は自治体の大ホール(1790人)です。オーケストラは総勢150名。
  • カメラは5台<業務機が4台に民生機VX1000が1台>。
    配置は、2Fセンター1台、2F下手列1台、2F上手前列1台、ステージ上手の横上器材室1台、ステージ(指揮者を前から見る位置)1台。
  • 収録は各カメラごとに(会場が広くてケーブル配線や無線使用などからSW収録に適さない)。メイン音声は会場のラインアウト(キャノン)から。
  • プログラム内容は、1部はSさんの指揮でクラシック、2部は宮川泰さんの指揮で、クラシックと宮川さんの曲「宇宙戦艦ヤマト」など。
  • カメラのスタッフは、JVA仲間のKさん、Hさん、Cさん、筆者、プラス友人の5人。
 (3)編集の楽しさが見えて……
     5本のテープの中から会場のラインアウト音声を入れたテープをメインにして、これに外のカメラ映像をABロール編集していく。恥ずかしい話ですが、デッキと編集機器をデジタル対応にして間もない頃で、SYNCROLL編集の機能がよくつかめず、1カットごとに3本のテープにIN、OUTキューを打っていました。もちろん、時間はやたらとかかります。その上、音声にズレが生じることもあって油断はできません。
  •  さて、5本の映像をインサートしてできあがり。最後には全団員の名前をロールで入れるオマケ付き。
    「これならいいだろう」と80%程度の満足で届けた次第です。
 (4)「カメラは主旋律を追え」

 しかしビデオを見たSさんから言われたのは冒頭の言葉。まあまあの出来と自負していた私たちは戸惑いました。何故ダメなのか、何がいけないのかがよく分からないというのがホンネでした。そこで、先生に来ていただき、どこがどうダメなのかを伺うことにしました。
 わが仲間たちは、スタッフのひとり、Kさん宅に集合しました。緊張の空気に包まれてSさんの話を一通り伺ったあと、実際に収録した映像を見ながら、音楽監督としてどんな映像が欲しいのかを確認することにしました。収録時を再現するかのように、モニターテレビを並べて4本の素材テープを同時スタート。

 これはダメ! この楽器はいりません←→「え、こんなにうまく撮れているのに!」
 怪訝な顔の私たちにSさんは言います。「この楽器の子たちは伴奏です。ここで映さなくてもいいんです。大切なのは第一バイオリンです。だいじな旋律はバイオリンがつとめています。こんなに盛り上がってもいるし、カメラは主旋律の第一バイオリンから離れてはダメなんです」←→「でも、そうすると全員を画面に入れられなくなる……」。私たちの心配をよそに、Sさんは、「これでいいんです。ステージ全体(ロングのこと)の映像がありますから」

「これはホルン協奏曲です。何故ほかの楽器を映すのですか?」←→「ホルンばっかりでいいのでしょうか……」 「この曲は『ホルン協奏曲<第3番>』(モーツァルト)なんです。ホルンを中心に曲が展開しています。必要がない限りは他の楽器を入れないでください」
 Sさんが言われているのは、「ホルンがソロの時には徹底してホルンを追うこと。バイオリンが主旋律を引き取るときには、そこを狙えばいい」というわけです。

「こども音楽会と演奏会は違いますよ」
 私たちは音楽を撮るとき、演奏する人たちが画面にまんべんなく入るよう撮影時も編集時も細心の注意を払ってきました。自信なさそうな子がステージの隅にいたら積極的に撮りにいきました。このグループは何回使った(編集映像に入れた)かを確認することもありました。それゆえに父母保護者から喜ばれてもいました。しかし、このオーケストラと向き合って、私たちのビデオ作りは根本から覆ろうとしていました。これまで、「往復パーンは望ましくない」という教えを守ってきたものが、主旋律を求めてカメラを振れば、撮影技法の基本は吹っ飛んでしまいます。「往復パーンの途中を切って繋ぐのは良くない」というルールも、大切な音が聞こえてきたら、すかさずそのカットをつながなければならないとなると、今までやってきた編集の基礎が覆ります。正直言ってショックでした。
 (5)雪辱に燃えた3月演奏会撮りだが

もう1回挑戦したい
 こうして去年秋の演奏会ビデオは惨憺(さんたん)たる結果に終わったのです。しかし、「もう懲りた」と言いながら、まさに舌も乾かぬうちに、今春3月の演奏会を撮る事になりました。「このままでは引き下がれない」というわけです。恐る恐る撮影を申し出ることにしました。
 3月のその日、私たちは助っ人としてTさんに撮影スタッフに入ってもらい、Kさん、Hさん、Cさんを配して、筆者は「遊軍」兼「連絡係」兼「プロデューサー」で今度は4カメ収録を試みました。合言葉は「主旋律を追え!」

 ここで問題発生。演目の中に「英雄」(ベートーベン)がありますが、この演奏時間が50分もあるのです。3時間テープの入るDCR250は良いとして、DCRPD150は、40分しか収録できず、演奏中にテープ交換しなければなりませんでした。撮影は何とか終わりましたが、実はこのことが編集作業を複雑(音声の頭あわせ)にしてしまい、2ヶ月も経過した今も完成せず、編集の苦戦が続いているのです。

ビデオの論理で音楽ビデオを作ってみたい
 音楽の指導者の立場から、映像についていろいろとアドバイスされました。クラシック演奏会には特有の論理があるということは、私たちにも理解できました。でも、ビデオマンとしては「ビデオの論理で誰にもわかる音楽ビデオを作れないだろうか」とこだわりたいところです。私たちはまだあきらめずチャレンジするつもりでいます。
 しかし収穫もありました。クラシック演奏会の論理がわかったこともそうですが、技術的には大きな進展がありました。シンクロロール編集がマスターできたおかげで、ABロールが1フレームの狂いもなくピタリと決まるテクニックが身に付きました。まだテープのアタマ合わせの難しさはありますが…… やりますよ、また。


以上