「あなたは17文字をこえられますか」
No.2 企画[しっかりしたねらい]と構成[しっかりした組み立て]

(稿:三石あき)

【序】

ふるいけや かわずとびこむ みずのおと

〜古池や 蛙飛び込む 水の音〜
松尾芭蕉

古典文学が描く世界
  • 「ふるいけや かわず とびこむ みずのおと」…、この17文字だけを1分間、ジーっと見つめてください。どんな世界が頭に浮かびますか。俳句と和歌は、日本古来の文学世界です。ひらがな換算で17文字と31文字が描く世界は、その文字数をはるかに越えた広がりと深さを持っていることに気が付くはずです。
  • たとえば、上の松尾芭蕉の句をビデオで描くとしたら、あなたはどうしますか? どのくらいの時間の、どんな映像と音声で、この句をビデオ化するでしょうか? 失礼を承知で言えば、かなり高い映像表現能力のある人でも、この「17文字」に対抗するには荷が重いのではないでしょうか。文字、音声、絵画、写真などに比べてダントツの情報量を内蔵しているビデオであなたはどう勝負しますか。


  • 【1】作品の狙いをしっかりと

    狙いが明確 →
    何を誰に伝えるか(見てもらうか)が明確な作品は、当然のことながらよく理解できる。取材 → 制作の全過程で「作品の狙い」を繰り返し頭に入れておく必要がある。

  • この作者は、誰に向かって、何を言いたいのか、どんなことを表現したいのか…
     戸惑うことがあります。いろんな映像カットは出てくるか、それがどういう意味を持ち、つながっているのか理解できないというケースです。

    (1)誰に見せたい作品ですか<作品例>

    目的のない映像羅列:タイトルは「山里の夏まつり」

  • 確かにしっかりした撮影技術のカットもあれば、抜群にきれいな映像もある、さらには非常に愉快なシーンもある…。 ところが、それぞれに脈絡がなくて何を意味しているのかさっぱり理解できないといった作品です。
  • こうした場合、何が必要か? それは「つないでいく映像カットが何を表現するか」を第一に考えることです。そのためには、1カットとしては優れた映像でも意味のないものは使わない勇気です。作品に生かす映像は、カメラ操作の技術研修会で撮った映像とは根本的に違うのです。

    難解なコメント表現:タイトルは「高齢者のための文学散歩〜○○湖編〜」
  • 「コバルトブルーの湖水とレイクサイドのワイルドなロケーションは、ビジュアルにこだわるミステリー作家◇◇の好むエキゾチックなサイトであった。ストーリーのコンセプトは老いの恋、ターゲットはフォーラム・トゥエンティワンに参加する60代…」
  • ビデオを見る相手は高齢者です。ここまで外来語が続けば、ついてこれない人は珍しくないでしょう。せっかくの力作(?)が見る人に、チンプンカンプンでは意味がありません。外来語(和製英語を含む)の羅列や専門用語、そして自分さえ分からない難解な四文字熟語などは避けたほうがトクです。とにかく誰に見てもらうのかを基本に考える必要があります。
  • (2)何を表現したいのですか<作品例>
    脈絡のない映像作品:タイトルは「晩秋の美〜○○公園にて〜」
  • きれいな音楽に乗って、紅葉したカエデやモミジのアップがあるかと思えば、形の良い松の大木も出る。季節はずれのアサガオのアップに葉を落とした桜の若枝。老人が日向ぼっこをする一方で、子供たちが遊んでいる。園内の苔の生えた石碑に続いて周囲の新しいビルが登場…。
  • どんなに良く撮れたカットでも、前後の意味、脈絡がなく並べたのでは、見せられる方はどう受け止めて良いか分かりません。晩秋に○○公園で撮影したことはウソではないのでしょうし、紅葉がきれいだったのも事実でしょう。ただ撮影報告書の添えられただけの映像は作品ではありません。何を見て欲しいのか、何を表現したいのか、しっかり検討の要ありです。


  • 【2】作品の構成にくふうを

    優れた構成 →
    全体として無理のない作品の展開、イントロ(導入部)に工夫があって、うまくヤマ場を作り、きちんと話を縮める、つまりは構成がしっかりしてこそ、作品の意図が理解できる。

  • ビデオ作品の構成というと、「難しい」と思われがちです。時には「そんなことは自分のビデオに関係ない」と思う人があるかもしれません。しかし、映像で誰かに何かを伝えたい、あるいは自分の構想をビデオで表現したいのであれば、構成についてそれなりに考えるべきです。構成の仕方次第で、作品は死んだようにもなれば、生き生きとしてきたりもします。
  • 確かに「作品の構成」は、奥の深いテーマです。何かを読んですぐに分かるようなものではありません。企画 → 撮影 → 編集 → 制作の過程で、くりかえし、じっくり検討されるべき重要な課題です。ということで、構成の詳細については別の機会に譲るとして、ここでは通俗的な事例から考えることにします。

    (1)日常生活の中の「構成」
    スピーチをする時に

  • 結婚披露宴でスピーチを頼まれました。時間は3分〜5分。そんな場合に悩む人は少なくないようです。何を、どう話して良いやら分からず、手引書を買うハメになることも…。 じつは、こうしたスピーチも「構成」という面から考えてみてはいかがでしょうか。
  • 例えば、新郎あるいは新婦との関係で「話の核(項目)」を拾い出します。時間の関係で多くは語れないとして、1.「子供の頃のガキ大将ぶりとその中にも弱い者へ見せた優しさ」、2.「10代後半の闘病と失意の日々」、3.「晴れの日を迎えた今」の3つを項目として、これをどう組み合わせてスピーチするか、ということになります。
  • 1. → 2. → 3. と時系列的にもできるし、3. → 2.→ 1. で話をまとめることもできます。もちろん他の組み合わせも可能です。どう組み合わせれば印象に残るスピーチになるか、これが「構成」です。余談になりますが、これだけの話の核を見つければ、ムダな前置き(「ただ今ご紹介に預かった…」とか「諸先輩を差し置いて高いところから失礼とは思いますが…」)は不要ですし、「○○家の皆様、◇◇家の皆様、おめでとう…」といった形式的な挨拶もいらないでしょう。ビデオに例えれば、やたら前置きが長くて中身が見えてこない作品です。

    (2)変化・成長のある「構成」
    作品の流れの中に:タイトル「秋の○○川をのぼる」
  • 例えば「川」。下流から上流へ向かう場合と上流から下流へ向かう場合とでは、当然ながら、水量、流れの勢い、まわりの景観(紅葉)も違います。もっと細かく言えば、水中に棲む魚や生物も違ってきます。沿岸の人の暮らしぶりも異なります。しかし、こうしたことは意外と見落とされがちです。
  • なぜか。流れの位置(上流、下流、中流)に関係なく、きれいな流れがあればカメラを向け、岸辺に花があればなんとなく撮る、といった具合で「のぼる」がまったく感じられない作品になります。それがどこまで描けるか腕の見せどころでもあります。

  • ※次回からは、ビデオ作品作りを具体的に検討していきます。