ヨーク鉄道の旅

1 日目

 列車が遅れないとも限らないので、Cambridge 駅を 7 時 31 分に出る列車で 出発する。定刻の、約 1 時間後に London Kings Cross 駅に到着。「The Flying Scotsman」の発車時刻まで 1 時間半ほどあるので、発着する列車を見て過ごす。 インターシティは、次々と定刻に発車していく。今日の列車ダイヤは順調のようだ。 いや、少なくとも、9 時 30 分までは順調であった。

 しかしその後、待てど暮らせど、「The Flying Scotsman」の発車番線が、 駅の表示板に出ない。嫌な予感がする。同じ列車を待つ人で、コンコースはかなりの 混雑となってしまった。こちらでは、発着番線が時刻表に載っているなんてことは なく、当日になってみないとわからないのだ。現場の信号係はきっと、「次の列車、 もう来ているよ。今、何番線が空いているの? え、4 番線? じゃあ、そこに 据えつけよう」なんてやっているのではないだろうか。それはともかく、9 時 55 分ごろ、ようやく発車番線が発表され、みないっせいにプラットフォームに足早に 向かう。座席を予約しておいて、良かった。

Intercity at London Kings Cross The Board Showing Departure
London Kings Cross 駅で発車を待つインターシティと、発車時刻案内板。

 列車は、もちろん定刻に出ない。それどころか、まだ 9 時 40 分発のが 出発していない。結局、30 分ほどの遅れで発車。「The Flying Scotsman」の 車両自体は、他の名無しのインターシティと同一のもので、特にこれといった特徴は なかった。せっかく早目に Kings Cross に着いたのだから、指定席を放棄して 早目の列車に乗る、という選択肢もあったなあ、などと思う。

 列車ダイヤは、案の定乱れ続けているようだ。途中駅の Peterborough では、 先に出たインターシティに追いつき、その先行列車が出た後、今度は自分の後続の インターシティが入線してくる。インターシティの交互発着という、ぜいたくな (?)状態になっており、まるで中央線の中野や新宿のようだ。結局、York 駅には 45 分くらいの遅れで到着した。

 まずは、宿探しを行う。駅のインフォメーション・カウンタで、手近な B & B を探してもらう。土曜日ということで、観光客がかなり多く、カウンタの係の人は けっこう苦戦している。三度 B & B に電話して、断られた。4 件目にして、 ようやく宿を確保。「Martin's Guest House」というところである。駅からもそうは 遠くなく、好都合である。まずは荷物を置きに、宿に向かう。宿のおかみさんは、 イギリスの B & B に典型的な、気さくな人であった。英語もわかりやすく、 ありがたいことである。

 お目当ての、国立鉄道博物館に向かう。この時点で午後 2 時前。閉館は午後 6 時なので、今日中に全部見ることはほぼ不可能そうだ。博物館の内部は、「Station Hall」と「Great Hall」に大きく分かれている。そこで、この日は、Great Hall を中心に見ることにした。

 Great Hall の正面にまず展示されているのが、Class A4 の機関車 4468 「Mallard」である。蒸気機関車のスピード記録(126 mph = 202 km/h)を 保持していることで、有名な機関車である。流線形の車体が美しい。とても 1938 年製だとは思えない。ちなみに、Mallard というのが機関車の個体名で、A4 というのが形式名(日本で言う D51 とか C62 に相当する)である。こちらの 機関車には、現在でも個体別に「名前」が付いているものが多い。「Japan 2001」 なんて名前の機関車も存在する。

 新幹線車両は、Mallard の左側の奥に展示されていた。0 系(初代新幹線車両) の先頭車で、車両番号は 22-141 である。このコーナーにだけは、日本語の解説が あった。車内にも入れるようになっており、ここでは新幹線のビデオ上映が 行われていた。けっこうたくさんの人が見ている。かなり注目を浴びており、 なんとなく誇らしい。案内の人に「この車両は日本でよく乗って、親近感がある」 と話しかけたら、「きっと自分よりもよく知っているな」などと言われてしまった (苦笑)。ちなみにこの案内の人、ばりばりのイギリス人と思われるが、背中に 「日本の新幹線」という漢字と、車両の正面の絵が書かれた、真っ赤な「はっぴ」を 着ており、なんだか妙であった。

LNER 4468 Mallard Shinkansen Series 0 Shinkansen and Mallard
流線形の蒸気機関車「Mallard」と、流線形の新幹線 0 系。

 それにしても、展示車両の多いことよ。ホール中央にはターンテーブルが 配置され、その回りには、ずらりと歴代の名車が展示してある。これを 見て回るだけでも、そうとうな時間を費やした。さらに、奥に「倉庫」があって、 ここも公開されている。早い話が、未整理のものなのだが、その収蔵品の数たるや、 ものすごいものがある。イギリス人のコレクターぶりがよくわかる。

 2 階に上がると、信号システムに関する展示があった。これがまた、 よくできている。列車の集中管理室にあるものと同一のコントロール・ パネルが展示してあり、現在のヨーク周辺の列車の走行状況が、リアルタイムで 表示されるのだ。窓の外には、York 駅の構内が見え、解説の人がコントロール・ パネルを指さしながら、「まもなくこの列車が来るはずです」などと言うと、 それに対応した「実物の」列車が駅に進入してくるのが見えるのだ。かなり面白く、 ここでもだいぶ時間を費やしてしまった。York 駅の構内アナウンスまで 中継されているという、そのこだわりぶりには、脱帽するしかない。

 などとやっているうちに、やはり閉館時間の午後 6 時になってしまった。残りは、 またあさって見ることにする。明日は保存鉄道 North Yorkshire Moors Railway 訪問だ。


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