クリスマス・ディナー

 クリスマスと年末年始には、妻子が日本から来ることになっていた。しかし ながら、いよいよ来る週になって子供が高熱を出し、その予定がキャンセルになって しまったのである。うおお、イギリスにて一人のクリスマス、一人の 年越しか。これは寂しいぞおおっ。などと考え、落ち込んでいたら、お隣の Steve & Jane 夫妻から、思いがけないお誘いがかかった。12 月 25 日に、もし 何も予定がないのなら、うちのクリスマス・ランチに来ないか、と。

 ありがたい話である。お隣さんは、なにくれと無く僕のことを気にかけてくれ、 12 月 17 日にも教会のキャロル・サービスに誘ってくれた。そのとき、子供が熱を 出していて、来られるかどうか微妙な状況だと話しており、その後、Steve 氏に 会ったとき、「来られなくなった」と話したら、「それは great pity だ」と いっしょに悲しんでくれた。

 もちろん、二つ返事で OK する。前日のお誘いだったので、急いで近所の コンビニエンス・ストアで手土産のワインを仕入れる。クリスマス・イヴの 日曜日だったが、開いていたのは幸いであった。同じ店で、クリスマス・ ラッピング用の紙を売っているのは、さすがイギリスである。ラッピングし、 日本から持ってきた折り紙で「のし」を作成する。これで、明日の準備は整った。

 当日の午後 1 時すぎ、お隣の家を訪問。居間には大きなクリスマスツリーがあり、 下にはプレゼントの箱が積んである。まずは、ワインで乾杯。子供たちは、 「プレイステーション」で遊んでおり、いかにも現代っ子らしい。しばらくゲームの 様子などを見ていると、食事の用意ができたとのことで、隣りのダイニング・ キッチンに案内される。なんと、りっぱなクリスマス・ディナーである。手土産を 持ってきて良かった。伝統の、七面鳥の肉である。あらかじめ切られており、 「本当は、まるごと一羽をその場で切り分けるんだけど、それは省略」と言って おられた。Steve & Jane 夫妻は、敬けんなクリスチャンで、食事の前には お祈りがあった。(鳴らす方の)クラッカーが席毎に置いてあり、これを二人で 引っ張りあって鳴らす。中には、紙でできた帽子と、冗談が入った紙切れが入って いた。紙の帽子は、もちろん食事中にかぶるためのもの。冗談の内容は、こんな ものである。

Q. 羊はどこで髪を切ってもらうの?
A. バーバー。
(註、床屋の「barber」と、羊の鳴き声「baa, baa」とのシャレである)

 食事は、本当においしいものであった。うーん、イギリスに来て良かった。

 しばらくすると、女王陛下のお言葉の放送がある、とのことで、家族でテレビに 注目。さすが女王陛下の英語はわかりやすいわ、などと聞いていたのだが、内容は さっぱり憶えていない。その後に、デザートとなる。例年、クリスマス・ディナーの デザートは女王陛下の放送の後にしているようで、「いつもうちのディナーは、 この放送で中断されるのだ」と話しておられた。デザートのメニューは、 クリスマス・プディングと呼ばれるものである。いわゆるプリンではなく、干した 果物がたくさん入ったスポンジ・ケーキに、クリームがかかったものである。 温かかった。これもおいしい。スコティッシュ風のものだそうである。「イギリスは メシがまずい」というのは、当てはまらない場合も多いと感じる。

 食事のときには、いろいろなことを話した。日本のクリスマスの様子や、お正月の 風習など。この国のクリスマスは、日本のお正月の三が日に似ている。 ケンブリッジではもっと徹底していて、12 月 25 日と、翌日の「Boxing day」と 呼ばれる 26 日は、バスは全面運休になる。家でテレビを見て、 lazy に過ごす日なのだそうだ。たしかにテレビは目玉となる映画を放送していた (僕も、24 日は「インディペンデンス・デイ」を、25 日は「タイタニック」を 見た)。13 歳になる娘さんは、クリスマス・プレゼントの携帯電話を使って、 嬉しそうである。「まだ 13 歳なのに、どうしても欲しいと言われて」という あたり、何だか日本と似ている。

 「本当にありがとう、今までのクリスマスの中で、もっともいい日の一つに なりました」というようなことを、自分の少ない語彙で伝えると、「こういうのが、 世界の平和に貢献するのだ」と笑っておられた。本当に、その通りだと思う。

 この年末年始は、その他にも、日本でのクルマ趣味仲間、T さんがジュネーヴから 遊びに来てくれたり、日本でご近所に住んでいる、A 夫妻に誘ってもらって オクスフォードに観光に行ったりで、たいへん楽しくすごせた。この場を お借りして、皆様に感謝申し上げます。


Index に戻る