家探し

 やはり住む家は、実際に見てから決めたい。そのようなわけで、B&B に 宿泊しながら、こちらで家を探す、という方法をとった。

 まずは、University of Cambridge の、 「 Society for Visiting Scholars」へ行く。街の中心(city centre)の、 Mill Lane という通りにあるのだが、入り口が非常に分かりづらかった。ようやく 探し当てる。中に入ってみると、どうやら昼休みらしい。日本ではたいてい 12 時 から午後 1 時までが昼休みであるが、こちらはもう少し遅めで、しかも長い。 午後 2 時までだったように記憶している。

 近くの Cam 川のあたりをぶらぶらして時間をつぶす。パント(punt)という船の 船着き場が近くにあり、観光客が乗り込んだりしている。マガモや コブハクチョウが川を優雅に泳いでおり、のどかな風景である。

cam river cam river
Silver Street、Mill Lane 付近の Cam 川の風景。1 枚目はパントの乗り場、 2 枚目は Queens' College の「数学橋(The Mathematical Bridge)」。

 時間を見計らって、再度訪問。今度は窓口は開いていた。係の人に家の希望を 伝え、リストをコンピュータで調べてもらい、該当する物をプリントアウトして もらう。University of Cambridge 関係者なら、とくに紹介料などはかからない ようである。僕の職場は、 MRC Laboratory of Molecular Biology というのだが、ここも大学関係機関に該当するらしい。条件にあった家を 2 件 紹介してもらい、その足で、自転車で下見に向かう。

 1 件目は、city centre からはかなり遠い。自転車で走りくたびれた頃に到着。 職場は街の南はずれにあるのだが、通勤にも、それなりにかかりそうだ。近くに、 Tesco という大きなスーパーマーケットがあるのは、まあいいのだが。2 件目は、 フラットといって、日本の公団住宅のような形であった。リンゴの木がたくさん あり、リスがそこいらで遊んでいるのはいいのだが、ちょっと狭そうである。 あまり「イギリスの家」という雰囲気ではない。イギリスに住む機会なんて、 めったにないのだから、イギリスっぽいところに住んでみたい。その日の夜、 1 件目の家の家主にツマが電話。しかし、もう借り手が決まってしまったらしい。 まあ、そんなに心惹かれる物件でもなかったので、良しとしよう。

 Society for Visiting Scholars だけではなく、民間の不動産屋ルートも 調べた方がよかろう、ということで、 不動産屋の web ページ を、片っ端から検索。イギリスの電話線経由でインターネットにつなぐ準備を 整えた、ノート型のコンピュータを持ってきており、また、B&B の各部屋に 電話線が来ていたので、このようなことができた次第である。このようなとき、 インターネットの威力を感じる。

 翌日の朝、候補のリストを手に、Regent Street にたくさんある、不動産屋へ 直行。1 軒目でリストの家を尋ねてみると、もう借り手が決まってしまったとか。 ここの不動産屋は、愛想が悪くて好きになれず、早々に退散。他の店にも、特に 「これ」と言ったものは無く、不動産屋経由で探すのはやはり大変か、と あきらめかける。

 だめ押しで、city centre から少し離れた、A という不動産屋に行ってみた。 ネット上で候補となった物件の一つを扱っていたためである。貸し物件のリスト (letting list という)をもらい、「まずは自分達で外観を見てきて。 よかったら、中を見せるので教えてくれ」と言われる。応対してくれたのは、 わりあい好印象の女性である。職場からまあまあ近く、広さも適当なものが 2 件 あったため、ここを自転車で回る。1 件目は、Cherry Hinton Road という、 大きな通り沿いである。2 件目は、住宅地の行き止まりの道路の、奥の方である。 どちらも、semi-detached house と言って、一軒の左右対称の建物に、2 世帯で 住む形式である。「半一戸建て」とでも訳すべきか。イギリスの住宅地では、 もっともポピュラーな形態である。この状態では、どちらがいいかは決めかねたが、 僕はこの時点では、にぎやかな所にあり、city centre により近い、1 件目の方が いいか、と思っていた。これは、後に逆転する。

 不動産屋に戻り、家の中を見せてもらうことにする。自動車に乗せて案内して くれるため、楽ちんである。案内の女性 Linda さんは、トヨタ車 RAV4 に乗って いた。車内に子供のおもちゃが散らばっているところを見ると、いわゆる「働く母」 であるらしい。うちと同様で、なんとなく親近感を憶える。

 1 件目の家の中を見てみる。何せ、イギリスの家の中を見るのは初めてなので、 まあ、こんなもんかね、としか言い様がない。特に決め手もなく、どうしたものかと ツマと考えあぐねていたら、Linda さんが「時間があるなら、2 件目の家の方を 見に行かないか」と言う。早速、連れて行ってもらうことにする。中を見てみると、 うーん、どう見ても 2 件目の方がきれいで、使いやすそうだ。Linda さんも、 2 件目の方を推す、という。職場にもいくぶん近い。

 夕方、宿に戻り、二人で考える。もう少しいろいろ見て回りたい気もするけれど、 早く住むところを決めないと、気分的にも落ち着かない、ということで、2 件目の 方を押さえてもらおう、ということにする。宿からファクシミリで、Linda さんに その旨を伝える。翌朝、電話すると、まだ借り手は決まっていない、という。 一安心。

 翌週、いよいよ契約に臨む。すでに銀行口座なども開けていたため、特に契約に あたって、問題となることはなかった。ただ、契約書が難しい。カンマも ピリオドもまったくない文章なのである。そして、とにかく長い。A4 版の紙に 10 枚近く、という分量である。英和辞典と格闘してもなかなか進まない。 ところどころ Linda さんの助けを借り、ようやく内容を理解し、サインに こぎ着けた。まだ完全に内容を理解していないところもあるので(おいおい)、 ツマが日本に帰ったのち、ネイティヴな人の助けを借りて日本語訳を作ることに なった。基本的には、僕の単身赴任なのである。「実際に契約にとりかかる前に、 契約書の文面をあらかじめ送ってもらって読んでおく」という手段をとることを、 人には強くお薦めしたい。住むところが決まり、一安心ではあるが、次には インヴェントリ・チェックという大仕事がある。


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