故障

 この国では、ものがよく故障する。イギリスに到着して、初めてケンブリッジに 向かう日、最寄りの地下鉄駅に行ったら「故障のため運休」。重いトランクを 引きずり、別の駅に向かう羽目になった。乗換駅では、下りのエスカレータは 動いていなかった。

 ケンブリッジに来て、ツアーの観光バスに乗った。上りの坂道で、超低速で 走っている。「なんか変だな」と思っていたら、「クラッチが故障したので、 次のツアーのバスに乗り換えてください」というアナウンスが。

tour bus tour bus
ケンブリッジを巡る観光バス。

 路線バスの番号・行先表示器も、故障したままの物が多い。これは大変である。 いちいち運転手に、「このバスはどこそこに行くか」と聞かねばならない。で、 みんなそう聞くものだから、バスはどんどん遅れるのだ。紙に行き先を書いて 貼り出せばいいのに、と思うのだが。そう言えば、路線バス本体が故障して、 次のバスに回されたこともあった。ワイパーが故障して、急きょ、バス会社の サービスの人が修理しているところも見たことがある。

 公衆電話も、故障している物がけっこうある。電話機そのものは、クレジット カードを挿入することで電話がかけられる、など、優れた機能を持っている機種が 多いのに、それが使えない場合があるのだから、残念な限り、というべきか。

 家関係では、冷蔵庫が故障した。ある日、帰宅して冷蔵庫を開けると、 なま暖かいのだ。牛乳はすでにヨーグルトと化していた。翌日、あわてて不動産屋の Linda さんに電話する。「元気でやっている?」と親しげに聞いてくれるのは 嬉しいのだが、「自分は元気だが、冷蔵庫が元気でない」と伝える。「たぶん明日、 修理屋と家に行く」ということになった。「たぶん(maybe)」というのが 気になる。こちらではなんでも仕事が遅い、と聞くので、あさってとか、 ことによるとそれ以降になったら、かなり嫌だぞ、などと思っていたら、電話した その日のうちに来て、修理してくれた。サーモスタットを交換したそうである。 「たぶん」が、早い方にずれるとは考えもしていなかったため、帰宅して冷蔵庫が 動いているのを発見したときには、そうとう嬉しかった(我ながら単純である)。 それにしてもこの国、修理屋が置いていった名刺によると「冷蔵庫修理業者」と いうのが職種としてあるらしい。そうとう故障しがちなのだろうか。ちなみに 故障したのは Philips の製品で、made in italy と書かれていた。

 では、日本のメーカーの物なら大丈夫かというと、そうもいかないようである。 我が家にはテレビが備えつけていなかったため、電気屋で Panasonic の 14 インチのを買ってきたのであるが、買ってきたときから、リモコンから電源の ON-OFF ができない。本体のメインスイッチで操作すればなんとかなるし、出張修理を 頼んで日程調整を英語で交渉するのがおっくうなため、今のところそのままに している。

 さて、次は何が故障するのか、楽しみである。

 ……

 などと言っていたら、冗談ではすまないことが鉄道で起きた。故障とは少々 異なるが、レールのひびが原因の、列車事故である。2000 年 10 月 17 日、 ロンドン郊外の、Hatfield という所である。ここは、東海岸本線(East Coast Main Line)と呼ばれる路線の一部で、云わば、日本の東海道本線に相当する、 交通の大動脈である。事故当時の列車は 115 mph(約 180 km/h)で走行しており、 ひびの入ったレールが破断して脱線転覆に至った。鉄製の架線支柱に脱線した車両が ぶつかり、これが事態を悪化させたようだ。死者 4 名、負傷者 30 名以上の惨事で ある。ケンブリッジ−ロンドン(London Kings Cross)間の列車も同じ区間を走る ため、ひとごとではない。

 これ以来、こちらの鉄道の状況はめちゃくちゃである。国じゅうのレールを 調べてみると、相当な数の危険な区間が見つかり、12 月現在、約 500 箇所で列車は 減速運転を強いられている。

 通常、レールの寿命は 25 年くらいはあるらしいのだが、今回破断したレールは、 5 年前に製造された物だという。原因究明を、一刻も早く進めてもらいたいもので ある。


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