3.プラリア  パート

☆「The girl meets a boy」

  未佳は騎獣からひらりと降りると、その騎獣に声
をかけた。
「わかるだろ、会場にはお前を連れて入れないって
ことはさ。」
そう、未佳はライダーズハイの予選会場へと向かう
途中だった。勿論会場には、勇者が乗ってきた騎獣
の世話をする施設も完備されている。しかし、いつ
も未佳は会場の数キロ手前で騎獣を降り、放すこと
にしていた。
「くぅ〜ぅ。」
寂しそうに鳴く騎獣に未佳は言う。
「ほら、今度もまたどこかで時間をつぶしてな。.
..このままいなくなったっていいんだぜ。」
とりあえず後半の部分は聞き流して、前半の未佳の
言葉に従う事にしたらしい騎獣が、抜けるような青
空へと舞い上がる。しばらくは未佳の上空を名残惜
しそうに旋回していたが、そのうちどこへ飛んで行
ったのか、見えなくなってしまった。
「ま、どうやって見つけるのか、予選が終わると必
ず戻って来るんだよな。」
そういうと、未佳は予選会場へと埃っぽい道を歩き
だした。

  海継はご機嫌だった。彼の空戦騎獣、『あきちゃ
ん』がパワーアップして、楽々2人乗りが出来るよ
うになったからだ。後は騎獣に乗せる"おね〜さん"
を調達するだけ!彼は『あきちゃん』から身を乗り
出すようにして、地上を見回した。
  もっとも別に彼は今、"おね〜さん"に声をかける
ためだけに騎獣にまたがっている訳ではない。彼も
また、ライダーズハイへ出場すべく予選会場へと向
かっていたのだ。
  会場にもあと数キロというところで、彼は女性の
勇者が一人で歩いているのを見つけた。"きれ〜な"
という点では多少、?ではあるが、"おね〜さん"と
言う点では、ぎりぎり彼の好みの範囲内。なにより、
はやく『あきちゃん』に誰かを乗せて見たい、とい
う誘惑の前に、彼の選択基準が甘くなっていたこと
は否めないであろう。そんなわけで、彼はその"おね
〜さん"に声をかけることに決めたのだった。

「そこの、お〜ね〜ぇ〜さ〜ぁ〜ん。」
空から降ってきた、ちょっと間延びした声に、未佳
は空をふり仰ぐ。未佳の騎獣『ちゃっぴぃ』より、
一回り大きい空戦騎獣がこちらに向かって降りてこ
ようとしているのが見える。やがて、その騎獣は未
佳の傍らに着地した。騎獣には、小柄な少年が乗っ
ていた。未佳は少年と騎獣を交互に見比べた。

  着地したとたん、その"おね〜さん"に目付きの悪
い視線で、じろじろとにらまれて、海継は内心びび
っていた。未佳の目付きの悪さは、勉強のし過ぎで
少々目が悪いからなのだが、そんな事を彼がわかる
はずもない。リボン未着用のセーラー服に、もう少
しで地面を引きずりそうな長い丈の紺のスカート、
片手に鉄パイプという格好は、どう見てもひと昔前
の不良そのものだった。
(これは..."こわい"おね〜さんだったのか...)
日本では数多くのおね〜さんにもて遊ばれ、実に1
8人に振られたと言う彼だが、こちらの世界に来て
からは、なぜか"こわい"おね〜さんばかりと縁があ
るらしい。本来は大人の女性が好きだった彼だが、
最近では、"こわい"おね〜さんに頭をグリグリされ
る事に快感を感じるようになったとかならないとか。
少なくともこの手の女性に対する耐性はしっかりつ
いたらしく、未佳に対しても果敢に声をかけた。
「ね〜、ね〜、予選会場までー、いくんでしょー。
いっしょに『あきちゃん』にー、乗って行きません
かー。あ、ぼくー、なるおいみつぐっていいます。
で、こっちはー、空戦騎獣のあきちゃん。普段はー、
青垣温泉の近くでー、みんなと銭湯をー、作ってる
んだー。」

  『あきちゃん』の頭のあたりを撫でながら、上目
遣いに未佳を見つめて、だらだらとしゃべり続ける
海継をにらみ付けながら、未佳はしばらく考え込ん
でいたが、やがて、彼の言葉を遮って、
「ああ、いいよ。」
と、答えた。おもわず、
「え?」
と聞き返す彼に、
「乗ってってやるって言ったんだよ!」
と未佳は繰り返す。
  顔を輝かせて騎獣へ乗り込む海継に続いて騎獣へ
と登りながら、
「あたい、若月未佳っていうんだ。」
と自己紹介をすると、未佳は彼に会ってから初めて
にっこりと微笑んだ。

  長い長いはちまきをたなびかせながら、気持ち良
さそうに騎獣を飛ばしている海継を見ながら、
(騎獣との付き合い方にも、いろいろあるんだな。)
と思う未佳だった。
  他の、獣騎士と騎獣の関係を知りたい、そんな軽
い気持ちで海継の誘いに乗ったのだったが、結局そ
の日のライダーズハイ予選に彼と一緒に出、また次
回も一緒に出場する約束までしてしまった未佳だっ
た。

                                    (おしまい)

☆おまけプラリア「ライバルは海継くん!?」

  山本正は密かに歯がみしていた。ナンパを夢見て
バームアンガー計画に参加した彼だったが、そこに
はおもわぬ障害が待ち受けていたのである。そう、
女性が好きなのはなにも正1人だけではなかったの
だ。正が気にする男の1人は...。
  鳴老海継16歳(当時)。バームアンガー計画発足
当時からのメンバーである。噂によると、冬樹斬の
冗談でしかなかったこのバームアンガーの構想に対
し、実際にメンバーを集めて冬樹斬に計画を始めさ
せてしまったのは彼であるらしい。そんな密かな行
動力に加え、小柄な身体と童顔にちょっと間延びし
た口調は、女性の母性本能を掴んで放さない。それ
に加えて、パワーアップした空戦騎獣まで持ってい
るとなると、これはもう太刀打ち出来ないではない
か!
  くそー、いつか貴様の「おね〜さん」たちなぞ、
み〜んな俺の物にしたる。そんな決意を胸に、とり
あえず海継がまだ手を出していない青垣温泉でナン
パをする山本正であった...。

                                    (おしまい)

み:と、いうわけで、ライダーズハイにて未佳と組
    んで頂いている鳴老海継さんと、未佳との出会
    いの所を考えてみました。やっぱり、なにかし
    らのきっかけとか、ないと寂しいですからね。
    と、いうわけで、今回は鳴老海継さんをかって
    に使ってしまいました。

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