3.プラリア パート
「想う心」
「火の杯の水」をかけられたレイナが握りしめて
いる氷の花が、紅い光を纏う。氷の花・・・それは
触る者を凍らせる美しい花。でもひとたび火の杯の
水をかけると実を結び、その実は甘い恋の媚薬とな
るのだった...。
「し〜っ。気付かれちゃうじゃないのさ!」
そこには何人もの野次馬(冒険者)たちがいた。彼ら
が何をしてるのかって?彼らは、想い人の所へ行く
らしいエレーヌちゃんをつけてきたのだ。もちろん
ミルやシャラの姿もその中にあった。
思えば、冒険者大会に参加したのがきっかけだっ
た。小生意気な貴族の娘を絶好の標的として、ミル
がエレーヌをさんざんからかったのが始まり。それ
以来「夜のナイフ」の面々は、この冒険の間、エレ
ーヌちゃんの側にいた。「夜のナイフ」のメンバー
はみな、人の心を大切にしている。だから、相手の
心を無理矢理変えてしまう、魔法のアイテムを使っ
て恋を成就させるというエレーヌちゃんの行動は、
好ましくは思えず、事ある毎にエレーヌちゃんを説
得しようとしていたのだ。熱い心の大切さを説き、
何かに頼らず自分の力で成し遂げる事を説き、そし
て、恋の障害となっている物が何かを聞き出して力
になろうとしていた。にも関わらず、エレーヌちゃ
んの考えが変わった様には思えなかった。そして、
とうとうエレーヌちゃんは「氷の花の種」を手に入
れてしまった。
どんな結末になるとしても、エレーヌちゃんがど
うするかを最後まで見届けたい。シャラはそんな想
いでここにいる。もっとも、隣にいるミルは、エレ
ーヌが氷の花の種を使おうとしたら邪魔をするつも
りかもしれないけれど。
エレーヌちゃんは、そんな野次馬に気付きもせず、
固い表情で「氷の花の種」をしっかりと握りしめて
歩いて行き、とある街角で立ち止まる。そして、や
がて、想い人らしい青年貴族を見つけて走り出す。
が、その足が途中で止まる。青年貴族は独りではな
かった。恋人と腕を組んで歩いていたのだ。
「危ないっ!」
立ちつくすエレーヌに馬車がすごい勢いで向かって
くるのに気付いた誰かが思わず声をあげる。その声
を聞いた青年貴族はとっさにエレーヌちゃんを助け
ると、無事を確認して、立ち去って行った。恋人の
もとへと...。
「どじだねぇまったく。苦労して手にいれた氷の
花の種と、眼鏡。馬車にひかれてぐちゃぐちゃにし
ちまうなんてねぇ。」
手をひかれて歩くエレーヌにミルが話しかける。
「ふ、ふん。私の物ですもの。どうなってもあなた
には関係ありませんわ。」
「だいたい、わざと馬車にひかれそうになって助け
られるなんて、あんたにしちゃよく考えたじゃない。」
「そ、そんなんじゃ...。」
「もっともその後が続かなかったようだけどねぇ。
何だったらあたいがいろいろ教えてあげようか?」
相変わらず、ミルはエレーヌをからかっている。
シャラはそんな二人を、いつものようにちょっと困
った顔で見ている。しかしシャラにミルを止める気
はない。優しい言葉だけが慰めではないのだから。
結局エレーヌちゃんは「氷の花の種」を使わなか
った。そのことがシャラにはとても嬉しかった。エ
レーヌちゃんがこの恋を諦めてしまったのは残念。
でも、そういえばヒューマが言ってたっけ、エレー
ヌには熱い心が欠けてるって。もしかしたら、ヒュ
ーマはエレーヌのこの恋が本物ではないことを見抜
いていたのかも。
「そーだ、ねえ、ミルの姐御、このことはヒュー
マさんにも知らせないといけませんね。」
シャラは、さんざんエレーヌをからかって満足そう
なミルに話しかける。エレーヌちゃんはというと、
別の冒険者と話をしている。以前ならば自分の回り
に壁を作って、それこそミルがからかいでもしなけ
ればまともな受け答えもしなかったのに。みんな少
しづつ変わって行く。そして、シャラは家出して以
来いまだ「自分が本当にやりたいこと」を見つけて
いない事を思いだした。
「私も...じゃなくて、あたいもがんばるぞ〜。」
シャラは冬の晴れ渡った空に向かって伸びをした。
(おしまい)
み:いきなり氷の花のストーリーが終わっちゃうと
はなぁ。わかっていれば、エレーヌが氷の花を
手にいれたあとどうするかを見届けるというア
クションをかけたいと思っていたのだが、かけ
そこなったのでプラリアにしました。シャラは
絶対後をつけて見届けようとするはずだし。
タ:なんかタイトルが内容と関係ないなぁ。
af5k-myzw@asahi-net.or.jp 宮澤 克彦