3.プラリア  パート

「脱走」

  陸軍省から駐屯地へ戻る道、初年兵の運転する車
の後部座席で、哲山はしばし物思いにふけっていた。
会議の席での自分の発言。取り上げられる訳がない
のはわかっていたのだ。しかし言わずにはいられな
かった。

「無傷な部隊を集結し、後方各地に伏せ、ゲリラ戦
に持ち込めば、まだ我が軍は持ちます。」
その発言に対し、周りの反応は冷ややかな物だった。
「すると、君は、我が軍は帝都に迫る連合軍と正面
からぶつかっては勝てない、と言いたいのかね?」
「苦戦はまぬがれないかと...。」
この戦況、前線の様子を知っていて、それでも勝て
ると思っているのか!と言い返したい所をぐっとこ
らえる。技術的なものではいかんともしがたい戦力
差、そして、領内各地の独立気運。どう考えても、
この帝都が敵軍に蹂躙されるのは時間の問題だった..
.。
「そんな弱気でどうする。貴様の様な者がいては、
勝てるものも勝てん。」
一同が哲山を笑う。だれも疑っていないのだ。我が
軍が勝つ事を。この国はもうおしまいだ。哲山は確
信した。

  がたん。ひときわ大きな揺れが哲山を現実に引き
戻した。窓から見る街は平静を保っている。敵軍が
迫っている事は、ひとにぎりの軍人しか知らない。
情報が統制されているのだ。昨日などは、戦勝行列
すら行われていた。
  そろそろ予定の場所に近づいていた。彼は、ポケ
ットから煙草の箱を取り出すと、それを握りつぶし
た。そして、運転手の兵に声をかける。
「君、煙草が切れてしまってな。悪いが買ってきて
くれんか。」
と、通りの向かいの商店を指さすと、すこし多めの
金額の札を手渡す。
  車を止めた運転手が商店の中に消えるのを見届け
ると、哲山は行動を起こした。シートを乗り越え運
転席に着くと、ブレーキレバーを起こし、蒸気弁を
開く。あとは見様見真似で操作をする。なんとか車
は動き出す。

  振り返ると、商店から飛び出してくる運転手の姿
が見える。いかに足の遅い蒸気自動車といえども、
これだけ引き離せば追いつかれはしまい。しかし、
すぐに通報されるだろう。それに、そろそろ金庫の
中身が減っているのもバレる頃だ。もう、妻が守る
家へも、息子の下宿へも寄る余裕はないだろう。そ
れにしても、軍上層部を見限り東和を脱走すること
で、結局は皇帝陛下に背くことになってしまった...。

  どうせ蒸気自動車は長距離は走れまい、後は徒歩
だ。とにかく街を出て西へ。落ち延びる先は漠然と
決めていた。水漣...。

                                    (おしまい)

み:と、いうわけで、10年前哲山が東和から水漣
    へ逃げだした所を考えたストーリーです。なお、
    考証は全然してないので、みんな私のでっち上
    げです。い〜んだい、プラリアだから。
?:あ〜、ひらきなおったぁ。
み:このプラリアでは哲山1人で逃げたことになっ
    てますが、キャラ登録前は、息子を連れて逃げ
    たことにして、息子の方をキャラ登録しようと
    思ってたんです。それこそ、2代目のぼんぼん
    の3枚目の受け狙いのキャラで。でも、結局は
    親の哲山の方でキャラ登録してしまいました。

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