白馬岳の花の散歩
一日目:猿倉から天狗小屋まで、「稜線は気持ちいい」
旅行会社のツァーの名前のようであるが、去年に引き続き白馬岳周辺をうろつき、漁ってきました。今回もひとり=単独行である。今回の目標は、ともかく稜線までゆくことである? 猿倉に降り立ったのは、朝の9:30。白馬尻までの雪渓見学の林間学校の高校生で混雑はしているが、あまり登山客はいない。もっと朝早く出発したのかもしれない。少し歩いたところで、鑓温泉へと道を折れた。普通は白馬尻から大雪渓を登るコースであるが、あの単調で殺風景な雪渓は気が進まないし、人も多そうなので、なんの迷いもなく、逆コースにした。天気は一応もっているが、前線が南下しているようで、今日の夕方から雨(かなり荒れる)の予報で、雨のなか稜線下の急登だけは避けたいので、今日中に稜線の天狗小屋まで行っておきたい。しかし、普段の運動不足と年々低下する体力と脚力と気力で、まったく覚束ない。樹林帯での歩き始めは、かなりゆっくりしたペースで調子を確認する。今回の撮影機材は、ニコンのデジカメ(Coolpix800)+64MCF+リチウム電池(これはよくもちました)、ペンタックスSP2+55mmF1.8レンズ+ネガフィルム数本という奇妙な取り合わせで、その他三脚なし(使ったことがない)交換レンズなし(持っていない)ということです。登行の調子は思ったよりはよくて、若干安堵しているところで、がやがやした男の声が接近してきた。うるさいなあと思っていると、興奮した学生で、「すぐそこで熊に合いました。気を付けてください。」「ツキノワグマでしょう?大きい?」「大きいッス」「危険はないとおもいますが、気と付けて下さい。僕達も大声で歌ってます」大丈夫だとは思ったが、ひとりで声を出すのも無気味なので、コップを取り出して見通しの効かないところでは、ちょっと鳴らしてみた。ばったり出会ったらと思うと用心に越したことはないと思った。まもなく、男の単独者と出会ったところで、茂みで、がさがさどどど〜〜という音、出たかと思ったが、その単独者は、「カモシカだ、でっかいカモシカだな」と冷静な声。「さっき学生が熊がいたと言ってましたが。」「カモシカと見誤ったのでしょう。」なんだカモシカかとちょっと拍子抜け。今思えば、熊とカモシカがいて、カモシカを熊が追っていたのかもしれない。ともかく、急に気が楽になって、熊よけのコップ?をぶらぶらさせて先を急いだ。途中で数人の登山客が立ち止まって道の横を見ている。なにかなとみれば、これがあった。あとで調べるとギンリュウソウであった。別名ユウレイタケ。歩き始めて約1時間半ようやく小日向のコルに着いた。ここで、まずはキヌガサソウ、そして今年は三月に大雪が降ったため、ここもようやく残雪がなくなったばかりで、まだ水芭蕉が咲いていた。さらにその先の杓子沢の雪渓を渡ったところで、シナノナデシコ、オオバギボウシ、オニアザミ、マイズルソウ、ツマトリソウ、ゴゼンタチバナ、ニッコウキスゲ、タテヤマウツボグサなど。
ギンリュウソウ
こうして見るとますます不気味である。高さ5cmキヌガサソウ
5cmくらいはある大型の花で、麓に近いところで見かける。小日向のミズバショウ
杓子沢の出会い
このあたりから鑓温泉が見えた。またこれを渡ったところがお花畑になっている。オオバギボウシ
天狗小屋の主に教えてもらった。ウバユリではない。シナノナデシコ
雪渓の穴
ようやく4時間後にイオウ臭が漂う鑓温泉に着いた。直前に雪渓をかなり直登するところがあり、かなり消耗。かなり大きな露天風呂がある。ここで、山菜うどんを食べた。もう2時である。温泉には入るつもりはなかったので、先を急ぐ。ここからがかなりの急登である。出だしは雪渓で、しかも下りてくる団体と遭遇し、ステップがないところ歩かされたりで、またまた消耗。その一群のなかの元気のいいおばさん、かなりバテテいる私を見て、「これから上るの?」「ええ、天狗小屋まで」「まあ大変ね」大丈夫かなという顔をして、「まあ、若いから大丈夫ね。この先はお楽しみよ」と岩壁まじりの急登のほうを差して笑っている。岩壁には黄いニッコウキスゲがところどころ咲いている。疲れているせいか、「屏風岩」の取り付きでT4尾根を見上げたときよりも、いやな感じである。しばらくあの硫黄臭漂う鑓温泉まで引き返そうかと考えた。一般道で、まだ2:30だし、夏の夜は遅いし、なんとか天気ももちそうだと、なんとかなると気を取り直して、登り始めた。振り返ると、先ほどの集団はかなり下のほうである。どうもわたしは、潜在的な高所恐怖症で、勢いがあると大丈夫なのだが、こういうときは膝に力が入らなくなったりする。あせりながら、なんとかよじ登った。で、ようやく大出原になって、傾斜も落ちてきた。ここは、白馬周辺では、最大のお花畑である。大出原のチングルマ
コマクサとイワツメクサ
再会したハクサンコザクラ
今回は、ハクサンフウロやクルマユリといった派手な花がまだ咲いていないこともあり、チングルマとミヤマキンポウゲ、ハクサンイチゲでは、ちょっと迫力に欠けた。ここで、ハクサンコザクラと再会する。雪渓が残る登山道をゆくと、コマクサの群落である。漠然と写真を撮った。本当にちょっと歩いては休みで、休憩しているほうが長いので、なかなか高度が稼げない。そんなとき、上の方から人声がした。この時間にもう下りてくる人はいないから、稜線上の人の声ではないかと思った。登るにしたがって、はっきり聞こえてきた。そして、ガスの切れ目から稜線上の登山者が見えた。すこし青い花が残っているウルップソウ
いつもながら、稜線にはじめて飛び出すときが一番うれしい。しばらく、ここで横たわっていた。周りはウルップソウが大きなオオバコのように生えている。やはり時期が遅いので、花は落ちていて、まさに太いオオバコである。奇妙な光景を倒れたまま見ていた。すこし先の東斜面には、タカネヤハズハハコがいっぱいあった。天狗小屋の手前には、ヨツバシオガマの群落があった。ウルップソウは、本州ではここと八ガ岳しかない珍しい花なのであるが、白馬周辺では、まさに雑草のように生えている。
天狗小屋についたのは5:30で、思ったより早く着くことができた。8時間の歩行時間であった。タカネヤハズハハコ
ウサギギク
ヨツバシオガマ
今日見た花:ギンリュウソウ、ミヤマキンポウゲ、キヌガサソウ、シナノナデシコ、オオバギボウシ、オニアザミ、マイズルソウ、ツマトリソウ、ゴゼンタチバナ、ニッコウキスゲ、タテヤマウツボグサ、オニアザミ、チングルマ、ハクサンイチゲ、コマクサ、ハクサンコザクラ、ウルップソウ、タカネヤハズハハコ、ヨツバシオガマ、ウサギギク、イワベンケイ、ミヤマキンバイ
(つづく)