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アヤシゲ翻訳 テレビシリーズ2 エピソード5 / オールド・グレッグ伝説 The Legend of Old Gregg


 共同部屋の居間

(ナブーとボロがくつろいでいるところに、ハワードとヴィンスがライブから帰ってくる。)
ヴィンス:よう。
ナブー:ライブはどうだった?
ハワード:そうだな、多分、今までやった中でも、ベストだと思うな。
ヴィンス:かーんぺき!
ハワード:こいつを見てやれよ
。(ポーズを取るヴィンスを指差す)
     左から右、真ん中へと、次から次へ違うポーズと決めてく。見たことも無いシロモノだぞ。
ヴィンス:ハワードなんて完全に興奮してたぜ。えらい勢いでどんどん展開しちゃったんだから。
ハワード:観客もすっかり興奮状態さ、ナブー。俺がファゴットを持ち出したときこそ、最高潮。
     あれほどのプレイは今までした事が無い。
(外からレンガが投げ入れられ、ガラスが割れる。)
ナブー:なにごと?
ヴィンス:ガキがウロウロしてたから、それじゃない?
ハワード:そうだよ。
ナブー:
(レンガを拾い上げる)おたくらのチラシが貼ってあるけど。
ハワード:ライブにニ,三人、全然乗れてないのが居たかなぁ?
ボロ:
(窓の外を見ながら)500人は居るぞ。
ハワード:ああ、そう?
ナブー:ここから出たほうが良いよ。
ハワード:オーケー。じゃあ、二日くらいで戻るよ。
(もう一つ、レンガが投げ込まれる。)
ナブー:一週間は戻らない方が良いね。


 走行中の車内

(夜の道を車が町から離れていく。ハワードが運転し、ヴィンスが助手席に座っている。)
ヴィンス:ありゃ音楽史上最悪のライブだな。
ハワード:悪くなかった。連中が俺たちの音楽についていけてないんだよ、ヴィンス。
ヴィンス:また町に戻れるように、受け入れてもらえると思うか?
ハワード:そりゃそうさ。俺たちは先駆者だぜ。リスナーが俺たちについていけるようになるだけの、時間を与えるんだ。
     そうすればまた俺たちの帰還が歓迎される。
ヴィンス:
(音楽雑誌を見せる)これのレビュー見たか?
ハワード:ヴィンス、俺たちの音楽を語るのに、批評家たちの言葉は必要ない。
ヴィンス:はぁ、偶然の一致だね!なんも俺たちのこと、書いてないもん。
     ただ、キモチ悪い写真の下に、俺らの名前が書いてあるだけ。
ハワード:連中は俺たちの挑戦についていけてないんだよ、ヴィンス。そんな物はうっちゃって、前進あるのみ。
ヴィンス:じゃぁ俺、訊きたい事があるんだけど。実際のところお前、なにをしようとしてたわけ?
ハワード:俺は最高潮に達していた。それだけだ、ヴィンス。
ヴィンス:最高潮?ファゴットを頭にセロテープでくっつけて、飛び跳ねてただけじゃん。
ハワード:左様でございます。それこそ、俺がやるべきこと。ヴードゥーのトランス状態にはまると、ああなる。
ヴィンス:ヴードゥーのトランス状態?
ハワード:そう。そっから出てんの。
ヴィンス:地球外ジャズ生物にしか見えねぇ。
ハワード:自分でも何をしてるのか分からなかったけど、とにかくいい感じだった。
ヴィンス:いい感じかどうか知らないけど、とにかく俺が見たのは観客の方だ。精神異常状態だったぞ。
ハワード:少々セクシャル過ぎであり、少々官能的過ぎだった。
     俺のやりようは、いくらか出来すぎだ、って聞いた事だってあるぞ。
ヴィンス:出来すぎ?ありゃ、ドラムとベースの協議会に出席した臨時教員みたいだったぜ。
ハワード:はぁ?
ヴィンス:なんていえば良いのかな、ハワード。ともかく、お前ちょっと白人っぽすぎ。
ハワード:お前、何者だよ?ウェズリー・スナイプスか?
(二人の乗った車が「ブラック・レイクへようこそ」の看板の脇を抜け、湖畔の町へ走ってゆく。)


 パブ「王様えびヘッド」

(バンドが演奏し、ひげを生やした漁師たちが酒を楽しんでいるところに、ハワードとヴィンスが入ってくる。すると、全ての人の動きが止まる。ハワードとヴィンスが戸惑っていると、主人が機械にコインを入れ、また人々が動き始める。)
ハワード:
(店内に入りながらヴィンスに)ここは俺に任せとけ。(主人に)今晩は、おやっさん。
主人:なんか用か?
ヴィンス:フラティーニある?
主人:なんだと?
ヴィンス:シャンパン・カクテルの種類だよ。パイナップルが入ってて、ねじった薄切りライムを添えてある。
主人:あんたら、ロンドンもんだな。自分がどこのもんかよーく考えて、根性据えて来たんだろうな。
   ここはあんたらみたいのが来るとこじゃないぜ。ジェフはちゃんとわきまえてる。
   フラティーニとやらはねぇよ。飲むんだったら、ジェフと同じもん飲みな。素朴で正直な漁師が飲むもんだ。
ハワード:いいね。そいつを二つもらえるかい。
主人:蛆虫サイダー二つ!
(蛆虫サイダーが二つ出てくる。)
ヴィンス:俺、腹へってるんだ。オリーブある?
主人:ない。
ヴィンス:豆のディップは?
主人:ない。
ヴィンス:ブドウの葉の包み料理は?
主人:ない。
ハワード:サラダとかないの?
主人:ジェフと同じ物食うんだな。素朴なカレーのナン添えだ。
ハワード:ガーリック・ナン?
主人:ああ。
ハワード:いいね。あっちで頂くよ。
主人:蛆虫かれぇ、二つ!
(ハワードとヴィンス、テーブル席につく。)
ヴィンス:変なところだな。
ハワード:変じゃないよ。個性だ。ここで何事か得るはずさ。町に慣れた視点と、習慣が失ってしまった何かを。
     ここは良い滞在になるだろうさ。町を出て、充電しなおし、新しいアイディアを得れれば、また何曲か書けるだろう?
(隣りで飲んでいた男,ラムジーが話しかけてくる。)
ラムジー:失礼、ちょっと小耳に挟んだんだがね。あんたら、何か作ってるのかい?
ヴィンス:バンドやってるんだ。あんたは?
ラムジー:ラムジーだ。
ハワード:ラムジーか。ハワード・ムーンだ。
ラムジー:
(ヴィンスに)その髪、いいね。どうしてんだい?
ヴィンス:基本どおりに、逆毛を立てるようにセッティングするんだ。少しばかり外側をアイロンで整えてやる。
ラムジー:いいね。
主人:
(料理を持ってくる)かれぇと、ガーリック・ナン二つだ。
ラムジー:コリンかい。
主人:ラムジーかよ。
ハワード:あんた、仕事は?
ラムジー:地元のアーチストってやつだ。貝殻を使って物を作るんだよ、カップとか、電話帳とか、靴とか。
(靴を見せる)
ヴィンス:イカす。
ラムジー:材料費がかからないからな。
ハワード:へぇ。
ラムジー:ところで、あんたらここには何しに?
ハワード:そうだな、創作上の何かを掴んで、ロンドンに戻れればと思うんだ。
     だから、音楽の事から頭を休めて、ここに来たんだ。頭冷やして、逆襲開始。
ラムジー:俺は創作に行き詰るといつも、ブラック・レイクへ釣りに出かけるね。
ハワード:そうなんだ。
ラムジー:そう。風が髪をなびかせ、水は静かに流れる。インスピレーションを得るには完璧。
ハワード:いいことを聞いたな。明日やってみよう。
ラムジー:ここだけの話だがな、ちょっと寄りなよ。(ナンが起き上がる)ナン!お前じゃない!
      ブラック・レイクに出るんだったら、今すぐが一番いい時間だ。
      月が満月だからな。あんたとレディフレンド、最高の一時を過ごせるぜ。安くしとくよ、40ユーロだ。
ハワード:乗った。
(ラムジーに金を渡す)
ラムジー:ボートは桟橋の外側につないであるよ。おっと、行かなきゃ。かみさんが来た。
ラムジーの女房:ラムジー?!
ラムジー:行くよ、マチルダ!
(二人に)じゃあな。


 ブラック・レイク

(ハワードとヴィンスがボートで釣りをしている。)
ハワード:ああ、いい感じじゃないか。ラムジーっておっさんは正しいな。ここだと、すっかりくつろいだ感じがする。
     バッテリーの充電開始って感じだ。それに…釣りも好きだし。あまり期待しるぎるもんじゃないっぜ、ヴィンス。
     俺が初めて魚を釣り上げるまでには、三ヶ月もかかった。リラックスして、成り行きに任せるんだ。
(ヴィンスの竿にあたりが来る。巻き上げると、マスが釣れている。)
ヴィンス:ごめん、なんか言った?
ハワード:忍耐こそ肝心なんだ。禅の境地に立ってな。魚を釣ること自体は、重要な事ではないんだ。
(ヴィンス、またマスを釣り上げる。)
ハワード:お前、釣りをしたことが無いんじゃなかったか?
ヴィンス:
(もう1匹釣り上げながら)初めてだよ。面白いな。簡単じゃん。
ハワード:餌に何使ってるんだ?
ヴィンス:俺のサイン入りブロマイド。でもさ、餌で釣るのはもう止める。
     ばっかみてぇだよな、あいつら自分から飛び込んで来るんだぜ。
     見てろよ。
(水面に向かって)おいで!(マスが二匹、ボートに飛び込んでくる)お前も。(もう1匹飛び込む)
ハワード:釣りってものを、全然理解していないな、ヴィンス。魚をかき集めるのとは違うんだぞ。
ヴィンス:同じだろ。
ハワード:ありがちな間違いだ。それとは違う何事かが存在するはずだ。
     人生における満ち潮、引き潮、チャンスという名の歯車の気まぐれな回転…。
ヴィンス:そりゃ釣りじゃなくて、ただの考え事だ。
ハワード:とにかく、誰にだって釣りそのものは出来るのさ、ヴィンス。
ヴィンス:お前以外はな。
ハワード:始めたばかりだろう。そのうち分かる。


 夜空の月

ムーン:♪あの人はとっても輝いて ミルキー・ホワイト 光を放って地上を照らす〜 
       輝くミルキー・ホワイト 光を放って地上を照らす〜 
       みんなが月を見上げてる! みんなが月を探してる! 月は輝きミルキー・ホワイト! 
       みんなお月様に注目だ!♪
       ヘーイ!歌ができちゃったよーん。ジュピター、歌ができたよ!お前にはできないだろー!
       イェー!ハッハー!…ああ…なんか気持ち悪くなっちゃった。


 ブラック・レイクのボート

(ヴィンスの背後にはマスで山ができている。)
ヴィンス:飽きたー。
ハワード:飽きたってなんだよ。
ヴィンス:お前、まだ何も釣れてないんだろ?
ハワード:釣れてない。少なくとも1匹は釣り上げるまで、この湖を離れないからな。
ヴィンス:俺の1匹やるよ。
ハワード:お前のなんかいらん。
ヴィンス:お前、どうして釣れないか分かってるか?
ハワード:どうして?
ヴィンス:熟練した釣り師が言うじゃん。釣る人が白人っぽすぎると、魚は食いつかないって。
ハワード:いいか、モーガン・フリーマン。陸に戻ったらどうだ?俺は残って釣りを続けるんだから。
ヴィンス:いいね。水面を歩くかなんかするか?
ハワード:非常用ボートあがある。
(ハワード、空気の入っていない膨らましボートをヴィンスに渡す。)
ヴィンス:なるほど。そうするよ。
(口でボートを膨らまし始める)

(字幕:50分後)

ヴィンス:ああ、もう無理。足踏みポンプとかないの?
ハワード:あるよ。ほら。
(電動ポンプを出す)
ヴィンス:ありがとよ。


 パブ「王様えびヘッド」

(バンドの演奏に合わせて漁師たちが歌っている。)
猟師たち:♪そぉ〜りゃ…お魚さんにキッス、キッス、漁師のかみさんよりお魚さんにキッス!
        かみさんを追い出して 穏やかな夜を楽しむのだ 安らぎという何の幸せをつかむのさ〜♪
(ヴィンスが釣果を持って入ってくる。)
ラムジー:よーう、ヴィンス。
ヴィンス:バッチリ!
ラムジー:そいつぁ、自分で釣ったのかよ、ぼうや!
ヴィンス:そう!
ラムジー:真の漁師だな!みんな、見たか?この若者に乾杯だ!
主人:フラティーニお待たせ!
(バンドの演奏に合わせて、また漁師たちが歌い出す。)
漁師たち:♪湖で魚をつかまえてきたぞ そしてこのパブに戻ってきた〜♪
ラムジー:即興演奏ってやつだ、ヴィンス。
ヴィンス:まじで?
(テーブル席から、地元の漁師ルシアンがヴィンスに呼びかける。)
ルシアン:こっち来いよ、坊主。名前は?お坊ちゃま君よ。
ヴィンス:ヴィンス。
ルシアン:ヴィンス。いい名前だ。力強い漁師の名前だな。ヴィンスというのは、アイスランド語で「釣り針」を意味するんだ。
ヴィンス:そうなんだ。
ルシアン:ああ。
主人:さぁ、フラティーニだ。
(フラティーニを持ってくる)
ヴィンス:ありがとう。
主人:パイプはどうだい?
ヴィンス:もちろん。
主人:ひげは?
ヴィンス:間に合ってる。
ルシアン:コリンか。
主人:ルシアンかい。
ルシアン:その魚はどうやって釣り上げたんだ?坊や、小僧、ぼくちゃん、若造君?
ヴィンス:そうだな、ただ釣り糸をボートから垂らして…
ルシアン:ダメ、ダメ、ダメ、ダメ!情景を語らなきゃ。物語を紡ぎ出すんだよ。
     釣り話ってのはそういうもんだ。ただの「魚釣り」ってもんじゃないんだ。
     俺たちゃただの「魚釣り」なんて、もうやってないぜ。そこのネヴィル爺さんなんて、釣りを一度もしたことがない。
     さぁ、物語だ!
ヴィンス:なるほどね。分かったよ。よし、こうだ。それは暗い、暗い夜のことだった・・・
バンド:♪暗い、暗い夜のことだった〜♪
ルシアン:よし、その調子だぞ坊主。
ヴィンス:空には満月が。
バンド:♪空には満月が〜♪
ルシアン:はっはー!緊張してきたぞ。
ヴィンス:俺はブラック・レイクに出た。
(パブに居た人々が凍りつき、一部失禁者が出る。)
ルシアン:小僧、今なんと言った?
ヴィンス:ブラック・レイクだよ。
(主人が漏らしている。)
主人:その…樽を交換してこなきゃな。
ルシアン:満月の夜は、決してブラック・レイクに行ってはいかん。
ヴィンス:どうして?
ルシアン:出るからさ。悪魔の如き−オールド・グレッグと呼ばれる化け物がな。
ヴィンス:誰、それ?
ルシアン:オールド・グレッグさ。伝説の魚。半魚人だと言う者もある。ある者はその割合は7対3とも言う。
     比率はともかく、ヤツは魚の化け物だ。
主人:またある者は、ヤツは幽霊だとも言う。存在しないから捕らえられないとな。釣り針もヤツを通り抜けてしまう。
ルシアン:またある者は、ヤツは人間を捕らえて食うとも言う。ありきたりの餌には掛からないのだ。
     ヤツを釣り上げるには、子供の足先を使うしかない。


 夜空の月

ムーン:またある者は、オールド・グレッグは大きな魚みたいな手をしてて…
    そのでっかくて…車庫!車庫みたいにでっかいんだそうな。
    車庫みたいにでかい魚の手とか言って、想像できるかい。うー!怖いね〜でっかいよ〜でっかいぞ〜


 ブラック・レイクのボート

(ハワードが独りで釣りを続けている。)
ハワード:よし、来たぞ!来た来た!おいで、ムーンおじさんとこに!よし、引いてるぞ。
(突然、水音と共にあたりに霧がたちこめる。霧が晴れてみると、ハワードの向かいに、オールド・グレッグが座っている。)
グレッグ:ハァイ。どうも。
ハワード:どちらさま?
グレッグ:アタシはオールド・グレッグ。はじめまして。
ハワード:ここで何を?
グレッグ:こっちも同じ質問があるね。アタシの湖で何やってんの?
ハワード:ただ、その空気を吸いに。釣りじゃなくて。
グレッグ:じゃぁ、アタシの頭にひっ掛かってる釣り針はなに?お馬鹿さん。
ハワード:俺のじゃありませんです。
グレッグ:あんたの釣り糸についてたんだよ、スットコドッコイ。
ハワード:殺さないで下さい、なんでもあげるから…
グレッグ:お気楽に、熟れたてモモちゃん。靴でベイリーズ飲んだこと、ある?
ハワード:は?
グレッグ:お互いにオシッコ掛け合いをするクラブに行ってみたくない?
ハワード:いえ。
グレッグ:困っちゃったな。
ハワード:何と仰いました?
グレッグ:あなたが好きなの。アタシのこと、どう思う?
ハワード:なんとも言えませんけど。
グレッグ:よぉ〜く見て。
ハワード:感じの良い、洗練された紳士とお見受けします。
グレッグ:嘘言わないでよ。
ハワード:嘘じゃありません。
グレッグ:どう思っているか、分かってるんだから。
     『オールド・グレッグが出たぞ、ヤツはウロコだらけの魚野郎だ!』全然分かってない。
     アタシが何者か、わかっちゃいない。いいもの、見せてあげる。これが何だか分かる?
(グレッグがピンク色のチュチュを捲り上げて見せると、鋭い光がハワードと直撃する。)
グレッグ:これぞ!オールド・グレッグの生殖器!アタシは赤ちゃんも産めるのよ!アタシはオールド・グレーッグ!
(ハワード、昏倒してしまう。)


 パブ「王様えびヘッド」

(漁師が帽子を持って入ってくる。)
漁師:こいつを波打ち際で見つけたぞ。
(帽子をルシアンに渡す。)
ヴィンス:ハワードの帽子だ。
ルシアン:これで間違いないな。オールド・グレッグの仕業だ。
ヴィンス:どうして分かるんだ?
ルシアン:名刺を残してってる。
(ルシアン、「アタシはオールド・グレッグ」という名刺を見せる。)
ヴィンス:ハワード、大丈夫だと思う?
ルシアン:そうだな、歌で説明してやるよ。
バンド:♪死んじまった〜死んじまった〜死んじまった〜 彼は死んじまった!死んだの!♪
ルシアン:オールド・グレッグに出くわして生きて帰れたのは一人だけ、話が聞ける。あれだよ、あそこのホプキンスさんだ。
ヴィンス:よし、行って話を聞いてくる。
ルシアン:せいぜい頑張りな。
ヴィンス:
(ホプキンスに)すみません、あなたオールド・グレッグに会ったとか。どんな感じです?
ホプキンス:ギャァアァァァァアアアアアア〜!!!
(延々と叫び続ける)
ヴィンス:駄目だこりゃ。自分自身の力でどうにかしなきゃな。


 共同部屋の居間

(ナブーとボロが寛いでいると、電話が鳴る。)
ボロ:いやな予感がする。それ、かして。
(ナブーから水キセルの吸い込み口を受け取る。)
ナブー:もしもし?
ヴィンス:よぅ、ナブー!元気?
ナブー:今度は何?
ヴィンス:
(電話ボックスから)別に何も。ちょっと電話して声でも聞こうかと思ってさ。うまく行ってるよ。
     釣りに行ったんだ。山ほど釣ったよ。面白いジモティーにも会ってさ、あはは、笑い話ばっかさ。
ナブー:だから、何があったの?
ヴィンス:なんもないってば。ちょっと電話でもって思っただけ。声が聞きたくてさ。
ナブー:何も無いんだね。
ヴィンス:ないよ。
ナブー:ああそう。じゃあね。
ヴィンス:あ、あ、ナブー、ちょぉっと…大したことじゃないんだけど。
ナブー:そら来た。
ヴィンス:ハワードが、水生化け物に誘拐されちゃったみたいなんだよね…
ナブー:なんだそりゃ。
ヴィンス:助けてくれるだろ?
ナブー:わかったよ。いい?そこに居てよ。30分くらいで行くから。
ヴィンス:サンキュ、ナブー。お前って最高!
ナブー:
(電話を切る)ボロ、ロフトから潜水艦を出してきてくれる?クリスマス・ツリーの下だよ。


 湖底 オールド・グレッグの棲み家

(ハワードが目を覚ます。)
ハワード:どうなってるんだ?
グレッグ:アタシはオールド・グレッグ。
ハワード:ええ?
グレッグ:アタシはオールド・グレッグ!
ハワード:ここはどこだ?
グレッグ:グレッグのおうち。眠ってたの。一杯いかが?ひとつ、作るよ。ベイリーズは好き?
     クリーミーだよ?クリームたっぷりに、ちょっと薄茶色。
(ハワード、グレッグにベイリーズを渡されて、一口飲む。)
ハワード:うまい。
グレッグ:オールド・グレッグのおうち、気に入った?素敵にしてるでしょう。
ハワード:すごく、素敵にしてるね。
グレッグ:これはどう、いいでしょ。
(大きな浮きを見せる)
ハワード:いいね。
グレッグ:あげる。
ハワード:いや、結構です。
グレッグ:ここに置いとくね。
ハワード:さて、出口はあっち?ああ…早く行かなきゃ。
グレッグ:ん?
ハワード:会議があるんだ。それに…友達も待ってるし、その、多分…
グレッグ:どうして行っちゃうの?ここに居れば何でもあるのにベイリーズもあるし、クリーミーでしょ。
     それに、何でもある。ベイリーズをもう一つ。
ハワード:もういいよ。ありがとう。
グレッグ:水彩画を描いたの。
ハワード:そうなんだ。
グレッグ:幾つか、みせてあげる。
(絵を見せる)これは、オールド・グレッグっていうの。
     これも描いたんだけど、オールド・グレッグっていうの。それから、これ、これなんていうか分かる?
ハワード:オールド・グレッグ?
グレッグ:その通り。どうも。ほかにもあるよ。二つ持ってきた。これはベイリーズ。
     これはベイリーズ。大きいやつ。それから、これは目がかすんでなければ、出来るだけ近づいてみるとベイリーズ。
ハワード:ふうん、画集が作れるね。でも、本当に行かなきゃ。楽しかったよ。
グレッグ:一緒にもっと水彩画描こうよ。アタシと、あなたで。
ハワード:楽しそうだね。平日にするといいよ、グレッグ。
グレッグ:どういう意味?
ハワード:つまり、木曜日は暇にしてる?
グレッグ:なんで今じゃだめなの?
ハワード:だからさ、俺は忙しい人でさ、グレッグ。やることがあるんだよ。ハワード・ムーン、町に生きる男。ははは。
グレッグ:アタシのこと、愛してる?
ハワード:来たよ…
グレッグ:アタシのこと、愛してる?
ハワード:ええと…聞こえないふりってことにしたいな、グレッグ。
グレッグ:アタシのこと愛してるってこと?
ハワード:そういう意味じゃない、グレッグ。
グレッグ:じゃぁ、どういう意味?教えてよ。
ハワード:その、だから誰かと知り合って、つるむかなんかして、どっかに行くとか、どうとか、こうとか…
     その、色々あるんだろうけど…俺はきみのことを知らないんだ。
グレッグ:知ってるよ。ボートで会ったでしょ?
ハワード:会ったなんてもんじゃなかったぞ、グレッグ。どっちかと言えば遭遇だ。
グレッグ:初めてのデートでしょ?その腕で、強くアタシを引き寄せたじゃない。
ハワード:冗談だろ。いいか、グレッグ。俺はきみを知らないんだ。
グレッグ:知ってるよ。アタシの下半身をばっちり見たでしょ。
ハワード:そうだけど、頼んだわけじゃないだろう?
グレッグ:見たってことはどういう事か分かる?アタシのこと、愛してるってことでしょ?
ハワード:違う。
グレッグ:アタシのこと、愛せるようにはならない?
ハワード:無理。俺はきみのこと、愛してない。
グレッグ:愛してるくせに。
ハワード:愛してない。
グレッグ:愛してるでしょ。
ハワード:愛してない。
グレッグ:アタシを愛してて、アタシを見て、アタシのこと知ってる。アタシはオールド・グレッグ!
ハワード:ああ、分かってるよ。きみはそれをもう89回も言ってる。
グレッグ:アタシのこと、愛してくれなきゃいけないの。アタシがあなたのこと愛してるようにね。
ハワード:あのな、愛してない。それにはっきり言わせてもらえば、いい加減イラついてきてるんだよ。
     どうであれ、きみはお気の毒ってこと、それだけだ。
グレッグ:きっと、そうでしょうね。そうなったら、もうカリー・ジェファーソンになってもらうしかないね。
(グレッグがハワードの背後を指差すと、そこには人間の男が、剥製にされている。)
ハワード:ええと…グレッグ…君を愛してないなんて言うには、ちょっと早すぎたような気もする。
     光があれば君のチュチュとか、水草とかよく見えるし…多分、君に恋をする…かも…その…
     ちょっとしたウソもあった訳で…恋愛をしている時は…愛してるとか、愛してないとか色々言って…
     駆け引きをする訳さ。ゲームだよ。ゲーム…
グレッグ:ゲーム?
ハワード:そうそう!君とちょっとしたゲームをしていた訳さ。
グレッグ:ラブ・ゲーム?
ハワード:そうさ。ラブ・ゲームだよグレッグ。
グレッグ:ラブ・ゲーム?

(70年代後半系のファンク・ミュージックとともに、グレッグが歌い出す。)

グレッグ:♪アタシのこと、愛してる?アタシとラブ・ゲームを演じてるつもり?
       アナタなの愛が一杯欲しいから どうすれば良いのか教えてよ さぁ、早く♪
ハワード:♪そんなに急がないで レースじゃないんだから ベイビー気を楽にしてペースを落とさなきゃ
       ゆっくりやらせてよ そんなに接近しないで 急ぎすぎだよ レースじゃないんだから♪
グレッグ:♪アタシはオールド・グレッグ♪
ハワード:♪分かってるよ 言うと思った♪
グレッグ:♪ねぇ アタシにおねだりなんてさせないでしょ アタシはあなたにとって ただの男じゃないんだから 
       恥ずかしがらないで ねぇ、アタシのこと愛してる?♪


 水中を進む潜水艦の中

(操縦しているナブーが、水キセルを使っている。)
ヴィンス:
(煙たがりながら)窓あけられないか?息もできやしない。
ナブー:潜水艦なんだよ、お馬鹿。
ヴィンス:こんな海底洞窟を、どうやって探すんだ?
ナブー:大丈夫だよ。キャプテン・ボロが受け持ってる。
ヴィンス:本当?
ナブー:ボロ、何か分かった?
(ボロ、モニターに見入っている。)
ヴィンス:パックマンしてるぞ!
ナブー:どうにかしなきゃ。なにやってんの、ボロ?
(ボロと同じモニターを覗き込む)
     ああ、行きすぎだよ。僕の方が得意だってば。
ボロ:リンゴを取って、リンゴ、リンゴ!
ナブー:こっちにはお化けが居るんだってば。
ヴィンス:もしもーし?俺ら、ハワードを助けに行くんじゃなかったか?
(ゲームに加わる)
     戻って、チェリーを取れ、バックしてチェリーだよ!


 オールド・グレッグの棲み家

(ハワードがグレッグと向かい合ってテーブルについている。)
ハワード:うん、素晴らしいご馳走だね、グレッグ。
グレッグ:家政学、勉強したから。
ハワード:そうなんだ。
グレッグ:評価Aもらったんだから。いり卵つくったの。先生が、アタシのが一番だって。
ハワード:そうか、良かったね。
グレッグ:楽しそうじゃないね、グレッグ。
ハワード:気づいたかい?
グレッグ:ハワードさえ良ければ、アタシが楽しませてあげる。
ハワード:ああ…もう水彩画は結構だよ。
グレッグ:あなたはミュージシャンなんでしょ?
ハワード:そうだよ。
グレッグ:でも、いまいちイケてない。
ハワード:俺は町じゃ一番だ。
グレッグ:おや。批評見たよ。何が問題か分かってる?
ハワード:何?
グレッグ:アナタはファンクをゲットしてないってこと。しゃっちょこばっちゃって。ひからびたパンみたい。リズムも全然駄目。
ハワード:そういうのはもう、随分聞かされたよ。ありがう。
グレッグ:アタシなら、手伝ってあげられる。ファンクをゲットしてる。
ハワード:ああ、そうだろうね。きみはファンキーだよ、グレッグ。
グレッグ:ちがう、ちがう。分かってない。アタシが言ってるのは、今ここにファンクをゲットしてあるってこと。
     この箱の中。
(テーブルに箱を置く)だから、ファンクってのは生きてるの。

(「ファンク」のアニメーションが始まる。)
グレッグ:運動用のボールくらいの大きさだけど、乳首がいっぱいついてる。
     どこかの惑星からやってきて、ブーツィ・コリンの家に着陸。ブーツィは普通の農夫だった。
     でも、彼はファンクのふじ色の乳首を見るなり、我を忘れた。ブーツィはファンク・ミルクを絞り始めた。
ブーツィ:なんだこりゃ、このボール、甘いクリームばっか出しやがる。
グレッグ:それでファンク・シェイクを作ってみた。
ブーツィ:主を讃えよ!
グレッグ:ブーツィは体の中からシュワシュワ沸きあがるのを感じ始めた。自分の周囲がよく見えるようになったの。
ブーツィ:おおう、これは…
グレッグ:突然、ブーツィは意識を失う。でも、目が覚めたときには、ベースギターの早弾きとルーズなプレイを披露。
     まるで、素晴らしきファンキー伝道師のよう!
ブーツィ:オー、イェー!
グレッグ:二ヵ月後には、ブーティはバンドの「パーラメント」と共に、世界中の有名人に。
     誰もが「ファンク」のお乳を欲しがった。リック・ウェイクマンも
(オルガンの音)、ビージーズも。
ビージーズ:♪オー!ファンキー・ミルクをおくれ!♪
グレッグ:ある日、「パーラメント」はファンクと一緒に母船に乗って旅をしていて、ファンクをほいほい投げ合って、遊んでた。
     ジョージ・クリントンが蹴り上げた時、ファンクが船外に飛び出してしまった。
ブーツィ:ありゃ!
グレッグ:あれは1979年7月2日。ファンクが死んだ日。
     2週間後、アタシはファンクがアナゴと一緒にベッドでお楽しみのところを発見した。
アナゴ:わぁ!見つかった!
グレッグ:最初、ファンクのことをイソギンチャクかと思ったけど、
     よぉく調べてみると、宇宙外からやってきた、ファンキー・乳首ボールだって分かった。
     「パーラメント」に返してあげようかと言ったら、ファンクは「冗談じゃない」って。
     連中はちっともファンクの演奏も聞かないで、ただファンキーなプロデュースにしか興味が無いんだって。
     それで、ファンクをここに連れてきて、一緒に洞穴で住んでるの。
(アニメーション、終了。)

ハワード:面白い話だったよ、グレッグ。それで、俺を幸せにしてくれるってのは、どうする訳?
グレッグ:提案がある。このファンクでもって、美味しいシェイクを作るの。バンドを組んで、世界を旅して回る。
     そしたら有名になれる。ファンク家族になるの。
ハワード:つまり、ここからで陸地へ行くってことか?
グレッグ:その通り。
ハワード:よし、そうしよう。やろうじゃないか。
グレッグ:オーケー。
ハワード:さぁ、行こうぜ。
グレッグ:一つ、条件がある。
ハワード:なに?
グレッグ:この手を取って、結婚する事。
ハワード:ああ、どうしよう…
グレッグ:良く考えて、ハワード。結婚すれば、ファンキーな自由を得る。それこそ欲しかった物でしょう。
     オールド・グレッグが叶えてくれる。外は雨、力強い男が夜、アタシを抱くの。
ハワード:この洞穴から永久に逃れられるんだよな?
グレッグ:人生を懸けるの。やってみる?
ハワード:やるよ。
(ハワードが左手を差し出すと、グレッグが薬指に指輪をはめる。)
グレッグ:最高。アタシを幸せにしてくれた。オールド・グレッグ、素敵なウェディング・ドレス、取ってくる。
     良かった、新しいベイリーズを開けてて。アタシはオールド・グレッグ!
(グレッグ、ドレスを取りに立ち去る。ハワード、ガタガタと動く箱を開けて、すぐ閉める。突然、岩場の間から、潜水艦が浮上してきて、ヴィンスがハッチを開ける。)
ヴィンス:おい、ハワード!
ハワード:ああ、助かった!
ヴィンス:早く、来いよ!
ハワード:ちょっと待て!
(ハワード、箱を持って逃げ出す。)


 水中を進む潜水艦

ハワード:ナブー、お前こんな物持ってたのか。
ナブー:中古だけどね。
ハワード:良いね。
ヴィンス:その箱なんだ?
ハワード:友達だよ。俺らを音楽界の中心に引き戻してくれる。
ナブー:さぁ、全力前進!


 パブ「王様えびヘッド」

(ハワード、ヴィンス、ナブー、ボロのバンドが、ハデハデ衣装でファンキーなプレイを展開する。)
ファンク・バンド:♪俺たちゃファンクをゲットしたぜ 水底のファンクさ 
           ピー・ファンクは忘れろ 俺たちゃシー・ファンクだ ファンク!♪
(最初は戸惑っていた漁師たちも、やがて踊り出す。)


 車の中

(ハワード、ヴィンス、ナブー、ボロの乗った車が、ブラック・レイクから離れて行く。)
ハワード:いいライブだったろう?
ヴィンス:ああ。ロンドンへファンクで凱旋だ。
ハワード:誰も俺たちを止められないぞ!
(車の上には、ウェディング・ドレスを来たグレッグが仁王立ちになっている。)
グレッグ:アタシはオールド・グレッグ!赤ちゃんだって産めるんだからー!


 エンディング・クレジット

(パブでバンドが演奏している。フリンジもどきはつけているが、曲調はあくまで民謡。)
バンド:♪俺たちゃファンクをゲットしたぜ 水底のファンクさ 
      ピー・ファンクは忘れろ 俺たちゃシー・ファンクだ ファンク♪


(終)
 
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