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アヤシゲ翻訳 テレビシリーズ1 エピソード7 / Electro エレクトロ


 オープニング・トーク

(赤いカーテンの前に、ハワードとヴィンス登場)

ハワード:ハイ、番組へようこそ。私はハワード・ムーン、こちらはヴィンス・ノワーです。
ヴィンス:ヘ、ロー!…失礼。
ハワード:今週のお話では、名声について扱ってみようと思います。
     もし名声の女神があなたのところにやってきて、ドアを叩いたら急いでドアを開けましょう。
     そうしないと彼女が行ってしまいます。
ヴィンス:なんで?
ハワード:女神は一度しかノックしないからさ。
ヴィンス:違うよ。彼女はいつだって俺んとこのドアを叩いてるぜ。玄関先に居てさ。
     俺がテスコ・スーパーに行く時は、彼女おれのズボンにぶらさげたチェーンにまとわりついたりして。
ハワード:そりゃ名声の女神じゃないだろう。そりゃミセス・ペラムだ。マジック・マッシュルームの話でもするんだろう。
ヴィンス:まぁ、名声の女神じゃないね。
ハワード:名声の女神はテスコ・スーパーなんかで買い物はしないぞ。行くとしたら高級なマークス&スペンサーの方だ。
ヴィンス:たまにしかマークスなんて行かないだろ。いつも行くところじゃないし、みんなそうなんじゃん?
ハワード:それに関しては、また別の機会に話そう。
ヴィンス:オーケー。じゃぁ後でな、イーグル大佐。
(退場)
ハワード:後でな、噛み噛み野郎。
(カメラに向かって)番組をお楽しみ下さい。(退場)
(カーテンが開いてオープニング・タイトルスタート)



 ハワードとヴィンスの小屋の前

(ハワードがラジカセでジャズを流しながら、ノリノリになっている。そこに、飼料の入ったバケツを持ったヴィンスがやってくる。)
ヴィンス:おい、ハワード、ハワード?おい、極小目玉!
(ヴィンス、手をハワードの眼前で動かすが、ハワードはまったく気づかずにジャズに没頭している。)
ヴィンス:
(カメラに向かって)ただ今、トランス中。ジャズ・トランスね。毎日こうなんだ。
     こいつを我に帰らせるには、少々複雑な手順があるんだ。
(ヴィンス、ハワードの頬をひっぱたく。ハワード、驚いて我に返る。)
ハワード:わあ!ああ…!
(ヴィンス、カメラに向かって微笑む)
ハワード:それ、禁止。二度とやるな!
ヴィンス:なんだよ。
ハワード:ジャズ・トランス中の人に、ああいう事はするんじゃない。
ヴィンス:なんで?
ハワード:心臓発作を起すじゃないか。夢遊病みたいな物なんだ。俺は魔力にどっぷりつかっていたのに。
ヴィンス:もっと働けよ!
ハワード:やろうとしていたところ。これは朝一番の、準備!ジャズを聴いて、気持ちを高め、そして仕事にとりかかる。
ヴィンス:違うね。ジャズを楽しんで、トランス一直線だ。6時10分にはもうトランス状態で、パブに行っちゃうくせに。
ハワード:お前こそ何かしたのか?飼料配り?
ヴィンス:俺だってこれからさ。こいつで今日一日をはじめるぞ、聞けよ。
(ヴィンスがポケットからカセットテープを取り出し、ラジカセで再生する。ヒューマン・リーグの”Don’t you want me“が流れ、ヴィンスが踊りだす。ハワードが乱暴にラジカセを停止する。)
ハワード:こいつは俺の精神衛生上、大変よろしくないな。
(テープを取り出して投げ捨ててしまう。)何だ、このネクラ騒音。
ヴィンス:ヒューマン・リーグじゃん!
ハワード:くずエレクトロだな。
ヴィンス:ニューマン・リーグは先駆者だぞ、音楽の創造者だ!
ハワード:音楽の創造者?じゃぁ、その前はどうだったんだよ。
ヴィンス:チューニングをしてただけ。
ハワード:おまえ、ジャズってものを認識してるか?ジャズの創造、ジャズ・ムーブメントだぞ。
ヴィンス:なんでジャズの話ばっかすんだよ。
ハワード:ジャズこそが、現代芸術におけるもっとも重要な存在だからさ。
ヴィンス:科学の先生に、憂鬱症、どれもジャズのせいだ。
ハワード:考えを改めるべきだな。このエレクトロおかま野郎。
ヴィンス:でなければ?
ハワード:後悔するだけ。
ヴィンス:ごめんだな。ジャズなんて知るか。
ハワード:挑戦してみろよ。
ヴィンス:やなこった。ジャズは嫌い。
ハワード:ジャズが嫌い?
ヴィンス:ああ。
ハワード:ジャズが怖いんだ。そうだろう?ははーん?
ヴィンス:黙れよ。
ハワード:お前、やっぱりジャズが怖いんだよ。分かっちゃいないから怖いんだろう?
ヴィンス:違う。
ハワード:そうさ。
ヴィンス:違うったら。
ハワード:分からないから怖いんだ。ウゥ〜!ジャズと自分の間に壁があると思ってるんだろう。そんなごついものじゃないぜ。
     「ジャズってどうなっているんだろう?きっと複雑なんだ!アァ〜!」簡単なことさ、お前は怖いんだよ。
ヴィンス:やめろ。
ハワード:ふぅ〜ん?ディッディディッディディ〜ディ〜♪
ヴィンス:黙れ!
ハワード:抽象的なメロディに、お前なんてパンツから大混乱だ。だろう?
ヴィンス:うるさい。
ハワード:♪ディ〜バップ!シュウィーバップ♪
ヴィンス:スキャットするな。スキャットする必要なんて無いだろう。
ハワード:♪ディーディババーウ♪
ヴィンス:スキャットやめ。
ハワード:♪スキューダッドゥバッパーディダー!♪
ヴィンス:最終警告だぞ。
ハワード:♪スキディリービー…!
(ヴィンス、バケツの飼料をハワードの顔にぶちまけて、走り去ってしまう)


 ハワードとヴィンスの小屋の前

(ハワードとヴィンスがベンチに腰掛けて話している)
ハワード:スキャットで歌うっていうのは、古来からの芸術表現なんだ。中国の古代文明にまでさかのぼる事が出来る。
ヴィンス:おい、ハワード。女の子たちが来るぞ。
(行き過ぎた80年代ポップ風の女の子二人,ネオンとウルトラが動物を見て回っている)
ハワード:オーケー…
ヴィンス:俺に任せとけって。
ハワード:俺に任せろよ。後ろで名人の魔法を見てな。
(ハワード、女の子二人に声を掛ける。)
ハワード:お嬢さん方。ハイ、動物園にようこそ。私はハワード・ムーン、ここの飼育員です。
     動物の展示をお楽しみいただいているでしょうか?ここには皆さんの目を楽しませる物が沢山ありますので…
     ちょうど、ヤギが発情期になったところですし。あの…ほかのもそうですけど…
     それから、3時半と5時半に、水棲動物の展示があります。私も、イルカ・ダービーのジョッキーとして、参加します。
     イルカに跨るというのはご存じないと思いますが、非常にスリリングな物でして。
     とてもスリリングで…特に若い女性にはちょうど良いかと。
(女の子たち、しばし呆然。すぐに、ヴィンスに向き直る。)
ネオン:ハイ、ステキな髪型ね。
ヴィンス:ありがとう。バンドか何かやってるの?
ネオン:そう。クラフトワーク・オレンジっていうバンド。
ハワード:私もミュージシャンですよ。色々な音楽をやりますが、特にジャズを。特に才能あるスキャット・シンガーなんです。
ネオン:ジャズなんてやんないの。私らはエレクトロ。
ハワード:エレクトロ、良いですね。ヒューマン・リーグなんかも好きですよ。あれは良い。大好き。
     私はあらゆる楽器も出来るので、人呼んで「マルチ楽器奏者」。
ネオン:ファゴット奏者が必要になったら声かける。あっはっは!
ハワード:皮肉な事に、私はファゴットも出来るんですね…。
(拡声器から、フォッシルの声がする。)
フォッシル:ハワード・ムーン。ジャッカル小屋に出頭せよ!
ハワード:
(ヴィンスに)お前、代わりに行けよ。
ヴィンス:なんで?
ハワード:今、いいところじゃないか!
ヴィンス:いいところ?
フォッシル:それから、ヴィンスを代わりによこさない事!
ハワード:ひとっ走り行ってきます。その…3時半と、5時半に、水族館忘れずに!
(立ち去る)
ウルトラ:
(ヴィンスに)だれ?あのジャズ・オタク。
ヴィンス:あいつは、ここの名物馬鹿男なんだよ。
     俺、あいつのことは良く知ってるけど、ここの仕事にちょっかい出すから、制服を着せてやってるの。
     それで満足らしいから。
ネオン:あんたもバンドやってる?
ヴィンス:うん、二つ掛け持ちしてる。
ウルトラ:ざーんねん。
ヴィンス:え?
ウルトラ:バンドに入ってくれる人を探してるとこだから。
ヴィンス:ああ、俺のバンドってのは、前に入ってたバンドのことでさ。昨日までは入ってたんだけどね。
ネオン:歌える?
ヴィンス:うん!俺はフロントマンとしちゃ最適だぜ。イカした格好でばっちり!
ネオン:ふぅん?じゃぁ、なんで動物園で働いているわけ?
ヴィンス:スターはみんな動物と仕事してたんだよ。ミック・ジャガーはペット・ショップで働いてたし、
     ロッド・スチュワートは亀の保護区で働いてた。ビリー・オーシャンは水族館。
     だからオーシャン(大洋)って名前なんだよ。あはは…ジョークです。どう?俺を入れてくれる?
ウルトラ:いいわよ。
ネオン:一回やってみてよ。
ヴィンス:オーケー。俺はヴィンス。
ネオン:ネオン。
ウルトラ:ウルトラ。
(ネオンとウルトラ、立ち去る)
ヴィンス:あとでね。


 ズーニヴァース 事務所の前のベンチ

(ヴィンスがベンチに腰掛けているところに、デッキブラシを持ったハワードが駆けてくる。)
ハワード:あの子たちは?
ヴィンス:行っちゃった。
ハワード:行っちゃった?
ヴィンス:残念だったね。
ハワード:絶対うまく行くところだったのに!
ヴィンス:彼女たち、お前に興味があるわけじゃないと思うけど。
ハワード:おれはそう思うぞ。あの子たちに魔法がかけられたはずだ。お前にこそ興味なんてないだろう。
ヴィンス:あの子たち、俺にバンドに入ってくれってさ。
(ハワード、ブラシを破壊して、ヴィンスの隣りに腰掛ける。)
ハワード:信じられん。お前に?
ヴィンス:そう。
ハワード:お前なんて、俺が知る限り一番音楽的センスがない奴だぞ。
ヴィンス:かもね。音楽の問題じゃない。俺のこのルックスが大事なんだよ。
ハワード:用心しろよ。
ヴィンス:なんで?
ハワード:この前の事があるだろう。お前がリロイとやるってバンドで大騒ぎしてさ。
ヴィンス:うん。
ハワード:そう、「グラム・フォーク」バンドとか言って。
ヴィンス:うん…ちょっと新しすぎて、誰もついて来れなかったんだな。グラムロックとフォークの融合にさ。
ハワード:誰があんなものについて行くか。

(画面、切り替わって、サイモン&ガーファンクルの“Scarborough Fair”を歌う、キッスのようなメイクと頭髪の二人組が登場。)
ヴィンス&リロイ:♪スカボローの市場に行くのかい パセリにセージ、ローズマリーにタイム 
            彼女は僕のことを覚えていてくれるだろうか 彼女は僕が心から愛した人だった♪
ヴィンス:野郎どもめ!俺らのイカしたプレイを聞きやがれー!

(画面、ベンチのヴィンスとハワードに戻る)
ヴィンス:でも、今回は違うよ。予感がするんだ。
ハワード:ふうん。一こと言わせてもらうが、動物園の仕事に集中した方が良いぞ。
ヴィンス:なんで?
ハワード:なんで?そりゃたった一つのきっかけで、浮き足立つべきじゃないからさ。フリッキー・ボビーみたいにさ。
ヴィンス:フリッキー・ボビー?
ハワード:夕日に向かって突進。
ヴィンス:俺はちがう。
ハワード:同じだよ。ちょっと魅力的だからって、すぐにはしゃぐんだ。俺みたいに、動物園の仕事に集中しろ。
     俺はバンドに入ってくれって頼まれても、冷静に判断して断るね。
ヴィンス:本当かよ?お前、頼まれた事あるのか?
ハワード:しょっちゅう。
ヴィンス:誰から?
ハワード:いろんな人からさ。
ヴィンス:誰からだよ、ウォルト・ディズニーか?
ハワード:ウォルトは俺に才能を活かさないかって、オファーをくれたぞ。ウォルトが何度も言うんだ。
     「きみ、手伝ってくれないか?」先週もたのまれたよ。
ヴィンス:マジかよ。よりによってお前に頼むなんて、おかしいな。
ハワード:おかしくない。ウォルトは俺が些細な事にもよく気がつくって分かっているからな。
ヴィンス:お前に何をして欲しいって?
ハワード:ペン立ての整理。仕事がしやすいように並べなおすんだ。真っ赤から、群青、ライラック色までな。
ヴィンス:本当?何年もかかるぞ。ウォルトは何百万本も持ってるだろう。
ハワード:どうせやらないんだから、かからないさ。
ヴィンス:どうしてやらないんだ?
ハワード:冷静に判断したから。
ヴィンス:馬鹿だなぁ。
ハワード:業務範囲外だ。
ヴィンス:ウォルトを怒らせたいのか?
ハワード:なんだって?
ヴィンス:ウォルトは働かないかって、誘ってるんだぜ?
ハワード:ウォルトに断りを入れることぐらい出来る。問題ないだろう。俺には俺の責務があるんだから。
ヴィンス:分かるけど、もう…引き裂かれる思いだな。一方では動物園にも拘っているんだ。
     ここも動物たちも好きだから。でも、その一方で、スターへの道も捨てがたい。どうすりゃ良いのか分からないよ。
     俺、お前だったら良かった。楽そうだからな。どうせお前は実際は何も出来ないんだし。
ハワード:ほざくな。
ヴィンス:は?
ハワード:俺には、音楽にどっぷり浸けのキャリアがあるんだぞ?
ヴィンス:そうなの?
ハワード:そうさ!音楽をやってたんだ。
ヴィンス:本当?
ハワード:ああ。でも、もうやめたんだ。
ヴィンス:いつの話だよ。50年代か?
ハワード:俺をいくつだと思ってるんだよ!俺が白髪の老魔法使いの、ガンダルフに見えるか?
ヴィンス:全然。
ハワード:だろう。俺はジャズ・ミュージシャンだったんだ。巨匠の一人だった。でもある事情があって…
ヴィンス:何があったんだ?
ハワード:知らない方が良い。
ヴィンス:あっそ。
ハワード:
(カメラに向かって)誰も知らない方が良いんだ。
ヴィンス:なぁ、とにかくお前はチャンスをフイにした。でも、俺は違う。俺はやる気だぞ。
ハワード:へぇ。
ヴィンス:そうさ。覚悟しろよ。ノワーは月(ムーン)までぶちあがるからな。
(ヴィンス、立ち上がって歩き始める。)
ハワード:ああ…若気の至りってやつだな。
(ヴィンスが振り返ると、ハワードがガンダルフの格好をしてベンチに腰掛けている。)
ハワード:ん?行けよ。何見てるんだ?


 ハワードとヴィンスの小屋

(ハワードが外から入ってくる)
ヴィンス:ヘイ、ハワード。これ聞いてみろよ。
(ラジカセでエレクトロ・ミュージックを流す)
ヴィンス:イカすだろう?
ハワード:気持ち悪い。
ヴィンス:
(テープを止める)俺の新しいデモだぞ!今夜演るんだから!
ハワード:いいね。
ヴィンス:悪いって言ったじゃん。
ハワード:気持ち悪いのが治った。
ヴィンス:なぁ、これは絶好の機会なんだぜ。上手く行けば、アメリカツアーだのなんだのが待ってるんだから。
ハワード:落ち着けよ、ヴィンス。
ヴィンス:なんで?
ハワード:性急過ぎる。
ヴィンス:そうさ、ロックンロールは何事も展開が早いんだ。計画どおりなら、次の木曜日にはヤク中リハビリに入るんだ。
     火曜日にはインド人の使いと一緒に、島を買って住み始める。
ハワード:落ち着け、オーケー?リラックス!ちゃんと地に足をつけて。
ヴィンス:なんで?
ハワード:もっと穏やかに。いいか、お前は有名になりたいんだろう?そこが落とし穴だ。
ヴィンス:だから?
ハワード:お前の内なる情熱が燃え盛るだろう、こう喉が熱く焼け付くみたいに。
ヴィンス:そうさ。何が言いたいんだ?
ハワード:おれもかつてはそうだった。
ヴィンス:出たよ…
ハワード:まさに燃えるような、心のそこからの情熱だった。そう、俺も名声を得たかったんだ、ヴィンス。
     まさに、名声を手にした。俺は音楽の天才だった。
ヴィンス:何が天才だよ。楽器の一つも持たないくせに。見たこと無いぞ。
ハワード:訳があるんだ。オーケー?お前にこの話をする時が来たようだな。
ヴィンス:ああ、もう…長くなる?
ハワード:聞けば骨の髄まで、震え上がるだろう。お前の心を、恐怖で真っ黒に塗りつぶしてしまう。
     すべてがついさっき起こったことのように、思い出される。
(カメラに向かって)回想シーン!


 白黒の回想シーン

(お客の居なくなったジャズ・クラブのカウンターに、トランペットを持ったハワードが座っている。)
バーテン:ハワード、もう閉めるよ!帰る家がないのか?
ハワード:ここはジャズ・クラブなんだろう?
バーテン:そうさ。
ハワード:ジャズのある所こそ、俺の居場所さ。ビバップこそが我が家だ。
バーテン:家はノースブルック通りのバジェンズの近くだろう?
ハワード:たとえだよ。
バーテン:真夜中の3時をすぎてもここに居るなんて、どうしようって言うんだ?
ハワード:その声どうしたの?
バーテン:(咳払いをする)だから、ここで何しているんだ?
ハワード:ジャズ・ミュージシャンになりたいんだ。
バーテン:あっはっは!
ハワード:何が可笑しい?
バーテン:おかしいね。同じような事を言って、結局そうはならなかった連中なんて大勢居る。
ハワード:俺は違う。オーケー?
バーテン:無理だよ。理由を知りたいか?それは、お前の内面に、「スピリット・オブ・ジャズ」がないからさ。
ハワード:でも、俺には内なる夢がある。あんたはどうなんだい?
バーテン:ハワード、酒樽番の仕事があるんだ。やってみたらどうだ?
(*求む、お助け!)
ハワード:酒樽番?俺はハワード・ムーンだぞ。
バーテン:やるってことだな?
ハワード:嫌だと言ってるの。
バーテン:好きにしろ。これ、鍵な。閉めておいてくれよ。じゃあな、馬鹿男!
(バーテン、ハワードに鍵を渡して出て行く。ハワード、トランペットを吹くが、ろくな音がしない。突然、店内の照明が暗くなり、スピリット・オブ・ジャズが現れる。白いスーツを着て、シルクハットの上には炎が燃え盛っている。)
ジャズ:ははーん?さて、どうしようか?んん?どうだね、お兄さん?何を怖がっている?どうかしたのかい?
ハワード:あんたは?
ジャズ:我こそは、スピリット・オブ・ジャズ。
ハワード:何が望みだ?
ジャズ:おやおや、パニクってるようだな。どうした?マリオおじさんに、どうしたのか言ってみろ。
ハワード:俺はヨークシャーで知らぬ者は無い、偉大なジャズ・プレイヤーになりたいんだ。
ジャズ:ヨークシャー?ヨークシャーってなんだ?
ハワード:そういう場所だよ。ヨークシャーは我が心のふるさとさ。
ジャズ:ヨークシャー…私にとってはのニューオーリンズと同じというわけだな、ベイビー。
    よし、私がお前を有名にしてやろう。有名になりたいだろう?
ハワード:ああ。
ジャズ:壁を飾る写真になってみたいだろう?あの男を見ろよ。
(壁の写真を指す)
    ブラインド・ボニー・ショートブレッドだ。だろう?大した奴さ。私はあいつをこの目で見たものだ。正に天才。
    それに、あいつはどうだ?ホット・オシッコ・ジェファーソンだ。「ザ・膀胱キッド」。
    あの男がプレイをすれば、たちまち「両方」のパイプ
(管楽器と…アソコという意味)が火を噴いたものだ。
    そう、私がお前を彼らと同じように有名にしてやろう。そう、壁を飾るのさ、ハワード・ムーン。
ハワード:どうして俺の名前を?
ジャズ:トランペットケースに名前が書いてあるだろう、間抜け。
ハワード:そうか。それで…どうするんだ?
ジャズ:私がお前を有名にしてやるのさ。私は言ったことは必ず実行する。ただし、お前にもしてもらう事がある。
    どうしても必要な事だ。
ハワード:それは?
ジャズ:細かい事は気にするな。ただ、ここにサインをすれば良いだけさ、ベイビー。サインだ。
(ジャズはハワードに契約書を渡す。)
ハワード:血でサインするのか?
ジャズ:バイローズ・ペンで結構。(ボールペンを渡す。)
(ハワード、契約書にサインをする。)

ハワード:この…魂の所有権って何だ?
(ジャズ、契約書をハワードから取り上げる。)
ジャズ:ハーッハッハッハー!お前はもう私のものだ。ここにサインしたんだからな。
    お前は自分の魂の所有権を放棄してしまったのさ!こうなったら、すでにお前は私のものだ。
    いかなる時でも、お前が楽器を手にすれば、かならず私が現れるだろう。
    お前の内面に現れ、手にはめたグローブのようにまとわりつくのだ。ハッハー!ケツの穴まで、私のものだからな!
    見ていろよ、イェー!アーゥ!アツー!
(帽子を床に落とす)おい、私の帽子が燃えているじゃないか!
    お前、何やってんだ?目が悪いのか?どうして言わないんだよ?!
ハワード:ごめん。そういうファッションかと思って。
ジャズ:違う!ファッションなわけがないだろう!買ったばかりなのに、もう駄目にになりやがった。
    お前に気を取られすぎたせいだぞ。
(立ち去ろうとして、すぐに戻ってくる)
    裏口じゃなくて、トイレだった。
(反対側に姿を消す)

 
(*求むお助け! There’s a job opening here as a barrel monkey with your name on it.
   このバーテンの台詞が良く分かりません。ろくな仕事をもちかけていないのは分かるのですが…?
   a barrel monkeyって何でしょう?)



 ハワードとヴィンスの小屋

(回想シーンが終り、ハワードが話している)
ハワード:その翌晩、信じられないことが起こった。俺がトランペットを手に取り、唇に当てると、まず最初の音が鳴った。
     そして信じられないことが始まったんだ、ヴィンス。それは…
(ヴィンス、ヘッドホンでエレクトロを聞きながら、ノリノリになっている)
ハワード:おいッ!
ヴィンス:はぁ?
(ヘッドホンを外す。)
ハワード:聞いてるか?
ヴィンス:聞いてない。
ハワード:大事な話をしているんだぞ!
ヴィンス:だから何?
ハワード:お前の助けになるような、大事な話しなのに!
ヴィンス:興味ない!
ハワード:興味ない?
ヴィンス:そうさ。俺はロックスターなんだから!
ハワード:ほほー。大きく出たな。お前、変わったな。
ヴィンス:そうかい。
ハワード:動物園の飼育員だったのに。動物園はどうするんだよ?
ヴィンス:動物園なんて
(ピー!)だ!
ハワード:
(驚愕して)何て言った?
ヴィンス:「動物園なんて
(ピー!)だ!」って言ったの。
ハワード:なんてこと言いやがる。動物たちはどうなるんだよ?
ヴィンス:動物たちなんて、
(ピー!)だ。あいつらなんて、(ピー!)の集団だ!
ハワード:ヴィンス、お前動物たちの助けになりたいって言ってたじゃないか!
ヴィンス:連中が死ぬ助けをしてやるさ。
(ヴィンス、ハワードを残して小屋から出て行く。)


 爬虫類館

(クラフトワーク・オレンジが練習をしている。ネオンがキーボード,ウルトラが電子ドラム、ヴィンスがヴォーカル,キーボードのジョニーは帽子を二つ重ねて被っている。ヴィンス、イントロで止める。)
ヴィンス:ちょっと待った。
(ジョニーに)その帽子、今夜も被るつもりか?
ジョニー:そうだけど。なんで?
ヴィンス:フロント・マンは俺だぜ。だから、前に立って見た目良くやらなきゃならない訳。
     だから、その帽子、俺のヴィジョンに割り込んできて、どうもダサいんだよね。だから脱げよ。
ジョニー:あのな。お前、俺が誰だか分かってんのか?
(ネオンとウルトラに)この馬鹿、どっから調達してきたんだ?
     俺は「帽子二つ」ジョニーだぜ。
ヴィンス:それで?
ジョニー:どうしてそう呼ばれるか分かるか?
ヴィンス:帽子を二つ被っているから?
ジョニー:あたり。
ウルトラ:もしもーし!ライブは今夜なんだけど?分かってる?
ジョニー:オーケー。ワン、トゥー、スリー、フォー
ヴィンス:
(歌い出さずに)あのさ、誰かが帽子三つ被ったらどうなるんだ?
ジョニー:そんな奴いるか?
ヴィンス:いいや。
ジョニー:だろうが。それに、今まで二つ帽子を被っている奴も見たこと無いだろう。
ヴィンス:どうして誰も二つ被らないか、知ってるか?
ジョニー:どうして?
ヴィンス:素っ頓狂だからさ。お前、完璧アホみたい。
ジョニー:帽子にケチつけるの、やめろ。ムカつく野郎だな、ヴィンス。
ヴィンス:分かったよ。
ジョニー:
(ネオンとウルトラに)次、人を見つけるときは俺に相談しろよ。ヴォーカルにこんな馬鹿男を雇う前にな。
ネオン&ウルトラ:ごめん、ジョニー。
ジョニー:何ジョニー?
ネオン&ウルトラ:「帽子二つ」ジョニー。
ジョニー:どうも。トゥー・スリー・フォー…
(ヴィンス、勢い良くジョニーの帽子を叩き落してしまう。怒ったジョニーが、ヴィンスに回し蹴りを食らわす。)


 引き続き爬虫類館

(ジョニーが居なくなり、ネオン、ウルトラ、ヴィンスが腰掛けている。)
ネオン:それで、どうすんのさ!ジョニーが抜けちゃって!
ヴィンス:
(鼻血を止めながら)ジョニーなんていいじゃん。なんかバンドに貢献したか?変な帽子だけじゃん。
ネオン:ジョニーが曲を全部書いてたの!
ウルトラ:シンセサイザー・ベースも!
ネオン:ドラムの打ち込み!
ウルトラ:ウェッブサイトも!
ネオン:この振りも!
ヴィンス:はぁ…なるほどね。なぁ、俺が他の人を探してくるよ。
ネオン:構わないけど、あと3時間よ?
ヴィンス:大丈夫だって、十分だよ。ちゃんと探してくるから、余裕かましてろよ。
ウルトラ:いい?今夜のライブには、大事な人が来るんだからね!パイフェイス・レコードのお偉いさんが来んのよ!
ヴィンス:ちゃんと代わりを連れてるよ。
ウルトラ:イカした人を!
ヴィンス:イカした連中しか知らないよ!
ウルトラ:どうでもいいけど、とにかくあと3時間だからね。誰かを連れて来なかったら、刺すよ。
ネオン:このロック・オカマ!
(ヴィンスの頭をはたく)


 ズーニヴァースの一角

(イルカ・ダービーの行われていたプールから、ハワードが出てくる。海パンに競馬のジョッキーのような派手なトップスを着て、全身水浸し。足にはひれ。スイミングキャップ。水中眼鏡を外したところに、ネオンとウルトラが通りかかる。)
ハワード:ハイ、お嬢さんがた。ちょうどイルカに乗ってきたところですよ。
ネオン:あっそ!チャパチャパ、パカパカ!
ハワード:そう!またあとで!


 ハワードとヴィンスの小屋

(ハワードが入ってくると、ヴィンスが待っている。)
ヴィンス:よう、ハワード。
ハワード:よう。
ヴィンス:さっきはごめん。馬鹿なこと言って。スターの悪いところを真似したんだ。
ハワード:スターねぇ。今朝の10時半にバンドに入ったばかりだろう。
ヴィンス:でも、そういうライフスタイルなのさ。麻薬みたいな。
ハワード:麻薬?
ヴィンス:コーヒーだってば。もうラテを3杯、アメリカンを1杯飲んじゃった。燃えてるんだ。イルカ・レースはどうだった?
ハワード:ビリ。
ヴィンス:また?誰が勝った?
ハワード:トニー。
ヴィンス:盲目のトニー?
ハワード:そう。あいつ、超音波か何か使ってるんだ。お前のポップ・バンドはどうだ?
ヴィンス:順調。でも、ちょっと問題があってさ。帽子二つジョニーって言うキーボードなんだけど。
ハワード:スウィング系だったのか?
ヴィンス:抜けちゃった。
ハワード;大スウィングだな。その勢いで抜けたか。
ヴィンス:ミュージシャンってのは、ああも怒りっぽいものかね。
ハワード:そうだな。確かに。
ヴィンス:おまえ、音楽がすごく出来るって言ってたけど。
ハワード:そうだよ。最高のミュージシャンだ。
ヴィンス:どんな楽器も演奏できる。
ハワード:マルチ・プレイヤー。何でも演奏できる。トランペット、ギター、カズー、ファゴット…なんでもな。
ヴィンス:キーボードも?
ハワード:17級持ってる。
ヴィンス:それって上手いの?下手なの?
ハワード:10級持ってたら天才だ。
ヴィンス:
(カメラに向かって)7級違い。こいつは行けるぞ。なぁ、ハワード!手を貸して欲しいんだ。
ハワード:だめ。
ヴィンス:おい、何言ってるんだよ。きっと凄いぜ!最高じゃないか、俺もお前も一緒に有名人の大スターだ!
ハワード:駄目だ。出来ない。俺には出来ないんだ、ヴィンス。
ヴィンス:彼女たちはどうだ?お前をバンドに入れてくれるぜ。
ハワード:あの子たちが?
ヴィンス:そう!彼女たち、お前のこと超変わってるって言ってた。
ハワード:超変わってる…
ヴィンス:なぁ、あの子達二人に、俺たち二人。インディ版のアバじゃん。完璧だよ。
ハワード:駄目だ、ヴィンス。出来ない。
ヴィンス:なんで?
ハワード:出来たとしたって、見た目が付いて行かないだろう。髪型とかさ。
ヴィンス:それはちゃんと俺が考えてある。任せろ。これ見ろよ。
(ヴィンス、大きな化粧ボックスを取り出す。)
ヴィンス:これは誰にも見せた事が無いんだ。お前がバンドに加わってくれれば、こいつに触っても良いことにしてやるよ。
(ヴィンスが蓋を変えると、内側から光が差す。)
ハワード:なにこれ。
ヴィンス:おれの髪!切ったのをとってあるの。な?
(箱の中から髪の毛の束を取り出す。)
     これをくっつけるんだ。お前の髪にデザインし直してさ。イカすぜ。
ハワード:やりたい事は分かるけど、やっぱり駄目だ。
ヴィンス:やりすぎか?でも似合うぜ、本当だってば。
ハワード:いや、髪の問題じゃない。ギグは出来ない。
ヴィンス:どうしてだよ?!
ハワード:分かっているだろう?
ヴィンス:あの馬鹿げた話のせいか?
ハワード:そう!
ヴィンス:信じらんないね!
ハワード:聞けよ、ヴィンス!俺が演奏すると、悪い事が起こるんだ。
ヴィンス:もういいよ、忘れろ!ほかを当たるから!
ハワード:ヴィンス、だから分かってくれよ!
ヴィンス:ああそうかい、このクソッタレ!
(ヴィンス、癇癪を起して小屋から出て行ってしまう。)


 ボロの檻

(ヴィンスがギターを持って檻に入ってくる)
ヴィンス:ボロ、助けてくれ。今夜のライブに、ギタリストが必要なんだ。ギター弾けるか?
ボロ:弾けるよ。ジミ・ヘンドリックス並み。
ヴィンス:よっしゃ、やったね。やってみてよ。
(ヴィンスがボロにギターを渡す。ボロ、そのギターを地面に叩きつけて破壊し始める。)
ヴィンス:何するんだよ!何のまねだ!?
ボロ:ウッドストック。1969年。


 ハワードとヴィンスの小屋

(ハワードがトランペットをいじっている。そっと吹いてみると、素晴らしいジャズのメロディが奏でられる。そこに、スピリット・オブ・ジャズが現れる。)
ジャズ:ほほーう?カムバックってやつだな?
ハワード:ここで何を?
ジャズ:またプレイするんだろう?
ハワード:いや、やらないよ。
(トランペットを手放す)
ジャズ:何言ってんだい。吹いたじゃないか。ええ?お前の内なる魂に、私が現れる時が再び来たのだ。
ハワード:いやだ。頼むから、構わないでくれ。
ジャズ:オー、イェイ,ベイビー。私は心の中に現れるのだよ。
ハワード:もう言うな。うんざりだ。
ジャズ:うんざり?どう、うんざりだ?私たちは契約しただろう。
ハワード:でも、俺はもう嫌なんだ。
ジャズ:しっかりしろよ、ベイビー。お前は私のこの情熱を感じ取りたいはずだ。お前の心の奥深くではな、そうだろう?
ハワード:いいや。絶対にそんなことは無い。
ジャズ:いつでも、私は巨匠たちの内面に生き続けていた。チャーリー・パーカーに、マイルズ・デイヴィス…彼らの内面にな。
    ついでに言えばスティーヴ・デイヴィスにもだ。ちょっと手違いがあってな。
    とにかく、お前は私の支配から逃れる事は出来ないのだ。お前の心の中にするするっと忍び込んでやる。
    まるでクネクネした子猫のようにな。
ハワード:俺のことは放っておいてくれ。
ジャズ:私たちは一緒に素晴らしい音楽を創造してきたじゃないか。忘れたのか?我々こそ、ジャズのパイオニアなのだ。
ハワード:パイオニア?俺にみっともない思いをさせただけじゃないか。もう、あんたとは関わりたくない。
(小屋から出て行く)
ジャズ:あいつの拒否なんぞ、真に受けるものか。
(カメラに向かって)何見てんだよ?


 ナブーの売店の中

(売店の看板に「シャーマン取り込み中」と書いてある。ハワード、ソファに腰掛け、ナブーに相談をしている。)
ハワード:どうすりゃ良いんだ。その…本当はヴィンスを助けてやりたいのに…でも、どうしても、どうしても出来ない…
ナブー:出来ないの?それともしたくない?
ハワード:出来ないんだ。
ナブー:きみらは仲間なんでしょう?
ハワード:その…仲間だな。オーケー?でも、俺が楽器を演奏すると、俺の心の中にスピリット・オブ・ジャズが現れて、
     それからろくでもない事になるんだ。俺が馬鹿を見る。
ナブー:ショッピングみたいなもの?
ハワード:ショッピング?そういうことじゃない、ナブー。
ナブー:解決方法はあるよ。これを吹いて。
(トランペットを手渡す。)
ハワード:吹け?お前、ラリってるのか?
ナブー:まぁね。
ハワード:説明しただろう。楽器を演奏すると…
ナブー:吹いて!
(隣りの部屋に入る)さあ、吹いて!
(ハワード、激しいジャズメロディを吹き始める。すると、スピリット・オブ・ジャズが現れる。)
ジャズ:私からは逃れられないのだよ。さぁ、お前の中に私が息づく時が来たのだ。
ハワード:ああ、どうしよう…
ジャズ:手袋のように、まえにまとわりついてやる。
(ナブーが掃除機を持って現れる。)
ジャズ:誰だ、この間抜け野郎。
ナブー:誰かって言えばナブーだけど。掃除機に吸い込まれていただきます。
(ナブーがスイッチを入れると、スピリット・オブ・ジャズが掃除機に吸い込まれてしまう。)
ナブー:さぁ、風の如く行くべし。
ハワード:ありがとう、ナブー。
(部屋から出て行く)
ナブー:80年代風に髪型を整えるんだよ!


 ライブハウスの廊下

(ネオンとウルトラがヴィンスを壁際に追い詰めて、ナイフをちらつかせながら脅す。)
ネオン:おい、このクズ!誰か連れてくるんじゃなかったの?!
ヴィンス:あ…あの…
ウルトラ:どうしてやろうか、パイフェイス・レコードのお偉いさんが来てんだよ!
ヴィンス:やっぱもう一人必要かなぁ?
ウルトラ:何?!
ヴィンス:だってさ、帽子「こたつ」ジョニーとか言って、何かしてたっけ?キーボードとか言って、大した事無いだろう?
     こんなん…こんなんしてさ。
ネオン:誰か来るの、来ないの?!
(大袈裟な映画風音楽に乗って、80年代風のファッションで決めたハワードが現れる。)
ハワード:どうも、お嬢さんがた。
ヴィンス:ハワード!
ハワード:よう。
ネオン:冗談でしょ。こんなダサいの。
ヴィンス:でも、音楽の天才だぞ。
ウルトラ:まぁ、良いんじゃない。ロリコンっぽいけど。


 ライブハウスの客席

(バーカウンターに、顔に巨大なパイを貼り付けたような男が座っている。そこにヴィンスがやってくる。)
ヴィンス:どうも、お会いでいて嬉しいです。ライブの後で、飲みの時間が取れると思いますから、色々お話しましょう。
パイ顔男:ああ、良いね。ぜひ。それで…きみ、誰?
ヴィンス:ヴィンス。クラフトワーク・オレンジの。パイフェイス・レコードの方ですよね?
パイ顔男:いいや。私はマーカス・ホフマン。モーターボートのデザイナーでね。
ヴィンス:すみません、人違いでした。
パイ顔男:それで我々、週末にはレゲエを聞きに集まるのだがね。きみ、仲間にならないかい?
ヴィンス:勘弁してよ。サクサクおじさん。


 ナブーの売店の中

(ナブーはソファに横になって寝ている。その手前に、掃除機が立っている。掃除機の中から、スピリット・オブ・ジャズの声がする。)
ジャズ:この…このスイッチを入れれば良いんだな。
(スイッチが入って、掃除機が動き始める)
    イェー!今行くぞ、ハワード・ムーン!掃除機だろうが何だろうが、行くものは行く!


 ライブハウスのステージ

(クラフトワーク・オレンジがエレクトロを演奏し始める。ハワードも無難に演奏をこなす。観客たちもノリノリ。)
ヴィンス:♪プラスチックの夢に乗って ちっぽけなメカのように胸が高鳴る 
     俺はエレクトロ・ボーイ 私はエレクトロ・ガール
     パースペックス・透明樹脂の海を 船で渡っていく
     クリスタルのサンダルに サイボーグ・チーズ
     俺はエレクトロ・ボーイ 私はエレクトロ・ガール♪
(ジャズの掃除機が、ライブハウスの廊下を進んでいく。)
ジャズ:ふぅ〜む!近いぞ、近いぞ!ハワードの臭いがする、音色が臭うぞ!
(掃除機がステージの後方からハワードに近づき、ホースを通じてスピリット・オブ・ジャズがハワードにとり憑いてしまう。ハワード、ステージの中央に躍り出る。)
ジャズの声:どいてもらうぜ、お嬢さん!
(ハワード、ヴィンスを突き落としてしまう)
ジャズの声:こっちはこっちのやり方を通させてもらうぜ、さぁ、ホット・ジャズだ!
(ハワード、トランペットで激しいジャズの即興演奏を繰り広げる。やがて衣服まで破けてしまい、観客は呆然。怒ったネオンがキーボードでハワードの後頭部を殴って、ステージから落とす。)


 ズーニヴァースの通路

(頭に包帯や絆創膏をしたハワードとヴィンスが歩きながら話している)
ハワード:夕べは本当に悪かったよ。ぜんぶメチャメチャにしちゃったし、ジャズを演りまくっちゃったし。
     ジャズ攻撃にさらされていたんだ。
ヴィンス:夜の間中、フラフラだったもんな。あのエレクトロ・ガールズときたら、まったく信じられない。
     片っ端から刺してくつもりだぜ。とにかく、俺も考えたんだけどさ、ロックンロール・ライフスタイルは俺には合わないよ。
ハワード:心配するな、ヴィンス。お前にいいものがある。
ヴィンス:なに?
ハワード:俺たちに丁度うってつけだ。見ろよ。
(ハワード、飼育室のドアの一つを開けて、中をヴィンスに見せる。)
ヴィンス:わぁお!
(無数の色鉛筆がずらりと並んでいる。)
ハワード:ウォルトおじさんのために、こいつを整理しようぜ。


 エンディング・タイトル

(グラム・フォークのヴィンスとリロイが、ジューダス・プリーストの “ Breaking the Law “ を、ジャクソン・ブラウンのフォーク調に歌っている。)
ヴィンス&リロイ:♪誰一人気にしやしねぇ 俺が生きようが死のうが
            だから俺は人生をどにかしなきゃならないんだ
            法律違反 法律違反〜♪


(終)
 
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