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アヤシゲ翻訳 テレビシリーズ1 エピソード2 / Mutants ミュータント


 オープニング・トーク

(赤いカーテンの前に、動物園のユニフォーム姿のハワードとヴィンス登場)

ハワード:ハイ。番組へようこそ。私はハワード・ムーン。こちらはヴィンス・ノワーです。
ヴィンス:オーラーイ。
ハワード:今週、私たちは生命の永続性について論じる事になります。人間は死んだ後も生きる事が出来るのでしょうか?
      私は自分の死後も長い間人々の間に記憶されるものと考えます。
ヴィンス:何を覚えられるって?
ハワード:俺の言葉、おれの業績をさ。
ヴィンス:どんな?「俺のライトブルーのズボン見なかったか?」とか、「ポテチ食っても良い?」とか?
ハワード:お前の知らない俺の業績ってものもあるんだ。
ヴィンス:本当かよ。たとえば?
ハワード:一ヶ月前には、俺の口座から1ユーロが寄付されたんだ。電信振り替え、ヒューッ!
ヴィンス:それが記憶されるお前の業績?
ハワード:左様でございます。
ヴィンス:気前が良いって?
ハワード:まぁ、記憶される事は重要じゃない。俺は未来にも生きる事になるんだ。
ヴィンス:どうやって?
ハワード:低温処置によってさ。お前、低温処置って知ってるか?
ヴィンス:聞いた事はあるけど。
ハワード:俺は、頭を低温保存してもらうんだ。保存容器に入れて、12000年後の人々が俺を生き返らせる。
      頭は容器の中だ。未来の人々が俺を儀式を執り行って引き出すんだ。そしてご神託のように俺に意見を求める。
ヴィンス:なんで全身を冷凍保存しないんだ?
ハワード:未来向きのやり方じゃないからさ、ヴィンス。儀式で扱われるのは頭部だけ。
ヴィンス:そう。じゃぁ、おれは髪の毛を冷凍保存するね。考えてみろよ。未来の人が髪の毛を取り出して見るだろう?
      こりゃ凄いぞっ、てさ。
ハワード:
(考え込んでから)俺のライトブルーのズボンはどこだ?
ヴィンス:…リロイにやっちゃった。
ハワード:リロイに?なんで?
ヴィンス:気に入ったみたいだったから。
ハワード:俺のズボンを勝手にひとにやるんじゃない。
ハワード:問題があるなら、リロイに言えよ。
ハワード:そうする。
(右手に退場)
ヴィンス:いってらっしゃい。
ハワード:
(声のみ)リロイ!
ヴィンス:番組をお楽しみ下さい。
(左手に退場)
(カーテンが開いて、オープニング・スタート)



 夜のズーニヴァース

(ジョーイ・ムースが懐中電灯を手に、口笛を吹きながら見回りをしている。爬虫類館から物の壊れる音。ジョーイが爬虫類館に入って様子を見ると、展示ケースのガラスが壊れている。突然、誰かに殴られてジョーイは倒れてしまう。)


 昼間のズーニヴァース

(小学生たちが見学に来ている。)
フォッシル:ズーニヴァースにようこそ。みんなの夢がかない…まァーす。
       私はゲネラル・マネージャーのボブ・フォッシル。人間です。
       それでは、今日のツアーの手始めに、動物園で一番大きな動物を見ましょう。灰色顔足男。
男の子:なんですって?
フォッシル:そう。灰色顔足男。顔にもう一本足がある。
男の子:ゾウでしょう。
フォッシル:ああ、まぁ、専門用語を使えばね。気障ズボン君。ほら、あそこに居るぞ。
(ケージの中を指し示す)
男の子:見えないけど。
フォッシル:そう、カモフラージュしているから。彼は環境に巧みに適応している。
       あ!見て!出てきたぞ!ああ…見逃したね。なんてすばしっこいんだ!
男の子:どうして、ここには動物が全然居ないんですか、フォッシルさん?
フォッシル:ええ…ああ…どうしてみんな、そんなに小さいんだ?!ああ?飲み物を頭に置かせてもらうぞ!
女の子:ママに会いたい…
フォッシル:ヘイ、一緒に歌おうぜ?んん?
       ♪すってきーな動物園!あの子もこの子も、僕も、君も♪ さあ皆で!
       ♪すってきーな動物園!あの子もこの子も、僕も、君も♪
(フォッシル、男の子の手を取って引っ張り出し、グルグルと踊り始めるが、勢い余って男の子を放り投げてしまう。)
フォッシル:わぁお!


 ボロの檻の中

(ヴィンスがイーゼルを立てて、ゴリラのボロの絵を描いている)
ヴィンス:
(ボロに)顎を上げて。良いね。
ハワード:
(檻に入ってくる)よう。
ヴィンス:よう。
ハワード:何やってんだ?
ヴィンス:ボロの肖像を描いているんだ。シーザーの格好してもらって。
ハワード:いいね。次、俺の描いてくれよ。
ヴィンス:人間は描かないんだ。
ハワード:そうかも知れないが、俺の顔は肖像画家にとっては天の恵みだぞ。
ヴィンス:難しそう。
ハワード:ギリシャの神々みたいのでも良いし、勇敢なパイロット風でも良い。
ヴィンス:無理無理。お前、普通の顔だもん。
ハワード:分かってないな。俺の顔が何だって?
ヴィンス:そう…いや、別に悪い意味で言ってるんじゃない。
ハワード:じゃぁどういう意味だ?
ヴィンス:いい意味で一般的。
ハワード:どう?
ヴィンス:覗き見顔。
ハワード:覗き見顔?!
ヴィンス:だからさぁ…ほら、ボロを見ろよ。彼の顔、輪郭。顔の作り。ジャングルで風雨に晒されてきた顔さ。
     サーカスでおしゃべりショウの司会もした。そういう顔だよ。
     お前の顔なんて、なにもないじゃん。男の太もも程度の頭部だよ。
ハワード:何だと?お前の顔を描こうとしたら、一苦労だぞ、なぁ。
      あらゆる顔の作りが、それぞれ自己主張が強くて、目は叫びまわるわ、鼻なんて…
      視覚的に騒々しい鼻だな、お前の顔は。
ヴィンス:視覚的に騒々しい?
ハワード:かつらを被ったブランスバンドみたい。
ヴィンス:へぇ。
ハワード:毎日俺に向かって騒々しく行進してくる。
ヴィンス:自分の顔見ろよ。グルグル状態だ。グールグル。ジ・オーブのサード・アルバムみたい。
ハワード:そのまんまお前に返してやる。
ヴィンス:だからさぁ。アクセサリーでもつけたら?
ハワード:はぁ?
ヴィンス:パイプをくわえるとか、ピンクのカウボーイハットを被るとかして、その顔どうにかしろよ。
ハワード:顔をどうにかしろ?張り倒すぞ。
ボロ:
(ハワードに吠えて威嚇する)
ハワード:分かったよ。怒るなって。
ヴィンス:良いんだよ、ボロ。
ハワード:とにかく、俺にアクセサリーは必要ないからな。俺はハワード・ムーン。男の中の男。伝説の一匹狼。
(檻にミセス・ギデオンが入ってくる)
ギデオン:ハイ、ヴィンス。
ヴィンス:どうも、ミセス・ギデオン。
ギデオン:ヴィンス、うちのニシキヘビ、見なかった?
ヴィンス:いいえ。
ギデオン:ケージに姿が見えないんだけど、ここに居るかと思って。あら、ハイ、ボロ。
ハワード:まったくヌルヌルとつかみ所のない奴でしょう、ヘビってやつは…ねぇ?
ギデオン:それはありがちな間違いね。ヘビの肌は乾燥しているの。それで、ヴィンス。
      もしニシキヘビをみたら…トニーって言うのだけど、知らせてくれる?
ヴィンス:良いですよ。大丈夫。気を付けときます。
ギデオン:絵描きさんだとは知らなかったわ。
ヴィンス:技能国家資格持っているんです。あなたの肖像画、描いて差し上げますよ。
ギデオン:あら。ぜひとも。
ヴィンス:たしか、爬虫類の主任でしたよね?メデューサみたいに描いたりして。
ギデオン:素敵ね。
ハワード:人間は描かないんだろう?
ヴィンス:路線変更したの。
ハワード:ほーう。
ギデオン:
(ハワードに)あなた、どなた?
ハワード:ハワードですよ。ハワード・ムーン。ここで働いている。
ギデオン:新入りね。
ハワード:いえ、10年勤めています。
ギデオン:パートタイムで。
ハワード:フルタイムで。毎日お会いしているじゃないですか。ハワードですよ。イカしたハワード。
ギデオン:ああ、そう。
ハワード:あなたのヘビ、気に留めておきますよ。その…見つけたら知らせます。その…私もヘビが好きで。
      本当に大ファンでして…ええ…はい…
ヴィンス:ヘビ、怖いんじゃなかった?
ハワード:うるさい。ヘビに関しては面白い話があるんです。
     あるヘビが動物園から無断外出をして、コインランドリーに行くんです。それで乾燥機に入り込んで…
     飼育員たちがヘビを見つけたときには、縮んでしまっていた…その…すごく小さく…全体に縮んでいて…
ギデオン:
(ヴィンスに)とにかく、トニーを見たら、知らせてね。
ヴィンス&ハワード:はい。
(ギデオン、檻から出て行く。)
ハワード:
(ヴィンスに)楽しそうだな。
ヴィンス:まぁね。
ハワード:彼女の肖像、描くのか?
ヴィンス:そうね〜、ヌードなんてやってみようかな〜。
ハワード:
(ヴィンスの顎を掴む)言わせてもらうがな、お前が彼女に近づいたら、俺は巨大バズーカをぶっ放すからな。
      俺はあの人を愛しているんだ。分かったか?
ヴィンス:
(ハワードの手を払いのける)聞けよ、他に楽しい事でもしてろよ。
ハワード:さもなければ?
ヴィンス:俺に何かしたら、ボロがお前を洗濯物みたいにギュウギュウにするぞ。
ハワード:
(檻の中を見回す。)ボロ、どこに行った?
(檻から、ボロの姿が忽然と消えている。)
ヴィンス:ボロ?
ハワード:ボロ?


 ベインブリッジの秘密研究所

(ベインブリッジが怪し気な実験をしていると、ドアをノックする音がする。)
ベインブリッジ:
(ドアを開けにいく)一体、誰だ?!
フォッシルの声:ボビー、ボブボブちゃんで〜す!ドーナツさんの王様だーい!
ベインブリッジ:
(ドアを開ける)入れ。
フォッシル:どうも〜。
(手に布袋を持って研究室に入ってくる)わぁお!凄い所ですね〜。
(フォッシル、そばにあったワイヤーカッターを手に取る)
ベインブリッジ:触るな!
フォッシル:お望みの動物を持ってきましたよ、ベインブリッジ。
ベインブリッジ:ご苦労。他にも持って来い。
フォッシル:そうは行かないんですよ。もう動物が居ないんです。
ベインブリッジ:では、人間を持って来い。
フォッシル:いわゆる人類ですか?
ベインブリッジ:人類だ。
フォッシル:みんな、ジョーイ・ムースの件は私なんじゃないかと思っているんですけど。
ベインブリッジ:誰の事だ?
フォッシル:オーストラリア人飼育員の事ですよ。爬虫類館で行方不明になった。
ベインブリッジ:適当に言っとけ。ニシキヘビに食われたとか。
フォッシル:…誰にですって?
ベインブリッジ:長ったらしいヤツだ!ニョロニョロしたヤツ!
フォッシル:あー。なるほど。ところでベインブリッジ、あなたここで何を?あなたの隠れた手術、お手伝いしたいなぁ…
ベインブリッジ:
(フォッシルの胸倉を掴む)そのお喋りな口をつぐんでいられれば、100ユーロやる。
          レートによっては、もっとかもな。
フォッシル:わぁお!
ベインブリッジ:あれを見ろ。
(研究室の奥を指し示す)
フォッシル:
(研究所奥の檻の中を覗き込む)ぎゃぁあああああぁあーー!!何だ、お前?!何てェ野郎だ!
(思わず、檻の出口を開けてしまう。すると、中に居た何かが吠えながら外へ逃げ出す)
ベインブリッジ:檻を閉めろ馬鹿者!
フォッシル:逃げました!追います。捕まえてきますよ、ベインブリッジ。
ベインブリッジ:私が捕まえてくる。お前は従業員どもをうまく言いくるめろ。
(ベインブリッジ、フォッシルの顔と股間に一発づつお見舞いしてから、外に飛び出す。)
フォッシル:俺のタマが…


 ズーニヴァースの一角

(フォッシルが従業員たちを集めて、ミーティングを開く)
フォッシル:オーケー。まず二つ、悪いニュースからだ。最初に、カブの配達が25分遅れている。よって、昼食はカブ抜きだ。
飼育員の一人:嫌だーーーーッ!!!
(叫びながら走り去る)
フォッシル:次に、ジョーイ・ムースの件だ。たいへん愛されていた飼育員だが、殺されてしまった。
       でも、良いニュースだ!犯人を捕まえたぞ!
女性飼育員:誰なんです?
フォッシル:ニョロニョロ。
男性飼育員:誰ですって?
フォッシル:だから…ながぁーいヤツ。
女性飼育員:ニシキヘビ?
フォッシル:そう!今夜、縛り首だ。
ギデオン:無理よ、ニシキヘビを縛り首なんて。
フォッシル:それが出来るんだな!全身が首なんだから!誰か一緒にやるか?
ギデオン:馬鹿馬鹿しい。爬虫類館を警護しますからね。第一、私のニシキヘビが、人殺しなんてしません。
フォッシル:あらそぉ?あなたにチョコレートをプレゼントした上に、キスしたから?
ギデオン:いいえ。ニシキヘビはジョーイを殺す事なんて出来ません。飲み込む相手の半径以上の口が必要なんですよ?
フォッシル:半径以上?ゴハン異常!はは、いいねー!!
(場は白ける)
ギデオン:フォッシル。あなた、本物のバカね。
フォッシル:失礼な。
(しかしフォッシルはズボンを履き忘れている)
ギデオン:みんな、何をぼさっとしているの?それともフォッシルが怖いの?
ハワード:
(格好つけながら)んんッ。私はミセス・ギデオンの味方ですよ。
ギデオン:あなた、誰?
ハワード:ハワード・ムーンですよ。10分前に話したでしょう?
フォッシル:他には?
飼育員:キツネザルはどこにいったんです?
フォッシル:消えた。
ハワード:イカは?
フォッシル:なんだって?
ナブー:僕のカエルは?
フォッシル:夕べ、燃しただろう?
ナブー:ああ、そうか。
他の飼育員:ウシは?
フォッシル:黙れ!
ヴィンス:ボロは?
フォッシル:やめろ!
(飼育員たちが騒然とし始め、フォッシルは大混乱)
フォッシル:止めろ!ヤメーッ!!すってきーなすってきーなどーぶーつえん!どーぶつえん!
(ベインブリッジがライフル銃片手にやってくる。空に一発、発砲)
フォッシル:きゃー!!!
ベインブリッジ:私が来たからには安心しろ。私が懲らしめてやる。
ハワード:動物園に居たはずの動物はどこだ、ベインブリッジ。何か後ろ暗い事でもあるのか?全て暴いてやるぞ。
ベインブリッジ:黙れ、ムーン。大口叩けなくしてやるぞ。
ハワード:ほおー。俺の体の一部でも欲しいか?
ベインブリッジ:お前の一部だと?ムーン。いいや、結構だ。
ハワード:へぇ、そうかい。ラッキーだな。このヴィンスはデリケートなお花でな。暴力は嫌いなんだ。
ヴィンス:やっちまえよ、ハワード!
ハワード:ええ…俺は風邪をひいて…いまもひいてて…100%は回復していなくて。
      風邪さえひいていなければ、お前を強力コケみたいに襲い掛かってやるところだが…
(ヴィンス、後ろからハワードをけしかけようとする)
ベインブリッジ:お前は可哀想なやつだな、ムーン。
ハワード:そうか?
ベインブリッジ:そうだとも。
ハワード:じゃあ、いつでもかかってこいよ。
ベインブリッジ:では、今すぐだ。
(ライフルをフォッシルに渡す)
ハワード:ええ…今?
ベインブリッジ:今すぐだ!
(ハワードに向かって構える)
(従業員たち、取っ組み合いに備えて、場所を開ける)

ハワード:どういう意味?
ベインブリッジ:今からだ!
ハワード:たった今?
ベインブリッジ:お前と私の対戦、今すぐだ!
ハワード:そうしたいなら、できなくもないけど…
ベインブリッジ:さぁ来い!
ハワード:どうしても?
ベインブリッジ:かかって来い!
ハワード:いつでも構わないけど。予定に入れときますよ。
ベインブリッジ:今すぐだ!お喋りは終わりだ!
ハワード:来週の火曜日は?どうしても今日?
ベインブリッジ:今!
ハワード:この午前中に?ここで?
ベインブリッジ:今、ここでだ!
(遠くで、動物が吠えながら走り去る音がする。ベインブリッジ、フォッシルからライフルを取り上げて、走り去る)
ハワード:そうそう!逃げた方が良いよ!月光(ムーン)のパワーを勘違いしない事だな!


 ハワードとヴィンスの小屋

(ヴィンスがイーゼルで絵を描いている前で、ハワードがポーズを取っている)
ハワード:ベインブリッジが逃げ出す前の俺の様子をとらえてみろよ。
ヴィンス:どんな?
ハワード:だから…あの時の様子さ。いかにも俺って感じの。
ヴィンス:ベインブリッジはお前から逃げた訳じゃないぜ。
ハワード:あいつが何かから逃げ出したとしたら、それは俺だ。俺の様子がそれを物語っていただろう。
ヴィンス:そうは思わないけど。
ハワード:進行具合はどうなんだ?
ヴィンス:だいたい出来たよ。見てみろよ。
(ハワード、ポーズをやめて、ヴィンスと一緒に絵を見る)
ヴィンス:どう?
ハワード:俺の顔はどこだ?
ヴィンス:ああ?
ハワード:俺の顔はどこにあるんだ?
ヴィンス:ここ。
(ユニフォームの上の、ピンク色の丸い物体を示す)
ハワード:お前、俺が風船みたいに見えるのか?
ヴィンス:こんなかんじじゃん。
ハワード:こんなんじゃない。
ヴィンス:見たとおりに描いたんだぜ。
ハワード:見たとおり?
ヴィンス:うん。こうじゃん。
ハワード:違う。
ヴィンス:背景だってこうだし。
ハワード:背景はいい。俺の顔があるべきところには、空間があるだけだ!
ヴィンス:空間?空間じゃない!お前の顔だってたば!
ハワード:んなわきゃないだろう?面白くもなんとも無いボールが服着てるだけだ!
(小屋にミセス・ギデオンが飛び込んでくる)
ハワード:ああ、どうも。
ギデオン:ヴィンス、助けて!
(両手を上げてヴィンスに迫る)
ヴィンス:髪に触らないで!
ギデオン:あなたの助けが必要なのよ!
ハワード:私がお手伝いしましょうか?
ギデオン:
(絵とハワードを見比べて)あらまぁ、そっくりね。
ヴィンス:でしょう?
ギデオン:
(ヴィンスに)あなた、動物と話せるんでしょう?
ヴィンス:まぁね。誰に教わったんです?
ギデオン:誰でも知ってるわ。
ヴィンス:俺はサーカスの見世物じゃありませんよ。
ギデオン:助けて欲しいの。コブラと話してくれない?彼はニシキヘビのお向かいなのよ。
      ニシキヘビが居なくなった事について、きっと何か知っているわ。
ヴィンス:へびは守備範囲じゃなくて。猿か、せいぜいトカゲか…
ギデオン:分かるけど、とにかくやってみてくれない?
ヴィンス:オーライ。あなたの為だ、やってみますよ。
ギデオン:ありがとう、ヴィンス。…今なら、髪に触っても良い?
ヴィンス:…どうぞ。さっとね。
(ギデオン、ヴィンスの髪を触る。)
ヴィンス:触るだけ!掴まないで。
(ギデオン、小屋から出て行く)
ハワード:
(出て行くギデオンに)ああ、じゃぁ彼を行かせますので…(ドアが鼻先で閉まる)
(ヴィンス、ハワードの仏頂面を見て笑い出す。ハワード、ヴィンスに迫る。)

ハワード:何が可笑しい?何か面白いことでもあったか?
ヴィンス:あーあ…
(笑)


 爬虫類館

(ヴィンスがコブラと、ヘビ語で楽しく話している背後で、ミセス・ギデオンとハワードが見ている。)
ヴィンス:
(コブラに向かって)あっはっは!そりゃ良いね!
ハワード:なんだって?
ヴィンス:打ち解ける為に、ガラガラヘビの笑い話をしているところだよ。
ギデオン:
(ハワードに)素晴らしい才能だと思わない?
ハワード:ええ。まぁ確かに…大したものです。私もコブラと話せますが、やらないだけです。
      彼にやらせたほうが良いと思って。鍛えてやっているものですから。
      私は非常にヘビに親近感を持っているんですよ。お分かりでしょう?ええ…素晴らしい事です。彼の動きとか…
ギデオン:ええ、美しい生き物ね。
ハワード:ええ。私は時として、自分がまるでヘビであるかのように感じるんです。脱皮する感じとか…
      そう、場合によっては、こう身もだえしながら全身の脱皮をしたりするんです。
ギデオン:悪趣味だわ。
ハワード:ものの例えの…
ギデオン:それでも悪趣味だわ。
ハワード:例えで…
コブラ:
(ヘビ語で喋り続けるヴィンスに)英語で話せ、馬鹿。
ヴィンス:おっと、失礼。
コブラ:どうもお前の顔は騒々しいな。
ヴィンス:オーライ。ロジャースさん。夕べ、何があったか教えて欲しいんです。
コブラ:よかろう、そのかわりお前も私にして欲しい事がある。
ヴィンス:何です?
コブラ:私がインドに居た頃は、王様の為に踊っていた。今一度、踊ってみたいのだ。
ヴィンス:ヘビとしちゃ当然でしょう。
コブラ:そうだろう。
ヴィンス:そうですね…もっと現代的に行きませんか?最近の流行に乗って。
      ガンガンのビートでの…ドラム・ベース・スタイルで。
コブラ:ドラム・ベース?なんだそれは?
ヴィンス:任しといてよ。最先端を行きますよ!儲けは半々で。
コブラ:六四だ。
ヴィンス:え?
コブラ:なんでもないよ、ぼうや。さてと。お前は私に何をして欲しいんだったか?
ヴィンス:ゆうべ、何があったかですよ。
コブラ:私の目を見るが良い…すべてを見せてやろう…
(ヴィンスにヘビが憑依し、昨晩の記憶をよみがえらせる。
爬虫類館に入ってきたジョーイ・ムースを、ベインブリッジが殴り倒すシーンが再現される)

ヴィンス:
(我に返って、ハワードに)ベインブリッジだ!あいつがニシキヘビとジョーイ・ムースを連れ去ったんだ!
ハワード:だろうね。
ヴィンス:よし、あいつをとっ捕まえようぜ。
(爬虫類館から出て行こうとする)
ハワード:
(ヴィンスを止める)そこまでだ、モーグリ。俺の出番が来たんだ。俺が奴を追い詰める。
      これは危険な使命です、ミセス・ギデオン。しかし、私はやります。
      もし、私が戻ってこなくても…ただ、私の事を思い出していただければ、それで良いのです。
(ハワード、ギデオンとヴィンスを残して、爬虫類館から出て行く。)
ギデオン:あの人、だれ?


 ズーニヴァースのそこかしこ

(ハワードが、ベインブリッジを尾行する。しかし、ベインブリッジに背後を取られる。)
ベインブリッジ:尾行とは、いやらしい趣味だな、ムーン。
(ハワード、ベインブリッジに殴られて気を失ってしまう。)


 秘密研究所の手術室

(ハワードが目を覚ますと、手術台の上に拘束されていることに気づく。)
ハワード:ここは…どこだ?
ベインブリッジ:愚か者のお目覚めだな。好機到来というわけだよ、ムーン。
ハワード:何をするんだ?
(ベインブリッジ、怪しい実験道具に囲まれ、手術着と帽子を着ている。)
ベインブリッジ:動物園はおしまいだ。サイだの、狼だの…どうでも良いのだ。
         しかし、狼の頭をしたサイはどうだ…気の利いた詩の如くだ。
         私は動物同士をつなぎ合わせる手法を開発したのだよ。
ハワード:それが俺とどう関係あるんだ?
ベインブリッジ:教えてやろう。今朝お前は、愚かにも私を挑発した。『体の一部でもやろうか』などとな。
         それでは、お望みどおり一部をいただくとしよう。頭だ。
ハワード:俺の頭をだなんて、無理に決まっているだろう。
ベインブリッジ:いいや、いだたく。そして、ヘビの体に接合するのだ。こんな具合にな。
(ベインブリッジ、黒板の覆いを外す。そこには、ヘビの体にピンク色の丸いボールみたいな形がくっついている図が描いてある)
ベインブリッジ:顔は描けなかった。まぁ、自分の頭なんだから分かっているだろう。
ハワード:そうはいくか。お前を追いかけてって、とっちめてやる。
ベインブリッジ:おお、そうかい?体はヘビで、チンパンジーのボール頭を見るのは楽しみだな。
         さてと。お喋りも結構だが、田舎者どものために、マックスと会ってやらねばならん。
         30分後には戻って、お馬鹿なお前の解体作業をするとしよう。
(研究所から出て行く。ハワード、手術台に縛り付けられたまま、叫ぶ)
ハワード:ああ、そうかい!絶対に無理だからな、ベインブリッジ!
      ジョーイ・ムースが居なくなっても、誰も気にしないが、ハワード・ムーンが居なくなったら、暴動が起きるからな!
      このおっさん!民衆がここに押し寄せてきて、大騒ぎだ!


 ズーニヴァースの一角

(飼育員たちが、ゲームや読書、ハープを弾くなどして、静かに過ごしている。ヴィンス、売店に立つナブーの肖像画を描いている。ナブー、突然辺りを見回して、空中の何かを掴もうとする)
ヴィンス:動いちゃ駄目だよ。何かの発作?お前さんの肖像描いているんだから。
ナブー:
(空中を見回しながら)何かの画面が見えるんだ。なんだか薄くて…素早くて、上手く見えない。
ヴィンス:え?画面?
ナブー:シャーマンの勘がひらめているんだ。
ヴィンス:なんだ、それ?
ナブー:ひざのあるサメが見える。
ヴィンス:はぁ?
ナブー:蜘蛛顔のコウモリも…それに…なんだろう。ベインブリッジがハワードを捕らえてる。
     ハワードが危ない。…助けなきゃ。
ヴィンス:どこに居るんだ?
ナブー:この動物園のどこかにある、秘密研究所に。
ヴィンス:どこ?
ナブー:画面が消えてしまって。見えない…
(頭をおさえる)ああ、戻ってきた…ああ、違った。運動場だ。
ヴィンス:なぁ、どうしたら秘密研究所がみつかるんだ?
ナブー:答えは…いま、君が描いている絵にある。
ヴィンス:ああ…
(ヴィンス、イーゼルの絵を見直す。絵には、ナブーの売店が描かれており、そのすぐ右隣に、「秘密研究所」と書いてあるドアが描かれている。)
ヴィンス:なるほどね。秘密研究所だ。さすが。ええと…売店がここで…お前さんがここに居るから…
(ヴィンス、実際の売店のすぐ隣りに、「秘密研究所」のドアがあるのに気づかない。)
ナブー:
(隣りを指差す)そこじゃん!
ヴィンス:ああ、そうか!オッケー!


 秘密研究所の手術室

(ハワードが拘束されている手術台に、手術着と帽子、マスクを着けた男が迫る)
ハワード:い、い、嫌だーーー!!
ヴィンス:
(マスクを外してみせる)俺だよ、バーカ!
ハワード:嫌だーーーー!!
ヴィンス:はぁ?
ハワード:歯に何か詰まってる。
ヴィンス:ああ、お昼のブロッコリーだ。
ハワード:やれやれ。
ヴィンス:それで…どうよ、お前の単独任務は?
ハワード:順調だよ、どうも。
ヴィンス:へー。
ハワード:そうさ。ベインブリッジをつけて行って、奴の秘密研究所をつきとめ、ミセス・ギデオンのニシキヘビも見つけたぞ。
      
(隣りの手術台にニシキヘビが横たわっている)ばっちりさ。
ヴィンス:わぁお。順調だね。な?
ハワード:まぁな。
ヴィンス:それで、お前なんてこんな所で寝てるわけ?
ハワード:お疲れで。
ヴィンス:どうして、自分で自分を縛りつけたわけ?
ハワード:落ちるのもなんだし。
ヴィンス:あっそ。じゃぁ、小屋でまた会おうな〜
(ヴィンス、ハワードを手術台に残し、立ち去る振りをする。拘束されて背後が見えないハワード、慌てる)
ハワード:ヴィンス、おい。ここから出してくれよ。ヴィンス?ヴィンス!ヴィーンス!
(ヴィンス、後ろから顔を覗かせる)
ハワード:これを外せ。…何か可笑しいか?
ヴィンス:
(笑いながら拘束を外す)ホント、ばっかだな…。もう単独行動なんかするんじゃないぜ。
     …おい、ハワード。あれ、何だ?
(研究所の奥を指差す)
ハワード:あっち、見るな。
ヴィンス:あそこ、どうなっているんだ?
ハワード:あっちには怪しいものがウゾウゾしているんだ。
(ヴィンスとハワード、奥にある暗い檻の中を覗き込む)
ヴィンス:誰か居るの?
イカ・ミュータント:見ないで下さい!恥ずかしいのです…!
ヴィンス:あんたたち、誰?
イカ・ミュータント:私たちはひどく醜い…ミュータントなのです。ああ、恥ずかしい…
ハワード:いや、恥じ入ることではない。俺たちはベテラン飼育員だ。さあ、もっと前に来なさい。
(ミュータントたちが前の方に進み出る)
ヴィンス:うわぁ、グロい!
ミュータントたち:あああ〜
(また後ろに下がってしまう)
ヴィンス:ごめん、ごめん。
ハワード:申し訳ない。どうぞ、恐れないで。さあ、来なさい。
      光のある方に…
(前に出てきたミュータントたちの奇怪な姿を見て)…許容範囲…
ヴィンス:あんたら、何者?
狐ミュータント:自分でも分からないのです!
郵便屋ミュータント:郵便屋さんじゃないですかね?
イカ・ミュータント:黙れ、うすら馬鹿!私たちは動物から作られたミュータントなのです。
           ベインブリッジに作られたのです。彼こそが支配者。彼が我々を痛めつけ、そして癒すのです。
ハワード:あなたがたに、差し上げるものがある。ベインブリッジさえも、奪う事の出来ないもの。そう、自由だ。
イカ・ミュータント:自由?自由とは何です?
ハワード:自由とは、いわば場所です。そう、格子もない、鍵も、錠前ない…そういう場所です。
狐ミュータント:オマワリは?
ハワード:は?
狐ミュータント:オマワリは居る?
ハワード:ああ…多分…そういう事じゃなくて…。
イカ・ミュータント:ベーコンはある?
ハワード:物があるとかないとかじゃなくて、抽象的な考えの話だ。
狐ミュータント:
(イカ・ミュータントに)ベーコンって何だ?
イカ・ミュータント:うるさい!この五本指さんと話しているんだ。俺がこの中で一番可愛いからな。イケてるのは俺だけだし。
ハワード:いいか、今こそこの動物園から旅立つ時だ。
ミュータントたち:♪たっのしーい、たっのしーい、動物園〜動物園〜♪
ハワード:黙れ!自分のための、自分の歌を歌う時なんだ!自ら拍子をとって、行進するんだ。
イカ・ミュータント:あなたは誰ですか?私たちに自由を与えてくれるのは?
ハワード:俺が誰かなんて、大した事じゃない。
イカ・ミュータント:あっ、そう。
ハワード:あ、いや。ハワード・ムーン。知りやけりゃ、そういう事。
狐ミュータント:ハリー・ムーン?
ハワード:ハワード・ムーン!俺たちはもう行く。でも、忘れるなよ。
      ディクソン・ベインブリッジこそは、きみたちを元の救いようのない最悪な存在に逆戻りさせる男だからな。
ヴィンス:ま、そういう訳で。
(檻の扉を開け放つ)頑張ってねー。
ミュータントたち:外には、ベーコンあるかな?


 秘密研究所の廊下

(ハワードとヴィンスが出て行こうとすると、ベインブリッジの声が聞こえる)
ベインブリッジ:はっはっは!じゃあな、マックス!バァイ!シンディによろしくな!じゃぁ!
(ベインブリッジ、廊下を歩いて、研究室に入ろうとする)
ベインブリッジまったくクソ馬鹿どもが…
(ハワードとヴィンス、秘密研究所から逃げ出す)


 秘密研究所内

(ベインブリッジ、暗い研究所に入ってくる)
ベインブリッジ:待たせたな、ムーン。改造の時間だぞ。
(突然、電気がつく。ミュータントたちがベインブリッジを取り囲んでいる)
ミュータントたち:サプラーイズ!
ベインブリッジ:檻に戻れ!
イカ・ミュータント:もはや言いなりにはなりませんよ、ベインブリッジ。
ベインブリッジ:いいか、私こそがお前たちの支配者だ!私に従え!
         チッグバッグ!オルレディ!檻に戻れ!ジェット、パトリック、ボノシュート!
(ミュータントたちがどんどんとベインブリッジを追い詰めていく。)
ベインブリッジ:何が望みだ?!
郵便屋ミュータント:サイン下さい!
イカ・ミュータント:うるさい!我々は自由を得るのだ!
ベインブリッジ:自由だと?笑わせるな!このろくでなしめ!
イカ・ミュータント:ああ、いまやそうではないのです


 動物園のそこかしこ

(逃げ出したミュータント達が、歌いながら「スリラー」系のダンスを繰り広げる)
 ♪俺たちゃミュータント族 俺の目を見るんじゃねえよ、顔を見るんじゃねえよ
  俺たちゃミュータント達 俺の目を見るんじゃねえよ、顔を見るんじゃねえよ
  俺は人間じゃない 不合格品の出来損ないさ
  なろうとしたって、そうかんたんにゃ行かない
  人間らしくしようっていったって、無理な話さ なにせ足が九本 エラまであるんだから
  水の中でも息ができちゃうんだぜ 木から旋回なんてお手の物
  やろうと思えば何でもできる だから自由になるんだ イェー!
  だから俺たちゃもう 動物園からはおさらばさ♪
(ミュータント達、ハワードとヴィンスが開けた動物園の門から出て行く)


 爬虫類館

(ミセス・ギデオンの元に、大きな布袋を持ったハワードとヴィンスが来る)
ハワード:さぁ、ミセス・ギデオン。ニシキヘビはここに居ますよ。
(ギデオン、ハワードからニシキヘビ入りの袋を受け取り、覗き込む)
ギデオン:ああ…なんて言えば良いのか…
ハワード:何も言わないで。何でも無い事です。
ギデオン:あらそう。
ハワード:いや、その…非常に危険で、命に関わるミッションでした。
ギデオン:そうなの。ああ、ありがとうヴィンス。
ヴィンス:大丈夫ですよ。
ギデオン:ええと…それから…あなた…
(ギデオン、ハワードの名前が思い出せない。ヴィンスがギデオンに向かって、「ハワード」と口を動かして見せるが、伝わらない。ヴィンス、でかでかと「ハワード」と書かれた紙をギデオンに見せる。)
ギデオン:ハワード…
ハワード:どういたしまして。
(満足そうに立ち去る)


 エンディング・クレジット

(爬虫類館で、クラブ系の音楽が流れる。ヘッドホンにマイクを持ったDJはヴィンス。客もクラブ系のダンスをしている。コブラが音楽にあわせて踊る)
ヴィンス:♪さあ行こうぜ イカしたコブラ!MCロジャー!出番だぜ
       MCコーン・スネイク DJヤモリ DJグルグル目玉 DJ毒ヘビ みんなお揃いだ
       レッツゴー,ファンク!ノリノリだけど、部屋は狭い!
       イェー!脱皮しちまえ!♪

(終)
 
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