BBC SHERLOCK / アヤシゲ翻訳
Season 2 Episode 3 「ライヘンバッハの滝」
おことわり
英国版DVDの字幕をもとに、アヤシゲ翻訳しています。
ですから、ネタバレされたく無い方は、けってし読まないで下さい。
また、訳者は英語の専門家ではありません。よってかなりイイカゲンですが、あしからず。
さらに、台詞のみを記載し、場面や動きの説明はまったくしていません。つまり、DVDで画面を見ないと全く分からない箇所もたくさんありますので、ご了承下さい。
エラのカウンセリングルーム
エラ :どうして今になって来たの?
ジョン :ぼくから言わせたい?
エラ :ここに最後に来てから18ヶ月よ。
ジョン :新聞は読む?
エラ :たまに。
ジョン :テレビは?ぼくがここに来た理由は知っているだろう。つまりその…
エラ :ジョン、何があったの?
ジョン :シャーロック…
エラ :心にあるものを吐き出さないと。
ジョン :シャーロック。ぼくの親友が…死んだんだ。
三ヶ月前
司会者 :ライヘンバッハの滝。ターナーの名作です。これを再び取り戻すことことが出来たのは、
この才能豊かな人物のおかげです。お礼を申し上げます、シャーロック・ホームズさん。
これは、ささやかながら私たちの気持ちです。
シャーロック:ダイヤモンドのカフス。ぼくはボタン派なんだ。
ジョン :ありがとうと言っています。
シャーロック:そうか?
ジョン :言えよ。
シャーロック:ありがとう。
新聞記事:ライヘンバッハのヒーロー。ターナーの名作、アマチュアが取り返す。
スコットランドヤード、手がかりを見過ごす
銀行頭取の子息誘拐
銀行の頭取:非常に困難な苦難の末に、家族を取り戻すことが出来ました。この救出において、
シャーロック・ホームズさんにお礼を申し上げます。
シャーロック:(プレゼントを受け取る)タイピン。ネクタイしないのに。
新聞記事:ライヘンバッハのヒーロー、誘拐被害者を発見
レストレード:ピーター・リコレッティ。1982年以来、インターポールが総力をあげて追跡していた男です。
とうとう捕らえました。この成功に、たゆまざる人的交流の努力と機知で貢献してくれた彼に
感謝を申し上げます。
ジョン :皮肉だな。
シャーロック:うん。
レストレード:みんなからだ。(ディアストーカーを渡す)
シャーロック:ああ。
男性の声 :被って!
ジョン :被るしかなさそうだな。
タブロイド紙:フシギ博士シャーロック 事件を解決す
ベーカー街221B
シャーロック:フシギ博士、フシギ博士シャーロック・ホームズ?
ジョン :みんなそんなもんだよ。
シャーロック:そんなもんって?
ジョン :タブロイド紙がニックネームをつける。スーザン・ボイルの「スボ」とか、
ニック・ベイトマンの「ナスティ・ニック」とか。心配するな。そのうちぼくにもつくよ。
シャーロック:5ページ、コラム6、1行目。なんでいつもあの写真なんだ?
ジョン :「バチェラー(文士,独身男性)ジョン・ワトスン」
シャーロック:第一、この帽子はなんなんだ?
ジョン :バチェラー?どういう意味で使ってるんだ?
シャーロック:キャップなんだろ?どうしてつばが二つあるんだ?
ジョン :ディアストーカーだよ。「バチェラー・ジョン・ワトスンは、たびたび目撃されている。」
シャーロック:どうやってこの帽子で鹿をストーカーするんだ?投げるとか?
ジョン :「バチェラー・ジョン・ワトスンの証言」
シャーロック:フリスビーの死体みたい。
ジョン :もうたくさんだ。これからはぼくらも、もっと気をつけないとな。
シャーロック:この羽根はなんだ?耳当て?耳用の帽子だぞ、ジョン。もっと気をつけるって?
ジョン :つまり、この帽子は今や、ディアストーカーじゃない。シャーロック・ホームズ帽だ。
もはや、きみは個人としての私立探偵ではいられない。有名になりすぎたからな。
シャーロック:そのうち飽きるだろ。
ジョン :飽きられれば良い方だ。マスコミっていうのは、分からないぞ、シャーロック。
そのうち手のひらを返したように、きみを攻撃し始める。
シャーロック:きみにとっても迷惑みたいだな。
ジョン :え?
シャーロック:みんな色々言うからさ。
ジョン :うん。
シャーロック:ぼくのことを言ってるのに、なんできみが気を揉むんだ?
ジョン :あまり目立たないようにしないとな。今週は小さな事件に専念しておくんだな。
ニュースはシャットアウトだ。
ロンドン塔11時
(モリアーティがロンドン塔を訪れる)
ベーカー街221B
ジョン :メール来てるぞ。
シャーロック:うん。放っておく。
ジョン :それで、ずっとそこの彼に話しかけてたのか?
シャーロック:ああ、ヘンリー・フィッシュガードね。自殺のはずがない。地元警察ときたら、何もみちゃいない。
ジョン :緊急の案件なんだろ?
シャーロック:解決するまでは、すべてが緊急の案件さ。
ロンドン塔
セキュリティ:鍵をこちらに置いて下さい。(モリアーティに)すみません、何か金属の物を身につけていますか?
鍵とか、携帯とか。どうも、いいですよ。
守衛室
守衛1 :お茶でも飲むか?
守衛2 :ああ、もちろん。
英国銀行 11時
頭取 :ギルトは、7時に。ダッチ・テレコムはこのままで。ありがとう、ハービー。
ペントンヴィル刑務所 11時
所長 :何だって?仮釈放を廃止して、死刑制度を復活させようというのか?よし、始めよう。
ロンドン塔
(モリアーティ、ヘッドホンでロッシーニの「泥棒かささぎ 序曲」を聞きながら、端末を操作。警報を鳴り響く)
アナウンス:緊急事態です。すぐに避難して下さい。
守衛 :すみません、すぐに待避して下さい。
スコットランドヤード
ドノヴァン:警部、セキュリティ破りですって。
レストレード:管轄外だろう。
ドノヴァン:どうですかね。
英国銀行
頭取 :地下金庫か?
車内
レストレード:ロンドン塔のセキュリティをハッキングしたって?どうやって!いま向かってると言え!
ドノヴァン:ほかのところもやられています。英国銀行?
ロンドン塔
(モリアーティが、ガラスに「シャーロックをつかまえろ」と書いている)
ペントンヴィル刑務所
守衛 :所長、セキュリティがダウンして、機能しません。
車内
レストレード:今度はどこだ?
ドノヴァン:ペントンヴィル刑務所。
レストレード:嘘だろう…
ロンドン塔
(警官隊が宝物室に駆けつける)
モリアーティ:逃げないよ。
ベーカー街221B
(シャーロックの携帯にメールが届く)
ジョン :わかった、出てやるよ。…ほら。
シャーロック:あとで。今は手が離せない。
ジョン :シャーロック。
シャーロック:今はだめだ。
ジョン :やつが帰ってきた。
メール :タワー・ヒルで一緒に遊ぼうよ。ジム・モリアーティ x
守衛室
レストレード:ガラスは強化ガラスだで、壊せないはずだ。
シャーロック:炭素の結晶体よりは弱いだろう。ダイヤモンドを使ったんだ。
新聞見出し:世紀の犯罪?ロンドン塔、ペントンヴィル刑務所、英国銀行、三カ所を同時、同一人物 ―
ジム・モリアーティがいかに破ったのか?
宝石泥棒、裁判へ シャーロック・ホームズを挑発。国際的な注目を集める。
アマチュア探偵、専門的証人として召喚。
ベーカー街221B
(音楽:ニーナ・シモン "Sinnerman")
ジョン :いいか?
シャーロック:ああ。
車内
ジョン :いいか、
シャーロック:分かってる。
ジョン :あのな、
シャーロック:分かってる。
ジョン :いいか、言われたことを忘れるなよ。余計なこと言うなよ。
シャーロック:ふん。
ジョン :あのな、とにかくシンプルに、話をまとめろ。
シャーロック:参考証人が頭を使って証言するのがいけないって言うのか。
ジョン :頭を使うのは結構。分かったような顔で振る舞うのはよせ。
シャーロック:好きなようにするさ。
ジョン :人の話聞いてたか?
中央刑事裁判所前
女性リポーター:今日、まさにこの場において…
男性リポーター:世紀の裁判が行われます。
女性リポーター:ジェイムズ・モリアーティの裁判です。
スカイ・ニュース:ジェイムズ・モリアーティは今朝、出廷を命じられ…
ITNニュース:王冠盗難事件での裁判が…
BBCニュース:中央刑事裁判所において、ライヘンバッハのヒーロー、シャーロック・ホームズが参考証人として…
法廷
モリアーティ:(女性衛士に)ぼくのポケットに手を入れてみてくれる?…ありがとう。
男性用トイレ
館内放送:王冠・モリアーティ事件。第10法廷です。
キティ :見つけた。
シャーロック:トイレを間違えたようだな。
キティ :大ファンなの。
シャーロック:らしいな。
キティ :あなたが解決した事件、全部読んだわ。シャツにサインしてくれる?
シャーロック:ファンには二種類ある。
キティ :そう?
シャーロック:捕まえてもらえるまで、人殺しを続けるのが、タイプA。
キティ :それで、タイプBは?
シャーロック:タクシーでもどこでも、やらせてあげるってタイプ。
キティ :それで、私はどっちのタイプ?
シャーロックの分析:手に跡、ポケット、インク
シャーロック:どっちでもないな。
キティ :そう?
シャーロック:ファンじゃないだろうから。その手首の下にある跡は、机の縁でできたものだ。
大急ぎでキーボードを打っていたんだ。締め切りに間に合わせるために。
キティ :それだけ?
シャーロック:手首にはインクの汚れがついているし、左のポケットにはヴォイスレコーダーが入っている。
キティ :それで何か分かるの?
シャーロック:インクの汚れはわざとつけたんだろう。ぼくが噂どおりかどうか試すためにね。オイルベースだ。
新聞の印刷に使う。でも、人差し指にもついている。ジャーナリストってことだな。
でも、手をそのままにしておくといことは、普通ない。つまり、きみはぼくを試すために、
わざとそうしたんだ。
キティ :ワァオ。気に入ったわ。
シャーロック:帽子の下のシャーロック・ホームズを書くつもりだろ。
キティ :キティ・ライリーよ。お会いできて嬉しいわ。
シャーロック:お断りだ。色々聞かれるのを防いだつもりだが。とにかく、インタビューはお断り。
お金も欲しくない。
キティ :あなたとジョン・ワトスンだけど、本当にプラトニックな関係なの?ちょとだけでも書かせてくれない?
あなたに関しては、色々ゴシップが新聞に載っているじゃない?遅かれ早かれ、きっと私が必要になるわ。
真実をそのまま伝える人間がね。
シャーロック:この仕事が向いていると思っているんだろう?
キティ :私も馬鹿じゃないわ。信用してちょうだい。全面的ね。
シャーロック:馬鹿じゃない?オーケイ。調査ジャーナリスト。なるほど。ぼくを見て、どう見えるか言ってみろよ。
それなりにやれるなら、インタビューなんて必要ないだろう。必要な情報は自分で読み取れば良い。
無理?よし、じゃぁぼくの番だ。きみは、初めての大スクープ記事をモノにしようとしている。
きみのそのスカートは高額なもので、2回も折り返してある。きみが持っている唯一のいいスカートだ。
爪のほうは、そうしょっちゅう金をかけて手入れをすることは出来ないでいる。
ガツガツしているのは、スマートとは言えないな。もちろん、信用して良さそうにも見えない。
でも、お望みなら、コメントをあげるよ。ほんの三語だ。
(ヴォイスレコーダーに)あんた、ほんと、むかつく。
法廷
ソレル(検察側):犯罪コンサルタントですか。
シャーロック:そうです。
ソレル :なるほど、何か付け加えることは?
シャーロック:ジェイムズ・モリアーティは雇われるんです。
ソレル :用を聞いて対応すると?
シャーロック:ええ。
ソレル :でも、あなたの壊れた暖房機を直すとか、そういうのではないでしょう?
シャーロック:もちろん。爆発物製造や、暗殺を請け負ったりするんです。
でも、あなたのところのボイラーもうまく直してくれると思いますがね。
ソレル :彼について、詳しく…
シャーロック:誘導。
ソレル :なんです?
シャーロック:それは駄目だろう、証人を誘導している。検察側が異議を唱え、裁判官が支持するはずだ。
裁判長 :ホームズさん!
シャーロック:ぼくがどう、彼を分析しているのか、訊けよ。彼について、どういう意見を持っているのか。
そういうこと、教わらなかったのか?
裁判長 :ホームズさん、あなたの口出しは必要ありません。
ソレル :では、彼の性格について、どのように分析していますか?
シャーロック:最初のミス。ジェイムズ・モリアーティは人間じゃない。こいつはクモだ。
蜘蛛の巣の真ん中に陣取るクモ。何千もの糸から成る、犯罪の蜘蛛の巣だ。
そして、どの糸に獲物がかかり、もがいているか、完璧に把握している。
ソレル :いつから…
シャーロック:ちがうちがう、そうじゃない。それは適当な質問じゃない。
裁判長 :ホームズさん!
シャーロック:彼をいつから知っているのか?それが一番の質問か?ぼくらが会ったのは2回だけ。
時間にして5分程度。ぼくはあいつに銃を向け、あっちはぼくを吹っ飛ばそうとした。
何か共通のものを感じた。
裁判長 :ソレルさん、この人が、本当に専門家だと言うのですか?
たったの5分しか会ったことがない人が、告発側だと?
シャーロック:2分でもぼくには十分だ。5分もあればなおさら。
裁判長 :ホームズさん、陪審員の前ですよ。
シャーロック:そうだったか。(トレーダー、浮気中、教師、教師、司書、既婚)…
司書が一人、教師が二人、おそらくシティで、緊張感のある仕事をしている人が二人、
前列には医療事務、髪を短くしているところを見ると、海外で訓練を受けている。
裁判長 :ホームズさん…
シャーロック:7人は既婚者、二人は互いに浮気中、そう見える。ああ、お茶とビスケットをご一緒したんだな。
ウエハースを食べた人を知りたい?
裁判長 :ホームズさん。あなたは、ソレルさんの質問に答えるために呼ばれたのです。
あなたの知能を見せびらかすためではありません。答えをシンプルにまとめなさい。
とにかく、これは法廷を侮辱しています。あと何分か、ひけらかさずに居られますか?
留置所の受付
ジョン :ぼく、何て言った?「余計なことは言うな」って。
シャーロック:あんなのにつきあってられるか。それで?
ジョン :それでって?
シャーロック:法廷で最初から最後まで傍聴してたんだろ?
ジョン :きみが言ったとおり、座ったまま微動だにしなかった。
シャーロック:モリアーティは何の弁明もしなかったか。
ベーカー街221B
ジョン :英国銀行に、ロンドン塔、ペントンヴィル。国内でも最高のセキュリティだったはずだ。
それを6週間前、モリアーティが破り、だれもどうやったのか、どうしてやったのかも知らない。
分かっているのは…
シャーロック:捕まることにした。
ジョン :それ、やめろよ。
シャーロック:何を?
ジョン :そういう顔さ。
シャーロック:顔?
ジョン :またそういう顔をする。
シャーロック:ぼくには見えてないんだけど。(鏡を見て)ぼくの顔だろ。
ジョン :そう、そういう顔。「ぼくらは二人とも、一体何が起きているのか、分かっています」みたいな顔だよ。
シャーロック:分かってるだろ。
ジョン :いや、ぼくには分からない。だからそういう顔されるといらつくわけ。
シャーロック:もし、モリアーティが宝石を欲しがったなら、とっくに手に入れてる。
囚人たちを逃がしたければとっくに全員、大手を振って歩いている。
それなのにモリアーティが今、独房に居る唯一の理由は、そこに居ることを選んだからだ。
これもあいつの計画の一部なんだ。
法廷
裁判長 :クレイヒルさん、最初の証人を呼んでいただけますか?
クレイヒル(弁護側):裁判長、我々の方に、証人はおりません。
裁判長 :どういうことですか?無罪を主張するのでしょう?
クレイヒル:何にせよ、被告人は証言は必要としていません。弁護側反論は無しです。
裁判長 :みなさん、当法廷において…
シャーロック:ジェイムズ・モリアーティは、複数の不法侵入で告訴されています。…
裁判長 :彼がもし有罪であれば、当法廷は、非常に刑を言い渡します。
被告人側は、主張を補う証人を立ててはいません。これは非常に希なケースですが、
誠心誠意、評決を出すことを求めます。有罪と見なすでしょう。
シャーロック:有罪と…
裁判所の廊下
書記官 :戻ってきたぞ。
ジョン :6分しか経ってないのに?
書記官 :驚いたことに、それしか時間が掛からなかったんだよ。トイレは列になって、入れやしない。
裁判官 :評決に達しましたか?
ベーカー街221B
(電話が鳴る)
ジョン :無罪だ。無罪評決が出た。異議なしで、モリアーティは無罪放免だ。
シャーロック?聞いてるか?彼は自由だ。きみの所に来るんじゃないか?シャー…
(シャーロック、客を迎える準備をし、ヴァイオリンで
バッハの「無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ 第3番,シャコンヌ」を弾いている。
モリアーティが居間に入ってくる)
シャーロック:普通、ノックするものだがな。まぁ、きみは普通じゃないか。お湯が沸いたところだ。
モリアーティ:ヨハン・セバスチャン(バッハ)もびっくりだね。座ってもいいかい?
シャーロック:どうぞ。
モリアーティ:知ってるか。バッハが死の床にあったとき、息子がピアノで彼の曲を弾くのを聴いていたそうだ。
息子は曲が最後までいくまえに、演奏をやめた。
シャーロック:死にかけていたバッハはベッドから飛び起き、ピアノの前に行ってその曲を最後まで弾き終えた。
モリアーティ:メロディを完結させずにはいられなかった。
シャーロック:あんたもだろ。だからここに来たんだ。
モリアーティ:しかし、きみは大して嬉しそうでもないな。
シャーロック:評決に対して?
モリアーティ:ぼくに対してさ。自由の身だ。どんなおとぎ話にも、古風な悪者が必要だろう。
きみにはぼくが必要なはずだ。ぼくが居なければ、きみは何者でもない。
きみとぼくはとても良く似ているからね。きみのほうは退屈らしいけど。そしてきみは、天使の側だ。
シャーロック:もちろん、陪審員を丸め込んだんだろう。
モリアーティ:ぼくは牢屋にぶち込まれていたから、12人分のホテルの部屋を尋ねるのは無理だと思ったろう。
シャーロック:テレビ回線を使ったのさ。
モリアーティ:ホテルの部屋にはそれぞれテレビがあるからね。
(ホテルのテレビ画面:可愛い子供達を守りたければ、指示に従え…)
モリアーティ:誰にでも、弱点はあるものだ。問題から逃れたいと思う者もいる。かーんたんさ。
シャーロック:それで、これからどうするんだ?ぼくを焼き殺すとか?
モリアーティ:ああ、そういう問題もあったね。最後の問題だ。この問題に答えは出た?
最後の問題ってなんだ?ぼくはもう言ったよ。聞いてたかなぁ?「分からない」とは言いにくいんだろう?
シャーロック:分からない。
モリアーティ:おや、それでいいんだ。大変結構。賢い選択。
賢いと言えば、あのかわいいお友達にはもう話したのか?
シャーロック:何を?
モリアーティ:どうしてぼくが色んな所のセキュリティを破ったのかさ。しかも何も盗まずに。
シャーロック:いや。
モリアーティ:でも、分かっているんだろう。
シャーロック:もちろん。
モリアーティ:言ってみろよ。
シャーロック:自分で分かっていることを、ぼくに言わせたいのか。
モリアーティ:いや、分かっているなら、証明しろってことさ。
シャーロック:何も盗まなかったのは、必要なかったからだ。
モリアーティ:いいね。
シャーロック:今後も、必要にならないだろうな。
モリアーティ:大変結構。どうしてかな?
シャーロック:なぜなら、何もないからだ。英国銀行にも、ロンドン塔にも、ペントンヴィル刑務所にも、
入れたとしても価値のあるものは何もないからだ。
モリアーティ:ぼくはどんなドアでも、ちょっとしたコンピューター配線さえあれば、開けることが出来る。
銀行の個人口座も例外じゃない。とんかく、全てはぼくのものだ。
機密なんてものは、一つもないんだ。機密がぼくのものだ。
核爆弾の暗号もわかれば、NATO加盟国をアルファベット順に吹っ飛ばすこともできる。
この世界においては、全てのロックを開ける鍵を持つ者こそ、王だ。
そうだろう、ぼくの頭上には王冠が輝いて見えるはずだ。
シャーロック:裁判の間中、ずっと広告を出していたわけだ。
世界に向けて、自分はどんなロックを解除できると、触れ回ったんだ。
モリアーティ:きみも手伝ってくれたよ。依頼人リストを提供したじゃないか。
暴虐なる政府に、賢ぶった連中、テロリストたち、そういう連中はぼくを求めている。
突如として、ぼくはセックス狂いのあこがれの的。
シャーロック:どんな銀行にも侵入できる。高額入札者をどうするんだ?
モリアーティ:別に。ぼくは連中がぼくを巡って争うのを見るのが好きなだけ。
「みーんな、ぼくが大好き!」普通の人には羨ましいだろうね。
ああ、そうか。きみにはジョンが居るからな。ぼくにもそういう存在が欲しいな。
シャーロック:どうしてこんなことを?
モリアーティ:面白いからさ。
シャーロック:きみは金も、権力も、欲しがってはいない。一体何のためだ?
モリアーティ:問題を解きたいだけだよ。ぼくら二人の問題。最後の問題だ。
そのうち、すぐにでも始まるよ、シャーロック。落下が…でも怖くないよ。
落下は飛ぶのと同じさ。行き着くところは決まっているけどね。
シャーロック:なぞなぞは好きじゃない。
モリアーティ:それでも仕方がない。ぼくはきみに、「落下」の借りがあるんだ、シャーロック。借りがある。
(モリアーティが残したリンゴには、I O U (I owe you あんたに借りがある)と刻んである)
新聞紙面:モリアーティ無罪放免。中央刑事裁判所でショッキングな評決
一体どうやって無罪になったのか モリアーティ失踪
ライヘンバッハのヒーロー、次の手は?
二ヶ月後
(キャッシュディスペンサーが、ジョンにメッセージを表示する)
メッセージ:カードに問題があります。お待ち下さい。恐れ入ります、ジョン。
ディオゲネス・クラブ
ジョン :あの…済みません。マイクロフト・ホームズを探しているのですが。
ここに居ると聞いているのですが。聞いてます?あの、あ、いいです。
どなたか…マイクロフト・ホームズがどこにいるか、ごぞんじありませんか?
ここで訊けと言われたのですが。どなたも?なるほど。ぼくが見えてます?…
ああ、よかった。マイクロフト・ホームズに会いたいのだけど…え?ちょっと、何?
マイクロフト:しきたりだよ、ジョン。これが我々のしきたりだね。
ジョン :沈黙がしきたりですか?「砂糖とって」も言えないとか?
マイクロフト:外交員の四分の三に、政府要員の半分が、一緒に座ってお茶を楽しむわけがないだろう?
互いに黙っているのが、一番さ。1972年の二の舞はごめんだ。ともあれ、この部屋では会話ができる。
ジョン :(タブロイド紙を見せて)こういうの、読むんですか?
マイクロフト:目につけばね。
ジョン :ふーん。
マイクロフト:土曜日に、すごい暴露記事があったよ。
新聞記事 :シャーロックにショッキングな事実 親しい友人リチャード・ブルックは語る
ジョン :彼女、どこからこの情報を仕入れたんだろう。
マイクロフト:ブルックという人物だ。聞き覚えは?
ジョン :学校の友達とか?
マイクロフト:シャーロックに友達?しかし、きみをここに呼んだのは、その話じゃないんだ。(ファイルを渡す)
ジョン :これ、誰です?
マイクロフト:知らない?
ジョン :ええ。
マイクロフト:その顔に見覚えは?ベーカー街に部屋を借りているよ。きみらの、2軒向こうだ。
ジョン :一緒に一杯どうでしょうね。
マイクロフト:よした方がいいだろうな。スレマーニ。アルバニア人の殺し屋だ。凄腕だぞ。
それがきみの20フィート以内に住んでいる。
ジョン :良い環境ですね。ジュビリー線の駅も近いし。
マイクロフト:ジョン…
ジョン :これがぼくとどう関係が?
マイクロフト:ディアチェンコに、ルドミラ…
ジョン :はぁ…この人は見たことがあるな。
マイクロフト:ロシア人の殺し屋だ。向かい側に住んでいる。
ジョン :オーケイ。着るものには気をつけた方が良さそうだ。
マイクロフト:現実問題として、国際的な四人もの一流ヒットマンが、221Bの付近に引っ越してきているんだ。
私の懸念はわかるな?
ジョン :引っ越しでもしろと?
マイクロフト:どういうことかは分かるだろう?
ジョン :モリアーティの差し金だと言うんですか?
マイクロフト:やつはシャーロックに、戻ってくると約束している。
ジョン :モリアーティだと言いますけど、やつはもう死んだも同然だ。
マイクロフト:モリアーティでないなら、ほかに誰がこんなことを?
ジョン :心配なら、どうしてシャーロックに直接話さないんです?
ああ…もういい。言わなくていいです。
マイクロフト:私たちの間には色々あってね、ジョン。勝っただ、負けただ、まだ怒っているとか。
ジョン :手下を全部捕まえたら?組織を破壊すればいい。…もういいですか。
マイクロフト:私もきみも、何が起こるか、分かっているようだな、ジョン。モリアーティは執着している。
唯一のライバルを破滅させると誓ったんだ。
ジョン :だからあなたは、弟をぼくに監視させたいわけだ。
シャーロックはあなたの助けなど、受け付けませんからね。
マイクロフト:面倒なことにならなければいいが。
ベーカー街221B
(ジョン、玄関前にパンくずの入った封筒を見つける)
職人 :失礼。
ジョン :ああ、どうぞ。…シャーロック、なんか変な物が…どうした?
シャーロック:誘拐事件だ。
レストレード:駐米大使のルーファス・ブロー。
ジョン :それなら、ワシントンだろ。
レストレード:彼じゃなくて、その子供達だ。マックスとクロウディア。7歳と9歳だ。オルデートに居た。
ドノヴァン:サリー州の、金持ち向けの寄宿舎学校。
レストレード:学校が休みに入って、生徒は全員自宅に戻っていた。何人かだけが残っていたが、
この二人もそのうちに入っていた。
ドノヴァン:その二人が失踪。
レストレード:大使みずから、個人的にシャーロックに依頼したと言うわけだ。
ドノヴァン:ライヘンバッハのヒーローにね。
レストレード:有名人と一緒に仕事が出来て嬉しいだろう。
オルデート寄宿舎学校
レストレード:寮の管理人、マッケンジーさんだ。穏やかに行けよ。
シャーロック:マッケンジーさん、あなたは子供達の安全のために最善を尽くさねばならないのに、
夕べは、ここを解放していた。何なんだ、馬鹿か、飲んだくれてたのか、犯罪者か?さぁ、さっさと話せ!
マッケンジー:ドアも窓も、全て鍵がかかっていたんです。だれも、だれも…
私ですら、あの二人の部屋には、夕べ行っていないんです。おねがい、信じて下さい。
シャーロック:信じるから、早く話して。マッケンジーさんには、休息が必要だな。
ジョン :一学期に6000ポンドで、子供達を安全に過ごさせることが出来るという訳か。
ほかの子供達は休暇でここには居なかったのだろう?
レストレード:誘拐された二人だけが、この階で寝ていた。無理に侵入した形跡は無しだ。
侵入者は、あらかじめ内部に入り込んでいたんだな。
(シャーロック、クロウディアの箱の中から、封蝋つきの封筒に入ったグリム童話の本を見つける。)
シャーロック:兄が寝ていたところを見せてくれ。
シャーロック:少年は毎日ここで眠っていた。光が差し込むのは、通路側だけだ。
何が外を通っても、見えたはずだ。誰が入ってきても、シルエットは見える。
レストレード:オーケイ。それで?
シャーロック:少年には、見覚えのない人物が、ドアから入ってこようとしていた。侵入者だ。
少年には、侵入者が武器を持っているのが見えただろう。やつらが入ってくる前、
ほんの少しの時間で、どうしたか。声を上げることが出来ないとしたら、どうする?
この少年は、すこし変わっているな。スパイ小説を読むのが好きなんだ。そんな少年ならどうする?
レストレード:何か暗号を残すとか?
シャーロック:(ベッドの下から空き瓶を見つける)アンダーソンを呼んでこい。
(外からの光を遮断し、ブラックライトを当てると、壁に「助けて」の文字が浮かび上がる)
シャーロック:亜麻仁油だ。
アンダーソン:役に立たないだろ。誘拐犯のところまでは続いていない。
シャーロック:素晴らしいぞ、アンダーソン。
アンダーソン:そうか?ああ、馬鹿の証明としては最高だ。床に…
ジョン :ぼくらに手がかりを残したんだ。
シャーロック:少年は侵入者の前を歩いている。
ジョン :つま先で?
シャーロック:不安がりながら。銃を頭に突きつけられて。妹の方は、男に引っ張られている。首根っこを掴まれて。
アンダーソン:ここまでだ。結局、どこへ行ったのかは分からないな。要するに何も分からないわけだ。
シャーロック:その通りだよ、アンダーソン。何も分からない。
侵入者の靴のサイズと、背の高さ、歩き方、歩く速さ以外はな。ふふふーん♪(足跡のサンプルを取る)
ジョン :楽しいか?
シャーロック:楽しくなってきた。
ジョン :誘拐された子供達に、そういう顔でニヤニヤしない方がいいぞ。
車内
ジョン :侵入者はどうやって監視カメラの目を盗んだんだ?ドアは全部ロックされていたんだろう。
シャーロック:ロックされていない内に入ったんだ。
ジョン :ああいう学校に、見ず知らずの人物は入れない。
シャーロック:時さえ選べば、誰にだって入れる。昨日は、学期末最後の日だった。
迎えに来る親たちや、運転手がたくさん来ていた。その中にもう一人紛れ込んでいたら?
入れるタイミングを待ち、隠れる場所を探した。
聖バーソロミュー病院
シャーロック:モリー!
モリー :あら、こんにちは。出かけるところなの。
シャーロック:ちがうだろう。
モリー :ランチ・デートなのよ。
シャーロック:キャンセルして。ランチはぼくと。
モリー :なんですって?
シャーロック:手伝って欲しいんだ。きみのボーイフレンドといのは、ぼくらがやっつけようとしている奴だな。
こまった奴だ。
ジョン :モリアーティ?
シャーロック:モリアーティだよ。
モリー :ジムはボーイフレンドじゃなかったの。3回くらいデートしたけど、それだけ。
シャーロック:そして奴は王冠を盗みに入り、英国銀行の金庫を破り、
ペントンヴィル刑務所の脱獄事件をお膳立てした。きみは法と秩序にてらして、
予想される危険を回避したというわけだよ、モリー。
シャーロック:オイルだ、ジョン。誘拐犯の足跡のオイル。これがモリアーティへとつながっている。
靴についた科学的情報が、残っているはずだ。靴底はまさにパスポートみたいなものだ。
運が良ければ、奴につながるものが見つかる。…分析が必要だ。
モリー :アルカリ性。
シャーロック:ありがとう、ジョン。
モリー :モリー
シャーロック:そうだった。
分析内容:1.チョーク,2.アスファルト,3.煉瓦の粉, 4.植物,
シャーロック:借りがある…グリコール分子。なんだこれ?
モリー :借りがあるってどういう意味?そう言ってたけど。調べている間中、つぶやいてる。
シャーロック:別になんでもない。頭の中のメモだ。
モリー :あなた、父に似てるわ。死んだけど。ああ、ごめんなさい。
シャーロック:モリー、会話を楽しむような気分じゃないんだ。きみの得意分野でもないだろう。
モリー :父が死ぬとき、ずっと陽気で、とても素敵だった。誰にも見られていないと思っている時以外はね。
一度だけ、父がとても悲しそうだったのを見たわ。
シャーロック:モリー…
モリー :あなたも悲しそうだわ。彼があなたのことを見てないと思うと、悲しいのね。
大丈夫?いいのよ、別に答えなくても、分かってるから。誰もあなたを見てくれないと、悲しいんだって。
シャーロック:きみにはぼくが見えてる?
モリー :私は数に入らないでしょ。とにかく、私が言いたいのは、何か私に出来ることがあれば…
あなたが必要なら何でも…私を使ってくれて良いのよ。その、つまり…
なんと言うか…何か必要なら。まぁ、いいわ。
シャーロック:でも、ぼくがきみに必要としている事って?
モリー :さぁ。無いわね。でも、ありがとうぐらいは言えるでしょ。
シャーロック:ありがとう。
モリー :何か、お菓子でも買ってくる。なにか欲しい?いいわ、要らないわよね。
シャーロック:いや、ただ…
モリー :いらないんでしょ。(退出)
ジョン :シャーロック?
シャーロック:うん?
ジョン :女の子の箱に入っていたこの封筒。同じ物がある。
シャーロック:ええ?
ジョン :うちの玄関に、今日おいてあった。ほら、これ見ろよ。同じ封蝋だ。
シャーロック:パンくずだ。
ジョン :うん。ぼくが戻ったときに、おいてあった。
シャーロック:パンくずにしるしをつける…おとぎ話の本があった。
二人の子供が、父親によって森に連れて行かれるが、パンくずで道に印を残していった。
ジョン :ヘンゼルとグレーテルだ。でも、どこの誘拐犯がそんな手がかりを残すんだ?
シャーロック:自信過剰で、この手のゲームを楽しんでいる奴。あいつはぼくらの部屋に来て、
ぼくにこう言った。「どんなおとぎ話にも、古風な悪者が必要だろう」
五つ目の物質、これが物語の一部だ。魔女の家。…グリセリン分子ということは…PGPRだ。
ジョン :なんだ、それ。
シャーロック:チョコレートに使われている。
スコットランドヤード
レストレード:1時間前にファックスが来た。
ファックス:早くしないと死んじゃうよ
レストレード:それで、どうなんだ?
シャーロック:この五つの条件を満たす場所を、市内で探すんだ。
レストレード:チョーク、アスファルト、煉瓦の粉、植物、なんだこれ、チョコレート?
シャーロック:閉鎖されたお菓子工場を探せば良いんだ。
レストレード:もっと絞り込まないと。アスファルトのお菓子工場?
シャーロック:いや、それじゃ多すぎる。もっと、特別な場所だ。チョーク、チョーク…それで地質学的に絞り込むんだ。
レストレード:煉瓦?
シャーロック:1950年代以来の、建物があるところだ。
レストレード:そんな所、ロンドンにいくらでもあるぞ。
シャーロック:探させろ。
レストレード:してるよ。
シャーロック:ホームレスのネットワークの方が警察より早い。金で動かすのも気軽だし。
(携帯に情報が届く)…ジョン。ツツジだ。合致した。…アドルストンだ。
レストレード:ええ?
シャーロック:川と公園の間に、閉鎖された工場があるはずだ。全てがマッチする。
レストレード:行くぞ。
工場
ドノヴァン:あっちを見て。全て確認するのよ。散らばって、散らばって!
シャーロック:(消えたロウソクをみつける)さっきまで点いていたんだ。まだここに居るぞ!
お菓子の包み紙…これで食いつないでいたのは…ヘンゼルとグレーテルだ。
(包み紙の臭いをかぎ、舐めてみる)水銀だ。
レストレード:何だって?
シャーロック:包み紙に水銀が塗ってある。危険だ。食べた量によっては…
ジョン :死に至る。
シャーロック:殺すには足りないはずだ。もっと大量の水銀を確保して、二人を徐々に死へと至らしめるんだ。
自分で手を下す必要は無い。遠隔操作の殺人犯。1000マイル離れていたって成功する。
空腹になれば、それだけもっと食べる。そして死へと向かう。巧妙だ。
ジョン :シャーロック。
ドノヴァン:こっちよ!
警官 :大丈夫、もう大丈夫だからね。
スコットランドヤード
ドノヴァン:お待たせ。プロの仕事はおしまい。アマチュアさんたちもお望みならどうぞ。
レストレード:いいか、忘れるなよ。女の子はショック状態だ。まだ7歳だからな。出来るだけ…
シャーロック:いつものやりかたは止せと言うんだろ。
レストレード:そのとおり。
シャーロック:しょうがないな。(部屋に入る)クローディア、ぼくは…(クローディア、叫び出す)
いや、分かってる、大変だったんだ、よく聞いて。
レストレード:出るんだ。
ジョン :どういう事なんだ。
レストレード:トラウマだろう。シャーロックの何かが、誘拐犯を思い出させたんだ。
ジョン :あの子がそう言ったのか?
ドノヴァン:まったく口をきかないの。
ジョン :兄の方は?
レストレード:意識不明で、危険な状態だ。
(シャーロック、向かいのビルの窓に、IOUの文字を発見する)
レストレード:まぁ、気にするな。俺は前が入ってくると、叫び出したい気分になる。
まぁ、誰でもそうだろうけど。…行くぞ。(退出)
ドノヴァン:お手柄ね。足跡だけであの子達を見つけ出すなんて。ほんと、凄いわ。
シャーロック:ありがとう。
ドノヴァン:信じられない。
通り
ジョン :(タクシーを止める)大丈夫か?
シャーロック:考え事。これにはぼくが乗る。きみは次のだ。
ジョン :なんで?
シャーロック:話しかけるから。
スコットランドヤード
(ドノヴァン、証拠品を眺めている。「チョコレート?― 閉鎖された工場を探すんだ ―出ろ!」…)
レストレード:どうかしたか?
タクシーの中
(車内ディスプレイに、通販番組が流れ始める)
ナレーター:この素敵な宝石、ロンドンでも噂の…
シャーロック:消してくれないか?
ナレーター:ご覧の通り、どれも美しいパーツで…
シャーロック:消してくれ。
(画面が乱れ、モリアーティが登場する)
モリアーティ:やぁみんな、お話の時間だよ。サー・自慢屋のお話だ。
スコットランドヤード
ドノヴァン:彼が持っていた手がかりと言えば、足跡だけです。足跡。
レストレード:あいつのやり方はよく知っているだろう。ベーカー街のCSIだ。
ドノヴァン:ええ、うちのスタッフはまったく駄目でしたけど。
レストレード:だからシャーロックが必要なんだ。結果を出す。
ドノヴァン:そういう考え方もできますけど。
レストレード:ほかに何かあるか?
車内
モリアーティ:サー・自慢屋は円卓の騎士の中で、一番勇敢で、一番賢かった。
でも、ほかの騎士達は、すぐに彼の勇敢で、たくさんの悪い竜をやっつけた話には、
飽きてしまったんだ。そしてみんな、不思議に思い始めた。あの、サー・自慢屋の話って、本当なのかな?
ドノヴァン:この証拠だけしか見つからなかったのに。
モリアーティ:ああ、なんてこと。
スコットランドヤード
ドノヴァン:妹は、シャーロックの顔を見た途端に叫び始めたんですよ。前に顔を見ていたんです。
レストレード:何が言いたいんだ。
ドノヴァン:分かっているでしょう、信じたくないだけじゃありませんか?
車内
モリアーティ:そこで、騎士の一人が、アーサー王に言いました。
「サー・自慢屋のお話は信じられません。あいつは格好つけてやろうと、
ほら話ばっかり作りあげているんです。
スコットランドヤード
レストレード:本気で、事件にシャーロックが関わっていると言うんじゃないだろうな。
アンダーソン:可能性は考慮するべきだと申し上げています。
車内
モリアーティ:とうとう、アーサーも疑い始めました。でも、サー・自慢屋の苦難は、これで終わりませんでした。
これが最後の問題ではなかったのです。おしまい!
シャーロック:止めろ。止めろ!これは一体何なんだ!(車を降りる)
モリアーティ:お代はいらないよ。
(シャーロック、モリアーティを追って、車に引かれそうになる。寸前で男に助けられる)
シャーロック:ありがとう。
(男が狙撃される。ジョンが到着する)
ジョン :シャーロック!
ジョン :あいつだ。スラマーニだか何だか、マイクロフトがファイルを見せてくれた。
でかいアルバニア人の殺し屋が、ぼくらの2軒向こうに住んでるって。
シャーロック:ぼくの手を握ったから殺された。
ジョン :どういう意味だ?
シャーロック:ぼくの命を救った。でも、ぼくに触ることは許されなかった。なぜだ?
ベーカー街221B
シャーロック:4人の殺し屋がこの近くに住んでる。なのに、ここへぼくを殺しには来ない。
ぼくを生かしておく必要があるんだ。ぼくは、連中が求めている何かを持っているんだ。
しかし、そのうちの一人が、ぼくに近づいたために…
ジョン :ほかのやつが、そいつを殺したわけだ。
シャーロック:(周囲の無線LANの状況を確認する)すべてがぼくにフォーカスされている。
いくつも監視の目が光っているんだ。
ジョン :きみが持っている、重要な物って?
シャーロック:部屋の掃除について確認しないと。
シャーロック:細部を正確に。先週、何を掃除した?
ハドソン夫人:そうね、火曜日にあなたの部屋の床を・・・
シャーロック:違う、ここだ。この部屋だ。ここにあるはずだ。チリをたどれば、あるはずだ。
ごみ以外は、すべて同じ場所に戻される。チリは実に雄弁だ。
ハドソン夫人:何の話?
ジョン :さぁ。
シャーロック:カメラ。ぼくらは監視されている。
ハドソン夫人:何ですって?カメラ?ここに?(呼び鈴がなる)私、寝間着姿なんだけど…
(シャーロック、本棚の奥にカメラを発見する。レストレードが入ってくる)
シャーロック:お断りだよ、警部。
レストレード:なんだって?
シャーロック:答えは、ノーだ。
レストレード:まだ何も訊いてないぞ。
シャーロック:署までご同行願いたいんだろう?疑問点を解決するために。
レストレード:シャーロック…
シャーロック:叫んだから?
レストレード:そうだ。
シャーロック:誰が言い出したんだ?ドノヴァンか?ドノヴァンだろうな。ぼくが誘拐に何か関わっていると?
モリアーティはなかなかやるな。奴がドノヴァンの頭にそういう疑いを植え付けたんだ。
ごちゃごちゃ言われて、無視できなくなったわけだ。無視しろよ。すこしはここを使え。
レストレード:一緒に来るか?
シャーロック:写真が一枚。それが奴の次の一手だ。モリアーティのゲームだよ。
最初は、叫び声、次はぼくへの疑いを起こさせる写真。やつは、ぼくを一歩一歩破滅させるつもりだ。
これはゲームだよ、レストレード。ぼく以外は参加できない。ドノヴァン巡査部長にはよろしく伝えてくれ。
(レストレード、退出)
シャーロック:レストレードは決断するよ。
ジョン :決断?
シャーロック:お墨付きを得た上で、ぼくを逮捕しに来る。
ジョン :そう思うか?
シャーロック:通常の手続きだ。
ジョン :彼と一緒に行った方がいいのか。人はどう思うかな…
シャーロック:人がどう思おうと気にしない。
ジョン :きみが馬鹿だとか、間違っているとか思ったら気にするだろ。
シャーロック:いや、そう言う方が馬鹿で、間違っているんだ。
ジョン :シャーロック、ぼくは信じたくないからな、きみがそんな…
シャーロック:ぼくがどうだって?
ジョン :ペテン師だなんて。
シャーロック:きみも、そうなんじゃないかと心配しているんだな。
ジョン :なんだと?
シャーロック:新聞でぼくについて書かれていることが本当なんじゃないかって、心配なんだろ。
ジョン :そんなことない。
シャーロック:だからいらついてるんだ。そういう可能性を検討することすら嫌なんだ。
噂が本当だっとしたら、その噂を信じるかも知れないって、心配なんだろ。
ジョン :それはない。
シャーロック:モリアーティは、きみの心すらも、もてあそんでいるんだ。そんなことも分からないのか?
ジョン :ぼくには、きみが本物だって分かってる。
シャーロック:100パーセント?
ジョン :四六時中、そんなムカつく嫌なやつなんて、演じていられるもんか。
スコットランドヤード
長官 :シャーロック・ホームズ?
レストレード:そうです、長官。
長官 :新聞に載っている男だな?たしか、私立探偵だとか。
レストレード:そうです。
長官 :われわれは彼の助言を受けてきた。そう言うのだな?彼のような人物に託すのがふさわしくない事件でもか?
レストレード:それは、1件か2件は…
アンダーソン:20か30でしょ。
長官 :なんだと?
レストレード:いえ、しかし私としては…
長官 :黙れ。アマチュアの探偵が、機密情報を自由に得ていたというのか?
しかも、今や彼は事件の容疑者だと言うのか?
レストレード:しかし、間違いなく…
長官 :お前は救いようない馬鹿だな、レストレード。今すぐ行って、奴をしょっぴいて来い。さぁ!
レストレード:良い気分だろうな。
アンダーソン:この事件だけじゃないでしょう?どの事件の時だって、あいつはやっていたんですよ。
(レストレード、電話をする)
ベーカー街221B
ジョン :(電話を切る)軍にはまだ、何人かぼくの友達がいるよ。レストレードだった。
すぐ、ここに来るって。きみが馬鹿扱いしてきた警官達が、手錠もってゾロゾロと。大勢いるだろうな。
ハドソン夫人:コンコン。ごめんなさい、お邪魔だった?荷物が来てたのよ。忘れてたわ。
生ものですって。私がサインしておいたわ。変な名前の人だったわよ。
ドイツ人みたいな。おとぎ話みたいな。
(封筒から、人形が出てくる)
シャーロック:徹底的だな。
ジョン :これ、どういう事だ?
(ドアベルが鳴る)
ハドソン夫人:私が出るわ。
ドノヴァン:シャーロック!
ハドソン夫人:そんな乱暴に入ってこないでちょうだい!
ジョン :お墨付きをもらってきたわけか?
レストレード:引っ込んでろ、ジョン。シャーロック・ホームズ。誘拐の容疑で逮捕する。
ジョン :ちょっと待てよ。
シャーロック:いいんだ、ジョン。
ジョン :反論もしてないんだぞ、待てよ、全然良くない。こんなの馬鹿げてる。
レストレード:下へ連れて行くんだ。
ジョン :あんただって、信じちゃいないんだろ…
レストレード:邪魔するな、さもないとお前も逮捕するぞ。(退出)
ジョン :(ドノヴァンに)きみだな?
ドノヴァン:ええ、最初に会った時、言ったでしょ。
ジョン :よせ。
ドノヴァン:彼は、事件を解決するだけじゃ満足できなくなる。いつか、超えちゃいけない一線を越える。
じゃぁ、考えてみてよ。子供を誘拐しておいて、発見することで私たちに印象づけるような男よ。
長官 :(入ってくる)ドノヴァン?あれがその男か?
ドノヴァン:長官、…ええ、そうです。
長官 :言わせてもらうと、まぁかなりの変人だな。いかにもってタイプだ。(ジョンに)なにを見ているんだ?
ベーカー街221Bの外
(長官が鼻血を出しながら出てくる)
警官 :長官、大丈夫ですか?
シャーロック:ご一緒しますか?
ジョン :うん。
(ジョン、シャーロックと手錠で繋がれる)
ジョン :やっぱり、長官をぶん殴るのは法律違反だったらしい。
シャーロック:困ったな。
ジョン :保釈手続きをしてくれる人が居ないもんな。
シャーロック:今すぐ、ここから逃げ出せないか考えてたんだけど。(無線が目に入る)
ジョン :なんだって?
(シャーロック、無線をハウリングさせ、混乱に乗じて警官の銃を奪う)
シャーロック:みなさん、その場に膝をついて下さいますか?(空に発砲)さぁ、早く!
レストレード:言うとおりにしろ!
ジョン :あの、あの、おわかりだと思いますけど、銃を奪ったのはこいつで、ぼくはただ、ぼくはただの…
シャーロック:人質!
ジョン :人質!そう、そりゃいい。それでもいいけど、どうするんだ?
シャーロック:モリアーティのお望みどおりにしてやろうじゃないか。
(背後の壁にIOUの落書きがある)
シャーロック:逃亡者になりさがるのさ。走るぞ。
長官 :追え、レストレード!
シャーロック:手を握って!
ジョン :これ見られたら、本当に噂され放題だ!銃を落としたぞ!
シャーロック:放っとけ!
ジョン :シャーロック、待てよ!おい、ぼくら、ちゃんと話し合う必要があるようだな。
シャーロック:右に。
ジョン :はぁ?
シャーロック:手だよ、右だ。
シャーロック:誰でも噂を信じたいものさ。その方が賢そうだからな。求められるのは、真実よりも作り話だ。
ぼくの素晴らしい推理の数々はいかさま。
それだけじゃない、シャーロック・ホームズなんて、ただの人。
ジョン :なぁ、マイクロフトなら、助けてくれるんじゃないか?
シャーロック:ぼくが仲良くしたがってると、あいつが思ってるか?今はその時じゃない。
ジョン :ちょっと、シャーロック、シャーロック!つけられてる。警察からは逃げられないよ。
シャーロック:あれは警察じゃない。ベーカー街のご近所さんだ。何か答えを見せてくれるか、試そう。
ジョン :どうするつもりだ?
シャーロック:バスの前に飛び出す。
ジョン :ええ!?
(バスの前に飛び出したシャーロックとジョンを、男が突き飛ばす。シャーロック、男から銃を奪う)
シャーロック:ぼくの何が望みだ、言え。言え!
男 :彼があんたの部屋に置いていったんだ。
シャーロック:誰が?
男 :モリアーティ。
シャーロック:何を?
男 :コンピューターのキーコードだ。
シャーロック:そうだろうな。それがあいつの商売だ。ロンドン塔を破るにも使ったプログラムだ。計画してたんだな。
(男が狙撃され、シャーロックとジョン、再び逃げ出す)
シャーロック:ゲーム、チェンジだ。そのキーは、どんなシステムにでも侵入できるんだ。
それはまだ、ぼくらの部屋にある。だからあのメッセージを残したんだ。
「シャーロックを捕らえろ」って。部屋に戻って探さないと。
ジョン :警察が陣取ってるだろうに。どうしてきみの所に残すんだ?
シャーロック:これも、ぼくの名声を傷つける手なんだ。今やぼくは、すべての犯罪の当事者ってわけだ。
ジョン :(キティの暴露記事の載ったタブロイド紙を見つける)ああ、これ、見たか?
でたらめばっか。リッチ・ブルックとかいう男の話だ。だれだ、こいつ?
キティの家
シャーロック:明日の新聞締め切りには間に合わないだろう?
シャーロック:シャーロック・ホームズの真実を暴いたとか、おめでとう。
誰もが欲していたスクープを物にしたわけだ。ブラーヴォ。
キティ :チャンスはあげたでしょ。私はあなたの味方になりたかったのに。覚えてる?でも、あなたが拒否した。
シャーロック:かくして、驚いたことに、何者かかが秘密を漏らした。ずいぶんと都合の良いことだ。
ブルックとは何者だ?キティ、言えよ。電話での情報なんか信じちゃいないんだろう。
カフェで何度もこそこそと話し合ったんだろう。
ホテルの部屋で、きみのヴォイスレコーダーを握らせて、話したはずだ。
そうでもしなきゃ、信用できないだろう。聖杯をポケットに入れた男がひょっこり現れたわけだ。
この男の言うことを証明するものは?
(男が入ってくる)
モリアーティ:ダーリン、今日はコーヒーが売り切れだったよ。しょうがないか…
(シャーロックとジョンを目にする)この人たちは、ここに来ないって言ったじゃないか。ここなら安全だって。
キティ :安全よ、リチャード。私が証人になるわ。大丈夫、証人の前では何もしないわ。
ジョン :こいつが、情報源だったのか?モリアーティが、リチャード・ブルック?
キティ :ええ、リチャード・ブルックよ。モリアーティなんかじゃない。生まれてからずっとね。
ジョン :なんだって?
キティ :よく見てよリッチ・ブルック。モリアーティを演じるように、シャーロック・ホームズに雇われた俳優よ。
モリアーティ:ドクター・ワトスン、あなたは、その、あなたはいい人だって…その、勘弁して下さい。
ジョン :いや、お前はモリアーティだ、こいつはモリアーティだ。
会っただろう、覚えているはずだ。ぼくを爆弾で吹っ飛ばそうとした。
モリアーティ:ごめんなさい、本当にごめんなさい。この人が金を払ってくれたから、
やらないわけには行かなかったんだ。ぼくは、ただの俳優なんだ、だから仕事として…
ジョン :シャーロック、説明してやれよ。ぼくはごめんだ。
キティ :私が説明してあげる。ほら、これがその記事よ。決定的な証拠でしょ。
(記事:シャーロックはニセモノ)あなたが、あなたの宿敵として
ジェイムズ・モリアーティを作りあげたんでしょ。
ジョン :作りあげた?
キティ :そう。全ての犯罪も一緒にね。挙げ句の果てに、犯罪者のボスまで作りあげた。
ジョン :馬鹿言うな。
キティ :彼に訊きなさいよ、ここに居るんだから。訊けば良いでしょ。
言ってやりなさいよ、リチャード。
ジョン :よせ、やめろ。こいつはたしかに法廷に引き出されただろ。
キティ :そうよ、あなたがお金を払って、そうさせたんだわ。お金を払って犯罪を行わせたの。
陪審員には手を回しておくと約束した上でね。ウェスト・エンドの主役級ほどじゃないだろうけど、
かなり払ったんでしょうよ。でも、彼は自分の体験を売ろうとは思わなかったの。
モリアーティ:ごめんなさい、本当に申し訳ない。
ジョン :つまり、これが、お前が広めようとしている話ってわけだ。
これでお話は最終場面、モリアーティは役者だって?
モリアーティ:ホームズさんなら分かってる。証拠もある。ほら、見せて。二人に見せてやってよ。
ジョン :ああ、見ようじゃないか。
モリアーティ:ぼくはテレビに出てるんだ。子供番組の、お話コーナーだ。DVDにもなってる。
(シャーロックに)ねぇ、友達に説明してよ。もう、これでおしまいだよ。終わったんだ。
言うんだ、…いや、来るな、触るな!指一本触れるな!
シャーロック:やめろ、今すぐやめるんだ!
モリアーティ:やめろ!(逃げ出す)
シャーロック:逃がすな!
キティ :放っておいてよ!
シャーロック:(モリアーティが逃げた窓から外を見て)いや、だめだ。
奴には部下が居て、サポートがある。
キティ :分かったでしょ、シャーロック・ホームズ。いまなら、あなたを見れば、
あなたのことを一言で表現してあげる。あなた、ほんとに、むかつく。
(ジョンとシャーロック、路上へ出る)
ジョン :こんなこと、可能か?人格を完全にチェンジするなんて。きみを犯罪者にしようだなんて。
シャーロック:あいつは、ぼくの一生分の作り話をでっち上げるつもりだ。それが目的か。
大嘘の大売り出しだ。真実はしまい込んで、たっぷり楽しむつもりなんだろう。
ジョン :きみこそ楽しんでただろ。
シャーロック:あいつはこの24時間で、あらゆる人に、疑いの心を植え付けたんだ。
このゲームを完璧に終わらせるのに必要なことは、ただ一つ…
ジョン :シャーロック?
シャーロック:ぼくがしなきゃならないことがあるな。
ジョン :手伝うよ。
シャーロック:いや、ぼく一人でやる。
聖バーソロミュー病院のラボ
シャーロック:きみは間違っているよ。ちゃんと数に入っている。いつでもちゃんと入っていたし、
ぼくはきみをずっと信頼してきた。ぼくは今、困ってる。
モリー :どうしたの?
シャーロック:モリー、ぼくは死ぬと思うんだ。
モリー :何が必要?
シャーロック:ぼくが、実はきみが思っているような男でないとしても、それでも手を貸してくれるかい?
モリー :何が必要なの?
シャーロック:きみさ。
ディオゲネスクラブ
ジョン :ミス・ライリーの宿題はよく出来てますね。
シャーロックにごくごく近い人間にしか分からないことも書いてある。
マイクロフト:ああ…
ジョン :最近、弟のアドレス帳を見ましたか?名前は二つしかない。あなたのと、ぼくのだ。
でも、モリアーティはこんな話、ぼくから聞き出したんじゃない。
マイクロフト:ジョン…
ジョン :それで、これはどうなっているんです?お二人の関係は?時々ジムと二人でコーヒーでも飲みましたか。
このイカれた野郎に、自分の弟について、ぺらぺら喋ったわけだ。
マイクロフト:そういうつもりではなかった。夢にも…
ジョン :それが、ぼくに言いたかったことなんでしょ?
自分はミスをしたから、シャーロックのことを気をつけてやってくれと。奴とはどうやって出会ったんです?
マイクロフト:ああいう手の人間には…我々も関知し次第、監視をつけていた。
しかし、ジェイムズ・モリアーティはこの世でもっとも危険な犯罪心理の持ち主だ。
そして、彼のポケットには危険きわまりない武器が隠されている。キーコードだ。
ほんのすこし、コンピューター回線があれば、どんなドアも解錠できる。
ジョン :そして、身柄を拘束した?そのキーを見つけ出すために。
マイクロフト:何週間にわたって尋問したよ。
ジョン :それで?
マイクロフト:なにも言わなかった。ただ座って、虚空を見つめているだけだった。
彼が違った様子を見せたのは…。私は少しだけ彼と話す機会があった。しかし…
ジョン :逆に、シャーロックの今までについて、全部話すはめになった。
そして、シャーロックは詐欺師だという大嘘が作られた。だれもが飛びつくでしょ。
ほかのところは本当の話なのだから。モリアーティはシャーロックを破滅させたがっている。
そうですね。そしてあなたは、そのための完璧な武器を与えてしまった。(立ち去ろうとする)
マイクロフト:ジョン。悪かった。
ジョン :よして下さい。
マイクロフト:シャーロックに話しておいてくれ。
聖バーソロミュー病院のラボ
ジョン :メール見たよ。
シャーロック:コンピューター・キーコードだ。
それさえあれば、これを使ってモリアーティのゲームを破壊してやることができる。
ジョン :使うって?
シャーロック:奴はニセモノの人格を作るために使っている。だからこっちも、
そのキーコードを使って、リチャード・ブルックの記録を破壊してやれば良いんだ。
ジョン :そして、もとのジム・モリアーティに戻すわけだ。
シャーロック:あの評決の日。221Bどこかに何かを隠したんだ。
ジョン :うん。奴は何かに触った?
シャーロック:リンゴだけ。
ジョン :何か書いたとか。
シャーロック:いや。
(シャーロック、ジョンがデスクをタップするのに気付き、メールを送る)
メール :バーツの屋上に来て、一緒に遊ぼうよ。SH 追伸。取り戻したい物も一緒にね。
(ジョンの携帯が鳴る)
ジョン :はい、ぼくです。え?何ですって?彼女は大丈夫なんですか?そんな…。
分かりました。すぐに行きます。(切る)
シャーロック:どうした?
ジョン :救急からだ。ハドソンさんが撃たれたって。
シャーロック:ええ?どうして?
ジョン :きっと、きみを狙っていた殺し屋の仕業だ。くそっ。どうしよう、
かなり危ないって。シャーロック、行こう。
シャーロック:きみ、行ってくれ。ぼくは忙しい。
ジョン :忙しい?
シャーロック:考えてるんだ。考えなきゃ。
ジョン :行かなきゃ…ハドソンさんがどうなってもいいのか?ハドソンさんに手出しした男を、
半殺しにしたこともあるくせに。
シャーロック:大家さんだからな。
ジョン :瀕死の状態なんだぞ。きみは、それでも人間かよ。やってらんない。
いたけりゃ一人でここに居ろ。好きにしろよ。
シャーロック:一人は好都合だ。身を守れる。
ジョン :違うな、守ってくれるのは友達だぞ。
(シャーロックの携帯にメールがとどく)
メール :待ってるんだけど…JM
聖バーソロミュー病院の屋上
(モリアーティの携帯から、"Stayin Alive" が鳴っている)
モリアーティ:やぁ、やっと来たね。二人きりだよ、シャーロック。ぼくらの問題。最後の問題。
syayin alive...つまらん!なぁ?(音楽を止める)…なんというか…そのまま(staying)…
ぼくの人生といったら、気晴らしを探してばかり。きみは最高の気晴らしだよ。
でも、手に入れたわけじゃない。叩きのめしてやったわけだから。分かっているだろう?
もうお終いさ。簡単だったね。とても簡単。
かくして、またぼくは平凡でつまらん連中とのゲームに戻らなきゃならない。
きみもそういう連中の仲間入りだ。そうだ。ぼくが現実の存在かって、思い始めてたんだろう。
うまく行ったかな?
シャーロック:リチャード・ブルックか。
モリアーティ:どいつもこいつも、ジョークがわからん。でもきみは分かってるだろ。
シャーロック:もちろん。
モリアーティ:さすがぁ。
シャーロック:リッチ・ブルックのドイツ語はライヘンバッハだ。ぼくの名前をつけたわけだ。
モリアーティ:やるなら楽しまないとね。(シャーロックの指の動きを見る)なるほど、分かったんだね。
シャーロック:デジタル信号のように叩いていた。叩けば1、叩かなければゼロ。二進法だ。
だからどの殺し屋もぼくの命を救おうとした。ぼくの頭の中に、記憶されていたからだ。
ほんのちょっとしたコンピューター・コードが、どんなシステムも破壊することができる。
モリアーティ:色々な依頼人がいたけど、最後にシャーロックってのは残念だったな。
シャーロック:そうだな。でも、いまでは頭に入っている。これを使って、全ての記録を書き換えることが出来る
。リッチ・ブルックを抹殺して、ジム・モリアーティを引きずり出してやる。
モリアーティ:だめ、だめ…それじゃぁ簡単すぎる。それはキーじゃないんだよ、馬鹿!
あのデジタル信号には何の意味もない。ぜーんぜん無いんだ。
まさかほんの数行のコードで世界をお手軽に破壊、本当に思っていたのか?
がっかりだ。きみにはがっかりしたよ。平凡なシャーロックだなんて…
シャーロック:でも、リズムは…
モリアーティ:パルティータ第1番!ありがとう、ヨハン・セバスチャン・バッハ!
シャーロック:それならどうやって…
モリアーティ:そう、どうやって銀行破りをしたか、ロンドン塔に、刑務所。白昼堂々!
関係者をすべて巻き込めば良いのさ。
(ロンドン塔の警備室で、守衛が「ショーの始まりだ!」というメールを受け取る)
モリアーティ:ひっかかると思ったよ。そこがきみの弱点だからな。
何もかも巧妙に仕掛けられていて欲しいんだ。さぁ、もうゲームは終わりかな?
最後の一幕だ。高いビルの上とは、ありがたい選択だよ。最後の仕上げにはうってつけだ。
シャーロック:仕上げ?仕上げって何だ?なるほど。ぼくの自殺ってことか。
モリアーティ:天才探偵が、実は詐欺師だってことを証明するのさ。新聞、読んだよ。
ああでなくちゃね。新聞って大好き。おとぎ話だ。特に怖い話がいい。
ベーカー街221B
(ジョンが玄関に駆け込む)
ハドソン夫人:あら、ジョン。脅かさないで。警察の方は大丈夫なの?シャーロックはどうしてる?
ジョン :ああ、何てこと…(飛び出す)タクシー!タクシー、まった、警察だ!ありがとう!
聖バーソロミュー病院の屋上
シャーロック:ぼくはまだ、お前が偽を人格を作りあげたことを証明できる。
モリアーティ:あんたが死ねばいいんだよ。手間が省ける。さぁ。ぼくのために…お願い!
シャーロック:(モリアーティに掴みかかる)おまえ、どうかしてる。
モリアーティ:やる気か?わぁお!オーケイ。じゃぁ、もっといいきっかけをあげよう。
あんたが死ななきゃ、あんたの友達が死ぬことになる。
シャーロック:ジョン?
モリアーティ:ジョンだけじゃない。ほかもだ。
シャーロック:ハドソンさん?
モリアーティ:全員だ。
シャーロック:レストレード?
モリアーティ:弾丸は三つ、ガンマンは三人。三人の被害者。もう止められないぞ。
ぼくの部下が、あんたが飛ぶのを見ない限りはな。ぼくを逮捕することも出来れば、拷問もできるよ。
ぼくに何をするのも自由だ。しかしそんな事をしても、殺し屋の手を止めることは出来ない。
あんたにとって、たった3人しか居ない友達は死ぬことになるんだ。もし…
シャーロック:もしぼくが自殺して、お前の物語が完結しなければ…
モリアーティ:わかるだろう、これってセクシーじゃないか。
シャーロック:ぼくは不名誉にまみれて死ぬ。
モリアーティ:そりゃそうだ。そこが大事なんだから。ほら、観客は揃ってる。さぁ、ぴょんと行きなよ。さぁ。
こうなるって言ったろ。きみが死ぬ。それだけが、暗殺者たちの手を引かせる手立てだ。
ぼくはやるつもりはないからね。
シャーロック:ちょっとだけ、時間をくれるか?ちょっとだけ一人にしてくれ。頼む。
モリアーティ:もちろん。
(シャーロックが笑い出す)
モリアーティ:何だ?何なんだ?ぼくが何かミスしたか?
シャーロック:きみがやるつもりはない?ぼくが死ねば殺し屋達は手を引く。
つまり、彼らを止めるための言葉なり、番号なり、暗号があるわけだ。
ぼくが死ぬ必要はない。もしきみを捕まえれば…
モリアーティ:ああ…。ぼくが殺しを止められると思っているのか?ぼくにそれをやらせると?
シャーロック:そうさ。やるだろ。
モリアーティ:シャーロック、きみのお兄さんや王様の馬を全て集めても、そうは行かないよ。お断りだ。
シャーロック:そうだな。しかし、ぼくは兄じゃない。そうだろう。ぼくはきみだよ。何をするにも抜かりない。
焼き尽くすにも、平凡な人がやらないような、何をするにも、抜かりない。
地獄で握手でもするか?きみをがっかりさせたくないな。
モリアーティ:どうかな。大口叩いて。きみは平凡だよ。きみは天使の側にいる、平凡な人間だ。
シャーロック:確かに、天使の側にいるだろうな。しかし、ぼくはその中で唯一特別だ。
モリアーティ:そうか。分かるよ。きみは平凡なんかじゃない。
きみは、ぼくだ。ぼくだ。ありがとう、シャーロック・ホームズ。(シャーロックと握手する)
ありがとう。幸運を。ぼくが生きている限りは、友達は安全だ。行けよ。ごきげんよう。
(モリアーティ、自らを撃って倒れる。ジョンが病院の前に到着すると、シャーロックが電話をかける)
ジョン :もしもし?
シャーロック:ジョン?
ジョン :シャーロック、大丈夫か?
シャーロック:戻って。もときたところに戻るんだ。
ジョン :今、そっちに行くよ。
シャーロック:言ったとおりにしろ!頼む。
ジョン :どこに戻るって?
シャーロック:そこで止まって。
ジョン :シャーロック?
シャーロック:オーケイ、振り返って、見上げるんだ。屋上に居る。
ジョン :どうしたんだ。
シャーロック:その、そっちには行けない。こうするしか無いんだ。
ジョン :一体、なにやってるんだ。
シャーロック:謝らないと。あれは本当なんだ。
ジョン :なんだって?
シャーロック:噂になってるあれ、本当なんだ。ぼくがモリアーティを作り出した。
ジョン :どうしてそんなこと言うんだ?
シャーロック:ぼくはニセモノなんだよ。
ジョン :シャーロック。
シャーロック:新聞に書いてあることは、全部本当だ。レストレードに伝えてくれ。ハドソンさんや、モリーにも。
そう、きみに訊いてくる全ての人に、伝えて欲しい。ぼくが、ぼくの目的のために、
モリアーティを作り出したんだと。
ジョン :黙るんだ、シャーロック。黙れ。最初にぼくらが会った時。
初めて会ったとき、きみはぼくの姉さんのことを全部分かっていた。そうだろう?
シャーロック:あんなの、無理だよ。
ジョン :きみには出来た。
シャーロック:…きみのこと、調べてあったんだ。実際に会う前に、きみに印象づけてやろうと、
全てを調べ上げてあったんだ。ペテンだよ。ただのペテンだ。
ジョン :違う。いいから、もうよせ。
シャーロック:だめだ、動くな。戻るんだ。動かないで。
ジョン :わかった、わかった。
シャーロック:よく見てろよ。お願いだ、ぼくのためにしてくれ。
ジョン :何を?
シャーロック:この電話は…つまり…書き置きだよ。みんなやるだろう?書き置きを残してくれるか?
ジョン :残すって、どこに?
シャーロック:さようなら、ジョン。
ジョン :いやだ、よせ。…シャーロック!
(ジョン、飛び降りたシャーロックの元へ走るが、途中で自転車とぶつかる。起き上がって駆け出すが、人だかりに阻まれる)
ジョン :シャーロック…シャーロック…医者だ、通してくれ。お願いだ、通して。
いやだ、ぼくの友達なんだ、友達なんだ、頼む。
(遺体がストレッチャーで病院内に運ばれていく)
ジョン :お願いだ、見せて…そんな、そんな…
ディオゲネスクラブ
(マイクロフトがタブロイド紙を読んでいる)
新聞紙面:ニセモノの天才、自殺
セラピスト,エラのカウンセリングルーム
エラ :もっと話すことがあるのに、話してないわね。
ジョン :ああ。
エラ :今、ここで話して。
ジョン :だめ。ごめん。無理なんだ。
墓地
ハドソン夫人:あの荷物だけど。化学実験道具とか。全部箱にしまってあるのだけど、
どうすればいいのか分からないのよ。学校にでも寄付すれば良いのかしら。あなたはどうする?
ジョン :あの部屋には戻れませんよ。いまは、まだ。ぼくは怒っているんですよ。
ハドソン夫人:いいのよ、ジョン。そういうのは当然だわ。シャーロックの振るまいと来たら、
だれだって怒るわよ。テーブルは傷だらけにするし、騒音は出すし。夜中の1時半に銃を撃ったり…
ジョン :そうですね。
ハドソン夫人:血だらけの標本を冷蔵庫に入れたり。死体と食べ物を一緒にしておくだなんて!
ジョン :ええ。
ハドソン夫人:しかも、大乱闘まで。あの人のせで壁あめちゃくちゃだし…
ジョン :あの、ぼくが怒っているのはそういうことじゃなくて。
ハドソン夫人:そうね。一人にしてあげた方がいいわね。(立ち去る)
ジョン :(墓石に)ええと…そう、きみは…きみはいつか言ったよな。きみはヒーローなんかじゃないって。
その…ぼくはきみが人間じゃないとすら思ったこともあったけど、
でも、これだけは言わせてくれ。きみは最高だった。とても、とても人間らしい、最高の人だった。
きみが嘘つきだったって、誰にどう言われても、ぼくには分かってる。
つまり…そういうこと。…その…寂しいよ。きみには借りができたな。
(立ち去ろうとして、とどまる)
なぁ、たのむ、もう一つだけ。いいだろう、もう一つだけ…もう一回だけでいいから、
ぼくのために奇跡を起こしてくれよ、シャーロック。死ぬなよ。
ぼくのために、たのむから…こんなのってないよ。こんなの…
(エンディング)