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BBC SHERLOCK / アヤシゲ翻訳
  Season 2 Episode 2 「バスカヴィルの猟犬」

おことわり
 英国版DVDの字幕をもとに、アヤシゲ翻訳しています。
 ですから、ネタバレされたく無い方は、けってし読まないで下さい。
 また、訳者は英語の専門家ではありません。よってかなりイイカゲンですが、あしからず。
 さらに、台詞のみを記載し、場面や動きの説明はまったくしていません。つまり、DVDで画面を見ないと全く分からない箇所もたくさんありますので、ご了承下さい。

 ダートムーア

犬を連れた女性:こんにちは。大丈夫?どうしたの?迷子?

 オープニング

 ベーカー街221B

シャーロック:(フラットにかえって来るなり)ぜんぜん面白くなかった!
ジョン    :そのナリで地下鉄に乗ったのか?
シャーロック:どのタクシーも乗せてくれなかった。

シャーロック:なんかないか?
ジョン    :ウガンダでの軍事行動は順調…
シャーロック:ふーん。
ジョン    :ああ、またあの写真、きみとあの帽子…
シャーロック:もう…
ジョン    :それから、内閣改造…
シャーロック:もっと重要なことだよ!ジョン、あれが必要だ、あれ!
ジョン    :だめ。
シャーロック:よこせってば!
ジョン    :だめ。禁断症状だな。約束しただろ。絶対だめ。それに、覚えてるだろ、
        みんなを買収して、半径2マイル以内の人はきみにアレは売らないことになってる。
シャーロック:一体だれがそういうしょうもないことを思いつくんだ?
ジョン    :あー…
シャーロック:ハドソンさんっ!!!
ジョン    :あのさぁ、シャーロック。きみはよく我慢してるよ。ここで諦めてどうする。
シャーロック:どこにあるんだよ。たのむ、教えろ。…お願い。
ジョン    :だめ。お気の毒さま。
シャーロック:来週の宝くじの当選番号、教えてやる。…あ、それってやってみる価値あるかも。
ハドソン夫人:コンコン。
シャーロック:隠しておいたのに!あの大事なストックをどこにやったんだ?
ハドソン夫人:なによ?
シャーロック:タバコだよ!あれをどこにやったんだ!どこにある?
ハドソン夫人:何言ってるのよ、何も触らせないくせに。あら、この散らかしようは片付けるチャンスね。
シャーロック:家政婦じゃないとか言ってなかった?
ハドソン夫人:もちろん、家政婦じゃありません。
シャーロック:もー!!
ハドソン夫人:お茶でも飲んだら?その銛もどうにかなさい。
シャーロック:もっと強い物が必要なんだ!少なくとも、7%以上は!…またチャタジーさんのところに行っただろ。
ハドソン夫人:何ですって?
シャーロック:サンドイッチ屋さんさ。それは新しい服なのに、小麦粉が袖についてる。
        パンを焼く時はそういう服は着ないのに。
ジョン    :シャーロック…
シャーロック:親指には、アルミフォイルがすこしついてる。またスクラッチをしたんだな。
        よく見れば誰にだって分かるだろ?ふーん、カスバ・ナイトね。
        月曜の朝一番にしちゃ、ずいぶんご機嫌だ。
        香水をかぎ分けることについて、ブログに書いたことがあるな。
        ウェッブサイトに載ってるから、見ておいた方がいい。
ハドソン夫人:やめてちょうだい
シャーロック:チャタジーさんとのお楽しみを邪魔する気はないけど、
        あの人にはドンカスターに奥さんがいるんだよ、誰も知らないけど。
ジョン    :シャーロック!
シャーロック:あ、誰もじゃないや、ぼくは知ってる。
ハドソン夫人:一体、何のことやら…(退出)
ジョン    :一体どういうつもりだ?
シャーロック:ぼくにだって分からない。
ジョン    :後で、ちゃんと謝れ。
シャーロック:謝る?
ジョン    :そ。
シャーロック:あー、ジョン。きみが羨ましいよ。
ジョン    :ぼくが?
シャーロック:そういう性格がさ。穏やかで、まっすぐで、何の役にも立たない。ぼくの方と言えば、まるでエンジンだ。
        コントロール不能で突っ走っている。ロケット台の上でバラバラに壊れてしまう。…事件が必要なんだ!
ジョン    :もう解決しちゃっただろ!どうやらブタの死体か、あの銛からすると。
シャーロック:あれは朝の話!次のはないのか?!
ジョン    :サイトには?
シャーロック:(ジョンにPCの画面を見せる)シャーロック・ホームズ様。ブルーベルがいなくなってしまったのです。
        お願いお願い、助けて下さい。
ジョン    :ブルーベルって?
シャーロック:うーさーぎだ、ジョン!
ジョン    :ああ。
シャーロック:それだけじゃないぞ。ブルーベルが居なくなるまえ、輝き始めました。まるで妖精のように!
        …と、カースティちゃんはおっしゃっておられます。輝きはじめた翌日、ブルーベルが居なくなりました!
        発射台は閉まったまま!発進の合図なし。
        …いま、ぼく何て言った?そうだ、凄いぞ。レストレードに電話してくれ。ウサギの失踪事件発生だ。
ジョン    :まじめに言ってるのか?
シャーロック:いやなら、謎解きボードゲーム
ジョン    :あ、お断り。あれはもう二度とやらないからな。
シャーロック:どうして?
ジョン    :被害者がやりましたなんて、あり得ないだろ、シャーロック。だからさ。
シャーロック:あれしか謎解きはあり得ない!
ジョン    :ゲームのルールに則ってない。
シャーロック:じゃぁ、ルールの方が間違っている!
(ドアベルが鳴る)
ジョン    :1回押し。
シャーロック:0.5秒、目一杯押してる。
ジョン&シャーロック:依頼人!

(テレビのドキュメンタリー)
レポーター:ダートムーア。常に神話と伝説が息づく地。ここには本当に、何かが潜んでいるのでしょうか?
        もっと現実的な何かが?その一方で、ここダートムーアは、政府の最高機密作戦の本拠地でもあります。
        ここの化学・生物兵器調査センターは、ポートダウン(英国軍化学兵器研究機関)よりも、
        さらに高度な機密を扱っていると言われています。
        第二次世界大戦終結以来、バスカヴィル実験について、長い間噂されてきました。
        遺伝子の突然変異、戦場用に改良された動物たち…。これらの噂をとりまぜた話を、信じる人は多く居ます。
        この古代からの自然が息づく地には、想像を超えた恐怖が潜んでいるのです
        。実際問題、それらの生物はいまでも研究所の中にいるのでしょうか?
ヘンリー・ナイト(グリンペンの住人):ぼくは、まだ子供でした。あれは、荒れ地でのことです。
        暗かったのですが、見たのです。父を殺したものを、確かに見たのです。

シャーロック:(ビデオを止める)何を見たんです?
ヘンリー  :あの、いま、言っていたでしょう。
シャーロック:ええ。テレビのインタビューでね。ぼくは自分の編集バージョンで聞きたいんだ。
ヘンリー  :ああ、ええ、そうですね。ちょっと失礼。(鼻をかむ)
ジョン    :自由に話していいんですよ。
シャーロック:でも、手短に。
ヘンリー  :ホームズさん、ダートムーアに行ったことは?
シャーロック:ありません。
ヘンリー  :素晴らしいところです。あのような所は、ほかにはありません。荒涼としてますが、とても美しい。
シャーロック:興味ありませんね。続けて。
ヘンリー  :母が亡くなった後、ぼくと遅々は、よく一緒に歩き回りました。毎晩、荒れ地へ出かけたのです。
シャーロック:けっこう、ちょっとすっ飛ばして、お父さんが無残にも殺された晩のことを話して下さい。
        何が起こったのです?
ヘンリー  :地元では、デュワーズの窪地と呼ばれている場所があります。
        デュワーズというのは、古い言葉で悪魔を意味します。
シャーロック:それで?
ジョン    :その夜、悪魔を見たのですか?
ヘンリー  :そうです。あれは巨大で、真っ黒で、目が赤く光っていた。やつが父を。父を引き裂いて殺したんです。
        ほかには何も覚えていません。ぼくは翌朝、荒野をさまよっているところを発見されました。
        父の死体は見つかりませんでした。
ジョン    :赤い目に、黒い毛で、巨大。犬とか、狼とか?
シャーロック:遺伝子実験の産物とか?
ヘンリー  :笑ってますね、ホームズさん。
シャーロック:え?何か冗談でも言いましたか?
ヘンリー  :父はいつも、バスカヴィルで何が行われているかということを口にしていました。
        怪物のような行きものが、あそこで育てられているのだと。みんな父を笑いものにしました。
        あのテレビ番組が初めて、ぼくの話を真面目に取り上げたんです。
シャーロック:あれはデヴォンの観光用じゃないですかね。
ジョン    :ああ…。ヘンリー、きみのお父さんが殺されたにしろ、20年前のことだ。
        どうして今になて、ここに?
ヘンリー   :ホームズさんが笑い話ととらえる以上、助けてもらえるかどうか分かりません。
シャーロック:夕べ、何か起こったんですね。
ジョン    :なんで?夕べ何が起こったんだ?
ヘンリー  :え、どうして知っているんですか?
シャーロック:別に知っていたわけじゃない。気付いただけです。今朝一番の電車で、デヴォンから来ている。
        朝食とコーヒーにはがっかりしたことだろう。通路の向こう側に座っていた女の子はきみが気に入ったようだ。
        きみも最初は乗り気だったが、気が変わった。
        ところで、きみはその日最初のタバコが吸いたくてたまらないようだ。座って、ナイトさん。一服して。
        ぼくは大歓迎です。
ヘンリー  :一体、どうやって分かったんです?
ジョン    :別に大した事じゃ…
シャーロック:服に、切符をチェックしたときの紙片がついてる。
ジョン    :シャーロック、今はよせ。
シャーロック:いいじゃないか。ずっと抑圧されてたんだぞ。
ジョン    :ひけらかしたいだけだろ。
シャーロック:もちろん、ひけらかしたいね。ぼくの仕事だ。こぼれたコーヒーを、電車備え付けのナプキンで拭いている。
        その染みからすると、ミルクは入れていない。口元と袖には、ケチャップのがついている。
        できあいの朝食だ。売店かなにかかもな。サンドイッチだろう。
ヘンリー  :どうしてがっかりしたと?
シャーロック:がっかりしないで済む朝食を電車で食べられるか?
        女の子のことだが、女性の筆跡には特徴がある。ナプキンに電話番号を書いたんだ。
        角度からすると、通路をはさんで、あなたの向かいに座っていたはずだ。
        彼女が降りた後だと思うが、あなたはその番号が書いてあるナプキンでコーヒーを拭いている。
        偶然にも、番号を汚してしまった。だから最後の4桁はあなた自身のペンで書き直したんだ。
        つまり、この番号を取っておこうと思った。ところが今、あなたはそのナプキンで鼻を拭いた。
        つまり、もう彼女の事は考えていないということ。それに、あなたの指にはニコチンの染みがある。
        その指が震えているのを見れば、明白だ。
        電車で来たので、一服するチャンスがなく、さらに、タクシーに乗る前、紙巻きを作る時間もなかった。
        9時15分過ぎ、もう限界だ。エクセターからロンドン行きは5時46分発。
        出来るだけ早い電車に乗りたい、それほど事は重要で、つまり夕べ起こったばかりだ。違いますか?
ヘンリー  :いえ、合っています。ええ、完璧に合っています。すごい、こんな短い時間で。
シャーロック:仕事だから。さぁ、お喋りはやめ。タバコ!
ジョン    :ヘンリー、きみの両親は亡くなって…7歳の時?…それって、トラウマになっただろうね。
        その…こう考えたことはないかな?…その時の…トラウマのせいで、
        きみが見たというような想像の話が出来上がったとか…
ヘンリー  :ドクター・モーティマーもそう言っています。
ジョン    :誰ですって?
シャーロック:セラピストさ。
ヘンリー  :ぼくのセラピスト…
シャーロック:当然。
ヘンリー  :ルイーズ・モーティマー。彼女のアドバイスで、ダートムーアに戻ったんです。
        ぼくの頭の中に居る悪魔と向き合うべきだと言って。
シャーロック:ヘンリー、それで夕べ、デュワーズの窪地に行き、何があったんだ?
       セラピストのアドバイスに従って行ったんだろう?そして今は、こうして諮問探偵のところに居る。
       一体何を見たんだ?
ヘンリー  :窪地はとても妙な所なんです。見も凍るほど恐ろしい気持ちになる。
シャーロック:あー、詩を聞かされるくらいなら、ジョンが彼女に送るメールを読んだ方が面白いな。何を見た?
ヘンリー  :足跡です。父が引き裂かれたのを見た、まさにその場所に。
ジョン    :男の?女の?
ヘンリー  :どちらでもありません。あれは…
シャーロック:それだけ?他にはなにも?足跡、それだけ?
ヘンリー  :ええ。でも…
シャーロック:いや、もう結構。ドクター・モーティマーの言うとおりだ。
        子供時代のトラウマが、想像上の記憶を作りあげている。つまらーん!
        ごきげんよう、ナイトさん。煙をどうもありがとう。
ヘンリー  :でも、足跡が…
シャーロック:そこらの動物の足跡でしょう。それ以上の何ものでもない。悪魔とはさようならです。お茶でも飲むか。
ヘンリー  :ホームズさん。その足跡は、巨大な猟犬の足跡だったんですよ。
シャーロック:もう一回言って。
ヘンリー  :足跡をみつけたんです。あれは…
シャーロック:いや、そうじゃなくて、今いった言葉を、そのままもう一度いって見て下さい。
ヘンリー  :ホームズさん、その足跡は、巨大な猟犬の足跡だったんですよ。
シャーロック:調べましょう。
ジョン    :え、なんだって?
シャーロック:興味深い話をありがとう。期待できそうだ。
ジョン    :そうじゃなくて、ついさっきまで、足跡なんてつまらんと言っていたのに、
        どうして急に期待できそうになったんだ?
シャーロック:足跡はどうでもいい。ジョン、きみは肝心なところを聞き損ねてる。バスカヴィルのことは知ってるか?
ジョン    :何となく。最高機密扱いなんだ。
シャーロック:手始めにはいい感じだな。
ヘンリー  :いらしてくれるんですか?
シャーロック:いや、ぼくは今、忙しくてロンドンを離れられない。心配しないで。最高の人材を派遣しますから。
        ジョンを全面的に信頼して、適宜情報を送ってくれればよろしい。ジョンが内容を理解できていなくてもね。
ジョン    :忙しいって、何言ってるんだよ。今は暇じゃないか。ついさっきまでそれで大騒ぎして…
シャーロック:ブルーベルだよ、ジョン!ブルーベル事件!あの暗闇に輝くウサギちゃん失踪事件だ!
        (ヘンリーに)NATOが大騒ぎしてるんだ。
ヘンリー  :え、あの…あなたは来ないのですか?
ジョン    :あー、OK,分かった。(シャーロックにタバコを投げる)
シャーロック:もう必要無いね。ダートムーアに行くぞ。先に戻っていて、ヘンリー。追いかけるから。
ヘンリー  :じゃぁ、いらっしゃるのですか?
シャーロック:20年前の失踪に、化け物猟犬。こいつを逃してなるものか!

(玄関前。隣りのカフェではハドソン夫人が荒れている)
ジョン    :どうやらハドソンさんもドンカスターにいる奥さんとやらを認めざるを得ないみたいだな。
シャーロック:うん。イスラマバードの方のを知るまで、待ってみるか。(タクシーに乗る)パディントン駅。

 ダートムーアの岩山

ジョン    :あっちが、バスかヴィル。それから、あれがグリンペン村。だからあっちが…デュワーズの窪地になる。
シャーロック:あれは?
ジョン    :うん?…地雷原かな?実際、バスカヴィルは軍事施設だから、人が近づかないようにしているんだろう。
シャーロック:だろうな。

 グリンペン村

フレッチャー(ツアーガイド):いいですか、ツアーは1日に3回出発します。お友達みんなに声を掛けて下さいね!
        一人や、夜間は決して荒れ地には行かないで下さい。命の危険ですよ!ではお気をつけて。
シャーロック:寒いな。

 ヘンリーの家

ヘンリー  :あの記憶には変化がない。
モーティマー:どんな感じ?
ヘンリー  :何かが見えるんだ…言葉だ。リバティ(liberty)…
モーティマー:リバティ?
ヘンリー  :それから、もう一つ。イン…I,N。「リバティ・イン」これって、どういう意味だろう?

 インのパブ

ゲイリー  :ほら。悪いね。お二人さんにダブルベッドの部屋が都合できなくて。
ジョン    :いいんだよ。ぼくらはそういうんじゃ…。じゃぁ、これ。
ゲイリー  :ああ、どうも。おつり、ちょっと待って。
ジョン    :ありがとう。(伝票の一枚を抜き取る)
ゲイリー  :はい、どうぞ。
ジョン    :地図を見ると、荒れ地にドクロマークがあるんだけど。
ゲイリー  :ああ、あれね。
ジョン    :海賊が出るとか?
ゲイリー  :いや、まさか。グリンペン地雷原って言われてるんだ。
ジョン    :へぇ。
ゲイリー  :いや、想像しているみたいのじゃないよ。バスカヴィルのテストエリアなんだ。
        もう80年以上もやっているんじゃないかな。実際何やってるか誰も知らないけどね。
ジョン    :爆発物とか?
ゲイリー  :ただの爆弾じゃない。用でも足そうとあそこに足を踏み入れたら、吹っ飛ばされるって話だよ。
ジョン    :そっか、ありがとう。覚えておくよ。でもまぁ、最近は観光客も増えてね。
        悪魔の猟犬には感謝してるよ。あのドキュメンタリー番組、見たことある?
ジョン    :この間見たばっかりだ。
ゲイリー  :ヘンリー・ナイトと、あいつが見たっていう地獄の悪魔さまさまだな。
ジョン    :その猟犬とか、見たことある?
ゲイリー  :俺が?いや、全然。ああ、あいつ。フレッチャーは見たってさ。
        化け物の通り道を、観光客に案内しているんだが、あいつが見たって言ってる。
ジョン    :それは商売としては好都合だな。
ゲイリー  :ビリー、ちょうど今、こちらに忙しくなってきたって話してた所なんだ。
ビリー   :ああ、モンスター・ハンターがやたらと押し寄せるからね。特に収穫もないみたいだけど。
        ツイッターやらなにやらで、どっと広まるんだ。(ゲイリーに)ウォッカが切れてるよ。
ゲイリー  :分かった。
ビリー   :化け物だか、脱獄犯だか知らないけど、知ったこっちゃないね。夜は寝るもんんだ、なぁゲイリー?
ゲイリー  :赤ちゃんみたいにね。
ビリー   :あれ、うそ。すごいイビキなんだ。
ゲイリー  :おい。
ビリー   :おたく、イビキかく?
ジョン    :おつまみもらえる?

 外のテーブル席

フレッチャー:(電話に)うん、いや。分かった。大丈夫。じゃあな。
シャーロック:ここ、いいか?あれ、嘘だな。本当は猟犬だか何だか、見ていないんだろう。
フレッチャー:新聞記者?
シャーロック:いや、そんなんじゃない。好奇心さ。見たのか?
フレッチャー:多分ね。
シャーロック:証明できるか?
フレッチャー:なんでそんなことしなきゃいけないんだよ。失礼。
ジョン    :ヘンリーに電話したよ。
シャーロック:ジョン、賭けは無しだ。残念。
ジョン    :はぁ?
フレッチャー:賭け?
シャーロック:ぼくの予定では、夜まで待たなきゃな。あと30分で…
フレッチャー:待った、待った。賭けってなんだよ。
シャーロック:ジョンと賭けたんだ。きみが猟犬を見たことを証明出来ない方に、50ポンド。
ジョン    :パブの連中は、証明できるはずだって。
フレッチャー:じゃぁ、あんたの負けだな。
シャーロック:そうか?
フレッチャー:そうさ。俺は見たんだ。ほんの一ヶ月前だ。窪地の方で。凄い霧だったな。見通しが悪くて。
シャーロック:じゃぁ、証人はいないんだな。
フレッチャー:そうだけど…
シャーロック:そうだろ。
フレッチャー:待てよ。見ろ。(写真を見せる)
シャーロック:それが?証明にならない。悪いな、ジョン。ぼくの勝ち。
フレッチャー:待った、待った。これだけじゃない。みんな、あの窪地には行きたがらないんだ、なんだか気持ち悪いから。
シャーロック:はぁ、呪われてるとか?それとこれは、関係ないだろ。
フレッチャー:待てよ、そういうんじゃない。でも、あそこには間違いなく何か居る。バスカヴィルから逃げ出した何かだよ。
シャーロック:クローンとか、スーパードッグとか?
フレッチャー:かもね。ここ最近、連中が何をばらまいているかは分かったもんじゃない。
        変なものを水に入れているのかもな。とにかく、あそこの奴らは信用できない。
シャーロック:それだけか?
フレッチャー:軍隊で働いてた友達がいたんだ。
        ある時、週末に一緒に釣りに行こうぜってことになったのに、奴は最初、来なかった。
        遅くなってから姿を現したんだけど、顔色が真っ青だった。今でも目に浮かぶ。
        やつは、「今日、見ちゃったんだ、フレッチャー。もう二度と見たくない。とんでもない奴だ。」って言ってた。
        そのうち、友達は秘密の場所に送られてしまった。ポートダウンだろうな。バスカヴィルかも。
        とにかくさ。秘密の研究所があるんだ。そこで、とんでもないものを見たんだ。
        ネズミは犬並みの大きさだって言ってた。犬は、馬なみ。(巨大な犬の足形を見せる)
ジョン    :えーと、50ポンドだっけ?(シャーロック、払う)ありがとう。

 バスカヴィル

守衛  :入館証をお願いします。…どうも。
ジョン    :バスカヴィルへの入館証があるなんて、どうしたんだ?
シャーロック:別にどうってことない。兄のだ。どこにでも入れる。何年か前に手に入れたんだが、
        何かの時のために持っているんだ。
ジョン    :そりゃ結構。
シャーロック:悪いか?
ジョン    :拘束されるぞ。
シャーロック:そんなことないさ。今のうちはな。
ジョン    :5分以内に拘束されるよ。「やぁ、ちょっとここらの最高機密扱いの武器開発研究所を見てみたいと思ってさ。
        」「本当に?それは素晴らしい。ちょうどお湯が沸いたところです。」撃たれなきゃそうなるだろ。
守衛   :どうも。
シャーロック:ありがとう。
守衛   :直進してください。
ジョン    :マイクロフトの名前は、まさに「開けゴマ」だな。
シャーロック:言ったろう、マイクロフトはある意味で英国政府そのものだ。
        ここの連中がぼくらのことを疑い始めるまで、せいぜい分ってところかな。
ライオンズ:どうした?何か問題でも?
シャーロック:何か問題がありましたか?…だろ。
ライオンズ:はい、失礼しました。
シャーロック:ぼくらを待っていたのか?
ライオンズ:ええ、IDを照会しましたので。ライオンズ伍長、セキュリティ担当です。何か問題でも起きましたか?
シャーロック:いや、そうでないといいがね、伍長。
ライオンズ:視察という話を聞いておりませんし、特に問題もありません。
ジョン    :抜き打ち検査のことを聞いたことは?ジョン・ワトスン大尉だ。第5ノーザンバランド歩兵連隊。
ライオンズ:ご苦労様です。バリモア少佐はあまりお喜びではないようです。お二人にお会いしたいと。
ジョン    :残念だが、その時間はない。しっかり見せてもらわないと。今すぐに、案内しろ。これは命令だ、伍長。
ライオンズ:承知しました。
(研究所に入る)
シャーロック:やるな。
ジョン    :上官命令下すのなんて、久しぶりだ。
シャーロック:楽しいか?
ジョン    :まぁね。
シャーロック:ここにはどのくらいの動物がいる?
ライオンズ:多数です。
シャーロック:脱走したことは?
ライオンズ:逃げ出すには、エレベーターの操作を覚える必要がありますね。
        そこまで頭が良くなるほど改良できていません。
シャーロック:誰かの手助けでも何限りは無理か。
フランクランド:やぁ、どうしたね。
ライオンズ:フランクランド博士、すみません。このお二人に研究所を案内しています。
フランクランド:ほう、新顔だね。大歓迎だ。あまりここには長居しないことだ。
        私だったら配線修理程度にしか来ないよ。
ジョン    :あのエレベーターは、どの程度の高さを下ってるんだ?
ライオンズ:かなりです。
ジョン    :ふーん。どんな物を下ろしている?
ライオンズ:廃棄箱や、そういうものです。どうぞ、こちらです。
ジョン    :ここでは一体なにをしているんだ?
ライオンズ:ご存じかと思いましたが。査察なのでしょう?
ジョン    :ぼくは専門家ではないからね。
ライオンズ:あらゆる細胞から、カゼを直す方法などです。
ジョン    :武器としての研究なんだろう?
ライオンズ:そういうものもあります。
ジョン    :生物学的、化学的…
ライオンズ:戦争が一つ終われば、また他の物が研究されます。敵も研究しますから。それに備えませんと。
(シャーロックがIDカードを読み込ませると、セキュリティシステムがIDに警告を発し始める)
ステープルトン:いいわ、マイケル。次は、ハロ3でやってみましょう。
ライオンズ:ステープルトン博士。
ステープルトン:なに?どなた?
ライオンズ:最高機関です。上からの命令で。査察だそうです。
ステープルトン:本当?
シャーロック:特別手配を受けることになっています、ステープルトン博士。バスカヴィルでの、あなたの仕事は?
ジョン    :答えなければならないことになっていますが?
ステープルトン:私にはお話する権限がありません。機密ですので。
シャーロック:いや、完全に自由だと思っていい。懸念はごもっともだが。
ステープルトン:私の仕事は多岐にわたっています。それらを総合するとでも言いますか。
        まとめて言えば、殆どが遺伝子関係です。ほんとうに色々ですから。
シャーロック:ステープルトン、ぼくきみの名前を知っている。
ステープルトン:どうでしょう。
シャーロック:偶然だと言われるだろうがね。退屈な生活にもこういうことはある。
        (メモ帳に「ブルーベル」と書いて見せる)
ステープルトン:私の娘の話をしているのですか?
シャーロック:どうして、ブルーベルは死んだんだね?ステープルトン博士。
ジョン    :うさぎ?
シャーロック:鍵の閉まったカゴから居なくなった。だいたいそんなものだろう。
ジョン    :うさぎ?
シャーロック:あきらかに内部犯行だ。
ステープルトン:そうでしょうか?
シャーロック:なぜか?暗闇で光り始めたから?
ステープルトン:一体何のお話をされているのか、見当もつきません。どなたなんですの?
(セキュリティ画面:警告・警告 レベル5 セキュリティ違反)
シャーロック:さぁ、十分見せてもらったよ、伍長。どうもありがとう。
ライオンズ:終わりですか?
シャーロック:終わりだ。こっちだな?
ステープルトン:ちょっと待って!
ジョン    :うさぎ探しのために、陸軍基地に侵入したっていうのか?
(セキュリティシステム:緊急緊急 セキュリティ問題発生 レベル5 マイクロフト・ホームズについて照会)
マイクロフトからのメール:何しているんだ?
シャーロック:23分か。マイクロフトにしては遅いな。
(エレベーターに乗り込む)
フランクランド:やぁ、また会ったね。
(エレベーターを降りると、バリモア少佐が待っている)
ライオンズ:ああ、少佐。こちらは…
バリモア:なんたる事だ。どうして報告しない。
ジョン    :バリモア少佐?どうも、興味深かったですよ。ねぇ、ホームズさん。
シャーロック:いや、本当に。
マイクロフトからのメール:シャーロック、お前は何をやっているんだ?
バリモア:バスカヴィルでは、こういう官僚的な横暴は、排除されることになっている!
シャーロック:悪いね、少佐。
バリモア:査察など…!
シャーロック:新しい方針でね。隠れて何かをしようなどと言うのは許されない。
        きみがここで何をしているのか、分かっていない。(ジョンに)止まるなよ。
(ライオンズ、警報を発動する)
ライオンズ:少佐、IDが非認証になっています。
バリモア:なんだと?
ライオンズ:たった今、電話がきました。
バリモア:本当か?お前は何者だ?
ジョン    :待った、これは何かの間違いだ。
バリモア:(シャーロックが渡したIDを見る)マイクロフト・ホームズではないな。
ジョン    :コンピューターエラーですよ、少佐。これも記録しないと。
バリモア:一体なんなんだ?!
フランクランド:大丈夫だよ、少佐。この人をよく知っている。
バリモア:知っている?
フランクランド:実は中々思い出せなかったのだが。ホームズさんとここでお会いするとは、
        思いもしなかったものだから。
シャーロック:ああ…
フランクランド:また会えて嬉しいよ、マイクロフト。ホームズさんとは、WHOの会合で会ったんだ、
        たしかあれは…ブリュッセルだったかな?
シャーロック:ウィーンでした。
フランクランド:そうか、ウィーンだったか。こちら、マイクロフト・ホームズさんだ、少佐。これは何かの間違いだろう。
バリモア:確かでしょうな、フランクランド博士。
フランクランド:私がお送りするよ、伍長。
ライオンズ:よろしくお願いします。

 研究棟の外

シャーロック:ありがとう。
フランクランド:ヘンリー・ナイトの件だろう?そうだと思った。彼には助けが必要だとは思ったが…
        彼がシャーロック・ホームズに頼んだとは知らなかったな。大丈夫、あんたらが誰かは分かっている。
        きみのサイトはいつも見ているよ。あの帽子を被っているのかと思ったよ。
シャーロック:あれはぼくの帽子じゃない。
フランクランド:帽子がないから、きみだとは分からなかった。
シャーロック:ぼくのじゃない。
フランクランド:あなたのブログも大好きですよ、ドクター・ワトスン。
ジョン    :どうも。あのピンクの事件!それに、アルミの松葉杖。
シャーロック:ヘンリー・ナイトのことを知っているのですか?
フランクランド:彼の父親の方をよく知っていた。この研究所について、おかしなことばかり言っていてね。
        それでも、良い友人だった。ああ、ここでは話せないな。これ、私の携帯(セル)番号だ。
        ヘンリーの力になりたい。電話してくれ。
シャーロック:あなたがここで、何をしているのかをお尋ねしていませんでしたね、フランクランド博士。
フランクランド:ホームズさん。話したいのだが、話したらあなたを殺さないとならなくなる。
シャーロック:かなり熱を入れて取り組んでいるようですね。ステープルトン博士について教えて下さい。
フランクランド:同僚の悪口は言いたくないよ。
シャーロック:何をしているのかをはぐらかしているという事は伝わりますがね。
フランクランド:そう見えるかい?
シャーロック:連絡します。
フランクランド:いつでもどうぞ。

ジョン    :それで?
シャーロック:それでって?
ジョン    :ウサギって何のことだよ。おい、教えろよ。格好つけるな。
シャーロック:何だって?
ジョン    :変に謎めかした顔つきしたり、コートの襟立ててクールぶったり。
シャーロック:そんなことしてない。
ジョン    :してる。

 車内

ジョン    :つまり、あのきらきら光るウサギについてのカースティからのメールが…
シャーロック:カースティ・ステープルトン。その母親が、遺伝子操作の専門家というわけだ。
ジョン    :母親が、娘のウサギを、暗闇で光るようにしたと?
シャーロック:きっと、蛍光性遺伝子だ。遺伝子を取出し、再構築する典型的な例。
        最近じゃずいぶん簡単になってきている。
ジョン    :つまり…
シャーロック:つまり、ステープルトン博士は、秘密の遺伝子動物実験をしているってことさ。
        問題は、彼女がウサギよりも、もっと重大なものについて、その実験をしたかということだ。
ジョン    :正直言って、かなり漠然としているな。

 ヘンリーの家

ヘンリー  :ああ、どうぞ入って。
ジョン    :あの…きみってお金持ちなの?
ヘンリー  :ええ。
ジョン    :そっか。
ヘンリー  :なぜか、二つの言葉が、頭に浮かぶんです。リバティ…
ジョン    :リバティ?
ヘンリー  :リバティと…イン。それだけ。…もういい?
ジョン    :うん。(シャーロックに)どういう意味だろう。
シャーロック:リバティ・イン・デス(死ぬ自由)…そういう風に言わないか?完璧な自由のことを言うのにさ。
ヘンリー  :さぁ、どうします?
ジョン    :シャーロックに作戦がある。
シャーロック:そう。
ヘンリー  :なるほど。
シャーロック:きみを、また荒れ地に連れて行こうと思うんだ。
ヘンリー  :オーケイ。
シャーロック:そこで、何かがきみを襲うかどうか、見る。
ジョン    :え?
シャーロック:まさにその場面に飛び込むのさ。
ヘンリー  :夜になってから?夜になってから、ぼくをあそこに?
ジョン    :そういう作戦なのか。参ったな。
シャーロック:他になにかいいアイディアがあるか?
ジョン    :そんなの作戦とは言えない。
シャーロック:ジョン、そこに怪物がいるとしたら、その場に言って、生きている姿を見つけるしかない。

 夜の荒れ地

(ジョン、シャーロックたちとはぐれ、遠くに光りの点滅を発見する)
ジョン    :U, M, Q, R, A...UMQRA...ウムクラ?…シャーロック。シャーロック?

シャーロック:きみの友達に会ったよ。
ヘンリー  :え?
シャーロック:フランクランド博士さ。
ヘンリー  :ああ、ボブね。
シャーロック:きみのことをとても気にしていた。
ヘンリー  :心配性で。いい人なんですけど。ぼくがこっちに戻ってきてから、とても親切にしてくれています。
シャーロック:きみのお父さんをよく知っていたって。
ヘンリー  :ええ。
シャーロック:でも、あの人はバスカヴィルで働いている。きみのお父さんはそのことを問題には?
ヘンリー  :友達は友達でしょう?つまり、あなたとジョンみたいなものだ。
シャーロック:ぼくとジョン?
ヘンリー  :つまり、ジョンはとてもまっすぐな人で、あなたは…その…
        父とボブおじさんは、仕事の話はしないってことにしていたんです。ここがデュワーズの窪地です。

(ジョンははぐれたまま。シャーロックとヘンリー、窪地で何か生き物を発見する)
ヘンリー   :ああ、あれだ、見ましたか?
(窪地を離れたシャーロックとヘンリーにジョンが合流する)
ジョン    :聞いたか?
ヘンリー  :見ました、見たんです!
シャーロック:見てない。何も見てない。
ヘンリー  :ええ?何言ってるんです?
シャーロック:ぼくは何も見なかった!

 ヘンリーの家

ヘンリー  :本当だ、彼も絶対みてる。ぼくは見たんだ、ホームズさんも見てるはずですよ。
        絶対…どうして?なんであんなことを言うんだろう?居た、絶対に居たんです。
ジョン    :ヘンリー、ヘンリー。まず座った方がいい。気を鎮めて。
ヘンリー  :大丈夫、ぼくは大丈夫です。
ジョン    :よく眠れるように、何か薬を出してあげるから。いいね?
ヘンリー  :ありがとう、ジョン。ありがたいね。ぼくは頭がおかしくなったんじゃない。
        猟犬が、居たんだ、あそこには…それに、シャーロックだって見てる。
        そうは言わないけど、絶対に見たはずだ。

 インの暖炉の前
ジョン    :ヘンリーはかなり参ってるな。躁状態だよ。
        荒れ地に、ミュータント・スーパー・ドッグがうろついているって、完全に思い込んでる。
        でも、そんなわけないだろ?そんなものが作られたら、人に知られずにいるなんて無理だ。
        すぐに大売り出しだもの。そんなところだろうな。
        ああ、そうだ。荒れ地で何かの合図みたいな物を見たんだ。モールス信号だ。多分ね。
        でも、意味を成してない。U,M,Q,R,A…どういう意味だろう?ああ、そう。
        それで、収穫は?ヘンリーが見たっていう足跡のことは分かった。
        ツアー・ガイドもそう言っていたな。でも、ぼくらは何かの音を聞いただけだ。
        誰か、大きな犬を飼っている人を探し出すべきじゃないかな。
シャーロック:ヘンリーは正しい。
ジョン    :なんだって?
シャーロック:ぼくも見た。
ジョン    :何を?
シャーロック:ジョン、見たんだ。
ジョン    :え、ちょっと待てよ。何を見たって?
シャーロック:猟犬だ。あの窪地に居た。巨大な猟犬だ!
ジョン    :ああ…なぁ、シャーロック。理論的にいこうぜ、な。そんなことって…
        なぁ、ちゃんと分かっていることに集中しよう。今、わかっている事実だ。
シャーロック:あり得ないことを全て取り除けば、あり得ることだけが残り、それが真実だ。
ジョン    :つまり?
シャーロック:見ろよ、ジョン。ぼくは怖いんだ。
ジョン    :シャーロック…
シャーロック:いつものぼくは、自分を客観視してきた。感情とは離婚状態だ。でも見ろよ、このざまだ。
        肉体の方が言うことを聞かない。興味深いな。これが感情ってやつだ。
        一点の曇りもないはずのレンズに傷、全てが台無しだ。
ジョン    :分かったよ、スポック。とにかく、落ち着け。きみ、ここんとこ少しおかしかったじゃないか。
        自覚あるだろ。そこに仕事が舞い込んで、出かけてみたら、はまったんだよ。
シャーロック:はまった?
ジョン    :暗かったし、怖かっただろうし…
シャーロック:ぼくが見間違ったと?そんなのことありえない。
ジョン    :シャーロック?…シャーロック。
シャーロック:ぼくは絶対に間違ってない!分かったか?証明してほしい?
        ぼくらは犬を探していたんだ、大きな犬だ。それが君の理論なんだろ。
        お犬さま、大いに結構。さて、どこから始める?
        彼らはどうだ?物思いに沈む未亡人と、その息子、失業中の漁師から?答え、正解。
ジョン    :正解?
シャーロック:母親の方は、ウィスキーという名前のウェスト・ハイランド・テリアを飼ってる。
        ぼくらはそんなものを探してるんじゃない。
ジョン  :シャーロック、やめろ。
シャーロック:息子が着てる服を見ろよ。あまり着ていない服だ。明らかに気に入っていない。
        素材もさることながら、あのださい模様のせいだ。多分、クリスマスプレゼントだったんだ。
        彼は母親のご機嫌を取っておかなきゃならない。なぜか、もちろん金だ。
        息子は母親に食事をおごっているが、自分は少ししか食べていない。
        母親の自分への印象は良くしておきたいが、自分が食べる分については、金を節約したいんだ。
ジョン    :腹がへってないだけじゃないか。
シャーロック:いや、最初の一皿から小さいものを頼んでいる。実際、きれいに平らげている。
        母親の方は、いつもの習慣で、デザートを食べている。
        母親がおごっているなら、息子は好きなだけ食べているはずだ。彼は空腹なんだ。
        しかも金に困っている。袖口や靴を見れば分かる。「どうして母親だって分かった?」って言うんだろ?
        母親以外の誰があんなものをクリスマス・プレゼントにする?
        たしかに、おばさんや姉もあり得るが、母親の可能性が一番高い。
        彼が漁師だったのは、釣り針の入れ墨を見れば分かる。あれはとても独特な物だ。
        いまでは、消えかかっている。つまり、ある一定の期間、仕事をしていないということだ。
        最近の世界情勢のせいだ。そういうわけで、未亡人である母親のところに戻り、援助を求めたというわけだ。
        「未亡人?」当然だ。首から、男物の結婚指輪を下げている。彼女の指には大きすぎるから、
        間違いなく死んだ夫のものだ。着ているものはいいが、宝石類は安物。
        あんなものより、もっと良い物が買えるが、あれは思い出の品だからだ。
        じゃぁ、犬は?脚まわりに、小さな毛がついている。やたらと馴れ馴れしいやつだ。
        しかし、膝にはついていないということは、小型犬だ。そうなると、テリアだろ。
        ウィスキーという名前の、ウェスト・ハイランド・テリアだ。
        「どうして分かったんだ、シャーロック?」ぼくらが彼女と同じ電車に乗っていて、
        その名前を呼んだのを聞いたからに決まってる。盗み聞きしたんじゃないよ、聞こえたんだ。
        ジョン、ぼくは感覚をフル活用しているんだ、ほかのだれとも違ってね。
        つまるところ、ぼくは問題ない。たしかに、絶好調ではなかったけど。
        そういうわけだから、ぼくを一人にしてくれ。
ジョン    :分かった。オーケイ。…どうしてぼくの意見を聞こうとするんだ?ぼくはただ、友達なだけだぞ。
シャーロック:ぼくには友達なんていない!
ジョン    :そうだな。どうしてだろう。

(ヘンリーが自宅で奇妙な体験をしている間、ジョンは光の点滅の元を探しに、荒れ地に行くが、
 いわゆる「逢い引き」現場にでくわす」)
女性の声:セルドンさん、またなの?
セルドン:ベルトがひっかかって…
ジョン  :勘弁してくれよ…
(ジョンにメールが届く)
メール:クロス・キーズのパブにヘンリーのセラピストがいる。S
ジョンの返信:だから?
メール:話を聞いてきてくれ。
ジョンの返信:どうしてぼくが。(モーティマー医師の写真が送られてくる)…悪党が…。

 クロスキーズのパブ

モーティマー:そうじゃなくて…
ジョン    :じゃぁなに?もっと飲む?ドクター。
モーティマー:酔わそうってわけね、ドクター。
ジョン    :まさか。
モーティマー:ついさっき、馴れ馴れしく話しかけてきたじゃない。
ジョン    :え、まずかった?
モーティマー:いきなり、私の患者のことを尋ねるのはどうかしら。
ジョン    :だって、ぼくはヘンリーとは古い友達だから。
モーティマー:それでも、私には患者だもの。話せないわ。友達については、全部話してくれたはずだけど。
        あなたはそのうちのどれかしら?
ジョン    :話に出なかったかも。分かったよ。ヘンリーの父親はどう?父親のほうは君の患者じゃないだろう?
        かなり変わったひとだったって聞いているけど。
モーティマー:そうかも知れないわね。
ジョン    :悪いところがあったのかな。
モーティマー:そう考えるべきね。
ジョン    :でも、バスカヴィルにこだわっていたんだろう?軍があそこで何をしているのか。
        ヘンリーも同じように考える可能性はないかな?そうやって想像上の猟犬を見るようになる。
モーティマー:どうして私がこの話をすると思う?
ジョン    :きみも、彼を心配しているからだろう。それにぼくも医者だし。
        それにぼくにはもう一人、友達が…きっと同じような問題を抱えていると思うんだ。
フランクランド:ドクター・ワトスン!
ジョン    :やぁ。
フランクランド:こんばんは。調査は順調かね?
ジェン   :あ、ええ…
モーティマー:調査って?
フランクランド:知らない?ブログを読んでないのかね?シャーロック・ホームズさ。
モーティマー:シャーロックって?
フランクランド:私立探偵さ。こちらは、そのパーソナル・アシスタント。
ジョン    :パーソナル・アシスタント?
フランクランド:そう、同居パーソナル・アシスタントさ。
ジョン    :やれやれ。
モーティマー:同居ね。
ジョン    :こちら、ドクター・モーティマー。ヘンリーのセラピストだ。
フランクランド:こんにちは、ボブ・フランクランドだ。なぁ、シャーロックに言ってくれ。
        私はステープルトンが怪しいと思うんだ。いつでも、私と話がしたければ…いいね?(退席)
モーティマー:彼に一杯おごったら?あなた、彼のタイプみたいよ。

 ヘンリーの家

シャーロック:おはよう!気分はどう?
ヘンリー  :それが、あまり眠れなくて…
シャーロック:それは残念。コーヒーでもいれてあげるよ。ああ、あそこ、水漏れしてるよ。
ヘンリー  :聞いてくれ。夕べのことなんだ。どうして何も見なかったなんて言ったんだ?
        確かに、猟犬は一瞬しか見えなかったけど…
シャーロック:猟犬(hound)ね。
ヘンリー  :え?
シャーロック:どうして「猟犬」って言うんだ?どうして「ハウンド」と?
ヘンリー  :どうしてって…どうして?
シャーロック:変じゃないか。そんな古風な言い方をするのは、妙だ。
        ぼくがこの事件を調べる気になったのは、その点だ。
        「ホームズさん。その足跡は、巨大な猟犬(ハウンド)の足跡だったんですよ。」
        どうして、「ハウンド」と表現したんだ?
ヘンリー  :別に考えたことも…
シャーロック:それじゃ、コーヒーは抜きってことで。(退出)

 墓地

シャーロック:その…例のモールス信号のこと、何かわかったか?
ジョン    :いいや。
シャーロック:U,M,Q,R,A だっけ?ウムクラ…
ジョン    :なんでもないよ。
シャーロック:ウ、ム、ク…
ジョン    :忘れろ。何か意味があると思ったけど、違った。
シャーロック:本当に?
ジョン    :ああ。
シャーロック:ルイーズ・モーティマーはどうだ?何か分かったか?
ジョン    :いいや。
シャーロック:残念。何かほかに情報は?
ジョン    :なんだか陽気だな。
シャーロック:少しは張り詰めた気分をほぐさないと。
ジョン    :陽気なのはきみに合わない。ぼくはそんな気分じゃないね。
シャーロック:ジョン…
ジョン    :そりゃよかった。
シャーロック:待てよ。夕べのことだけど、ぼくに、何かが起こっていたんだ。今まで経験したことのない、何かだ。
ジョン    :そう、恐怖だろ。「シャーロック・ホームズは恐怖を感じている」そう言った。
シャーロック:ちがうちがう、そんなんじゃないだジョン。疑問だったんだ。ぼくは疑問を感じていたんだ。
        いつもなら、自分を感覚を信頼すればいい。自分の目でみたものをだ。夕べまではな。
ジョン    :怪物らしきものを見たって事を、信じられないんだろ?
シャーロック:そうだ、信じられない。でも、実際に見た。そして沸いた疑問は、どうして?いかにして?
ジョン    :そうだな。そりゃ結構。進展してるじゃないか。じゃぁ、がんばれよ。
シャーロック:聞けよ。ジョン、ぼくが言いたかったのはその…ぼくに友達はいない。ただ一人を除いては。
ジョン    :そう。
シャーロック:ジョン?…ジョン!きみは最高だ、素晴らしい!
ジョン    :ああ、分かった分かった。そんな大袈裟に言わなくて結構。
シャーロック:きみは人より際立って輝いているわけじゃないが、光のある方向へ導く人としては、無敵だ。
ジョン    :どうも…今、なって言った?
シャーロック:凡庸な人間でも、天才の才能を刺激する能力があるってこと。
ジョン    :ちょっと待て、ついさっきまで謝っていたのに、それを台無しにしてどうする。
        それで?ぼくは何を刺激すればいい?(シャーロック、HOUNDの文字を見せる)それが?
シャーロック:もしこれが、一つの言葉でないとしたら?もし、個々の文字に意味があるとしたら?
ジョン    :頭文字ってことか?
シャーロック:さぁ、わからん。(パブに居るレストレードを発見する)一体、ここで何してんだ?
レストレード:やぁ。休暇だよ。信じられないだろうがな。
シャーロック:もちろん、信じない。
レストレード:やぁ、ジョン。
ジョン    :やぁ、グレッグ。
レストレード:おたくらがここに居るとは聞いていたよ。何やってるんだ?テレビでやってるみたいに、地獄の犬探しか?
シャーロック:そっちの説明を待っているのだがね、警部。どうしてここに居るんだ?
レストレード:言ったろ、休暇だ。
シャーロック:そんなに真っ黒に日焼けして、休暇から帰ってきたところだろうが。
レストレード:もっと休んでも悪くないだろう。
シャーロック:ああ、マイクロフトだな。
レストレード:あのな…
シャーロック:そうに決まってる。バスカヴィルと聞いて、監視役のスパイを送り込んだんだ。
        偽名まで使わせて。それでグレッグなんて名乗ってるんだろう?
ジョン    :そういう名前だよ。
シャーロック:そうなのか?
レストレード:ああ。訊くのも面倒だったらしいな。とにかく、俺はおまえの監視役じゃない。
        それにお兄さんが言うようなこともする気はない。
ジョン    :でも、実はちょうどいいところに来たんだよ。
シャーロック:どうして?
ジョン    :ぼくだって何もしてなかったわけじゃないよ、シャーロック。
        これってどう思う?(ポケットから伝票を取り出す)関連性があるかどうか分からないけど、
        なにかの手がかりになるかも。これ、ベジタリアン向けのレストランに、凄い量の肉を手配している。
シャーロック:やったな。
ジョン    :ここで、かのスコットランドヤードの警部が登場。実に効率の良い仕事でしょ?…すいませーん。

 インの中

(シャーロック、ジョンにコーヒーを渡す)
ジョン    :なに?
シャーロック:コーヒー。いれたから。
ジョン    :コーヒーなんていれたことないだろ。
シャーロック:やってみた。欲しいだろ?
ジョン    :何もいつまでも謝らないでいいんだよ。…ありがとう。…うん…ぼくは砂糖入れないんだけど。
レストレード:この記録では、二ヶ月くらい遡れるな。
ジョン    :うん、美味しかったよ。
レストレード:その頃に思いついたのか?あのテレビ番組の後だろう。
ビリー   :ぼくなんだ。ぼくがやった。ごめん、ゲイリー。どうしようもなかったんだ。
        キャルの結婚式でベーコン・サンドイッチを食べてから、やめれられなくて。
レストレード:はい、そこまで。
ゲイリー  :なぁ、ただちょっと景気よく行こうって思っただけだよ。
        ばかでかい犬が荒れ地を駆け回っているって話になりゃ、もうけもんじゃないか。
        まさに、俺たちにとってのネス湖の怪獣さ。
レストレード:いま、どこに?
ゲイリー  :古い鉱山の縦穴があるんだ。この近くだ。そこにちゃんと居たんだ。
シャーロック:居た?
ゲイリー  :俺たちでは、あいつをコントロールし切れなくなったんだ。危なくて。
        一ヶ月前、ビリーがあいつを獣医のところに連れて行ったんだ、それで…
ジョン    :殺したのか?
ゲイリー  :必要な処理だろ。
ビリー   :そうさ。ほかにどうしようもなかった。もう終わりだったんだ。
ゲイリー  :ただのジョークだったんだ。
レストレード:笑えるね。お前らのせいで、男が一人、発狂するところだったんだぞ。

ジョン    :シャーロックはあれでも、警部が来て嬉しいんですよ。隠そうとしているけど。
レストレード:そうか?嬉しいね。いちいち逆の表情をしているようだがね。その、苦手なんだってことをアピールするために…
ジョン    :友達づきあいが?
レストレード:さてと、あいつらが犬を処分したっていうのは、信じるか?
シャーロック:信じない理由もないな。
レストレード:要するに、もう何の害も無いって事か。あいつらをしょっ引く理由もないし。
        まぁ、地元の警察には話しておくよ。じゃぁこれで。またな。なかなか楽しいな。
        ロンドンの空気から肺を解放するのも悪くないだろう?
ジョン    :つまり、荒れ地で目撃されたのは、あの二人の犬だったってことか?
シャーロック:そうらしいな。
ジョン    :でも、きみが見たのとは違うだろう。ただの犬じゃなかったはずだ。
シャーロック:そうだな。ジョン、あれはとんでもない大きさで、目は燃えるように赤く、暗闇で光っていた。
        体全体が光っていたんだ。説明はつくと思う。でも、もう一度バスカヴィルに行って、試してみないと。
ジョン    :どうやって?あのIDはもう使えないだろう。
シャーロック:そうとも限らない(電話をかける)やぁ、兄さん。元気か?

 バスカヴィル

守衛   :どうも。エンジンを切っていただけますか?
シャーロック:入ったらすぐに、バリモア少佐に会う必要があるな。
ジョン    :うん。
シャーロック:きみの方は、すぐに猟犬探しだ。
ジョン    :オーケイ。
シャーロック:手始めに、ステープルトンの研究所だ。危険を伴うかも知れない。

バリモア  :喜んでどの場所への入館許可を出しますよ。もちろん。
シャーロック:簡単なリクエストだろ、少佐。
バリモア  :こんなおかしな話は聞いたことがない。
シャーロック:24時間あればいいん。ぼくの要求はこの点だ。
バリモア  :それ以上は言わせない。この命令には従わざるを得ないだろうが、実に不愉快だ。
        ここで一体、何を見つけようって言うのか、知らないがね。
シャーロック:真実だろうな。
バリモア  :何の?ああ。なるほど。そのコートなら分かる。いかにも何か陰謀を秘めてるって感じだ。
        まぁ、どうぞご自由に。怪物なり、エイの死体なり、エイリアンでも存分に探すがいい。
シャーロック:そういうの、見たことあるか?いや、ちょっと言ってみただけだ。
バリモア  :60年代に、ここに不時着した二人組が居たがね。
        連中、アボット&コステロ(40年代から60年代に活躍したアメリカのコメディ・デュオ)って言ったぞ。
        じゃぁ、頑張って。ホームズさん。

 人気の無い研究室

(ジョン、研究室で強烈な光や、騒音にされされた後、閉じ込められる)
ジョン    :(開かないロックに)なんだよ…(部屋が暗くなる)どうしたんだ?(電話をかける)…
        出ろよ…馬鹿やってないで、でろ。クソっ!よし…(電話がなる)
        いる、ここに居るぞ。
シャーロック:いま、どこに居るんだ?
ジョン    :シャーロック、ここから出せ!いいか、おおきな研究室だ。最初にぼくらが見たところだと思う。…あ。
シャーロック:ジョン、ジョン?
ジョン    :静かに!シャーロック、頼むよ。
シャーロック:わかった。探すから。話し続けて。
ジョン    :無茶言うな。聞こえるだろう。
シャーロック:話して。何が見える?…ジョン?
ジョン    :聞いてるよ。
シャーロック:何が見える?
ジョン    :さぁ。分からない。でも、音は聞こえる。ほら、聞こえるだろう?
シャーロック:落ち着け、落ち着け。見たのか?見える?
ジョン    :いや…見えた。そこに居る。
(シャーロックが現れる)
シャーロック:大丈夫か、ジョン?
ジョン    :ああ、猟犬だ!シャーロック、ここに居たんだ、間違いない、あれは…きみも見ただろう?
シャーロック:わかった。もう大丈夫だから。
ジョン    :大丈夫じゃない!全然大丈夫じゃないぞ、見たんだ、ぼくはどうかしてる。
シャーロック:結論に飛躍するのは良くないな。
ジョン    :なに?
シャーロック:何を見たって?
ジョン    :言ったろう、猟犬を見たんだ。
シャーロック:巨大で、赤い目の?
ジョン    :そうだ。
シャーロック:光ってた?
ジョン    :ああ。
シャーロック:違うな。
ジョン    :何だって?
シャーロック:光ってたっていうのは、説明がつく。ぼくがきみにそう話したから、きみもそれを見たと思っているんだ。
        一服盛られていたんだよ。ぼくら全員が、薬を盛られていたんだ。
ジョン    :薬?
シャーロック:歩けるか?
ジョン    :もちろん、歩ける。
シャーロック:行こう。幽霊とはおさらばだ。

 ステープルトンの研究室

ステープルトン:あら。また来たの?今度はなにごと?
シャーロック:殺人だよ、ステープルトン博士。実に洗練された、冷徹なる殺人だ。
        (部屋の明かりを消すと、ウサギが光って見える)
        娘のカースティに、ブルーベルに何が起こったか自分で話すか?それとも、ぼくが話そうか。
ステープルトン:オーケイ。何がお望み?
シャーロック:顕微鏡を借りられる?

ステープルトン:(ジョンに)大丈夫?顔色がひどく悪いけど。
ジョン    :いや、大丈夫。
ステープルトン:あれのこと、気になるようだけど、あれはクラゲから抽出した蛍光タンパク遺伝子なの。
ジョン    :え?
ステープルトン:ウサギよ。
ジョン    :なるほど、大したもんだ。
ステープルトン:ご参考までに教えるけど、オワンクラゲね。
ジョン    :どうしてそんなことを?
ステープルトン:いけない?ここの人は、そういう質問はしないの。しても仕方の無いことだもの。歓迎されないわ。
        娘は、ここの実験動物の一つとは、お別れしなきゃね。あの可哀想なブルーベルとは。
ジョン    :たいそう、お優しいことですね。
ステープルトン:分かってるわ。時々、自分でも嫌になる。
ジョン    :まぁ、とにかく。ぼくは医者だし、信頼してほしいんだけど。ここに、一体何を隠しているんです?
ステープルトン:誰かが、何かやっているとお思なら、実際、そうでしょうよ。
ジョン    :クローン生成とか?
ステープルトン:ええ、もちろん!ヒツジのドリー、おぼえている?
ジョン    :人間のクローンは?
ステープルトン:もちろん。
ジョン    :ヒツジ以外の動物は?もっと大きな。
ステープルトン:大きさは、全然問題じゃないわね。足かせになるのは、倫理と法律。
        どちらにしろ、解釈は色々だわ。ともあれ、ここ、バスカヴィルではどうかしら。
シャーロック:(プレパラートを投げる)見つからない!
ジョン    :うわぁ…
シャーロック:まったく見つからない!こんなはずはないんだ。
ステープルトン:何を探しているの?
シャーロック:薬だ、当然!盛られていたはずなんだ。幻覚剤か、興奮剤、その手のもの。
        砂糖の中に、それらの痕跡がない。
ジョン    :砂糖?
シャーロック:そう、砂糖だよ。簡単な消去法だ。ぼくはたしかに猟犬を見た。ぼくの想像力が、そうさせたんだ。
        遺伝子操作で作られた怪物を見たと。でも、ぼくは自分自身の目撃証言を信用できない。
        その理由は七つある。その中で一番有力なのが、麻薬だ。ヘンリー・ナイトも目撃している。
        でも、ジョン、きみは見ていない。ぼくらはグリンペンに来てから、同じ物しか飲み食いしていない。
        でも、一つだけ違った!きみは、コーヒーに砂糖を入れない。
ジョン    :そうだな…
シャーロック:ヘンリーのキッチンから、砂糖をもらってきたんだ。間違いないはずなのに。
ジョン    :でも、薬は含まれていなかったんだろ。
シャーロック:含まれてない。でも、間違いないはずだ。どうやった?どうやってここまで持ってきた?
        どうやって?そうだ、そうそう…(シャーロックの視界にhoundの文字がちらつき始める)
        何か深い所に。出て行って。
ステープルトン:ええ?
シャーロック:出て行くんだ。ぼくは精神の城に行く必要がある。
ステープルトン:どこですって?
ジョン    :しばらく、まともに話もしませんよ。行った方が良さそうだ。
ステープルトン:どこへ行くですって?
ジョン    :ああ、精神の城ね。記憶術ですよ。精神世界の地図とでも言うかな。地図に位置とか書き込むでしょう。
        あっちのは実際の場所じゃないけど。記憶を地図上に記すんだ。理論上、すべてを記憶できる。
        必要なのは、その記憶の場所への道をたどること。
ステープルトン:その想像上の位置に、家とか、道路とかあるわけ?
ジョン    :そう。
ステープルトン:「城」って言ってたけど。
ジョン    :うん、まぁ。シャーロックにとってはそうなんでしょ。
(ジョンとステープルトン、退室。シャーロック、様々な言葉を思い浮かべては、消していく。)
シャーロックの思考:リバティ ― ベル ― リバティ柄 ― ロンドンのデパートじゃない ― 
            リバティ・自由 ― 博愛 ― 平等 ― マーチのリバティベル?スーザ? ― 
            リバティ、 リバティ…イン! インド ― インゴルシュタット ― 
            インジウム 元素番号49 ― リッジバック ― ウルフ・ハウンド? 
            ハウンド・ドッグ ― エルヴィス ― リバティ、イン ― ハ・ウ・ン・ド!
            リバティ,
            インディアナ,
            H. O. U. N. D

 ヘンリーの家

(錯乱したヘンリーが、モーティマーに向かって発砲する)
ヘンリー  :ああ、なんてこと…ごめんなさい、本当にごめんなさい…

 バスカヴィル

シャーロック:ジョン…
ジョン    :ああ、見てる。
シャーロック:プロジェクト・ハウンド。読んだことがある。すっかり忘れてた。
        インディアナ州リバティにある、CIA施設での実験だ。
(ステープルトン、コンピューターを操作し、検索画面を出す)
シャーロック:H - O- U- N-D
(CIA機密 アクセス不可 暗証コード入力)
ステープルトン:だめね、私の権限では入れない。
ジョン    :何か方法があるはずだ。パスワードが分かれば。
ステープルトン:そうだとは思うけど、バリモア少佐でないと。
シャーロック:パスワード、パスワード、パスワード…(研究ブースに入る)彼はここに座って、考えたはずだ。
        彼について話して。
ステープルトン:会ったんでしょ。
シャーロック:いいから、話して。
ステープルトン:やたらと規則にうるさいわね。時代遅れだわ。
        それから、スエズに派遣されていたことがあるって。
シャーロック:いいぞ、素晴らしい。昔気質で、伝統主義者。子供の名前をパスワードにするようなタイプじゃない。
        仕事好きで、誇りを持っている。つまり、仕事関係だ。視界に入る物は?
        書籍。ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー、バックナンバーも揃えている。
        ハンニバル。ウィリントン、ロンメル、チャーチルの「英語国民の歴史」も、全四巻揃っている。
        チャーチル。チャーチルがお気に入りだな。首相官邸記もあるし。
        1,2,3,4,5…五つもサッチャーの伝記がある。1980年代半ばのものだ、父親と息子 ― 
        バリモアの父親か?それに勲章。顕著な働きをしたとか?
ジョン    :あの時代なら、フォークランド紛争ってことになる。
シャーロック:そうだな。つまり、サッチャーの方が、チャーチルよりさらに気に入っている。
ステープルトン:それがパスワードなの?
シャーロック:いや、バリモアのような男なら、ファーストネームだけ使う。
        (「マーガレット」と入れようとして、「マギー」と入れ直すと、ゲートが開く)
コンピューター画面:高度被暗示下行動 ― 恐怖および刺激 ― 恐怖による条件付け ― 
        エアゾール処理 ― 
        leonard Hansen, jack O'mara, mary Uslowski, rick Nader, elaine Dyson ― H.O.U.N.D
ステープルトン:ハウンド…
コンピューター画面:パラノイア ― 前頭葉障害 ― 脳出血 ― 危険促進 ― 
        総頭蓋トラウマ ― 多重殺人 ― 
ジョン    :ひどい。
シャーロック:プロジェクト・ハウンド。精神錯乱を起こして、強い暗示にかける新しい薬だ。
        これを、人間性を奪うことによって兵器としての人格を攻撃しようと、開発したんだ。
        恐怖と刺激によって敵の精神を破壊する。しかし、このプロジェクトは秘密裏に、1986年に終了。
ステープルトン:人体実験をしたせいで?
シャーロック:ほかにもあるだろう。さらに続ければ、このプロジェクトはさらに暴走する。
        彼らは、すでにコントロール不能のところまで行っていた。
ジョン    :誰かが、このプロジェクトを再開しようとしているのか?実験をやろうと?
シャーロック:この20年で、薬をさらに精製していったんだ。
ステープルトン:誰が?
ジョン    :この研究者達の名前に思い当たることは?
ステープルトン:いいえ、全然。
シャーロック:5人の優秀な科学者達…20年前…だれか、ぼくらが知っているだれかが、
        写真のバックに写っているはずだ。実験が行われた1986年当時、相応の年齢だった人間。
        たぶん、アメリカにいたことがあるから、「セル・フォン」という言い方をする人だな。覚えてるか、ジョン?
ジョン    :うん。
(フランクランド:これ、私のセル・フォンナンバーだ。)
シャーロック:必要ならいつでもと、番号をくれた。
ステープルトン:なんてこと、ボブ・フランクランドねでも。でも、ボブはこのプロジェクトには関わっていないわよ。
        だって、ウィルス学者だもの。こっちは化学兵器でしょう?
シャーロック:彼の出発点はこれだったんだ。そして、決して信念を曲げず、薬を作り出すことに執着した。
        電話番号を教えてくれていて良かった。じゃぁ、ちょっと会ってみようか。
(コンピューター画面には、プロジェクトTシャツの柄,猟犬とHOUNDの文字,ジョンの携帯が鳴る)
ジョン    :もしもし?誰?
モーティマー:おねがい、ヘンリーを探して。
ジョン    :ルイーズ・モーティマーだ。ルイーズ、どうしたんだ?
モーティマー:ヘンリーが、思い出そうとして…銃を持ち出したの。銃を持ってきて…
ジョン    :なんだって?
モーティマー:いなくなっちゃったのよ。彼を止めて。何をしでかすかわからないわ。
ジョン    :きみは今、どこに?
モーティマー:ヘンリーの家。私は大丈夫よ。
ジョン    :わかった、そこにて。誰かを行かせるから。オーケイ?
シャーロック:ヘンリーがどうしたって?
ジョン    :彼女を撃った。
シャーロック:そして、消えた。行くところと言えば、全ての始まり、あの場所以外にない。
        (電話をする)レストレード、窪地に来てくれ。デュワーズの窪地に、今すぐだ。銃を持ってこいよ。

 デュワーズの窪地

ヘンリー   :ごめん…ごめんね、父さん。
シャーロック:ヘンリーだめだ、よせ!
ヘンリー   :父さん、来ないで!近寄らないで!
ジョン     :大丈夫、ヘンリー。落ち着くんだ。
ヘンリー    :分かってる。ぼくが何をしたか分かってる。
ジョン     :銃を下ろすんだ、大丈夫だから。
ヘンリー    :いやだ、ぼくには分かっているんだ。
シャーロック:そうだな、ヘンリー。きみにはちゃんと分かっている。全ては完全に説明がつくんだ、そうだろう?
ヘンリー    :何を?
シャーロック:きみを黙らせておく必要のある人がいるんだよ。子供のように夢だとおもっていてくれればいいが、
        きみは思い出し始めている。だからさ。さぁ、ちゃんと思い出せヘンリー。
        きみが子供の頃、ここで何が起きたか。
ヘンリー   :父さんが殺された。猟犬に。そうだ、だめだ、思い出せない!
ジョン    :よせ、ヘンリー、ヘンリー!
シャーロック:ヘンリー、思い出せ。二つの言葉だ、リバティ、イン!
        この二つの言葉が、20年前、子供だったきみに恐怖を与えたんだ。そこから一緒に、思い出すんだ。
        ここで、本当は何が起きたのか。あれは動物なんかじゃななかっただろう、ヘンリー。
        怪物でもない。人間だよ。 
        ― きみには理解できなかった。まだ子供だったから。そして、全く違う方に解釈し、自分を納得させた。
        今、きみは真実を思い出そうとしている。だからそれを止めようとする人間が現れたんだ。
        きみの精神を錯乱させ、だれもきみが言うことを信じないように仕向けた。
(レストレードが窪地に降りてくる)
レストレード:シャーロック。
ジョン    :(ヘンリーから銃を取り上げる)大丈夫、もう大丈夫だから。
ヘンリー    :でも、見たでしょう。あの猟犬、夕べ、見たでしょう!
シャーロック:犬だよ、ヘンリー。足跡を残し、何人も目撃者もいるけど、あれは、ただの犬だ。
        たしかに、ぼくらは見た。でも、薬のせいで、そうだと思い込み、見たと錯覚した。
        恐怖からくる刺激。そのせいだ。だから、怪物なんてどこにも居ないんだ。
(窪地の上を、大きな犬が移動している)
ジョン     :シャーロック?
ヘンリー    :ああ、やっぱり、あれは…
シャーロック:ヘンリー…
ジョン    :(レストレードに)見えるのか?薬は盛られていないのに。シャーロック、あれは何だ?
シャーロック:わかった、まだそこにいる。ただの犬だよ、ヘンリー。普通の、ただの犬だ!
レストレード:うそだろう…
(犬と同時に、ガスマスクをつけた人物が表れる。そのマスクを剥いだシャーロック、モリアーティの幻影を見る)
シャーロック:違う、お前じゃない!…霧だ!
ジョン    :え?
シャーロック:薬だよ、霧に含まれているんだ!エアゾール散布だ、あの記録にあったじゃないか。
        プロジェクト・ハウンド。あれは霧だったんだ。化学的に作りあげた、地雷原。
フランクランド:さぁ、やるんだ!
(犬が襲いかかるが、ジョンが仕留める)
シャーロック:見るんだ、ヘンリー
ヘンリー   :いやだ…
シャーロック:ほら、見ろよ。
ヘンリー    :なんてこと…きさま…(フランクランドに襲いかかる)20年!ぼくの20年間を台無しにしたんだ!
        どうしてぼくをすぐに殺さなかったんだ!
シャーロック:死者に聞くわけにいかないからさ。きみがお父さんから聞いていたことを、
        知るためには、すぐに殺すわけには行かなかったんだ。きみがお父さんについてどう説明するか、
        確かめたかったから。そうやって自分の安全を確保しようとしたんだ。
        化学地雷原!ガスの発生装置を地面に設置して、きみが帰ってきたら使えるようにした。
        まさにこれこそ、究極の殺人装置だ。すごいぞ、この事件は最高だヘンリー。
        ありがとう、楽しかったよ。
ジョン    :シャーロック。
シャーロック:なに。
ジョン    :空気読めよ。
シャーロック:まずかった?
ヘンリー   :いや、いや。いいいんだ。これでいいんだ。だって、ぼくの父さんは正しかったのだから。
        父さんは何かを発見したんだ。そうだろう?だから、だから父さんを殺したんだ!
        あんたの仕業だって、知っていたから。あんたの実験の本当の意味を知ったから。…
(また動き出した犬に一同が気を取られる間に、フランクランドが逃げ出す)
シャーロック:フランクランド!逃げても無駄だ!
(フランクランド、バスカヴィルの地雷原に入り込んでしまう)

 インの野外席

ジョン    :ありがとう、ビリー。
シャーロック:つまり、あの二人、本当は犬を処分していなかったんだな。
ジョン    :そうだな。自分たちで手を下すことはできなかったんだ。
シャーロック:分かるよ。
ジョン    :きみに分かるかな。
シャーロック:どうかな。感傷ってやつか。
ジョン    :感傷だな。なぁ、ぼくがあの研究室で見たのは何だったんだ?
シャーロック:ソースつける?
ジョン    :あそこは窪地でもなかったのに。あの足音や、うなり声は何だったんだ。
        きみは恐怖刺激だって言ってたけど。
シャーロック:きみもどっかでやられたんだろ。研究所に入ったときに。
        配管見ただろう?ザル並みに漏れまくってた。あそこでガスを作っていたから、それが漏れて…
        ケチャップにする?ソースにする?
ジョン    :ちょっと待て。きみは砂糖だって思ってたんだろ。砂糖に薬がしこまれているって。
シャーロック:そろそろ出発しないと。あと30分で出る電車がある。もしきみが…
ジョン    :おい…きみだったのか。きみがぼくをあの研究室に閉じ込めたんだな。
シャーロック:仕方ないだろ。実験が必要だったんだ。
ジョン    :実験?まじで怖かったんだぞ、シャーロック。死ぬほど怖かったんだ。
シャーロック:薬は砂糖に入ってるとおもったから、きみのコーヒーに砂糖を入れてみたんだ。
        それからバリモアと打ち合わせて、実験開始。科学的には、あの研究室の環境は完璧だった。

ジョン    :ここにいるぞ。
シャーロック:分かった。さがすから、話し続けて。話して。
ジョン    :無茶言うな。聞こえるだろう。
シャーロック:何が見える?
ジョン    :さぁ。でも、聞こえる。

シャーロック:あれで、精神的にどう影響が出るか、はっきりした。平均的な人間にも有効か、試したんだ。
        この意味、分かるだろ。
ジョン    :つまり、砂糖じゃなかったわけだ。
シャーロック:まぁね。ぼくはあのとき、きみがガスを吸っているとは知らなかったし。
ジョン    :間違ってたわけだな。
シャーロック:そんなことない。
ジョン    :いや、間違ってたんだ。砂糖には入っていなかったんだから。きみの思い違いだ。
シャーロック:ちょっと違っただけ。もうしない。
ジョン    :薬の影響って、長引くかな?
シャーロック:そんなことないだろう。もうすっかり抜けてる。みんな大丈夫だし。
ジョン    :気をつけてるつもりだったけどな。…どこ行くんだ?
シャーロック:長くはかからないよ。死んだ犬のこと、話さないと。

 独房

マイクロフト:わかった。出せ。
(モリアーティが出て行った独房は、SHERLOCKの文字で埋め尽くされている)


(エンディング)